集中したり疲れたりしたとき、大きく深呼吸すると気持ちがいいですよね。両手を伸ばし、大きく吸ってしっかり吐く。まるで空気が体内を洗い流すようで、気持ちすっきり。よし! と、次の一歩を踏み出しやすくなります。
でもその深呼吸、必要なのはあなただけではありません。あなたが立っている足元、人々が踏みしめている「大地」が今、呼吸不全を起こしているのです。
2022年4月15日から劇場公開のドキュメンタリー映画『杜人(もりびと)〜環境再生医 矢野智徳の挑戦』は、大地に空気と水の循環を取り戻す彼の、3年半にわたる活動がまとめられています。
造園家の矢野智徳(やの・とものり)さんは、小さい頃からさまざまな植物の世話をする環境に育ちました。造園業を通して「自然と人間をつなぐ役割」を追求してきた矢野さんの知見は、自然災害が増えて人の暮らしに大きな影響を及ぼし始めた近年、特に必要とされています。
本来自然界には状況に応じて変化できる合理性が備わっているのに、近代化による開発で日本の各地はコンクリートで固められ、大地は循環の仕組みを失ってしまいました。矢野さんは長年の観察と実践から、自然の成り立ちに本質的な解を見つけ、今ある環境を否定することなく軌道修正する術を確立します。
映画の中にも出てきますが、2011年頃から本格化した矢野さんによる講座「大地の再生」では、移植ゴテと呼ばれる小さなスコップが、循環をつくり出す道具として重宝されています。移植ゴテなら強い力を必要とせず誰でも使いやすく、年代も性別も様々な方が矢野さんの講座に参加する様子も紹介されていました。
本作を制作した前田せつ子監督は、東京都国立市議をしていた2014年、同市の桜の木の伐採問題に関する勉強会で矢野さんと知り合いました。かつて編集者をしていた前田さんは、矢野さんの伝えていることをもっと多くの人に知ってもらいたいと思った時、「映像に残したい」と感じたそうです。
矢野さんは造園家でありながら、詩人であり、活動家であり、造園という領域から宇宙の成り立ちまでを考えている人です。それは、一つの道を極限まで深めたことで、生命や人間の生き方といった思想に広がったんだと思いました。
同じ景色を見ていても一般的な人とは違う視点で見ていて、それを伝える言葉の選び方にもすごく気を遣っていると感じた時に、詩集のような矢野さん名言集をつくるのも良いけど、まずは矢野さんが語るそのままを観てもらいたい、と思ったんです。
その時点ではまだ書籍もDVDもつくられてないことを知り、矢野さんのドキュメンタリー映画制作を決めた前田監督。2018年〜2020年の3年半で30箇所以上の現場に同行しました。泣く泣く本編に入りきらなかった映像も多く、なんらかの形でまとめていくことを計画中だとか。
矢野さんもよくおっしゃっていますが、この活動はこの先まだ長い時間が掛かります。小さな動きを各地に増やしながら継続することで、いつか必ず大きな結果に結びつく。それはきっと同時多発的に起こるんです。そのため、いつか次世代に交代した時に、誰かがふと立ち返える先としても、矢野さんの活動を記録し続けていきたいのです。
環境問題に取り組んでいたり、気候変動に心を砕いていると、つい、人間の愚かさを呪いたくなる時もありますが、そうした方にこそ矢野さんの言葉に触れることをおすすめしたいです。大型の現場では建築機械に乗って空気の通り穴を開ける矢野さんですが、「点穴を開けるだけで、コンクリートを剥がす必要はない」と共生する可能性も明言しています。
小さなスコップによって流れ出す水の音、”風の草刈り”によって通り始める爽やかな風、手入れをされて柔らかく変わっていく土。それらを五感で感じることで、全ての事象における循環の重要性が実感できると思います。まずはこの映画を通して体感し、行動するきっかけを感じてください。
– INFORMATION –
~自然環境を再生して、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻す~
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本カレッジは「環境再生」を学ぶ人のためのラーニングコミュニティ。第一線で挑戦する実践者から学びながら、自らのビジネスや暮らしを通じて「再生の担い手」になるための場です。グリーンズが考える「リジェネラティブデザイン」とは『自然環境の再生と同時に、社会と私たち自身もすこやかさを取り戻すような画期的な仕組みをつくること』です。プログラムを通じて様々なアプローチが生まれるように、共に学び、実践していきましょう。