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「何かやりたくてしようがない」。建設機械メーカーのコマツがピースウィンズ・ジャパンとのつながりで実現させた、手に入らないはずの医療物資支援。

地震や水害などが頻発する災害大国の日本。緊急時には行政のほかにNGOやNPO、個人のボランティア、そしてさまざまな企業も支援活動を行っています。

新型コロナウイルスの感染拡大という緊急事態のいまも、医療従事者に対してさまざまな支援が行われていることをご存知の方は多いことでしょう。ただ、株式会社小松製作所(以下、コマツ)も支援をしている企業のひとつと聞くと、少し意外ではありませんか?

コマツと言えば、建設機械でよく知られた企業です。”KOMATSU”とロゴのついた重機を目にしたことがある人もいるでしょう。そんな企業が、コロナの感染拡大に際しどんな支援活動を行ったのでしょうか。

コマツと協働し支援活動を行った特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン(以下、PWJ)の国内事業部の坂田大三医師と、コマツでCSRを担当している倉澤佳子さんに話を聞きました。

倉澤佳子(くらさわ・かこ)
コマツ CSR室長。コマツで事業企画室・生産管理部や建機・エンジン事業本部の企画部門等を経て、2010年より現職。グローバル企業におけるCSR方針策定やESG関連業務に携わるとともに、世界各地での社会貢献活動や社員参加による社会貢献プログラムを促進中。

坂田大三(さかた・たいぞう)
千葉県習志野市出身。外科専門医。2019年2月から現職、バングラデシュ国ロヒンギャ難民キャンプ診療所運営に携わりつつ、平時は広島県の僻地診療所、災害時には「空飛ぶ捜索医療団(災害緊急支援プロジェクトARROWS)」医師として災害現場に派遣。コロナ禍においては、全国の医療福祉施設に向けて医療物資支援の調整業務を行い、診療支援として長崎クルーズ船や、愛媛県でのクラスター感染が発生した病院にて現地対応を行った。

これまでにない緊急事態、パンデミックの支援には何が必要なのか? 頼りは「支援のプロ」の助言

2020年1月、新型コロナウイルスの感染者が日本でも発見されました。それから感染は確実に拡がり、マスクが日々の暮らしの必需品となりました。一人一箱までと制限のついたマスクを購入しようと、ドラッグストアに並んだ記憶は生々しいままです。当時、コロナ対応の最前線である医療現場では、感染を防ぐための防護服(アイソレーションガウン)やフェイスシールドが足りず、ニュースでも報道されていました。

そこでコマツが実施した支援は、アイソレーションガウンとフェイスシールドの調達・寄贈でした。建設機械と医療器具、かけ離れた存在のように思えます。どのようにしてこの支援を実現させたのでしょうか。

そこにはまず、コマツのこれまでのCSR活動がありました。コマツが生産・販売する建設機械などの製品は、道路などの社会基盤の整備や、生活を支えるビルや住宅の建設を急務とする新興国で社会的に非常に重要な役割を果たしています。そして、事業活動を通して世の中の役に立つだけでなく、地震などの自然災害の際には建設機械を無料貸与するなどして、社会貢献を行っています。コマツのCSRに対する考え方について、倉澤さんは言います。

倉澤さん 自分たちの事業と無関係な分野で支援をしても、十分にお役に立てないと思うんです。だから、本業をいかした支援にこだわっています。もちろんお金の支援も大切ですが、ほかではできない、弊社ならではの建設機械やものづくりといった分野でお役に立ちたいと考えています。

コマツが支援したフェイスシールドを装着した歯科医師

コマツは、自分たちの技術や製品に誇りと自信を持っているからこそ、それらをいかすことで、確実に役立つ支援を届けようとしているのです。

ただし、現在起きているのはパンデミック。誰もがほとんど経験のない、想像もつかない緊急事態です。倉澤さんもいったいどのような形で支援ができるのか、最初は悩みました。そこへ、「医療機器不足のために製造業として支援できないか」という声が外部から届きます。会社として模索する中で、コマツ単独では難しいが協力企業の力を借りてコマツグループとして支援できないかと考え道標となる人を探し始めたときに、緊急支援活動に力を入れているNPOであるPWJと出会いました。

PWJでは、長崎県で発生したクルーズ船でのコロナ感染に緊急医療支援を実施していました。

倉澤さん 突然、PWJへ電話をしたんです。いま、何が必要とされているのですかという漠然とした聞き取りだったんですが、丁寧に30分ぐらいかけて説明してくださいました。ほかの団体さんに連絡もしましたが、会社に持ち帰るとPWJと話を進めることになりました。

連絡をした団体によっては、寄付する支援物資の規格確認を求められたりということもありましたが、医療機器のプロではないコマツにとっては、その規格がわかりません。その点をPWJが理解し、丁寧に柔軟に対応したことによって、協働がスタートしたのです。

