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年200万トンもある“畑の食品ロス”を減らしたい。株式会社hakkenが熊本県高森町で始める、乾燥野菜の新事業とは? #仲間募集

以前、ある農家で、青々と葉のしげる大根畑を見せてもらったことがあります。丸々と育った立派な大根。そのとき農家さんの放った乾いた一言が忘れられません。「これ、ぜんぶ廃棄なんです」。え?

大手通販サイトで販売するために用意した分がほとんど売れず、行き場を失ったというのです。運んで捨てるより、畑のままトラクターでつぶすほうが楽だから、という言葉に愕然としました。

出荷前に廃棄される“畑の食品ロス”は年200万トンあると言われます。そうした廃棄野菜を乾燥させることで、保存可能な加工食品や添加粉末などにできる。そう考えて事業を立ち上げたのが、株式会社hakkenの竹井淳平さん。それも自社で完結するのではなく、農家と関係性の深い地方自治体やJAと連携して、地域経済にも寄与できる形で進めようとしています。

その提携先の一つが、熊本県・高森町。いま、この事業をプロジェクトマネージャーとして率先して進めてくれる人材を募集中です。具体的にどんな仕事になるのか、話を聞いてきました。

竹井淳平(たけい・じゅんぺい)
株式会社hakkenの代表。総合商社にて、イタリア製ヘリコプターの販売、アフリカの化石資源プロジェクトやブラジルの貧困地域への赴任を経て、真逆の世界に飛び込む。株式会社hakkenを設立し、Webサービス開発をする一方で、乾燥廃棄野菜を正式に事業化。現在は熊本県高森町で軽トラを転がしながら拠点開拓をしている。

“畑の食品ロス”は食品ロスの600万トンにすら含まれていない

9月初旬、高森町には色づき始めた田んぼが広がっていました。田畑に囲まれたJA阿蘇の高森支所に入ると、高性能の食品乾燥機が置かれています。竹井さんはいまここで、野菜を乾燥させる調整作業を進めています。

竹井さん 農家でつくる作物の約3分の1は廃棄されていると言われますが、それを乾燥させれば無駄にしなくて済みます。日持ちもするし、軽くなるので輸送にかかる負荷も抑えられる。農家にとっても、環境負荷を軽減する上でもいいですよね。

熱気に満ちた加工所で、竹井さんはそう話してくれました。

いま、食べられるのに棄てられている食品廃棄量は年約600万トン(農林水産省の統計データより)。ところが出荷前に棄てられる“畑の食品ロス”は、この数字にすら入っていません。個々の農家で廃棄される量は実態が把握しづらく、議論にものぼりづらい。東京農業大学の農村調査部が推計した、農作物の収穫量と出荷量の差からわかる未出荷量は、年に約200万トン近くあるのだそう。

竹井さん NPOや研究機関、生産者などいろんな方の話を伺っていると、推定される廃棄量はもっと多くて、僕の見立てでは年400万トン近くあるのではないかと思っています。

災害や鳥獣被害、規格外品など、見た目が悪いために出荷しても採算がとれないのが、主な廃棄の理由。豊作でも、作物の値段が下がるのを避けるために、あえて供給量を調整することもあります。

そうした野菜も、乾燥させれば日持ちのする食材として利用できる。さらに粉末にしたりレトルトや加工食品の原料としても、生かせる手段がたくさんあります。

乾燥させたかぼちゃ。

農家にダメージの大きい災害被害を少しでも緩和する

いま、全国にhakkenの加工所は2箇所。広島県の安芸高田市と、熊本の高森町にあります。すでに事業が進められている安芸高田市では、今年8月の大雨により、チンゲンサイのハウスが全壊しました。

竹井さん このチンゲンサイをうちで買い取りました。根っこが出てしまったものは一週間もしたら腐ってしまうので、できるだけ急いで乾燥させようと思ったんです。

手間暇をかけて育てた作物が一瞬にしてだめになってしまう。災害被害は、農家にとってダメージが大きい。場合によっては、廃棄そのものにお金がかかることもあります。売上に貢献できる点も大事ですが、農家の苦労を無駄にしない一つの手段にも思えます。

安芸高田市で被害にあったハウスのチンゲンサイ。

想像以上にバリエーションある活用法

野菜を無駄にしないとはいえ、気になるのは、乾燥した野菜って美味しいの? という点。
乾燥したての玉ねぎを味見させてもらうと、想像以上に甘くて、香ばしくてびっくり。かぼちゃもしっかりかぼちゃの味がします。ぎゅっとうまみが凝縮されている印象です。

竹井さん そのまま野菜チップにしても美味しいんですが、ラーメンに入れれば野菜たっぷりのかやく増しになりますし、みそ汁にもスープに入れてもいい。重量が10分の1になるので、登山やキャンプで運ぶのも楽です。備蓄防災食としても使える。栄養価もほとんど保たれます。

製造工程はシンプルで、野菜を皮付きのままスライスし、蒸気で熱処理して乾燥機に入れます。ただし野菜の種類によって、最適な温度設定や時間が異なります。この日、竹井さんが試していたのは、ピーマン、オクラ、玉ねぎ、かぼちゃと多種多様。

