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雑草のように身近に生えるハーブで社会貢献。カンボジアで「学校ハーブ園プログラム」を行うデメテルハーブティー西口三千恵さんの行動の源とは。

あなたはカンボジアと聞いてどんなことをイメージしますか?
ユネスコ世界遺産にもなっている古代遺跡アンコールワット?
それとも内戦や地雷といったネガティブなイメージでしょうか?

今回ご紹介するのはカンボジアの首都プノンペンで「デメテルハーブティー」を製造・販売している西口三千恵さんです。西口さんはハーブティーの原材料となるレモングラスなどのハーブをカンボジア国内の小中学校で育て、学校の運営費や美化緑化活動につなげる「学校ハーブ園プログラム」を主催しています。

カンボジアではどこにでも生えている雑草のような身近な存在のハーブという資源を使うことで、地域が豊かになり、未来につながっていくこの仕組み。いったいどんな活動なのか、さっそくご紹介していきましょう。

天日乾燥させた青いハーブ「バタフライピー」を収穫する学校ハーブ園プログラム参加の中学生たち

カンボジアの首都プノンペンの工房で、手作業で製品化まで行うデメテルハーブティー

カンボジアの首都プノンペンで、カンボジア産で高品質の乾燥ハーブを使用して製造販売を行うデメテルハーブティーは、無農薬で自然栽培の原材料を手摘みで収穫、天日干し乾燥ののちブレンドを行い製品化しています。

製造しているのはプノンペン市内の住宅街の一角にある工房。1階が事務所、2階を乾燥させたハーブの袋詰め作業などを行う作業場所として利用しています。食を扱う作業のため、2階の作業所だけは冷房設備も整え、入退室時の衛生管理を徹底するなど生産管理には細心の注意を払っています。

取材ではオンラインで現地とつないで工房内部をリアルタイム見学。臨場感たっぷりに現場の様子を知ることができました。

見学時にスタッフのみなさんが行っていたのは、ハーブ数種類をブレンドして1つのティーバッグに入れる作業。どのハーブをどの程度入れるか、正確なグラム数で配分を管理し、品質にばらつきがないように注意を払っています。デメテルハーブティーでは、こうした工程をすべて手作業で行います。ブレンドの作業はスタッフの中でも得意不得意が分かれる熟練の技を必要とする作業なのだそう。

ハイビスカスやレモングラスなどをブレンドしたデメテルハーブティー。取材後に「美」ブレンドをいただきました。飲みやすくてハーブひとつひとつの味がはっきりわかる納得の美味しさでした!

カンボジア在住12年、NGO職員から独立起業し「学校ハーブ園プログラム」を行う西口三千恵さん

このハーブティーを製造販売しているのはカンボジア在住12年、デメテルハーブティーの母体であるRoselle Stones Khmer Co.Ltd.(ローゼル・ストーンズ・クメール社) の西口三千恵さんです。

西口三千恵(にしぐち・みちえ)
大阪出身・大阪市立大学文学部卒業後、イギリスに渡り、ブラッドフォード大学国際開発学部国際開発マネージメント修士課程を修了。医療関係のNGOでザンビア、マラウィで2年間勤務したのち、2008年NGO職員としてカンボジアへ。地方の診療所の運営支援をしていく中で運営資金を生み出すためにカンボジア産のハーブを使った製品開発を開始。2015年、カンボジアの自然の恵みを用いた製造販売事業を行う現地法人ローゼル・ストーンズ・クメール社を創業、「学校ハーブ園プログラム」をはじめ、支援ではなく現地での雇用や産業を作り、カンボジアの発展につながるソーシャルビジネスを行っている。

デメテルハーブティーの特徴は、「美味しいカンボジアのハーブを使った地産地消ビジネス」というだけではありません。NGO職員として活躍した職務とノウハウを活かし、ソーシャルビジネスとして、まだまだ貧しいカンボジアの村に収入を生み出しながら、地域の学校教育環境の向上にも貢献できる「学校ハーブ園プログラム」を通した製品づくりなど、地域に根ざしたビジネスを行っていることが大きな特徴です。

学校ハーブ園プログラムとは、カンボジアでは「そのへんの雑草」扱いだったローゼル(ハイビスカス)やレモングラスなどの身近なハーブを、契約した学校で生産し、乾燥させた高品質のハーブをデメテルが買い取ることで、各学校の運営費を創出するプログラムです。

