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やっと見つけたコインランドリーの裏口。秘密の扉を開け、階段を登った先にある小さな空間「ニカイ」って? #場づくりという冒険

みなさん、こんにちは。はじめまして。

ぼくは、兵庫県尼崎市を中心に、さまざまなローカルプロジェクトの立ち上げやプロデュース、「場づくり」などを行っている「株式会社ここにある尼崎ENGAWA化計画」の藤本遼です。

昨年、ご縁がありまして『場づくりという冒険 いかしあうつながりを編み直す(グリーンズ出版)』を出版させていただきました。

それに関連しまして、連載企画として、書籍内に収めているいくつかのインタビュー事例を編集なしでそのまま掲載させていただきます。ぜひ、記事を読んで関心を寄せてくださった方は、書籍をお手に取ってくださいますとうれしいです。

秘密の扉から入る「ニカイ」って?

たぶん「ニカイ」というからには2階にあるのだろう、と思って探すけれどなかなか見つからない。

やっと見つけたコインランドリーの裏口から入り、階段を登った先にあるその小さな空間は、しかし綺麗に整頓がなされていてとても居心地がよかった。真ん中には大きなテーブル。

壁には「ニカイ」を訪れたことのある人たちの名刺がずらり。さまざまな書籍も本棚に並んでいた。

ぼくが訪れた際には、「ニカイ」の施工に関わった庭師の方や自作のクッキーを型からデザインしてつくっている方、ヴィンテージ古着を扱うお店をされている方など、さまざまな方々が自由にくつろいでいた。

そんな「ニカイ」を切り盛り(?)するのは、福田ミキさん。三重に移住してからライターやバックオフィスの仕事、イベントの企画などをさまざまにこなしている。コーヒーがあまり好きではない筆者のためにお茶を出してくださったところから今回のインタビューがはじまった。

名前:福田ミキ(ふくだ・みき)
生年月日:1982年3月10日
職業:秘書/PR/テレワーカー/OTONAMIE副代表/クワブロー代表/ニカイ管理人
自己紹介:2014年元夫の転勤で東京から三重に移住。初めて暮すローカルで仕事と遊びが一体化している大人たちに衝撃を受け、金融系OLからテレワーカーに転身。場所にとらわれないリモートワークに可能性を感じ、組織の根幹を担うバックオフィスの重要性を実証すべく環境を整備。2016年には仕掛け人のひとりであった地方創生ムービー「クハナ」が全国ロードショーに。WEBメディアOTONAMIEを通して、さらなる地域の可能性を追求し2019年に『ニカイ』を立ち上げた。場所や時間を越える何かと、今ここでしか得られない何かを同時並行することが日々のテーマ。

ナンパが可視化した、「ニカイ」への道

藤本 お久しぶりです。

福田さん 先日は尼崎でありがとうございました。

藤本 じゃあ、インタビューはじめますね(笑) 福田さんはもともと三重の方でしたっけ?

福田さん わたしは東京出身で、三重には結婚をして2014年7月に引っ越してきました。夫の転勤に伴って、縁もゆかりもなかった土地に来たんです。なので、来る前は行きたくないと言ってずっと泣いていました(笑)

藤本 そうだったんですね(笑)

福田さん 知り合いも友達もいない三重で友達をつくるにはどうしたらいいんだろうと思って。三重に行くまでの半年間で趣味をつくろうと思い、いろいろとやってみたんですが、結局趣味ができず。そのまま三重に来ました。

藤本 実際、三重に引っ越してからの生活はどうでしたか?

福田さん 失業保険の関係もあって、ハローワークに通うだけの毎日でした。車もないから遠出もできず、自転車だけの移動でしたね。基本的に誰ともしゃべらないから、ある日スーパーに行っても「ありがとうございます」っていう言葉が出てこなくなったんですよね。

藤本 それはなかなか大変ですね。そこからどうやって関わりをつくっていったんですか?

福田さん とにかく必死に人との接点を探して、月曜日は料理教室、火曜日はフラダンス、水曜日はペン習字、木曜日は英会話、金曜日はエアロビみたいな習いごとをしまくったり、図書館でナンパをしたり(笑)

藤本 図書館でナンパ(笑)?

福田さん 平日の昼間に図書館からでてきたおじいちゃんになにをしてたのか聞いて「ちょっとお茶しませんか」ってナンパしてましたね(笑)

定年後のおじいちゃんって仕事をしていないし、どんな風に過ごしてるんだろうって不思議だったんですよね。いろいろ聞いてみたら、新聞を毎日転記していたり、本にいい言葉があったら書き記していたり。高齢になっても知識欲って衰えないんだなあって思いました。

福田さん

藤本 すごい(笑) おじいちゃんは何人くらいナンパしたんですか(笑)?