葉物は色も変わりやすいため少し低めの60度ほどで長めに。根菜類は75度で、2時間ほどで乾燥できるのだとか。キャベツは鉄板焼で焼いたような味。

ただし、今ある高性能の乾燥機でも、仮に400万トンの野菜を乾燥させようとすると、3.4万台の乾燥機が必要になるのだとか。

竹井さん そう考えると、うちの会社だけで解決できるフードロスの量には限界があります。将来は大手の食品会社にも卸すことで、廃棄野菜の認知を高めて、捨てる前に延命することを社会気運にしたい。その糸口になる事業と捉えています。100%廃棄野菜でつくった乾燥野菜なので、SDGsの視点からも、企業にメリットが大きいと思います。

野菜を乾燥させた加工食品は今までにもいろいろありますが、発色や乾燥を保つために砂糖や油などでコーティングしたものが多いのだそう。竹井さんいわく、コーティングなしで野菜の味をそのまま楽しめるドライベジタブルは少ないようです。ただしその分、湿らないように保管への配慮が必要になります。

竹井さん いま着目しているのが、乾燥野菜を肉と合わせる使い方です。ある餃子の大手チェーンにキャベツを卸している農家さんが、卸先からキャベツの水分を減らせないかと相談されたそうなんです。つまり、餃子に野菜の水分は少ない方が肉のうまみがきわだって美味しくなるってこと。まだ研究中ですが、うまくいけば、ハンバーグやチャーハンにも応用できると考えています。

安芸高田市で開発中の「四川淡々やさい」。四季折々の乾燥野菜を使用している。

先行して進んでいる広島県安芸高田市での作業風景。

現在、クラウドファンディングにも挑戦中で、実際の商品や高森町の名産品が返礼品になっています。

事業をスケールさせる、行政と組むという選択

従来の廃棄野菜をつかった加工品はたくさんありますが、この事業の特徴は、各地に回収と生産の場を分散させることで、ステークホルダーを増やし、地域に新たな経済活動や関係性が生まれるきっかけをもたらす点。

さらには、乾燥野菜の“保管・配送が容易”という特性上、生産拠点が分散していても、BtoBの事業にスケールした際に、まとまった納入ができるという点です。

かつて総合商社で働いていた竹井さんならではの発想と言えるかもしれません。そのために一地域にとどまらず、各地に乾燥する拠点を展開する予定とのこと。

竹井さん 地方でもっとも信頼されているのは行政なので、まずは自治体と協力して、そこから話を進めるのが一番スムーズなのではと考えました。

いくつも自治体をまわり提案するなかで、素早くいい反応が得られた安芸高田市と、この高森町で始動しています。

高森町役場の職員の目にhakkenの事業はどう映ったのでしょうか?
役場に勤務して20年という総務課課長補佐の村上純一さんは、こう話してくれました。

村上さん 初めて来られた時から、竹井さんははっきりしたビジョンをお持ちだったので、高森の将来にいいとビビっときたんです。コスト面は、ふるさと納税の仕組みでまかなえるということだったのでリスクは回収できる。「やりましょう」と言ってから、ふるさと納税の開始まで一ヶ月もかからなかったんじゃないかな。

私自身、農政課に5年いて農業のことも色々勉強させてもらいましたが、新しい品種を開発するとかブランド化するなど施策はいろいろありますが、どの地域でも似た取組みが多いんですね。その点、フードロスを解決しながら新しい商品につなげられるところが新しいと感じました。町長も賛同して、全面的に協力しようとなりました。

高森町役場、総務課課長補佐の村上純一さん。

役場の農政課が協力してくれたおかげで、JA阿蘇との提携が決まりました。JA高森支所の加工所をすぐに借りることもでき、野菜を集める体制が整いやすい状況に。

竹井さん 高森の農家の方々とこれからもっと密に交流していけたらと思っていますが、廃棄野菜は農家に限らず、飲食店や道の駅など、どんなところでも出ます。やる気さえあれば、集めてくるのは難しくない。あとは事業効率との問題で、体制をつくっていく段階です。

これから働くことになる人が中心になって、この体制を組んでいけたらと考えています。

大規模開発の裏を目の当たりにして

約6年前まで、大手総合商社の社員として海外に駐在していた竹井さん。30代半ばの若さでエリート街道を降りるのは大きな決心だったはずです。なぜ会社を辞めようと?

