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容器包装・使い捨てプラスチックはなぜ減らないのか。2025年までの削減を掲げる企業のジレンマとは

「手提げ袋は必要ですか?」と聞かれて、かばんから取り出すいつものエコバッグ。買い物をするたび自動的にレジ袋が付いてきた時代は、終わりを告げようとしています。

一方で、こんな経験はありませんか?

帰宅してエコバッグから買ったものを広げていくと、野菜が入っていた袋、卵のパック、飲み物のボトル、冷凍食品のトレー、トイレットペーパーのパッケージ…自分だけの努力や工夫ではどうにもならないプラスチックの多さに気づき、複雑な感情を覚える瞬間。もしかしたらここで、無力感を覚えたことがある人もいるかもしれません。

海洋汚染が喫緊の問題と指摘されている中で、容器包装や使い捨てプラスチックが減らないのはなぜでしょうか?その背景にあるメーカー企業の状況について、イベント「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025 みらいダイアログ」の内容をもとに考えていきます。まずは少しだけ前提のお話から。

個人の努力は、企業の努力にも

 
こちらの記事でご紹介したように、2022年4月1日から新しい法律「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」、通称「プラ新法」が施行されました。これによりメーカーなど事業者には、プラスチック削減のための取り組みが求められるようになりました。個人が努力しても減りようがない容器包装のプラスチック削減の問題は、商品を作る企業側の努力が前提となったのです。

海外では、早くからこうした動きも始まっていました。環境関連のイニシアチブをたくさん提唱している英エレン・マッカーサー財団は、国連環境計画(UNEP)と協働し、プラスチック問題の早期解決のために「ニュー・プラスチック・エコノミー・イニシアチブ」を2021年11月に発足。さまざまな国の政府機関やメーカーなど500以上の組織が取り組みに賛同し、参画しています。

その中で発表された「ニュー・プラスチック・エコノミー・グローバルコミットメント」は、各業界が進むべき方向性を示した、いわば企業が脱プラスチックするための宣言文。影響力も大きく、この内容を参考にした団体や取り組みは各国で立ち上がり始めました。(こちらのPDFで原文が公開されています)

日本で立ち上がったのは、WWFジャパン(公益財団法人 世界自然保護基金)とグローバルコミットメントに賛同した10の国内企業。これが、前述の記事でもご紹介した「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」です。10社はいずれも、WWFが掲げる循環型社会の原則と、2025年を目標にした5つの具体案に同意の上、各社の取り組みも発表しています。

WWFが提唱するサーキュラーエコノミー(循環型社会)の原則。(出典:WWFジャパン『プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」特設サイト)

グローバルコミットメントから作成された、使い捨てプラスチック削減のための5つの行動指針。(出典:WWFジャパン『プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」特設サイト)

容器・包装のプラスチックについて、各社のコミットメントがどんな内容なのかを見てみました。

飲料メーカーのキリンホールディングスは「再生PET樹脂の使用比率を2027年50%、2025年38%以上とする目標」、キットカットなどでお馴染みのネスレ日本は「包装材料を2025年までに100%リサイクル(再生利用)もしくはリユース(再使用)可能にする、バージンプラスチック(リサイクルではなく新たにつくられるプラスチックのこと)の使用量を3分の1削減」と、数年先の未来に向けてすでに歩み始めており、具体的に言及しています。

一方で中には「2022年春に、プラスチック製容器包装削減の2030年目標を公表予定」(ニッスイ)や、「2025年にむけて「詰替え文化」の世界発信を進める」(ライオン)といった、コミットメントと呼べるのかどうか、ちょっと不安になるような企業もありました。もちろんそれぞれ企業ごとの事情があることは理解できるのですが、正直これを読む限りでは、本当にプラスチック削減する気があるのかな、という不安がよぎります。

買い物は投票(のはず)だから

2022年6月1日、WWFは「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025 みらいダイアログ」と題したイベントを開催しました。すぐそこに迫る目標の2025年に向けて、プラスチックの大量生産・大量消費・大量廃棄の解決に向けた解決策を協議する場です。参画企業の他に、行政(環境省)、専門家、学生、一般生活者と、多様な目線でディスカッションが行われると知り、わたしの中にあった不安は具体的な疑問に変わり始めました。

各社のプラスチック削減は一体どのように推進されているのか?
2025年に向けた現在地はどのくらいの進捗なのか?
専門家は企業の取り組みに対してどんな意見をもっているのか?
そしてあえて少し意地悪な言い方をすれば、企業は本気でプラスチック削減をする気があるのか?

日々の買い物は、自分が願う社会の意思表示であるからこそ、イベントでどんなことが言及されるのか注目せずにはいられませんでした。

捨てる問題と、つくる問題

イベント冒頭では、WWFジャパン・プラスチック政策マネージャーである三沢行弘さんから、わたしたちが直面している現状が提示されました。2019年の時点で、バージンプラスチックの年間生産量は4億トン。このままでは、2030年に6億トンを超えると言われています。

プラスチックに関しては、廃棄によって年間2200万トンが海洋など自然環境に流出している問題と合わせて、もうひとつ、製造時に排出するCO2が気候危機を加速させるという、2つの喫緊の重要課題が交錯。つまり捨てるだけではなく新たにつくることも減らす必要があるのです。

