『生きる、を耕す本』が完成!greenz peopleになるとプレゼント→

greenz people ロゴ

人間中心から地球中心へ。日本全国の地域で「奇跡」を見てきた三田愛さんが、地球コクリ!を始めた理由。

老いも若きも、現場も霞ヶ関も、メインストリームもオルタナティブも、「コ・クリエーション」の力でつながっていく。そうして数々の地域変容や社会変容を起こしてきたのが、「コクリ!プロジェクト(コクリ!)」創始者の三田愛(さんだ・あい)さんです。

これまで10年以上にわたって、「コクリ!」で地域や社会の変容を見てきた愛さんが、いま、地球生態系全体へと、そのコ・クリエーションの力を広げていこうとしています。その名も「地球中心・生態系全体のコ・クリエーション研究(地球コクリ!)」。

愛さんが次なる使命として歩み始めた道には、どんな未来が見えているのだろう? そんな思いで、「地球コクリ!」の探究に伴走していく連載をスタートすることになりました。今回は、「地球コクリ!」に至るまで経緯や、愛さんをかたちづくってきた出来事を、愛さんの友人でありライターの富岡麻美さんとの対話でお届けします。

三田愛さん(撮影:Kenichi Aikawa)

地球上のすべての人たちが「ギフト」を持って生まれてきた

――まず、はじめに愛ちゃんがどんな人で、どんなことをしてきたのか教えてください。

愛さん 学生時代、人の価値観は生まれ育った国や環境によってどう違うのか? という好奇心から、学生団体AIESECに所属し、様々な国の友人を訪ね歩いたり、バックパックひとつで旅するなど、多様な人たちとの交流や対話を経験しました。その中で気づいたのは「たとえ人種や育った環境、文化が違っても、大切なことは同じで、分かり合える」ということでした。

リクルート入社後は、人材・組織系の総合営業を経て、全社人事、海外提携プロジェクトリーダーを経験。育休復帰後にじゃらんリサーチセンターの研究員として「コ・クリエーション」の実践・研究をはじめました。多様なリーダー約300人のコミュニティメンバーと共に実証研究を行う「コクリ!プロジェクト」(以下、コクリ!)の創始者でもあります。コクリ! では、全国で多様な人たちがつながり、「奇跡」が起こるプロセスに立ち会ってきました。

学生時代の愛さん。

――愛ちゃんは、コクリ! を10年続けてきたわけですが、コクリ!のベースである、そしてネーミングの元にもなっているコ・クリエーションについて、改めて教えてもらえますか。

愛さん コ・クリエーション(co-creation)とは、人が発するエネルギーの純度をあげて、オーケストラのように調和していくことだと、私は考えています。人って、自分が持っている能力やその存在が一番いかされている状態にあるときに、エネルギーがもっとも高まると思っていて。

例えばオーケストラも、様々な楽器の音色がいかされあうからこそ、美しい曲を奏でられる。それと同じで、一人ひとりが「その人だけの音」を響かせ、それぞれの人が持つ「純度の高いエネルギー」同士が調和する状態がコ・クリエーションだと思うんです。

――どうしたら自分の持つ能力に気付き、純度の高いエネルギーが発せられるのでしょう。

愛さん 私はいつの時代においても、地球上のすべての人たちが「ギフト」と「天命」を持って、この世に生を受けたのだと信じていて。そしてそのギフトや天命を最大限発揮したときに、ものすごいエネルギーが湧き出るのだと。私たちって、常にアタマで考え、社会的な立場や役割によって、知らず知らずのうちに鎧や仮面を身に纏って生きていると思うんです。相手がどう思うか、自分はどう評価されているのかなど、恐れや不安を感じながら…。

でも、その人が「自分の根っこ」(イラスト参照)とつながると、鎧が溶け、自分の内側からエネルギーが沸き起こり、それは温泉のように沸き続けるのだと、私は考えているんです。しかもそのエネルギーは純度が高く、周りの人たちへも伝播し、さまざまな良い変化が起こっていく。コクリ!でも、まずは「自分の根っこ」とつながることからはじめていました。