「学校が自ら運営費?」と疑問に思った人もいるかもしれません。実はカンボジアの政府の教育支援はあまり手厚いとは言えず、学校単位で自ら運営費を稼ぐことがあるのだとか。学校内で商売になるハーブを植え育てる環境を自ら整備することで、生徒のゴミや緑化に対する環境意識を高め、自分たちが見過ごしていたハーブや伝統医療の文化継承にもなると西口さんは話します。

「学校ハーブ園プログラム」は学校の空地に畑をつくり、ハーブを育てることで、美意識や環境活動への意識を高める目的もあります。

カンボジアでは学校の施設内をきれいに清潔に保ちましょう、という働きかけはされていますが、ゴミが散乱、ポイ捨てが当たり前という学校もあります。地方にはゴミの収集システムがなく、学校単位では解決できない課題もあります。

私たちは「校庭にハーブを植えませんか?」と学校に提案するときに、まず校庭のゴミを片付けるところから始めます。でも私たちと契約しているバイヨン中学校は、先生方が美化教育に熱心で訪問時からすごくきれいで感動しました。

プログラム開始当初から活動を共にしているシェムリアップ郊外・バイヨン中学校の先生と西口さん(中央)

また、カンボジアにはアンコール王朝の時代から受け継がれている伝統薬草医療があります。西口さんは校庭にハーブを植える際、その地域の伝統医療師と学校をつなぎ、使える薬用植物や薬効について教えてもらうワークショップなども行っています。

「毎日前を通っていても薬効のある木だとは思わなかったものが、実は薬草だった」と知る喜びは、生徒だけでなく、先生や村の住民にも自国の伝統と歴史に誇りを持てる大きなきっかけとなっているようです。

そして、学校への働きかけで一番興味を持たれるのが、栽培したハーブがきちんと売上につながること。学校ハーブ園プログラムを通じて栽培されたハーブを買い取ることで、学校の運営費の補助となります。今までに教室の扇風機や屋外ソーラー灯などが収益によって導入されました。

プログラムに参加しているオーサマキ小学校では校長先生はじめ学校が村人に寄付を募り、突貫工事で校舎を手づくりで増設するなど地道な学校運営への努力が続けられています。

こうして学校単位や村単位で小さな産業が生まれると、そこに経済活動が発生します。そうすると彼らは上からの支援に頼ることなく個々の人生でチャレンジしたり、できることが増えていく。西口さんは村や学校単位での小さな産業を興すことで、関わる人の人生に選択肢が増え、さらに地域にプラスアルファの効果が生まれる活動をしたいと考えています。

偶然見つけたハイビスカスの赤い実。資金源確保の苦肉の策から、独立してハーブティー製造販売をはじめるまで。

西口さんがこのような包括的な取り組みを始めるまでにはどんな経緯があったのでしょうか? もともとNGOなど大きな組織でプロジェクト推進をしていた彼女が、自身で会社を立ち上げた理由には、個人のやりがいと組織の仕事へのジレンマが大きく関わっていました。

会社を立ち上げた理由のひとつは、カンボジアという国のプラスの部分をもっと見てほしいと思ったから。首都プノンペンは経済発展の真っただなか、便利で暮らしやすく、新鮮な野菜や果物も豊富です。でも日本にはそうした情報が知られていないのが悔しくて。

もともと医療系のNGOでアフリカ・ザンビアとマラウィに計2年、カンボジアでも7年職員として活動していた西口さんは、仕事で地方診療所の支援に携わっていました。お金のない人にも医療を受けてもらえるよう、という理念で活動していましたが、次第に活動が行き詰まってきたといいます。

コンセプトはよかったんですが、結局それだけだとお金が入ってこない。結果的に寄付を集めることが仕事みたいになってしまって。カンボジアと日本は昔から支援活動と縁も深く、寄付も多かったのですが、次第に日本はミャンマーなど他国への支援へと移ることも増えてきて。やはり寄付に頼ると活動が不安定になってしまうことを実感しました。

ジョークも交え笑顔で話してくださるお話の内容も、よく聞くとかなり大変な話のことも。持ち前のバイタリティで乗り切ってこられたに違いありません!

