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ウッドショックをウッドチャンスに!「まちと森がいかしあう社会」を目指すキノマチプロジェクトが見据える未来と可能性。

新型コロナウイルスによって様々な環境の変化が生じていますが、木材を扱う業界でも「ウッドショック」と呼ばれる影響が出ていることを知っていますか?

「ウッドショック」とは、世界中で木材が不足し、その価格が高騰し、手に入りにくい状況に陥ること。その背景には、

コロナ禍で一時帰休者が増加し、伐採や製材が遅れていること。
リモートワークにより、特にアメリカや中国で郊外に新しく住宅を建設する人が増えたこと。
ネットショッピングの利用などで流通が増え、運搬手段のコンテナが不足していること。

が挙げられます。

木材の流通以外にも、森においては気候変動による土砂災害や山火事などが各地で発生しています。

そこでグリーンズでは、2019年から「まちと森がいかしあう社会をつくる」を合言葉に「キノマチプロジェクト」を進めてきました。竹中工務店、Deep Japan Lab、ココホレジャパンと協働し、「木のまち」をつくるための仲間と知恵を集めるプロジェクトです。

今回はこのプロジェクトの2年を振り返るとともに、今後に向けた意気込みについて、竹中工務店の小林道和さんDeep Japan Labの岡野春樹さんココホレジャパンのアサイアサミさんグリーンズの植原正太郎が語り合いました。

竹中工務店・小林道和さん

Deep Japan Lab・岡野春樹さん

ココホレジャパン・アサイアサミさん

グリーンズ・植原正太郎

キノマチプロジェクトのはじまり

正太郎 早くも3年目に突入しているキノマチプロジェクトですが、どうやって始まったのか振り返ることから始めましょう。竹中工務店が発起人でしたね。

小林さん 竹中工務店としてやりたかったことが3つあって、1つは木造・木質の価値を広めること、2つ目は仲間集め、3つ目は価値の言語化です。

1つ目の木造・木質建築の分野は、会社の事業としては順調に伸びていましたが、もっと広く社会へ発信したいと思っていました。世間ではまだまだ「木を伐ることは自然破壊」という風潮があるので、伐って使うことが本当は山にとっても社会にとってもいいことだと伝えたかったんです。

でも、自分たちの会社だけではできることに限界があり、「木を使うことが社会のためになるんだよ」と言ってくれる人が増えていけばいいなと思いました。

正太郎 それが2つ目の「仲間集め」なんですね。

小林さん はい。3つ目の「価値の言語化」は、木造・木質建築を増やすということは、社会にとってどんな価値があるのかを整理するということです。これら3つのやりたいことの相談先として、岡野さんたち率いるDeep Japan Labにお話ししたのが、本プロジェクトのはじまりでしたね。

そして最初に行ったのが「価値の言語化」です。私たちがやるのは「まちと森がいかしあう関係」をつくることだというミッションを定め、「キノマチプロジェクト」という名前もここで決まりました。それらのことを落とし込んだ『木のまちづくりハンドブック』という冊子を制作していただきました。

木の持つよさや、日本の木の文化などをまとめた「木のまちづくりハンドブック」

岡野さん ご相談をいただいた経緯としては、もともと友人でもある田島山業の田島さんから竹中工務店をご紹介いただいたことがきっかけでした。そして「価値の言語化」作業、冊子制作を起点に、キノマチプロジェクト全体の構想と立ち上げにいたりました。

メディアとしては「キノマチウェブ」を立ち上げ、アサイさんには副編集長を務めてもらっていますが、最初は竹中工務店さんの考えていることを広く世に伝えるためのお手伝いをお願いしましたね。

アサイさん 岡野さんはある日突然、私が住んでいる岡山に来たんだよね。会ったこともないのに、「ちょっとだけ時間をください!」って。当時、私は「TURNS」という雑誌の副編集長をやっていたのですが、ちょうどその頃に、発信だけやっていていいのかな、もっと直接的に社会へアクションができたと思えるような仕事をしたいな、と考えていました。

林業の問題については、森林王国の岡山に暮らしていることもあって身近に感じていたし、西粟倉村という森林の活用を積極的に取り組んでいる地域のメディアをつくったりしていたので、このプロジェクトの話を聞いてぜひ参画したいなと思いました。

木のまちづくりから未来のヒントを見つける「キノマチウェブ」。https://kinomachi.jp/

正太郎 僕自身は林業分野については全く知識がなかった状態で岡野さんに声をかけていただいたのですが、知れば知るほどキノマチに可能性がものすごくあるなと感じています。