アタマではなく、ココロでもなく、その奥のハラであり、自分の根っこ、丹田、源につながっていく。そうやって「自分の根っことつながる」ことで本物の自分に戻り、自分のギフトや天命に気づくことで、純度の高いエネルギーが湧き出てきます。

そして、仲間ともアタマではなく「根っこ」でつながることで、肩書きではなく人としてつながり、安心安全な中で自他非分離のような状態になります。ここから純度の高いエネルギー同士のハーモナイズ、コ・クリエーションが始まります。

あらゆる問題は、その構造に原因がある

――実際にコクリ! の実践・研究をするなかで、起こった奇跡や見えてきた世界はどんなものでしたか。

愛さん 何より、想定していなかった「奇跡」が起きたことがとても興味深かったですね。「こうなるといいな」と思っていたけれど、「普通なら無理だろう」と思い諦めていたことが、最終的にはコ・クリエーションの力によって実現してしまうんです。

コクリ!の奇跡としてとくに忘れられないのは、2011年の黒川温泉(熊本県阿蘇郡南小国町)の北里有紀さん(以下、ゆうき)とはじめたプロジェクトです。当時、黒川温泉では親世代が強烈な成功体験を持っていて、そのやり方がまち全体に浸透している…。よくある保守的な構造になっていました。そういった現状に、青年部世代は大きな危機感を感じていたのですが、親世代には意見を言えない関係性で。文字通り、世代間の認識のズレが浮き彫りになっていたんです。

一方、その頃の私は、元気な地域とそうでない地域の違いを可視化する「地域力診断」の研究の延長として、世代や業種のしがらみを超え、対等に関わる「地域コ・クリエーション」を構想していて。その構想を、当時青年部部長だったゆうきに話したら、彼女はこう言ったんです。「あいちゃん、これは山が動くばい!」と。

私たちはまず、まちの人たちが根っこでつながり、地域全体を“みんなごと”で考えられるような場をつくりました。当初、私たちの試みに対して「東京の大企業の人間に騙されとる」と言っていた親世代も、会議に参加するようになって、少しずつ世代の関係性が変わっていきました。親世代は青年部世代を信頼するようになり、若手が要職に抜擢されるなど、まちそのものが変容しはじめたのです。

結果的に、10年連続で減少していた来訪者数は3年連続で増加、40代の町長が誕生し、ゆうきも史上最年少・女性初の旅館組合長に任命されるなど、「まちが一体化した世代交代」が起こりました。ゆうきの言葉通り、本当に山は動いたんです。この経験から、コ・クリエーションは普通では動かないものが動き、まち全体が変容するような奇跡が起こせるのだと確信しました。

親世代と青年部世代の混ざった黒川温泉でのワークショップの様子。親世代の1人が即興劇で「変なおじさん」というポストイットを自分でおでこに。普段の会議ではやらない手法を使うことで、これまで見えなかった多面性が互いに伝わり、若者も思い切りアイデアを言えるようになります。

――今の話のすべてがコ・クリエーションの持つ力ですね。コクリ! 自体も、始めは小さかったさざ波が、いつしか多くの人たちを巻き込み、大きなうねりとなっていったという印象を受けるのですが、そのあたりの話を聞かせてもらえますか。

愛さん 様々な地域にどっぷりと入りながら、地域研究を4、5年続けた頃、経済産業省の地域活性に関する有識者委員に任命されました。委員のメンバーにはコンサル的な立場の方や有識者などはいましたが、実際の現場で日々、課題に向き合っている人の存在が欠けているなと感じました。

また、公の場だと「良いことや正しいこと」が話され、「本音や不安」は話しづらい。地域の声が届きにくく、逆に、官僚の方の熱い想いも地域へ届いていないことが分かって。もし現場の仲間と官僚が本音で対話することができたら、政策も地域も変わっていくんじゃないかと思ったんです。

そもそも、地域の人にとって霞ヶ関は遠い存在ですし、政策をつくる側からみても地域の人が見えづらい。つまり、これは構造上の問題であって、現場の人も官僚も、ただ出会っていないだけなんだと。同じことが、都会の企業と地域の関係にも言えます。