そこで別の収入源を自分たちで確保しようと奮闘しますが、なかなかうまくいかない。

野菜をつくってみたり、養豚事業はお金になるらしいと聞いてチャレンジしたりしたんですけど、そもそも診療所の仕事は忙しいのでそんなに手間はかけられないし、難しくて。

そんなとき、いつもは気にもかけていなかった家の近くに生えていた植物に赤い花が咲いているのに気づきました。それがローゼルハイビスカス、通常は雑草のようにもみえるオクラ科の草ですが、毎年11〜12月に花を咲かせるハーブだと知ったのてす。

カンボジアの田舎の空地で実るローゼルハイビスカスの実。実がなる時以外は一切目立たないのだそう。

身近にいたハーブに詳しい友人に聞いてみると、ローゼルハイビスカスはハーブティーの材料として使えることがわかりました。天日干し乾燥してさせれば日持ちもする。これを使ってハーブティーとして製品化し、村の人たちが自ら経済活動ができるようになればよいのでは? というアイデアです。

ただ、組織の性格上、売上を診療所の赤字補てんに直接利用することはできないことがわかり、別会社を立ちあげる方向性を考え始めます。同時にその頃、世界的なNGOが行う大規模の年度単位で期限付きのプロジェクト活動に限界を感じるようにもなっていました。

西口さんはまた、カンボジアは前任のアフリカのザンビア・マラウィよりもNGOでの活動がしやすく、少しのきっかけがあれば、自分たちで収入を生み出せる条件がそろっているコミュニティがあるため、小さな商売を根付かせることができるのではと考えました。

そうして大組織のNGOを離れ、自らカンボジアで会社を立ち上げることを決意します。診療所時代に考えたハーブティーづくりのアイデアはそのまま学校運営にも応用できます。その後、学校ハーブ園プログラムの基となる仕組みを生み出した伝統医療に詳しい元カンボジア国立伝統医療局顧問の高田忠典さんとの出会いもあり、プログラムが育っていきました。

マクロな視野でものごとを捉える大きなプロジェクトよりも、自分の性格として個人ひとりひとり、顔や名前がわかる人を見るほうが性に合っている気がします。カンボジアの地方に行くと、住民ベースの小さな経済活動が全然ないところがたくさんあるので、「これをやったらいいのに!」と思うことが多くて。だから、思うだけじゃなくて自分でやろうと。会社を興してまだまだ模索中の日々ですが、充実感はあります。

ハーブの取引先は、学校以外に村の女性農業グループへも波及

現在、学校ハーブ園プログラムの活動は、村の女性農業グループへも波及しています。学校で生産するハーブは、授業の都合などで出来高の変動が多いのが実情です。安定的なハーブティー製造のためには、定期的に供給を見込める農家さんや村の女性グループの助けが欠かせないのだとか。

村の女性グループみんなで仲良く収穫したレモングラスを仕分け中。 写真提供:日本国際ボランティアセンター(JVC)

シェムリアップ州のある女性農業グループでは、ハーブの生産を始めたことで、人々の意識が変わり、自分たちで稼いだお金を、村のため池にポンプを付けることに決めたそう。それまで稼いだお金をどのように使うかを自分たちで決定したという話は聞いたことがなく、西口さんは、子どもたちだけでなく、女性の力の向上にもつながる活動に発展してきているのがとてもうれしいと話してくれました。

生き生きとした笑顔が最高! ハーブの栽培と買い取りは、村の女性のエンパワーメントにつながっています。

2015年に1つの学校から始まった学校ハーブ園プログラムは今では10校が参加、関わる村や地域も増え、総勢4,000人が関わる活動へと大きく成長しています。

人が見える活動を継続しながら、製造管理を整備し次のステージへ。

西口さんがこの事業を行うなかで一番やりがいを感じる部分はどんなところなのでしょうか?

やっぱり人ですね。NGOのような大きな組織でマクロな視点でものごとを見るより、よりミクロに、人が見える活動を支援したいという思いがあります。

スタッフの雇用はものすごく大変なのですが、最初は挨拶もうまくできなかった子が、仕事に誇りをもって長期で働き、マネージャーにまで育っていってくれたこと、村のお母さんたちが、ハーブの売上で自分たちの村に役立つものを購入するなど、視野が変化しているのを見るのは本当にうれしいです。

責任を持ち長期で働く現在のスタッフ。みんな自分の給料から妹や弟の学費を出しているのだそう。

今年、新型コロナウイルスの影響でカンボジアの外国人観光客はほぼゼロになっている状況で、デメテルハーブティーも現地のお土産需要としての売上は激減しました。そのため生産量や商品ラインナップ展開については再考し、次の展開を見据えているところです。

