\11/12オンライン開催/ネイバーフッドデザインを仕事にする 〜まちを楽しみ、助け合う、「暮らしのコミュニティ」をつくる〜

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クリエイティブと実業をかけ合わせることで、お客様とのコミュニケーションを変えていく。老舗デザイン会社ノングリッドが下北沢でジュース屋を営む理由

思わず手にとって眺めてしまうほど鮮やかな色のジュースとおしゃれなロゴラベルの瓶。以前greenz.jpでもご紹介した、代官山フレッシュジューススタンド「Why Juice?」のコールドプレスジュースには、ただおいしいだけじゃない物語があります。(記事はこちら)

そして今年4月、グリーンズのビジネスアドバイザー・小野裕之とB&B/numabooksの内沼晋太郎さん設立した散歩社が運営する「BONUS TRACK」に新業態「Why_?下北沢店」がオープン。下北沢という新たな場所から、ジュースだけではない新しい商品も生まれているようです。

今回はそんな「Why_?」を運営する株式会社ノングリッド代表・小池博史さんと小野浩之、そして内沼晋太郎さんの鼎談をお届けします。

ノングリッドは、20年以上続く老舗デザインの会社。「ジュースを売ってるデザイン会社って?」という疑問を掲げて始まった本鼎談は、ビジネス継続のノウハウから、地方と都市をつなぐことにまで及びました。

僕らにとってジュースは、ビジネスとライフスタイル提案のツールなんです。

と語る小池さんのビジネス論と聞き手ふたりの絶妙なやりとりから、これからのビジネスのあり方を感じてみてください。

小池博史(こいけ・ひろし)
株式会社ノングリッド代表取締役社長 株式会社イメージソース代表取締役社長。日本大学農獣医学部食品工学科を経て、そごう百貨店入社。その後、独学でインターネットビジネスの世界に転向。2000年ノングリッドを立ち上げ独立。2005年イメージソースと業務提携、代表取締役社長に。2015年代官山に「Why Juice?」をオープン。

バブル終焉からインターネット黎明期へ

内沼さん 小池さんはイメージソースとノングリッドという会社をされていますよね。どういう経緯で起業されたのですか?

小池さん 僕の場合、起業するまでにプロセスがありました。新卒のときは、大学で学んだ食品関係の仕事に就こうと大手の百貨店に就職して、食品売り場やインテリア部門にいたこともありました。

でも当時はバブルの終わりで、就職してすぐに売れない時代が来ました。お客さんが来ないので、仕事が終わると毎晩、住宅街にチラシのポスティングに行くんです。これは不毛だよな、と考えていたときにたまたま電気売り場でマックのクラシックか次のモデルが売っていて、同僚に聞いたらコンピューターだ、と。

絵を描いたり通信ができる、それも不特定多数に文字ベースでできる。これは面白いと思って勉強を始めて、勝手に勤めていた百貨店のホームページをつくったのがウェブの世界のきっかけでしたね。

内沼さん 百貨店の自社サイトを立ち上げる仕事をしたということですか?

小池さん いえ、素人がつくってみたって状態です。ただ、「こういうページがつくれたら、チラシじゃなくてもいろんな人が見ることができますよ」ということを伝えたくて。

でも、まだ本当にアナログだった時代で、「そんな世界もあるのね」って感じでまったく伝わらず、何度言っていても無理だと思い、転職を決意しました。インターネットという新しいコミュニケーションに興味があって、仕事にしたいな、と。

でも独学だったので、転職先もかなり苦労しました。結局、デザインの専門学校の職員として入学営業などをしながら、広告をつくったりサイトの立ち上げをやらせてもらったりして、4年半後、ちょうど30歳になるときに独立しました。そのとき立ち上げたのがノングリッドです。

ノングリッドは、デザインの祭典、DESIGNART TOKYOの特設サイトのプロデュースなどデザインの製作からジュースまで幅広く手がけている。

小野 インターネットの黎明期ですね。

内沼さん まさかそんなお話からだとは思わなかったです。

小野 僕も2006年新卒でコンテンツという会社でウェブサイトをつくる仕事をしていたので業界的には近いです。

小池さん そうなんですね。インターネットバブル期でしたよね。

内沼さん ぼくも2003年に卒業して、独学でウェブを勉強して知り合いのカフェのホームページをつくったりしていました。実は3人とも、手でコードを書いていたんですね(笑)

自分の興味と会社の方向性の一致を見定め、リブランドしていく。

内沼さん もうひとつの会社イメージソースは後からですか?