だとしたら、官僚や農家、経営者、教育者、大学教授、クリエイターなど、日常だと出会わない多様な人たちが肩書きでつながるのではなく、想いをともにする「仲間」として根っこでつながる関係性に変えれば、いろんなことが解決するんじゃないか。そう気づいて、丁寧なプロセスで、多様な人たちをつないでいき、結果的に300人の研究コミュニティであるコクリ! へと広がりました。

「仲間」としてつなぐことで、社会や企業の構造によって分断していたアイデアやエネルギーを融合させ、起こりえないような素晴らしい結果を生むプロジェクトをたくさん見てきました。対外的には、経済同友会で講演をさせてもらったり、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビューのコレクティブ・インパクトの論考(井上英之さん著※)で「世界でも非常にユニーク」な事例として紹介していただいたりと、認知の幅が広がってきたことはとても嬉しかったですね。

(※)井上英之「コレクティブ・インパクト実践論」『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』2019年2月号

(コクリ!の10年のもっと知りたい方は、『コクリ!百色絵巻』をご覧ください。)

多様な仲間が全国から集うコクリ!キャンプ@鎌倉・建長寺の様子。

自分の心の中の境界を取り外す「未分化」を体感するには、「自然」の力を借りることも。その一貫として生け花や身体ワークショップを積極的に取り入れています。

ヤフーCSOの安宅和人さん(写真右端)が始めた「風の谷プロジェクト」は、ここから生まれました。

あらゆる生命体が美しいハーモニーを奏でられるように

――これまで、多様な人たちとコ・クリエーションしてきた愛ちゃんが、次なるフェーズとして「地球コクリ!」というコンセプトを掲げ、動き始めました。そこへ行き着いたプロセスを教えてください。

愛さん コ・クリエーションの研究は、基本的に奇跡を起こそうという思いで取り組むので、かなり細かくプロジェクトをデザインするんです。私は自分自身をコ・クリエーションの火付け役だと思っているので、初めは自分の能力をいかして関わることはあっても、例えば植物はいい土があれば自然と芽を出し、自発的に成長していくように、着手するプロジェクトも基礎を成す土壌ができたら、自分の役目を終えた気持ちになるんです。

なので私自身も、コ・クリエーションの実践研究を続けてきた10年を経て、次なるフェイズへの大きな節目を迎えているんだと、数年前から直感として感じていて…。

――愛ちゃん自身が変容することになった出来事やきっかけ、あるいは“兆し”みたいなものはあったのですか?

愛さん 振り返ってみると、5年ほど前に訪れたフィンドフォーン(スコットランド北方に1962年創設された、世界を代表するエコビレッジ)での体験が始まりのような気がします。

フィンドフォーンは奇跡のまちで、元は砂漠のような荒地だったのに、数年のあいだに通常育つはずのない立派な野菜たちが育ち、土壌学者が調べに来るほど、緑あふれる美しいまちへと生まれ変わったんです。現在は約400人が暮らしていますが、そこにあるモノや生き物には全て名前がつけられていて、人間同様、丁寧に扱われるんです。

例えば、農機具にはトムという名前があって、使い終わると大切に納屋に戻されます。雑草を抜いていても植物と対話するような感覚で、抜いたあともコンポストを通じて土に戻される。すべての命がいかされながら、つながり合い、循環している。土地全体が愛にあふれていて、滞在した期間、私が私らしくいられることを実感しました。

自然やモノ、人、全てがいかされあった愛のまち、フィンドホーン。太陽エネルギーを十分に取り入れる家など、パーマカルチャー建築も進んでいます。

フィンドホーンで愛さんに起きた奇跡のひとつは、「ママだ!」と思う(相手も愛さんを「娘だ!」と思う)人に出会ったこと。この写真は感動して号泣した誕生日の一コマ。

愛さん このときの体験や、後に訪れた屋久島での「先生の木」との出会い、そしてその後のアメリカ研究旅行を経て、次なる私の使命は、人間と他の生きとし生けるもの、植物や動物、鉱物、自然など生態系全体でのコ・クリエーションが実現する世界をつくっていくことだと確信しました。

現代は、人間中心の社会になっていて、たとえ認識していなくても、知らず知らずのうちに他の種を搾取したり、消費したりしています。これは一見、人間が得しているようで、実はそうではなくて。気候変動に伴う様々な影響は、その最たる例なのかもしれません。

