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空き家と向き合うことは、まちの未来を考えるきっかけになる。「いこま空き家流通促進プラットホーム」がもたらすグッドサイクルとは?

みなさんは、自治体による空き家対策の最近の動きを知っていますか? 

現在、全国では空き家が増え続け、その数はなんと約849万戸(平成30年度総務省調査より)。空き家が増えると、景観の悪化や倒壊のリスク、治安の悪化など、周囲に対しよくない影響があるため、各地で大きな問題になっています。

民間企業が空き家をリノベーションして活用する例はよく目にしますが、東京都奥多摩町の「0円空き家バンク」や長崎市の空き家を寄付する制度など、各自治体も積極的な空き家政策をとりつつあります。

奈良県生駒市とグリーンズのパートナー企画「ベッドタウンの新しい暮らし方with生駒市」、今回はそんな空き家に関する取り組みを紹介します。

行政と地域の事業者が連携する、生駒市の空き家対策の仕組み

生駒市は昭和40〜50年代に宅地開発が進み、大阪のベッドタウンとして発展してきたまちです。全国的に空き家の増加が社会問題化するなか、生駒市でも平成28年度に空き家実態調査を行ったところ、空き家率は2.8%と決して高い数字ではないものの、今後の人口減少や高齢化の進行を考えると急速に空き家が増えることが予測されました。同時に行った空き家所有者向けのアンケートでは、「賃貸・売却する場合の不動産事業者の情報がほしい」といった支援を求める声が多くあったそうです。

生駒市・住宅政策室室長の井上博司さんはこう言います。

井上さん 空き家は、まちを活性化させるポテンシャルを秘めており、調査で得た情報は宝の山です。空き家所有者は専門的な支援を求めていることもわかったため、事業者と連携し支援する方法を考えました。

結果を受け、生駒市は平成30年5月、所有者から得た空き家情報をもとに市内の事業者がチームを組んで個別に所有者を支援する仕組みをつくりました。それが「いこま空き家流通促進プラットホーム」(以下、プラットホーム)です。

画像はいこま空き家流通促進プラットホームのリーフレットより。プラットホームを構成するのは、不動産流通関連の8団体55事業者。多様な業種が参画しているのが強み

井上さんたちはプラットホームの仕組みを整えるにあたり、学識者や後にプラットホームのメンバーとなる不動産流通に関わる専門家などと共にさまざまな角度から意見を出し合い、会議を重ねました。そのプロセスは生駒市空家等対策計画策定及び空き家流通促進検討懇話会のページでほぼすべて読むことができます。

井上さんは会議を進める中で、2つの基本方針を大事にしてきました。

井上さん 「民間主導の自立運営組織を目指すこと」「事業を通じて地域に貢献すること」を基本的な方針としてあげていたので、壁にぶつかったり、意見が割れたりしても原点に立ち返るようにしました。完璧な仕組みをつくってから始めるのではなく、事例や経験を重ね、仕組みをアップデートしていこう、まずはやってみようと言い続けました。

生駒市はプラットホームの一員ではなく、空き家所有者と専門家との最初の橋渡し役に徹し、仕組みを立ち上げた後も、より良い仕組みにするため議論を重ねています

空き家との出会いから始まった、橋本さん夫婦の生駒暮らし

ここからは井上さんに加えて、2019年に生駒市内の空き家を購入した橋本道秀さん・梢さん夫妻と、プラットホームの一員として夫婦の物件仲介を担当したことで仕事観がガラッと変わったという不動産事業者の川上リサさんをお招きして、1軒の空き家をきっかけに生まれた素敵なストーリーを語ってもらいました。

左から、生駒市内の空き家を購入した橋本梢さん・道秀さん夫妻、仲介を担当した不動産事業者の川上リサさん、生駒市住宅政策室室長の井上博司さん

もともと奈良県天理市のマンションに住んでいた橋本さん夫婦は、道秀さんがDIY好きなこともあり、「好きに改修できる一軒家に住みたい」と考えたことが中古住宅を探し始めたきっかけです。いくつかの物件を見る中で、道秀さんの会社の同僚だった吉田さんの存在が、現在の家を選ぶ決め手となりました。