福田さん 30人くらいはナンパしたかな(笑) もしかしたらどこかで不審者情報が出てたかもしれないです。

藤本 多い(笑) そのナンパはどのくらいの期間?

福田さん 2014年7月に三重の桑名に引っ越してきて、終わったのが8月くらいだから1ヶ月くらいはナンパしていましたね。

藤本 え! 1ヶ月の間に30人とか日課!(笑)

福田さん そうですね(笑) 毎日のように(笑) ほんとに人との接点がなかったんですよね。

藤本 どうして知らない人にそんなに話しに行けたんですか?

福田さん なんだろう。わたしはずっと地元の東京にいて、新しい土地で自分のことを誰も知らないっていうのがちょっとうれしかったんですよね。ずっとここに定住するわけじゃないし、不審者扱いされても親にも迷惑をかけるわけでもないし(笑)

藤本 なるほど。おもしろいです。

福田さん そのあと、すごく居心地の良い喫茶店を知り合った人に教えてもらって。そこは相席が当たり前だったから、ナンパしなくてもいろんな人と話せるようになったんです(笑)

「おはよう」ってモーニングに行って「いってきます」ってお店から出て。声が出るってだけでもうれしかったですね。

藤本 いいですね。今では「OTONAMIE」という三重のWEBメディアの運営にも関わっているそうですが。

福田さん とにかく人との接点をいかに持つかっていうのがわたしのテーマだったの「OTONAMIE」は最高のナンパツールだなと思って(笑)

市民ライターを募集していたので、すぐに記者登録をして、じわじわと運営に入り込んでいったって感じです。今では200名くらいの市民ライターが活動しているんですが。

藤本 立ち上げから関わってるわけではないんですね。

福田さん 立ち上げからではないですね。あ、でも今調べたらほぼ立ち上げ期から関わってました。「OTONAMIE」が立ち上がって6日目くらい(笑)

藤本 すごい速さ(笑)

福田さん 実は自分でブログもやっていたんですが、それではなかなかお店で聞いた話を掲載する出口にはならないなって思っていたんですよね。

藤本 聞いたことをきちんと発信するために記者になった。

福田さん そうです。ちゃんと記録するものがあるとお店の人とかもすごくしっかり話してくれるんです。あとは桑名市だけじゃなく、三重県っていう規模でつながりができるなと思って記者登録しました。

藤本 なるほど。その活動は仕事もされながらですよね。新しい仕事はどうやって見つけたんですか?

福田さん せっかくだから桑名で働きたいなというのはあったんですけど、桑名の企業で合いそうなところがなかったんです。

なので、東京でポテンシャル採用をしていたとある企業に三重でなにかやりたいですという熱いメッセージを送ったら、社長が3日後に三重に来てくれて。なにか一緒にやろうとその場でテナントを探しに行って、テレワークという形を5年前につくりました。

藤本 すごい(笑) では、今は東京にある会社の仕事を遠隔(テレワーク)でしているということですか?

福田さん そうですね。今は何社かの仕事をテレワークでしています。もともと東京では金融のOLをしていたんですが。三重に来てテレワークやライターの仕事に初めて触れましたね。

藤本 生活環境ががらっと変わったんですね。

福田さん ほんと変わりました(笑)

今の状況は全く想像していなくて。自分が描いていた生活ってたぶんすごくつまんないんですよ(笑) だけど、動いたら誰かが新しい扉を開いてくれるみたいな。そういう人との出会いで自分がいる環境ががらっと変わるんだなってことを体感して、それが癖になってしまっています。

藤本 いい感じですね。

福田さん 毎日、自分の実力よりも好奇心だけで突っ走っている感じですね。

藤本 最初の友達が全然いなかったときと比べて、相当生きやすそうです(笑)

福田さん そうですね。でもそれは、2019年6月になってきてから。今でこそ総務省もテレワークを推しているんですが、わたしは5年くらい前から触れていたのもあって。周りの人たちはよく分からないことをやっているわたしのことを「すごい人」認定してくれるんです(笑)

藤本 なるほど。

福田さん すごく仕事ができる人って見てくれているんですが、自分ではそんなにできないのになっていう違和感があったり、逆にもっとできることもあるだろうなっていう可能性を信じたりもしていて。いろんな葛藤がありますね。

藤本 関わりに救われる部分もあるし、そうでない部分もある。

福田さん そうです。あとは、夫と円満解散という形で離婚をしていて。仕事面もずっとやっていたところのテレワークは一旦クリアにして、あまり受けないようにしたらますます楽になって(笑) 離婚したので桑名にいる必要はないんですけど、逆に東京に帰る理由もないなと思って今も住んでいます(笑)

決まりをつくらず、各々ができる貢献で関わり合う場

藤本 少し話を本題に近づけますが、「ニカイ」はどんな経緯ではじまったんですか?