一方で、私は生きとし生けるものすべてに、生まれ持った意味があり、価値があり、それぞれが本領発揮している状態がベストだと思っています。それらが一番いかされたとき、そして一番ハーモナイズしたときに、エネルギーのオーケストラのような、もっとも美しい状態が現れると思うので、そういう状態をつくるためにはどうしたらいいのか、というところが地球コクリ! の研究テーマでもあります。

ブルックスパーマカルチャー農園。手づくりのアースオーブンでピザをつくったり(上)、夜になると楽器などを持って集まり歌を歌う(下)。

農園にはあらゆるところにフルーツがなっていて、取り放題。思わず木登りをしたら「上手だね、日本でも木登りするの?」と言われたそう。(日本ではしたことがありません(笑))

すべては「人を信じる」ことから始まった、壮大な探究プロセス

――コクリ!での実践・研究を経た愛ちゃんがたどり着いた先が、こんなにも美しい世界であったことにすごく感動しています。今話してくれた地球コクリ!について、詳しく教えてもらえますか。

愛さん 地球コクリ! は「地球中心・生態系全体のコ・クリエーション研究」の略称で、人間が他の生命体、植物や動物、鉱物、自然、地球とコ・クリエーションする社会をどうしたらつくれるか、探究する研究プロジェクトです。気候変動・格差・分断・新型ウィルスなど様々な社会課題は、私たち人間が「人間中心」の社会をつくり、他の生命体を、無意識に消費・搾取する関係性や構造になっていることに原因があると捉えています。

もしも人間が、他の生命体や地球からの声を聴くことができ、彼らの気持ちに寄り添え、共感することができたら。人間が感性を解き放ち、宇宙や地球の波動を感じることができたら。私たち人類が本来持っている「創造性」が発揮され、それぞれの生命体がいかされあい、調和し、コ・クリエーションする美しい地球になっていくのだと信じています。そんな人間中心ではなく「地球中心」の社会をつくりたいと…。

私たち人間にとっても、本来はそういう状態が豊かで幸せなはずで、仲間を傷つけ合うような生き方は幸せではないんです。私たちの意識が変わり、生き方や暮らし方が変わることで、地球のOSから変わる、構造的な社会変容をみんなで起こしていきたいと思っています。

――どのような思いや在り方を大切にしているのでしょうか。また、具体的にはどんな手法でアプローチしていくのでしょう。

愛さん 地球コクリ! の世界観では、まず、他の生命が一番輝くことを考える必要があると思うんです。彼らの言葉を想像して、どんな気持ちなのか、どうしたら嬉しいかなど、同じ星に住む住民として理解する。本来は、すべてつながった地球の循環の中で私たち人間も生きているんだけれど、今は人間だけがその循環システムから切り離されていて、人間以外の相手のことをモノのように扱っているのが現状です。

これはコクリ! にも共通しますが、まずは「根っことつながる」(前半のイラスト参照)ことを大事にしています。普段、私たちは、頭で物事を考えていますが、「根っことつながる」とは頭でもなく、心でもなく、奥底にある「ハラ」とか「丹田」、「源」と呼ばれるような部分、ティール(ティール組織)では「ソース」と言ったりしますが、そういう自分自身の深い叡智につながっていくような感覚です。そうすることで、一人ひとりのエネルギーの純度が高まって、本来その人が大事にしているエネルギーが出る。そしてそれは温泉のように湧き出てくるのです。

その上で、心から願っていることや未来への意図を持つ。私はこれを「美しい意図」と呼んでいますが、「意図」とは、こうありたいと思うこと、起こってほしいことなど、つまり「願い」です。私の考える「美しい意図」は、エゴからの思惑だとか周りからの評価を気にした想いではなく、不安や恐れからの考えでもない。自分が「根っこ」につながった状態で発せられる願いです。そのためには、まず本物の自分でいることがとても大事なのです。

――愛ちゃん自身がこのような思考をするようになったのはなぜでしょう。きっかけや原体験などがあるのでしょうか。

愛さん 一番大きいのは、母の影響ですね。母は私のことを心から信じてくれていたんです。その経験があるから、私が私らしく生きられたのだと確信しているし、コクリ! の探究の大きなきっかけにもなりました。