グリーンズとしてもこうしたテーマをプロジェクト的に扱うのは初めてでしたが、多くの人たちに記事が読まれ、昨年に開催した「キノマチ大会議」というカンファレンスは5日間でのべ900人以上が参加し、キノマチという領域に関心を持っている人がたくさんいると肌で感じる機会になりましたね。

竹中工務店の発案で始まったプロジェクトではあるけれど、社会に必要とされるコミュニティだと実感したし、これからも関わる人の学びの場になるように育てていきたいと思っています。

初年度に行った「キノマチ会議リアル盤 in 和歌山」の様子。

「木のまち」という共通の目的に向かって、競争から協働へ

正太郎 キノマチプロジェクトは今年で3年目になりますが、この2年を振り返って、どんな変化や成果がありましたか?

小林さん 10年くらい前の建設市場は、安い建築=いい建築だと思われていて、値段の高い木造建築は賛同を得られにくかったんですが、このプロジェクトに興味を持ってくれる方々との話のなかで、やっと木造建築も日が当たるようになったなと実感できるようになりました。特に心強いのは、当社の経営者層が応援してくれています。

正太郎 社会の流れもだいぶ変わってきましたね。社内ではどんな変化がありますか?

小林さん 例えば、設計部の人が、キノマチプロジェクトで取材させてもらった「VUILD」の秋吉さんとコラボレーションしているようです。ShopBotと木を使って新しいチャレンジに取り組む起業家の方と、つながりができたことは嬉しいですね。目的の1つ、「仲間集め」がじわじわとできている気がします。

「VUILD」による、地域の木材×伝統×デジタルをかけ合わせた「まれびとの家」。

岡野さん これまで前線で取り組んできた人たちは、孤独だったと思うんですよね。山主さんや設計者など、誰に相談していいか分からなかったのが、このプロジェクトを通して出会った人たちに気軽に相談できるようになった、という喜びの声をいただいています。本来は競合となる関係性でも、みんなで「まちと森がいかしあう社会をつくる」という旗を立てたことで、協働が起きているのが面白いですね。

アサイさん 私は「木っていいよね」という、ふわっとしたイメージに強度が増したなと思います。ただ単に「いいよね」で終わらず、木を使うことで森がきれいになるとか、具体的な価値に落とし込めるようになりました。

あと個人的には、友達がたくさんできたのが嬉しいです。通常の取材では「取材対象者」で終わるのに、今回はみんな「友達」になれました。今まで話す機会がなかったような人たちとも、木がきっかけで心を通わせることができたのも大発見。「いいよね」と思う共通のものがあると、年齢や職業をこえて友達になれるんだなと身を持って感じました。

田島山業の二人(中央)と取材チーム。ご自宅に一泊させていただきました。

正太郎 僕も友達が増えましたね。「まちと森がいかしあう社会」という価値観に共感して集まってくるから、仲良くなるのも早いのかも。

アサイさん 森に直接関係ない人でも関わりあえるのもいいですよね。林業をやっていない人でも、誰でも何かしらの関わりしろがあるのが「キノマチ」。

正太郎 そうですね。僕も今年、東京から熊本の南阿蘇に移住したんですけど、「キノマチ移住」だと思っています。もともと海側に移住を考えていたんですけど、キノマチプロジェクトを通して山側のほうが関わりしろが多いと思ったんです。山は自分で木を伐ったり、家具をつくったり、薪にしてストーブに使うとか。

去年、greenz.jpで展開した「国産材DIY特集」をたくさんの人に読んでもらったのも、自分の暮らしに関わることだからかな、と思っています。

“大きな問い”に、それぞれの立場から、みんなで向き合う

アサイさん キノマチウェブの編集方針でもあるんですけど、読者の方には「消費者」から「生産者」になってほしいな、と思っています。記事を読んで「そうなんだ」と思うだけでなく、森に行ってみるとか、間伐材の割り箸を使ってみるとか、行動につながるといいですね。それで何が起こるかというと、情報の消費者ではなく生産者になるんです。

いまって、コロナのこともあって、近くのことしか見えていない人が多いと思うんです。今日の東京の感染者は何人、とか。明日電車に乗れるか、だけでなく、来年の日本はどうなっているか、というふうに、もっと遠くを見るようになるといいなと思っています。

岡野さん 地球環境の問題を考えると、規模が大きすぎて気分が下がるし、何をしたらいいか分からないですよね。キノマチプロジェクトはそのなかで課題を把握しながらも、朗らかさがある。楽しそうに、朗らかにチャレンジしている人がいる。これはすごい価値のあることです。そうした仲間とともに、一人ひとりが自分のできることをやっていくしかないな、と思っています。