協力企業から助けられ一丸となって支援する。だから、手に入らない医療物資が用意できた

支援する側、される側にとって大切なのは、現場のニーズと支援側の供給がマッチすることです。坂田医師は、日本国中でアイソレーションガウンが手に入らないことも、それがいま必要なこともわかっていました。ただ当初は、まさかコマツがそれを用意できるとは思っていませんでした。

坂田医師 高いお金を出してもなかなかアイソレーションガウンが手に入らないあの当時に、不織布を手に入れて、それを縫製するところまでアレンジしてくださったんです。そこまでできたから、アイソレーションガウンの寄付が可能になりました。

コマツは、どうして不織布を調達できたのでしょうか。建設機械のイメージからはなかなか想像がつかない、けれども言われてみれば確かにとうなづける、建設機械の生産過程にその秘密がありました。

倉澤さん 弊社の協力企業の中に、エンジンのフィルターを生産している会社があって、そこが不織布を持っていたんです。アイソレーションガウンをつくるならと寄贈してくれました。今回の支援は、コマツだけではできなかったことなんです。

コマツとその協力企業が製作したアイソレーションガウンとフェイスシールド

コマツには部品サプライヤー企業を中心にたくさんの協力企業があります。そうした企業が加盟する「コマツみどり会」が協力してくれたことにより、建設機械からかけ離れた医療物資の支援が可能となったのです。関西の協力企業である株式会社内村が紹介してくれた服飾専門コースのある専門学校・豊野学園(長野県)が、アイソレーションガウンの縫製を担ってくれました。フェイスシールドも協力企業が材料を調達し、コマツで組み立てました。

とはいえ、通常の業務ではつくらないものを製作するにあたっては、わからないことばかり。支援に携わった人たちは坂田医師を「メール攻め」にして、現場で確実に役立つものをつくる努力を惜しまなかったといいます。そんな現場の人たちの「何かをやりたくてしようがない」という思いを、坂田医師もメールや電話から感じていました。

坂田医師 寄付する物品のクオリティコントロールもできたと思います。当時は、物さえあればいいというほどの状況で、現場のニーズに即していない物もありました。私は医師として、どこまでの物なら許容できるか、融通が利かせられるかがわかるので、それを伝えるようにしました。長崎県で感染が生じたクルーズ船の対応もしていたので、最前線で使用しているものを送ったりもしました。

クルーズ船での支援の模様。アイソレーションガウンなどの医療物資は欠かせません。

たとえば、株式会社内村では、アイソレーションガウンの物流費、試作費用を負担し、製作費用をコマツが負担、さらに内村と取引のあるアパレルメーカーと服飾専門学校が製作といった分担がなされました。このような連携が医療物資とは縁遠い企業でも、支援を可能にしたのです。その結果、現場で実際に役に立つ医療物資を、困っている医療従事者たちに届け、支援を役立てることができました。

アイソレーションガウンの生産に協力いただいた株式会社内村の取締役社長 、内村雅紀(うちむら・まさのり)さん。

コマツ調達本部(大阪工場)の奥村優史(おくむら・あつし)さん。フェイスシールドのプラ部品は公表資料をもとに社外に発注・製作しました。

実は今回の支援は、これまでさまざまな緊急支援に携わってきた坂田医師にとっても、特別な思いを感じるものになりました。

アイソレーションガウンの縫製を行った豊野学園は、2019年の信濃川の氾濫の際にPWJが救援活動をした、思い入れの深い地域にあります。豊野学園もPWJの活動を既に知っていました。豊野学園は大量のアイソレーションガウンを製作できたわけではありません。それでも坂田医師は、豊野学園からの200着のアイソレーションガウンを受け取って、その温かみや重みを感じたといいます。

豊野学園のみなさん。アイソレーションガウンを一着一着、手づくりで縫製いただきました。

坂田医師 コロナ禍での支援は、孤立しちゃうこともあるんです。2020年の九州豪雨では、感染が怖いからと支援が受け入れられなかったこともありました。だから、そういう人のつながりが感じられる支援物資を現場の人が受け取ることによって、ひとりではないんだと思えると思うんです。

コマツとPWJの結びつきから始まった支援は、たくさんの人の何かしたいという気持ちの輪をつなげていき、最終的に10100着のアイソレーションガウンと8000のフェイスシールドを寄付しました。

さまざまな医療現場で活動する坂田医師。空飛ぶ捜索医療団(ARROWS)として災害現場に赴きます。

支援のプロと、高い技術を持つその道のプロの企業がタッグを組むことで、大きな支援が可能になる

この緊急事態に、コマツとPWJの幸福な出会いは大きな支援を実現しました。そこには、企業とNPOの協働による支援のための、大きなヒントがありそうです。

コマツビルの屋上庭園で話す倉橋さん。協力企業への感謝を何度も口にしていました。

倉澤さん 坂田先生から、医療現場のニーズは刻一刻と変わるからスピードが大事だと言われたので、とにかく急ぎました。ものをつくって届けたいという一心で、その先は坂田先生を全面的に信頼していました。坂田先生が必要とされる人に届けてくれるだろうと、それだけでしたね。