母は300名の生徒を抱える、地元では大人気の公文の先生で、まさに教育者が天職といえる人でした。私が31歳のとき、病気で天国へいってしまいましたが、「人を信じる」ことを貫き通した人なんです。

こんなエピソードがあって。私が3歳のとき、兄と電車とバスを乗り継いで水泳教室へ通っていたんです。いつもはおばあちゃんが付き添ってくれていたのですが、ある時、事情があって兄もおばあちゃんも行かれない日がありました。母から「休む?」と聞かれた私は、「ひとりで行きたい」とリクエストしたそうです。常識的に考えたら、3歳の子どもがひとり、電車とバスを使って習い事に行くなんて心配ですよね。母は不安な気持ちを抑え、私を「信じて、見守る」ことを優先してくれました。初めての日、母が遠い場所からずっと見守ってくれていたことを今でも思い出します。そして次から、私は幼いながらも1人で水泳教室に行けるようになったんです。

プールの話は一例ですが、母はいつも私が何に興味があり、何をしたいと考えているのか的確に把握し、常にその環境を整えてくれていたんです。存命中、母に「どうしてそんなに私のやりたいことがわかったの?」と聞いたことがあったんです。すると母は「(相手の)目を見ていたらわかる」と。目を見ていたら、その子が本当に何をしたいのかがわかると言うのです。

そんな母に育てられたおかげで、私のなかに「信じられることで、本来持つ力を発揮できる。だからこそ、信じる人・信じてもらえる人を増やしていきたい」という想いが大きく、強くなって。それが今の活動の原点と言えるのかな。

幼いころの愛さんとお母さん

――先ほどの「美しい意図」の話のなかで出てきた「本物の自分」に出会う、あるいは「本物の自分」でいるにはどうすれば良いのでしょう。愛ちゃん自身はいつ、どんなタイミングでそれを実感したのですか。

愛さん 私の場合、自然や地球を感じられる土地へ旅することが多かったですね。自分のなかでの転機や、大きな気づきを得るのも、いつも旅の最中で。

実際、2年前に訪れた屋久島では、そこで出会った屋久杉から、私はこれを「先生の木」と名付けたのですが、自分の役割の転換に気づかされました。この木自体は千年の屋久杉で、横から見るとこんな感じになっています(写真参照)。もともとの木は途中で終わっていて、そこから別の種類の木になっている。つまり杉という土台があって、そこから上は違う木なのです。

この木に出合った瞬間、10年続けてきた「コクリ!」は、どーんとひとつの木である必要はなくて、礎であれば良いのだということに気づきました。母なる礎という状態で、そこから先は、それぞれが本領発揮していく、そんな状態になることが理想だなと。私自身にも気づきがあって、これまで“人”にフォーカスしていたものを、これからは“地球”レベルへと意識を拡張させるタイミングなのだと。

屋久島で出会った「先生の木」。横から見ると、途中から別の木が生えていることがわかります。

世界中の人が目覚め、地球規模で進める社会運動

――地球コクリ! は、これまで人にフォーカスしていたコ・クリエーションの力を、愛ちゃんの覚醒というか意識の拡張によって、生態系全体に広げて発揮していくということでしょうか。

愛さん コクリ! では、例えば官僚と農家さんがお互いをリスペクトし合う関係を築き、仲間になったことで新しい変化が生まれました。そんな風に、人間が他の生物とも関係性を築けたらと思うんです。生きとし生けるものすべてがお互いをいかし合い、そのすべてのエネルギーが共鳴し合い、美しいハーモニーを奏でたとき、調和のとれた美しい地球へと変化すると信じています。

こんなことを言うと「大変じゃない?」「どうやるの?」と言われますが、実は、メガネをかけ替えるだけで、世界の見え方が変わると思うんです。人間がもともと持っている力や感覚って、使わないから錆びてしまっているだけ、忘れているだけなんです。