道秀さん 今の住まいとは別の物件を見せてもらった帰り道にたまたま見つけた空き家が、吉田さんが昔住んでいた家の斜め前だったんです。やはり新しい地域に知り合いがいるのは心強いですし、近隣の方の安心にもつながると思います。それでさっそく売物件看板にあった不動産屋に連絡しました。

橋本さんが購入した角地の一軒家。道秀さんがDIYで内外装をリノベーションしました。

この物件は、プラットホームで扱っていたものでした。「空き家期間が20年以上もあり、所有者と娘さんは以前から大手不動産会社に相談していたものの、いっこうに買い手がつかず、丁寧な対応をしてもらえないという不満もあり、市に相談がありました。まさにプラットホームで支援すべき方でした」と井上さん。

川上さんは、そんな所有者の胸の内にも寄り添って仲介を進めたといいます。

川上さん もともと安く購入して貸したいという投資目的のお客さまが多い物件でした。所有者と金銭的な折り合いがつかなかったことや、投資目的への抵抗感があったところに橋本さん夫妻から連絡があり、「自分で改修して住みたい」という意思と改修プランを所有者が気に入ったことで成約に至りました。

元は書道教室をしていたという改修前の物件。(写真提供:道秀さん)

和室部分の改修後。お酒好きの仲間とくつろげるよう、2部屋の間仕切を取っ払い、広いリビングに。道秀さんは大阪市内に勤めながら、平日夜と土日にDIY。若い頃に配管工事の資格も保有し、その腕前は趣味の域を超えています。

橋本夫妻の生駒暮らしのキーマンは、前述の道秀さんの同僚・吉田さんです。地域で民生委員を務め、元の所有者ともご近所づきあいをしていました。

梢さん 引越す前から駐車場の手配もしてくださったんです。趣味の畑を生駒でもやりたくて吉田さんに相談したら、家の2階から見える土地を紹介してくださって。

ご夫婦は現在、市外の畑でタマネギを約2千本も育て、生駒市の畑でも葉物を育てています。食べきれない野菜はファーマーズマーケットで販売しており、その話を聞いた現在のご近所さんから「私たちにも販売してほしい」と要望があり、道秀さんは早速その声に応えました。

道秀さん 家の前に料金箱を置いて休日だけの無人の野菜販売所をつくりました。ほうれん草やネギを販売させてもらっています。

地域とのつながりも生まれ、橋本さん夫婦は充実した毎日を送っているようです。

DIYでつくった家具や内装を川上さんに見せる橋本さん夫妻。洋服だんすをひっくり返したソファーなど、オリジナルの工夫が盛りだくさんです。

改修前からの劇的な変化に驚きの川上さん。「今度はお酒持って遊びに来ます!」と嬉しそう。

川上さんにとって、不動産の仕事を見つめ直す機会となった理由

プラットホームの参画事業者として橋本さん夫婦の物件を担当した川上さんは、「プラットホームの仕事をしてから自分の働き方の何もかもが変化した」と力説します。

川上さん 橋本さんご夫妻が物件を気に入ってくださったことで、私自身も肩の荷が降りました。所有者がご高齢で、「これで娘たちに何も負担を残さずに済んだ」と喜んでくださって。「あとは1日1日楽しむだけです」と前向きな発言をされるようになって、肩の荷を下ろすお手伝いができた気持ちになりました。

今まではお客さまの暮らしのスタートをお手伝いできる喜びで仕事をしていたものの、「こういう貢献の仕方があるんだと気付けた」と語ります。

また、プラットホームで出会う他の事業者との関係も変わりました。

川上さん みなさんとは数ヶ月に一度食事に行くつきあいなんですが、報告書を上げると「こんな内容じゃダメだ」と電話で怒られるんです。上司でもないライバル会社の方に(笑) 「くそー」と思いながらも相談しているうちに、認めてくれるようになったことがなんとなくわかったんです。