坂田医師 僕は、企業への報告を大切にしていました。CSRとしてやっていることを企業が広報することも、僕らは考えなくちゃいけないんです。だから、KOMATSUのロゴが入っているフェイスシールドを渡すところを写真に撮ったりして、活動報告することは大切にしています。

緊急事態の現場では、写真撮影も細心の注意を払って行われますが、寄付したものがどのように役に立っているかを丁寧に報告することは、次の寄付へつなげるためにも重要なことです。また、支援活動は寄付に支えられているからこそ、寄付者に対して透明性を保つことが求められます。

倉澤さんも、在宅勤務で社員同士のコミュニケーションが減ったり、情報が伝わりにくくなったりした環境で、自分たちの会社の支援を知ることができて、社員のモチベーションアップにつながり、家で頑張って勤務していこうという気持ちにつながったと感じています。

寄贈された医療物資を手にする病院スタッフ。

コマツとPWJのロゴが入った医療物資。その荷物に添えられた「ARIGATO」の文字に感謝の気持ちがにじみます。B’zのロゴがあるのは、この医療支援活動に参加していたため。

さらに今回の支援を通して、コマツもPWJも組織としてそれぞれ学びや気づきがあったと振り返ります。

倉澤さん PWJさんと組むことで、このようにステークホルダーが見える支援ができたのが本当によかったです。餅は餅屋ではないですが、やはり専門の方と組むことで、弊社としてももっとできる支援があることがわかったのは、大きな学びでした。

坂田医師 不織布を用意していただいたことはすごく意外だったんですけど、大企業だからこそ、そういう選択肢というか、懐の深さがあるんだと感じました。私たちは災害現場の最前線で急性期から復興期まで支援をしているので、これからはコマツさんの重機であるとか、そういったところでもコラボレーションできたらいいなと思ったりしています。

災害大国の日本で、命と暮らしをまもるのは政府だけの役割ではない。

コマツは、ものづくりという自分たちの強みをいかしつつ、パンデミックという未知の緊急事態でも支援することができました。倉澤さんはインタビュー中、自信と謙虚さ両方を込めて、「大きな機械を扱っている会社」とコマツのことを表しました。だからこそ地震や台風時にその力を発揮してきたわけですが、今回の支援の成功体験によって、より広範な社会貢献への可能性を感じられたようです。

企業とNPOが協働して緊急支援をするにあたって、倉澤さんも坂田医師も揃って口にしたのは、緊急事態が発生する前からのつながりが大切だということでした。今回はパンデミックという予期しない緊急事態だったことから、つながりのないコマツとPWJが出会い、支援を行いました。

けれども、コマツは地方によっては行政と災害協定を結び、自然災害のときには迅速に対応できるように準備をしています。PWJも平時から金銭的なサポートを受けている企業があるほか、全国の行政や医療機関と協定を結んだり、合同で訓練を行うことで、緊急時にどのような協働が可能かあらかじめ想定をしています。

2019年10月の台風19号(令和元年東日本台風)では、被災地支援の専門家向けにミニショベル(中古機)を寄贈。

2008年からカンボジアで、地雷除去プロジェクトを推進。地雷除去後は、建機を活用した道路整備・灌漑や、小学校建設も実施しています。

いつ緊急事態が起こるかは誰にもわかりません。そして緊急事態にはスピーディな支援が求められます。だからこそ、平常時にどれだけのつながりを拡げておけるかが、PWJのような支援団体にとってはもちろん、社会貢献をしたいと考える企業にとっても大切なことでしょう。

このように企業が積極的にNGOやNPOと協働することは、企業やそこで働く人たちにとって、ただ経済活動をするだけではない自社の存在意義や、それぞれが働く意味を見出すきっかけにもなるかもしれません。それは社会にとっても企業にとっても幸せなことです。

そして、政府のような公的な組織以外の緊急事態に備える存在は、災害大国とも言える日本にとって、社会を支える重要な切り札とも言えます。企業やNPOといった社会を構成する存在も、政府や行政と共に人々の大切な命や暮らしをまもる役割を担っていけます。そうすることで、より安心して暮らせる社会、未来が実現しそうです。

NGO「ピースウィンズ・ジャパン(PWJ)」とともに、企業の持つ資源と医療現場のニーズをつなげ、新しい支援の方法を探っていく「いかしあう支援のカタチ」。PWJと企業との多様な連携については、こちらの記事をどうぞ。

– INFORMATION –

#東北10年 感謝を原動力に
PWJが東日本大震災の10周年特別サイトを公開中!

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https://peace-winds.org/eastjapan10years/

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