竹井さん ブラジルに駐在していた頃、アマゾンの森林がものすごいスピードで伐採されているのを目の当たりにしたんです。

今見えているくらいの範囲が5秒くらいでズバババってなくなっていく。そこに大規模プランテーション、畑をつくるんですよ。世界の規模でみると食料廃棄量は13億トン。それだけ棄てているのに、新たに食べものをつくる畑のために、森をブルドーザーでガガーっとつぶしている。正気の沙汰とは思えなかった。

この頃、同時に大学に通い原住民のことを学んでいたという竹井さんは、アマゾン奥地に暮らすカヤポ族に会いに行きます。自然をリスペクトして暮らす彼らの考え方を知り、初めて会社を辞めるという選択がよぎったのだそう(この集落に滞在したときのエピソードがかなり面白いです。こちらで読めます)。

竹井さん 次の赴任先のアフリカでは、石炭を掘る場所から港まで900キロの鉄道を敷くのが僕のミッションでした。

整地のために、藁葺き屋根の家に暮らしている人たちに、新しいプレハブの家を用意して、井戸もつくるからと移ってもらうんです。彼らは喜んで応じてくれるんですけど、何千年も続いてきた彼らの暮らしや文化を途絶えさせていいのか? という疑問が拭えませんでした。井戸を掘るだけなら、元の集落に掘ったっていいわけで。石炭も、文化を壊すことも、長い目でみれば自分がしている仕事はヤバいなって。

けれど、商社にいたからこそ得られた視点もあります。

竹井さん 8年間、資本主義のど真ん中のようなところにいたので、困っている人を助けるとか、フードロスを解決したいとか色々思いはあっても、稼がなければ何も始まらないってことが骨身にしみているというか。稼げないと続けられないし、誰も幸せにできないので。

社会的な意義があっても、ビジネスとして成立しなければ、根本的な解決にはつながらない。その基本を共有できる人、というのも今回募集する人材に求められる点かもしれません。

このまちでの環境を楽しめる人が一番

 
今回募集するのは、高森町での本事業の実質的な責任者になる人。基本業務としては、廃棄野菜の集荷、野菜の乾燥作業、製造管理を行いながら、将来を見据えて地域でのネットワークづくりや、人を雇用する際にはマネージメントなども行うことになります。当面は竹井さんと一緒に動きながら仕事を覚えて、ゆくゆくは現場の仕切りを任されるポジションです。

竹井さん まずは、ここでの生活を楽しめるってことが一番大事です。ビジネス面は僕が教えるので、すごいキャリアがあるより若めの人がいい。地域の人たちと仲良くなってほしいんです。住んでいる人や役場の人たち、この土地や風土に愛着がわけば、フードロスだけでなくこの土地の課題感にも敏感になると思う。何とかしたいと思うことが増えれば、もともとうちの会社にあるITの技術などを生かして新たなビジネスを考えることもできるかもしれません。

竹井さんが代表を務める株式会社hakkenでは、これまでにIT技術を活用したオンラインレストラン「#いえつなキッチン」や、ウェブ上に行列を作る整理券アプリ「hakken」などのサービスを運営してきました。

今回募集する人も、Adobeやマイクロソフトをはじめとする基本的なITリテラシーがあることや、プロモーションやSNSなど情報発信の基礎を理解している方が望ましい。けれど竹井さん自身が「常に知らないことを勉強して挑戦し続ける仕事人生だったので、やる気と好奇心があれば経歴は関係ない」とのこと。

密に仕事をすることになる高森役場の村上さんにも、どんな人を求めているか聞いてみました。

村上さん 調整ごとは基本僕らでやるので、農家さんの間に入って一緒に楽しめるような人に来てほしいですね。たまには畑にお手伝いに行ったり、どんどん中に入って人を覚えて関係性をつくっていけるような人だと嬉しい。自分で楽しめるような人というか。

移住して暮らすことになる高森町は、阿蘇五岳の麓に位置するまちです。冬は寒いですが、その分、息をのむような美しい風景に出会える場所でもあります。そうした自然の多い地域ながら、日用品の買い物をする商店や学校、病院などのインフラは整っていて、最低限、生活に困ることはありません。

とはいえ、いま都会に暮らす方は、移住をためらう人も多いでしょう。個人的な意見ですが、と前置きした上で、竹井さんはこう話しました。

竹井さん いま都会で楽しめるものって、住まなくても享受できるものがほとんどだと思うんです。リモート環境も整って、仕事をする上でも不都合がなくなりました。一方で、生活する上では地方のほうが圧倒的に生物としての力を取り戻す上でも、人間力を上げるうえでもいいなと感じています。

高森町の風景。

私も、今は隣の南阿蘇村にいて、その前は高森町に住んでいました。東京との二拠点生活でしたが、今は年のほとんどをこちらで暮らしています。

ここがいいなと思う一つは、人との関係性が都会とはまったく違っていて、その育み方を学べること。そして自然の中で暮らす感覚を日々身体で感じること。いいことばかりでなく、虫も多かったり、寒さが厳しかったり。でも環境やフードロスなどの問題を頭で考えるだけでなく、違う視点で見るようになりました。土に触れる農や食に関わる人たちからも、多くの気付きをもらっています。

今回募集するのも、地域の農家さんたちと密にやり取りしながら食に関わる仕事。こちらで暮らすいい入口になりそうです。と同時に、キャリアとして食や農、環境などの分野で経験と実績を身につけたい方に向いているように感じました。

(写真: 柚上顕次郎)

(本取材は9月10日(金)、熊本県在住のライター・カメラマンによって行い、写真撮影時以外はマスクを着用、その他ソーシャルディスタンスやアルコール消毒など感染対策につとめました。)

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