それを取り戻すことで、一気に世界が変わるのだと、私は希望を持っていて。とくに私たち日本人は、八百万の神を信じ、個別で分けて考えず、つながっている感覚が備わっています。その強みをいかしながら、人間の感性を開き、創造性を発揮し、他の生きとし生けるものへのリスペクトや共感の気持ちを高めていきたい。

今、世界的にも、こういった感覚が大切になっていると感じてます。日本から世界に、この感性や世界観を届けていきたいですね。

自然の中に身を置くことは「地球コクリ!」な時間。滝の打つリズムや音、岩が出すエネルギーを感じたりしながら、ハーモナイズするように歌っていたそう。

――具体的には、どんな活動や研究を行なっているのでしょうか。さらに今後、どんな活動をしていきたいですか。

愛さん 活動のひとつは、継続的な研究ゼミです。人間である私たちが地球生態系全体の理解を深めるために、生物多様性・生態学・身体性・道の世界・先住民・アート・テクノロジー・農・パーマカルチャー・宇宙・精神性など、幅広い知恵を学びながら、探究を続けていく研究部会です。

最近、研究部会のメンバーたちと「多様な生命たちの、コ・クリエーション対話会」を行って、衝撃的な気づきや感動があったんです。オンライン上で、研究部会のメンバーがそれぞれ他の生命体の代表としてその生命体になりきり対話する、という時間を過ごしたのですが、メンバーそれぞれが没入し、その生命体として生きる感じ、喜びや悲しみ、他の仲間とどう遊んでいるか、人間の目線だとまったく見えなかったその生命体の目線や感覚が、しみじみ伝わってきて。人間と他の生命体との境界線が溶けていく感覚を、初めて味わいました。

さらに、それぞれの生命体たちに備わる強さや資質、生まれてきてよかったと思うことや感謝していること、降りかかっている困難や痛みや苦しみ、心配や恐れ。今世界に起こっている出来事をどう経験しているか。人間に伝えたい想いや智慧、メッセージ、私の生命をもっと輝かせるために必要なこと、他の生命やこの地球をもっと輝かせるために貢献できることなども話し、この対話会を通して地球コクリ! への可能性と、大きな手ごたえを感じました。

「多様な生命たちの、コ・クリエーション対話会」の様子。オンライン会議システムを使い、名前や写真も替えてそれぞれ代表する生命体になりきります。

愛さん ふたつ目は、地球コクリ! を地域社会の共創に紐づけて、自然との強いつながりを持つ地域の魅力を定量化するプロジェクトで、感性デザインの研究者であり事業家でもある柳川舞さん(一般社団法人KANSEI Projects Committee)と着手しています。その一環として、今、私が暮らしている千葉県いすみ市を最初のフィールドにして、世界的に著名なシェフであるハル山下さんとともに、地球コクリ!を体感できるような食の拠点の計画も進めています。

このプロジェクトでは、思想的な面だけでなく、社会へ実装していくプロセスを重視していて、地球規模のテーマを地域に落とし込み、研究と実践を繰り返しています。なぜ「食」かというと、誰にとっても身近である食を切り口にすることで、より多くの人に伝わると思ったから。活動はローカルですが、私たちの意識や研究は、グローバルな視点でありたいと考えていて、いずれは全国へと活動を広げていきたいですね。

食を通じて社会実装していくことで、多くの人にとって”みんなごと”化が進みます。エプロン姿で笑う舞さん(3枚目左端)とハルさん(3枚目左から2人目)。

愛さん 地球コクリ! の活動って、地球規模で進める社会運動だと認識しているので、世界中の人たちがそれに気づき、目覚め、実践していくことが大事なんです。すでに世界には、地球コクリ!が目指すテーマと同じようなことを考え、実践している人がたくさんいるので、日本だけでなく、世界をフィールドに進めたいと思っています。

地球環境をはじめとする様々な社会課題を解決するには、地球上のみんなで取り組む必要があります。実際に、ハーバード大学の政治学者エリカ・チェノウェスさんの研究では、社会変革に取り組むコミュニティのなかで、3.5%の人たちが熱意を持って行動すれば社会やシステムは変化する可能が高いという結果もあります。世界中のあらゆる知恵を融合しながら、どうしたら地球コクリ! の世界観を実現できるか、これからも探究し続けます。