福田さん 前に使っていた「ゴカイ」と呼んでいる事務所は、テナントビルの中の事務室みたいなところにあったんですよね。そこでテレワークをしていて。

藤本 「ゴカイ」(笑)

福田さん お客さんは来るけど、普通の事務所だから会話も仕事っぽい会話しかなくて。

新しいところに移りたいなとは思っていたんだけど、事務所を借りられるほどのお金もなかったし。

そしたら、ビジネスホテルを経営している知り合いの佐野さんという方が、コインランドリーの2階が余っているからなにかおもしろいことができないかなと思っていたそうで。

佐野さん

藤本 おお。

福田さん リノベーションやシェアハウスをしている水谷くんという友人がいるんですけど。佐野さんがコインランドリーの使い方を彼に相談していて。そしたら水谷くんが、ロケーションを考えるとわたしがここで事務所をやればいいんじゃないかって提案してくれて。

わたしは場所を得られて、水谷くんは自分の実績になる、佐野さんは若者をサポートしたいという夢が叶えられる、という3人の思いが重なって「ニカイ」が動き出したんですよね。

水谷さん

藤本 そういうタイミングってありますよね。

福田さん わたしはテレワークなので仕事をここでしつつも、半クローズ半オープンの空間にしていたんですよね。

シェアオフィスでもコワーキングスペースでもないよくわからない場所だったので「ニカイってなんなの?」っていう話が来た人とはじまる。

そこからお互いの話をするなかで仕事ができるイメージで見られていたけど、わたしはこんなダメな人間なんだっていうのを見せられるようになって。最近、楽になってきた感覚があります(笑)

藤本 弱みを出していける場所になってるということですね。最初からそんな場所にしたいと思っていたんですか?

福田さん 最初は、ゆっくり話ができる場所がほしいなと思ってました。

あとは、テレワークってオンラインで仕事を進めていくからリアルな人間関係がベースにないとすごく難しくて。でも最近、SNSでつながっていれば友達みたいな感じでどんどんネットがメインになっていて、なんだか寂しいなって思ってたんですよね。

だからもう一回リアルな場をつくりたかった。図書館でナンパしていた自分に戻りたかったというか(笑)

藤本 東京時代にも地域のつながりってあったんですか?

福田さん 全然なかったですね。

でも母親が喫茶店をやっていて。喫茶店っていっても地域の人が集まる場みたいなお店なんですけど。「今日お客さんとこんな話してね」とか「こんなお客さんが来てね」っていうのをずっと聞いていたから、話すと人ってお客さんと店主ではなく、人と人になるんだなっていうことをよく感じていました。

藤本 なるほど。おもしろいですね。

福田さん 桑名に住むようになって、県外からお客さんも来るんですが、いわゆる観光地とかおいしいものとかじゃなくて、誰に会いに行ってもらおうかなって考えます。つながりができるなかでまた会いに行こうかなって思う感覚がすごくいいなって思っています。

3人の思いが重なって「ニカイ」が生まれていく

藤本 「ニカイ」の面積ってどれくらいですか?

福田さん 広さは35㎡ぐらいです。ハイカウンターは近所の子どもたちが中心になってつくってくれたもので。端材をパズルみたいに並べてくれました。テーブルや椅子は思い入れのある場所からもらってきたもので。なにかゆかりあるもので家具は埋まっていますね。

藤本 みきさんが管理人を?

福田さん 管理人としてはいるけど、自分の場所だとは言っていなくて。使っている人が維持するためにどうするかっていうのを考えて運営していくのがいいのかなって思っています。お金のところでいう定期的に使う人たちが「何時間いるからこのぐらい払うね」って言ってくれたり「イベントの売り上げの何%かを入れるね」と言ってくれたり。この場所は決まりがないんですよ。

藤本 そうなんですね。

福田さん だからお金じゃない形で返してくれる人もいて。自分にできることってなんだろうということを考えて情報発信をしてくれたり、物をもらったりしていますね。

藤本 よくいらっしゃる人は何人くらいですか?