正太郎 森とまちがいかしあうために、自分にも何かできるかもしれない、と思ってもらえることがプロジェクトの真の価値かもしれませんね。

岡野さん 正直、「なくてもいいプロジェクト」って、いっぱいあると思うんです。誰にも熱源がないのに、やらなければいけない…みたいなこと、多いですよね。でもキノマチプロジェクトに関しては、構成メンバーはみんな実践者なのが特徴で、それぞれの思いがこめられている。

そんななかで僕は事業をつくるうえで、なるべく「ぽいもの」をつくらないようにしようと意識しています。それっぽく見せるため、サステナビリティ報告書に書くためのものは、もう必要ない。

このプロジェクトの場合は、竹中さんのように大きな木造の建物をつくっていくだけでなく、世の中に「問い」を置くことが大事な役割なのかなと思っています。九州豪雨で被害のあった田島山業さんのもとを「大地の再生」の矢野さんが訪れた記事がYahooニュースにも掲載されて、いまだに読まれ続けていますが、それは誰も解決策が分からない課題について問いを投げかけて、みんなが考えるきっかけを提供できたからじゃないですかね。

2020年7月の九州豪雨で、大きな被害を受けた田島山業の山。「大地の再生 結の杜づくり」の調査に同行させてもらった。

岡野さん 先日、田島山業さんにインタビューしたのですが、「一番苦しい時に、キノマチプロジェクトのみんながまず駆けつけてくれたのが、本当に支えになった」と言ってもらいました。そして、いま田島山業さんは林業界を明るく照らすような新しい事業に挑戦しようとしているところです。当然そこにも僕らは一緒にニヤニヤしながら伴走していきます。情報公開してよくなったタイミングで今度これ記事にしてください!(笑)

このように僕らは、みんなを代表して気候変動の課題に直面している川上の人(山主さん)に寄り添い、川下の人と手を取りあえる新しいことを一緒につくっていく。まちと森がいかしあう関係づくりを今後もやっていくのだと思います。

これから、まちと森がいかしあうには?

正太郎 キノマチプロジェクトに関わるみなさんの視点で、「まちと森がいかしあう」取り組みとして注目している事例はありますか?

小林さん 木造建築が地域のシンボルとなって、地域交流や情報発信のカタリストとなっている海外の事例を2例ほど。

ひとつめは、スペインの「メトロポール・パラソル」という商業施設で、ずっと前から実際に現地で見てみたいと思っているものです。大きなキノコの傘のような屋根が6つあり、その上も歩けるようになっています。

ヨーロッパの各地にある大きな教会と同じで地域のシンボルになるし、遠くから眺めてみて「あの場所に行ってみたい」と思わせるようなものが「メトロポール・パラソル」にはあると感じています。あと構造設計をやっていたので、どうやって建物を支えているのか、その仕組みが気になります。

スペイン・セビージャにある「メトロポール・パラソル」(photo by Tobias Coenille)

小林さん あとスイスにあるスウォッチの本社も木造で話題を集めています。いつか現地に行ってみたいなと思っています。

アサイさん 確か日本人が設計したんですよね。

小林さん 坂茂さんです。ほぼすべて木材で仕上げられた世界最大級の木造構造物で、トウヒというスイス産の木がふんだんに使われているそうです。何重にも重なり合う木の構造材やその他の材料を3DのCADで完全に整合するように設計し、さらに世界最高水準の加工機で間違いなく複雑な材料、部材をつくり上げているところに凄さがあります。これまでにない建築のかたちと地域の関係者の気合が人をひき付けるんだと思います。

正太郎 地元の木を、地元の企業が使う。まさに「まちと森のいかしあい」ですね。

小林さん 地産地消も大切ですが、木そのものを単に消費の対象としてお金に変えていくだけでなく、CO2固定による排出枠もしっかりと経済的に評価されればいいなと思います。CO2排出権価格は恐らく上昇していくと思われるので、持続可能な森林経営に貢献できるようにうまく排出権をお金に変えていけたらな、と。

正太郎 材を材のまま売るのは限界がきていますからね。以前、小林さんが教えてくれたアップル社の「Restore Fund」のニュースもすごく衝撃でした。脱炭素のために2億ドルもの規模で森林保護のファンドをつくるという取り組み。森林保護が経済価値と直接つながるなんて、10年前には想像もできなかった話だなと。