感性デザインの手法を用いて行われた「地球コクリ!コンセプトワークショップ」の様子。雑誌の切り抜きイメージを使って、理想の「地球コクリ!を感じる食の拠点」が持つべき価値観をイメージボードで表現し共有します。写真下は、作成されたイメージボード例。

――地球コクリ!的世界。つまり、美しい調和した世界はどんな風に立ち現れ、未来にどんな変化をもたらすのでしょう。

愛さん コクリ! でも同じ感覚を抱いていましたが、百年後から見て、歴史が変わるような大きな変革だと思って取り組んでいます。数年後の変化を起こすためではなく、数百年後の大きな変化を起こすような、そんな構造的な社会変容をみんなで起こしきたい。そのための社会運動です。

NPO法人ETIC.代表の宮城さんは、以前、コクリ! のことを「奇跡を科学している」と言ってくれました。私はこの言葉がすごくしっくりきていて。「奇跡」って、人・モノ・地域など、すべてがいかされあった瞬間に起こると思っているので、すべてがいかされあった未来、そういった「奇跡」を偶然ではなく、どうしたら必然的に起こせるのかということを、これからも科学していきたいし、共に活動してくれる人が増えたら嬉しいですね。

日常の中に感じる地球コクリ!

――いわば地球コクリ! の伝道師でもある愛ちゃんが日々、どんなことを想い、意識し、実践しているのか教えてください。

愛さん 昨年、東京からいすみ市に移住したことで、私自身の暮らしが大きく変化したんです。

それまでは旅をしたり、二拠点生活をすることで地球コクリ! 的な世界を体感していましたが、移住したことで、非日常だけではなく、日常においても、地球コクリ!的体感ができるとわかりました。むしろ日常、つまり日々の暮らしが大切なんだなと。幸い、いすみには循環型の暮らしを実践する人がたくさんいるので、そういう方に教えてもらいながら、庭で畑をしたり、できるだけ自然に近い暮らしを意識しています。

ストーブ用の薪づくりは「いすみ薪ネットワーク」の皆さんと作業します。

田植えから収穫、泥遊びまで。子どもは田んぼから全身で自然を学びとります。

家から車で10分ほど行けば海。子ども遊び場であり、リフレッシュスポットです。

愛さん 我が家のリビングから外を眺めると、一面に田んぼと空が広がっているので、いつも地球を感じながら暮らしています。時には、近所の人とお裾分けし合い「ああ、自然や地球、そして人とのつながりのなかで生きているなあ」と、日々、実感しています。

都会にいる時は、気づけばいつの間にか夜になっていましたが、今は時間と共にうつり変わる空の色を感じたり、夕方になると夕日をみに一度外に出たり。朝は降り注ぐ太陽を感じてエネルギーをいただき、夕方は夕日を見ながら「太陽さん、今日もありがとう」と感謝を伝えられる暮らしになったのは大きな変化ですね。

自宅リビングの外に広がる景色。仕事しながらも、虫や鳥たちの動きを感じたり、田んぼの変化を感じたり。

スイカを収穫して嬉しそうな愛さんを息子さんが撮影。庭の畑では15種類ほどの野菜を育てています。

小5の息子さん作の俳句。この景色を平和だなと思い浮かべていることがとっても嬉しい。

――地球コクリ! の目指す世界って、今の時代にすごくフィットするテーマなので、読者の皆さんのなかにも「何かやってみたい!」「今の自分にできることって何だろう」と考える方がいると思うんです。最後の質問になりますが、今すぐに実践できるようなアイデアとともに、この記事を読んでくれた皆さんへのメッセージをお願いします。

愛さん 地球コクリ! は、日常の暮らしの中に大切なヒントがあるなあと思っています。太陽に感謝したり、道端の草や木や花などに思いを馳せたり。普段の生活では見過ごしてしまうことや、視点を変えるだけで、違った感覚になるんじゃないかな。まずはゆっくりと深呼吸をしてみてください。深呼吸することで、彼らとのつながりを感じ、そして自分の身体に染み渡っていくことを感じることができると思います。