現状は「圧倒的な人材不足」

基調講演をされた『サーキュラーデザイン: 持続可能な社会をつくる製品・サービス・ビジネス』著者でもある水野大二郎さん

続いて基調講演では、水野大二郎さん(京都工芸繊維大学未来デザイン・工学機構 教授、慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特別招聘教授)が、プラスチック問題の解決のためにも、循環型経済を可能にする「サーキュラーデザイン」へ移行する必要性と、その課題をわかりやすく説明されていました。従来とは大きく異なり、問題が複雑性を帯びていることを挙げながら、全てを一度に解決することが不可能に近い「ジレンマでもある」とおっしゃっていたのが印象的です。

水野さんが一際声を強くしていたのは、企業が向かうべき変化の方向性でした。

そのフローは主に、まずは「製品そのものをサステナブルにする」こと、それを「社会システムにきちんと連携する」こと、そして「物質の使用量は削減させる、すなわち、物をつくらないでどうビジネスにするかを考える」こと、というスリーステップです。

ここで企業が直面する課題として、必要な専門知識と社会情勢などを把握した「人材育成」の重要性を度々お話されていました。

「リサイクルよりもリデュースが重要」に対して現実は

「プラスチック・サーキュラー・チャレンジ2025」の参画10社のうち、イベントに参加したのは日本コカ・コーラ、日本航空(JAL)、ユニ・チャーム、ネスレ日本、キリンホールディングスの5社でした。それぞれのご担当者は、第一部または第二部のパネルディスカッションに登壇し、環境省平尾禎秀さんや、環境ジャーナリスト大学院大学至善館教授枝廣淳子さん慶應義塾大学の学生2名(田中文也さん落合航一郎さん)と共に、各社がどんな取り組みを行いながら、どのような課題を抱えているかを語ります。

第一部に登壇した日本航空の張叶さんは、規制が多い中でできる限り使い捨てプラスチックを減らす工夫を続けていることと、丁寧なサービスよりも環境配慮の方が望まれるようになったという、顧客側の変化も紹介。ユーザーの声がちゃんと届いて反映されていることがわかり、一筋の光明が差した気持ちになりました。

日本コカ・コーラの飯田征樹さんからは、サステナブル素材のペットボトルについて。他国よりも日本での使用率が高く、年内にも50%達成を目指していること、そして、今後はさらなく拡大と、サステナブル素材100%ボトルの実用化、合わせて、業界全体での水平リサイクルボトル使用率を15%引き上げたいという目標を話されていました。

口に入るものだけにさまざまな規制がある中で、できる限り努めていることを知ると同時に、あくまでも国内の飲料メーカーはリサイクルを進めている現実が突きつけられた気持ちも否めません。水野さんの基調講演でも「リサイクルよりも、いかに使わないか(リデュース)が重要」という話があった直後なだけに、業界全体がよりリデュースに進むことを応援したいと思いました。

「サーキュラーエコノミーとは、地球から何一つ取り出さない、地球に何一つ戻さない。地球を供給源・吸収源として使わないこと」と話す枝廣淳子さん

枝廣淳子さんがファシリテーターとなり、学生と環境省の平尾さんも一緒に議論が進んだ第二部では、生活者・消費者を巻き込むことの重要性や課題が話題になりました。

ユニ・チャームの上田健次さんは「パッケージを変更したものも購買には繋がりにくかった」など、購入者の本音が掴みにくい実情に触れ、ネスレ日本の嘉納未來さんは、環境問題を親子で学べる機会を提供していることなどを紹介していました。

各社の取り組みを聞いていると、できることに努めている真摯な姿勢と、なかなか一気に変化しない事情が潜んでいることを感じます。例えば、日本コカ・コーラは2022年3月に、100%リサイクル素材で且つラベル無し、それにより1本あたり約60%のCO2排出量を削減できるという商品を販売したものの、法整備の関係上、店頭販売はむずかしくオンラインでのケース販売しかできないそうです。

共創がつくりだす画期的な変化のために

イベントも終盤。各社の話を聞いたWWF三沢さんは、企業には「少しずつ、プロトタイプからでも新しい取り組みに挑戦し続けてほしい」気持ちと、国には「法律など枠組みに配慮した支援」を願う、と語ります。

また枝廣さんも、企業側が良いと思って設計したものを生活者がどう受け取るかは別問題なので、「早い段階から広いステークホルダーと一緒に取り組む」重要性に触れました。

枝廣さん 企業だけが働きかけをするのではなくて、生活者・消費者と一緒になって、「サーキュラーエコノミーをつくるためには、ここを変えていかないといけないですよね」という話をみんなでできるような、そういう枠組みや場面をつくっていく。セクターを超えて、自社を超えての共創のプロセス、もしくはその作法を身につけていくというのも、企業にとってとても大事なことだと思います。

わたしたちがエコバッグとマイボトルを暮らしに定着させつつある今、さらなるプラスチック削減はメーカー企業の実行に掛かっています。それなのになぜ企業は十分に実践できずにいるのか。その疑問を知りたくお話を聞いたイベントでしたが、わかったことは技術上の問題や法制度の問題、加えて特定の業界内で共通する規格があること。そして何より、容器包装のプラスチック削減を願う消費者の声がまだまだ十分に届いていないことがわかりました。

企業が安心してチャレンジへの舵を切れるよう、さまざまな立場からの共創が増えることを願うとともに、わたしたちも商品やサービスをただ受け身で消費するのではなく、「消費者が支えている」という気概をもつことが変化を加速させる鍵だと思いました。

2025年はもうすぐそこにある未来です。


「プラスチックサーキュラーチャレンジ2025 みらいダイアログ」の内容はこちらの動画でご覧いただけます

(イベント撮影:丸原孝紀)
(編集: 山中康司)