カンボジア国内と日本向けでは商品名も変え、現地事情にあわせた商品展開を行っています

順風満帆に思えるデメテルハーブティーと学校ハーブ園プログラムですが、現段階での課題について、西口さんは「製造管理をしっかりしたい」との思いを持っています。現状はスタッフ数人で全ての工程を手作業で行う状況ですが、ハーブ各種の保管や商品の在庫管理などの点でそろそろ限界に近づいているとのこと。コロナ禍の現状を契機として製造ラインや販路の整備をしていく予定です。

今後も、いろんな地域や学校から声がかかったときに、自分たちが援助できる受け皿としてのキャパシティは持っていたいです。お互いに無理のない支援をして、技能を活かしあうかたちになればいいと思っています。

ハーブティーを通して、メイドインカンボジアを誇りに思える新しい価値観を根づかせたい

カンボジアは、ハーブの世界ではまだ発展途上で、特に政府や王室によって伝統医療の保護がなされているお隣の国タイには水を開けられているそうです。過去の内戦や歴史から、アンコール王朝の時代から受け継がれていたカンボジア独自の伝統医療や学問の継続が一時難しくなったことも要因に挙げられます。

西口さんは、カンボジアのハーブは気候条件などもよく、もう少しシステム化していけば、品質の向上もできるはずだと考えています。

ローゼルハイビスカスの実を収穫している様子

カンボジアの人から自国の原材料で商品をつくってくれてうれしいと言われるようになりました。メイドインカンボジアの商品がもっと流通して認められるようになると、自国の文化や伝統を誇りに思うことが増える。そういえば先日、日本に卸したカンボジア産の青いハーブのバタフライピーの品質を調査してくれた方に、タイ産のものよりアントシアニンが多いという結果をいただいたのもうれしかったですね。

西口さんはカンボジアで働きはじめた当初、この国には多くの素晴らしい資源があると感動していたそう。それは気候がよく果樹がいつも道ばたで実りを付けていることや、どんな困難な局面でも笑顔を忘れずポジティブな人たちだったり。自国の人では気づきにくい小さな特徴ですが、大きな豊かさの源泉です。

村では子どもたちも一緒にハーブの仕込み作業も。

西口さんは続けます。

NGOのときから12年カンボジアで活動してきて思うのは、「カンボジアのために」と思ってやっているというより、この国でこちらが働かせてもらっているという気分なんですよね。カンボジアという舞台で、自分がこうしたいと考えることをやらせてもらっているという感覚。だからこそ、この会社をもっと長く育てていかないといけないなと思っています。

常に謙虚にビジネスを育て上げているこうした西口さんの姿勢が、周囲の人たちにも波及し、事業の成功へとつながっているのでしょう。

地域特産品をつくって売る。そこに必要なのは愛情とストーリーの共有

学校ハーブ園プログラムの活動は、NGOでさまざまな困難も乗り越えてきた圧倒的な経験量に加えて、出会いやご縁を大切にして、「うまくいくって思えそうなことは、やってみよう」というプロジェクトを適宜変化させていく柔軟性があることで、より大きな成果が生まれているようです。

それに加えて大切なのは、西口さんのカンボジアに対する感謝と愛情の心があること。それがハーブをつくる学校の生徒や村の農業グループの人たちと、ハーブティーを購入する顧客の両方に伝わり、いい循環を生んでいるように感じました。

そこにある雑草ハーブを宝に変えるのは、愛情あってこそ。自国への誇り、土地への郷土愛を持ち、そのストーリーをきちんと顧客に伝えていく制度設計があってはじめて、思いの伝わる商品が販売というかたちで伝わっていくのかもしれません。

日本でも地方へ行くと、道の駅などで地域の特産品を企画開発して販売している商品がたくさん置いてあります。そのひとつひとつにこうした小さなストーリーが隠れているのかなと思うと、モノを見る目も変わっていきそうですね。

機会があれば、あなたもぜひカンボジアのデメテルハーブティーを飲んでみてください。また、普段何気なく手に取っている商品のひとつひとつに思いを馳せてバックストーリーを思い描いてみてはいかがでしょうか。

止まっていたカンボジアからの国際便も再開し、日本向けのオンラインショップも本格運用がはじまりました!

– INFORMATION –

 「学校ハーブ園プログラム」を通して栽培されたハーブを使った「デメテルハーブティー」。現在はオンラインストア「Campanio カンボジアハーブストア」でハーブティーを購入可能です。