小林さん 2050年までに自社の事業でカーボンニュートラルを実現させるための先行投資のようなものだとみています。これから増えていくのではないかと思っています。

アサイさん 私は、いま木との関わりしろを模索するなら“ウェルビーイング”が旬だなと思います。サ活(サウナ)が流行っているじゃないですか。キノマチウェブでも記事にしましが、フィンランド式サウナは手っ取り早い森林浴ですよ(笑)

あと、北海道下川町の「フプの森」でつくられているアロマは、つくられる過程も含めてめっちゃキノマチ的。西粟倉・森の学校の「ユカハリ」でサクッと無垢材の床にしちゃったり、“宮脇方式”森林を庭につくっちゃおうとか、樹木由来の天然香料が調合された「BAUM」の化粧水に代えよう、など、いまやろう!と思い立ったらすぐにキノマチへアクセスできる身軽な空気を、キノマチプロジェクトでつくっていきたいです。

東京・神楽坂にあるフィンランド式サウナ「ソロサウナtune」では国産の木材がたっぷり使われている。

岡野さん 僕は神奈川の秦野市の「水収支」というのがおもしろいなと思っていて。秦野盆地の地下水を徹底的にボーリング調査して、どこにどのくらいの水があって、どのくらい活用できそうかを把握しているんです。

多くの人を巻き込むためには、情緒に訴えるだけでなく、数字で論理的に説明することも大事だと思うのですが、自然の定量化って難しいんですよね。実直に定量化をやり続けてきた秦野市は本当にすごいなと思います。

あと、岐阜県の東白川村では、森林を区画分けして貸し出す「forenta」というサービスがはじまっています。キャンプ用に1区画を年間66,000円でレンタルできるサービスなのですが、人気みたいです。

この事例のすごいところは、借りたい人は管理人の人と面接をしなければいけないらしいんですね。そうすると面接を通ったいい人ばかりが利用者となる。現場では、お隣の区画の人への音の配慮があったり、隣の区画の人たちと景観的に調和するような小屋をつくったり。

森林を単に短期的・消費的に捉えるのではなく、長期的にみんなで森林を育んでいく文化が醸成されているようなんです。こういう「森づきあいと人づきあい」が増えていくといいなって思います。

正太郎 コロナでアウトドアを楽しむ人が増えたので需要がありそうですね。

ちなみに僕が注目しているのは、キノマチ大会議のゲストでもある「東京チェンソーズ」がつくっている「檜原 森のおもちゃ美術館」です。11月にいよいよオープンするんですが、彼らが育てた木でおもちゃをつくり、美術館という文化をつくることが、本当にすごいなと思っていて。詳しくはキノマチ大会議で聞けるのが楽しみです。

キノマチ大会議ではほかにもゲストに木造建築から木質ユニット「つな木」まで幅広く手掛ける「日建設計」の大庭拓也さんや、多摩産材を活用し炭素固定を可視化する家具をプロデュースする「HAGI STUDIO」の宮崎晃吉さんらをお迎えする予定なのですが、参加者も含めて仲間がより一層増えたらいいなと思っています。

(座談会ここまで)

記事のなかでは紹介しきれませんでしたが、今回の座談会で「みんな、いま自分にできることを探している」という話が印象的でした。

社会のために何かしたい。でも、何をしていいか分からない。
ましてや、山や林業なんて、自分には関係ないし…と思う方も多いかもしれません。

でも、「木のまちづくり」は誰もが関わることができます。
家、家具、食器、水、空気…。あらゆるものが森とつながっています。

ぜひ、あなたの関わりしろを「キノマチ大会議」で見つけてみませんか?
まだまだ答えのない「まちと森がいかしあう」方法を、一緒に考えていきましょう。

– INFORMATION –

2024年は先着300名無料!
10/29(火) キノマチ大会議 2024 -流域再生で森とまちをつなげる-


「キノマチ大会議」は、「キノマチプロジェクト」が主催するオンラインカンファレンスです。「木のまち」をつくる全国の仲間をオンラインに集め、知恵を共有し合い、未来のためのアイデアを生み出すイベントです。

5年目となる今年は2024年10月29日(火)に1DAY開催。2つのトークセッション、2つのピッチセッションなど盛りだくさんでお届けします。リアルタイム参加は先着300名に限り無料です。

今年のメインテーマは「流域再生で森とまちをつなげる」。雨が降り、森が潤い、川として流れ、海に注ぎ、また雨となる。人を含めて多くの動植物にとって欠かせない自然の営みが、現代人の近視眼的な振る舞いによって損なわれています。「流域」という単位で私たちの暮らしや経済をとらえ、失われたつながりを再生していくことに、これからの社会のヒントがあります。森とまちをつなげる「流域再生」というあり方を一緒に考えましょう。

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