何より大事なことは、自分自身を整え、美しい意図を持てているかだと思うんです。ひとりひとりの人生においても、意図しない未来は起こりません。どんなことが起こってほしいと思うか。そのためには自分の根っことつながり、自分が本来ありたい姿や、自ら湧き出る想いを大切にし、本物の自分であり続ける。それが、生きる上で一番大事だと思うんです。

美しい意図を持つためには、自分が心地よいと思える環境、本物の自分でいられるような環境に身を置いているか。例えば、丁寧にお茶を淹れるとか、瞑想やガーデニング、どんなことでも良いので、自分を大切にする時間を増やしたり、自分が心地いいと思う場所や、自然や地球とのつながりを感じる時間を増やすこともおすすめです。私自身、東京にいる時から、書道や華道、植物を栽培することで、意識的に自分とつながる時間を設けていました。

東京に住んでいた頃は、ベランダで緑やお花を育てたり、ウッドデッキやハンモックを置いて、ベランダでご飯を食べたり、自分なりに自然とつながる暮らしを工夫していました。

一つ一つの花や枝の声を聴き、一番彼らがいかされあう角度・形・調和を考えながらいけるいけばな。都会の中でも地球コクリ!を感じる瞬間です。

愛さん 一人ひとりが天命を持って、この地球にこのタイミングで産まれたのと同じように、プロジェクトや組織にも天命があると思うんです。私たちは、地球コクリ! を通じて、どんな未来をつくりたいのか。まずは、その意図や願いを浮かび上がらせることから始めています。

私自身も日々、人間が他の生命体といかし、いかされ、調和し、コ・クリエーションするにはどうした良いのかとか、地球全体がコ・クリエーションするときの人間の役割ってなんだろうとか、様々な問いに向き合いながら暮らしています。まずは自分なりの「美しい意図」と、それを実現するための「問い」を立て、地球に寄り添う感じで暮らしを紡いでみてください。意外にも身近なところに地球コクリ! 的な世界が広がっていると思います。

(Text: 富岡麻美)

– INFORMATION –

地球コクリ!の最新情報を知りたい方へ

地球コクリ!の活動や記事更新情報を知りたい方は、コクリ!プロジェクトFacebookページに「いいね」いただく、またはメルマガにご登録ください。

●コクリ!プロジェクトFacebookページ
https://www.facebook.com/cocreeJP
●メルマガ登録フォーム
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSfD3QpeNQT85UaliUK0qBQUZIhv8IKTlTpQZoS_NjTvLy2jjA/viewform

三田愛(さんだ・あい)
「コクリ!プロジェクト」創始者/株式会社リクルートじゃらんリサーチセンター研究員/英治出版株式会社フェロー
集合的ひらめきにより社会変容を起こす「コ・クリエーション(共創)」の研究者。地域イノベーター、首長、企業経営者、官僚、農家、クリエイター、大学教授、社会起業家など、約300名のコミュニティメンバーと共に実証研究を行う「コクリ!プロジェクト」創始者。現在は自然と人間の分断を超えた共創をテーマに「地球生態系全体のコ・クリエーション(地球コクリ!)」の研究に取り組む。米国CTI認定プロフェッショナル・コーチ(CPCC)。内閣官房、国土交通省、経済産業省など官公庁での各種委員を歴任。自然をこよなく愛し、葉山での二拠点生活を経て、田んぼに囲まれた千葉いすみに移住。書道10段でパフォーマンス書道家としても活動。天と地のエネルギーを自身の体で感じ、書を通してそれらをつなぐ。神戸生まれ、慶應義塾大学卒業。
ライター:富岡麻美(とみおか・あさみ)

ライター:富岡麻美(とみおか・あさみ)

株式会社THINK AND DIALOGUE ダイアログ・デザイナー/プロデューサー。文筆家。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科附属システムデザイン・マネジメント研究所研究員。
大学卒業後、東京海上日動、日本オラクル、日立製作所を経て現職。well-being、教育、ビジネス等をテーマに、書籍・雑誌・Web等のメディアにて執筆。これまで、200以上の企業・団体、600名以上にインタビューを実施。「子どもたちに美しい未来を」をマイミッションとし、対話の持つ可能性を探究中。ふたりの子ども、夫と共に、山と海に囲まれた街に暮らす。