よくよく話を聞けば、「生駒市の職員がこんなに動いてくれてはるのに、こんな報告書でええんか!」という理由で怒っていたんですよ。それで、私もがんばろうって思うようになりました。

空き家を見つけては一軒一軒連絡をとるのが不動産事業者の仕事のひとつ。「それを市の職員がしてくれているのに、半端な仕事をしたらあかん」という思いが参画事業者の間にありました。

川上さん 不動産屋ってなかなか信じてもらえない仕事なんですが、「生駒市が関わっている」というと所有者が安心して情報を提供してくださいます。生駒市と取り組むことで、”信頼できる業者”として見られるから成長しないといけない、と強く思います。

プラットホームの参画事業者同士の関係性や想いを知り、井上さんは驚きを隠せません。

井上さん 不動産事業者さんだけで集まって飲みに行ったり、膝をつきあわせて話したりされているのは想定外でした。普段はお互いライバルであるはずなのに、このプラットホームの取り組みがよりうまくいくように集まってくださっているのはうれしいかぎりです。

川上さん この物件を成約したときに、生駒市の住宅政策室の方々に報告すると「やったー!」って喜んでくださったんです。

「これで生駒市に住んでくださる方が増えるのは僕らにとってうれしいことなんです」と言ってくださって。橋本さんにも所有者さんにも喜んでいただいて。プラットホームのメンバーには「まあよかったね」と言われて。それはやっぱり不動産事業者なりの褒め言葉で。この経験を踏まえて自分が成長していかないと!

また、不動産業界を知らなければ気づかない話を川上さんは教えてくれました。

川上さん 不動産の業界には、全日本不動産協会と全国宅地建物取引業協会という2つの協会があります。この2つが交わることはあんまりないのですが、生駒市ではうまく連携していて、「こんな物件ないですかね」と相談すると情報がいただけるんです。それはプラットホームがきっかけなんですよ。

川上さんは現在もプラットホームの物件案内を担当し、精力的に取り組んでいるそうです。

プラットホームに関わったことを機に、まちの未来を考え出す

川上さんは「プラットホームに関わるようになってから、生駒に住んでいる人のいろんな話を聞きたくなってしまった」と打ち明けるように話してくれました。

川上さん 私が店舗を仲介した美容室の方と、「生駒市ってどうなったらいいと思いますか?」って話しているんです(笑) すると「子育て世帯や高齢者の方には住みやすいかもしれないけれど、単身世帯が楽しめる場所が少ない」と言われて「確かに!」と思いました。今はたくさんの人が生駒に集まってくれること、気にかけてくれるまちにすることが第一目標となりました。

実はこれまで、生駒のことを深く考えたことなかったんですよ。お客様が喜んでくれるだけで満足していたんです。生駒市を住みよい場所だと思ってもらえるようにするのも不動産の仕事だと考えるようになりました。

井上さん 生駒市がプラットホームに取り組む意義は所有者支援が一番です。それと、まさに川上さんがおっしゃったように、プラットホームに関わる事業者さんにもまちづくりに携わってほしいという思いもあります。そんな気持ちが事業者さんにちょっとずつ芽生えてきています。

また、井上さんは「生駒に住みたいという人から市役所に電話がかかってくることも増え、この受け皿となる仕組みも確立できれば」と語ってくれました。

橋本さん夫婦の移住をきっかけに、地域の人たちの間ではつながりが生まれ、川上さんのような事業者には、生駒に必要なものを考えるマインドが育まれる。プラットホームの取り組みを通じて生駒市にいい循環が生まれているように感じました。

全国で7軒に1軒が空き家となった現在、“負動産”と揶揄されがちな空き家をまちづくりにいかしている生駒市の試みは、これからのまちづくりのヒントが詰まっているのではないでしょうか。

(取材時の撮影: 都甲ユウタ)