福田さん 定期的に来ているのは2人ですね。1人は自分の事務所を引き払って「ニカイ」で仕事をしていて、もう1人は夕方になると飲みに来ます(笑)

その人はザ・経営者みたいな感じだったんですが「ここで繰り広げられる会話がよく分からなさ過ぎて最近感覚が変わってきた」と言っていて。ビジネスモデルやビジョンが経営には大事と思っていたようなんですが、そうじゃない流れもあるんだなってことに気がついたみたいで。

藤本 なんだかすごい変化を起こしている気がします。

福田さん ビジョンを描くこともモデルをしっかりつくることもできたらいいなって思うけど、わたしはできないから。だからできないって言ってるだけで。自分は一手先しか考えられないんだなって最近実感しています。

やってみて起きたことを実感して、またやりたいことをやってみるっていう繰り返し。そのやり方って傷だらけになるけどおもしろいなって。そうやって見方が変わったとか、価値観が変わったと言われることがとってもうれしいです。

藤本 いろんな関係性が生まれて広がっているようですが、「OTONAMIE」でできた関係性が大きいんでしょうか?

福田さん わたしとしては、映画と「OTONAMIE」でできた人間関係は大きいと思っています。

もともと『クハナ!』という映画の制作にも関わっていたんです。桑名でロケをして全国上映をしようという話だったんですよね。でもそうなるとボランティアメンバーがめちゃくちゃたくさん必要で。お金も集めないといけないし。

藤本 映画も! 大変そうですね。

福田さん とにかくなにもなかったので、飛び込みで協力してくださいって言いまくっていました。桑名の人たちの関係性はそこで広がりましたね。

藤本 ここでもナンパスキルが活きるんですね(笑)

福田さん そうですね(笑) でも、映画もわたしにとってはツールでしかなくて。映画をつくって終わりではなく、映画をつくった先になにがあるのか考えると、そこで生まれた人間関係でしかないなってずっと思っていました。

スポンサー会社やボランティアのみなさん、周りで見守ってくれていた地域の人たちとか、いろんな層が重なって桑名市内は一気に人間関係が広くなりました。

藤本 なるほど。

福田さん 「OTONAMIE」では、取材関係でたくさんの方と知り合いになりましたね。記者同士の交流会も結構多く、つながりが蓄積できました。

藤本 関係性がいろんな形で広がっていった。

福田さん 本当にそうですね。今はなにでつながった人なのか分からないくらい人間関係が重複しています(笑)

藤本 懐に入るのが上手なんですかね。

福田さん なにも狙ってないんですよね。地位とか名声をもってるから仲良くなりたいとか、かっこいいから話したいとかではなく、単純におもしろそうだから聞きたいって思うんです。

藤本 なにかのためにつながりたい、ということではないんですね。

福田さん そうですね。でも、今はごはんを食べさせてくれる桑名のお父さんとお母さんがたくさんいたりはするんですけど(笑) みなさんに生かされてるなと感じます。

「いってらっしゃい」とか「おかえり」とか「いただきます」を言える人がたくさんいる方が「自分がここにいていいんだな」って思えるんです。もしかすると、自分の存在価値の確認をしているのかもしれません。

藤本 自分の存在価値の確認。

福田さん なにもできないから助けてもらうしかないんです。助けてくれる人たちがいっぱいいるって思うと、生きてていいんだなって思いますね。もともと自己肯定感がすごく低いんですけど、だからこそ相手になにをお返しできるかなって常に考えてますね。

藤本 逆に知り合いや関係者が増えすぎてしんどいことは?

福田さん 囲い込もうとされるとしんどいですね。

「うちにこのポストで来ないか」と言われると抵抗しちゃったり(笑)
あとは「あなたはなにができるの?」と言われるのも困りますね。

これまでやってきていることの延長線ではおもしろくないなって。なので「なにか一緒にやろう」と言ってくれる人と一緒にやってみたいと思っています。だから今はバックオフィス(事務作業)などにはあまり興味がないんですよね。

藤本 新しい世界が広がっているようですね。

福田さん 手放してみると意外なほど気持ちが楽になったんですが、手放すかどうかの選択肢を自分で持っているときが一番つらかったですね。

「離婚してもしなくてもいい」「離婚したいけどできない」「仕事辞めたいけど辞めてどうするんだろう」とか。自分が選べるときって守りの方を取ってしまうことが多かったんですが、守ってしまうからこそいろんな不一致が起きるのかなって。逆に手放したときに良さが見えて、いい関係や距離感が築けることもありますし。

藤本 これからの「ニカイ」に期待していることってありますか?

福田さん なにかの原点になったらいいなって思います。出会った人と仕事がはじまるとか、仕事を広げていくとか、「ニカイ」に来たら桑名の事情が分かるとか。今、発生していることが少しずつでも広がっていったらいいなって思います。

(インタビューここまで)

(Text: 藤本遼)

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