小池さん そうです。イメージソースは創業者の伊藤幸治さんが1998年に立ち上げて、僕がジョインしたのは2005年です。

2003年くらいにイメージソースへ営業に行ったことがきっかけで、2〜3年一緒に仕事を続けていく中で、イメージソースは技術力が高く、ノングリッドはデザイン力が高いと感じるようになりました。じゃあ業務提携しよう、となったのが2005年で、その後すぐに僕が代表に、代表だった伊藤が会長になったんです。

内沼さん それぞれの会社の規模感はどのくらいだったんですか?

小池さん ノングリッドが10人ほどで、イメージソースは26人。合わせて40人弱くらいですね。

内沼さん 会社を一緒にしたわけではない?

小池さん そうですね、最初は別々。ただ、文化の違いや変な距離感があってもダメですし、給料形態などもあるので、とりあえず一度全員をイメージソースの社員にしちゃったんです。

小野・内沼さん へーー!

小池さん ノングリッドは当時、僕と取締役のふたりだけの会社でクライアントの窓口として存在していて、制作は今までどおりおこないますよ、というかたちにしました。

小野 イメージソースとノングリッドは、ウェブのデザイン誌に必ず毎号出てるような会社ですので、僕は本当に身近で見ていました。いまいち違いがわからないと思っていたんですが、そういうことだったんですね。

小池さん そうなんです。

内沼さん なるほど。現状は、ノングリッドには新たに社員さんがいてジュース部門も加わり、会社として続いていますよね。その過程はどう変化していったんですか?

小池さん 先ほども小野さんがおっしゃったように、似たような会社だよね、という声が社内にもどんどん出てきて、棲み分けがごちゃごちゃになっていたんです。

それなら、イメージソースはウェブや新しい体験をつくる会社で、ノングリッドはデザインにきっちり向き合って、地方やコミュニケーションの仕事に振っていこうと、10年くらい前に一度リブランドしたんです。

小野 強みを定義し直した感じなんですね。経営の中で、業務を切り分けたり定義し直したりすることが重要だと気づかない人もいると思うんですが、どうして枠組みをちゃんとつくろうという発想になっていったんですか?

小池さん 自分の興味関心と会社の役割分担が、定義のし直しにつながっているかもしれないですね。例えば自分が地方の仕事をしたいと興味を持ったときに、そこはノングリッドでブランディングとして向き合っていった方がいいとか、新しいデジタル技術で体験を生み出すような仕事はイメージソースがテクノロジーファーストで取り組んでいくとか、自分の興味と会社が向かっている方向があっているかを見定めていく。

小野 右脳と左脳みたいに使い分けている感じなんですね。現場から、「ノングリッドじゃなくてイメージソースの仕事じゃない?」みたいなことは起こらないんですか?

小池さん いまは起こらないですね。

小野 ちゃんと定義したら、それはそれで納得感があったってことですね。

ノングリッドが手がける「Why_?下北沢店」。商品からお店のデザインももちろんノングリッドの仕事。(Photo by Kosumo Hashimoto)

内沼さん それにしても20年以上続く制作会社って、ものすごいことですよね。

小池さん コロナ禍で、うちみたいなコミュニケーション分野が一番危ういというような悩みはあります。でも、「本当は運用など安定案件を受託した方が会社としては安定するんだろうな」という視点で動いても、面白みに欠ける。

自分たちのモチベーションと経営のバランスをどうとっていくか、ということに答えはなくて、日々動きながら対応してる感じですね。

小野 一度決めても、常に考え続けている自分もいるということですよね。

「ちゃんとつくってます」と言えるデザイン会社に

内沼さん 地方の仕事のお話も出ましたが、地方農家さんとの付き合いの中から「Why Juice?」が生まれたんですよね。

小池さん そうです。もともとアウトドアが好きで、地方に行くと、夏は農家で冬はガイドをしているような方との出会いも多くて。家に遊びに行くと、食事も美味しいし、生き生きしている。もちろん大変なこともあると思うんですけど、すごく豊かな生き方だと感じました。

そういう姿がどんどん憧れや尊敬になって、「この人たちと仕事したい。自分たちのデザインやアイデアで何ができるだろう?」と考えた答えがジュースブランドでした。

都会の人に、まずは普通に「かわいい」と手に取ってもらって、その先に「おいしい」、「どこの野菜、果物だろう?」と、少しずつ関心につながればいいな、と。ジュースは手軽ですし、野菜果物は色がものすごくビビッドで味のインパクトもありますので。

お店で直接コールドプレスしてくれるジュースの他、手軽に取りやすいテイクアウト用の商品も充実。ゴミ削減のため瓶を使用するなど、環境への配慮も。(Photo by Kosumo Hashimoto)

小野 それまでやられていた、いわゆるバーチャルな仕事に加えて、生産して拠点をつくって、という実業を始められた。6年やられてきて、何が見えてきたか聞きたいです。

小池さん 大きかったのは、「ちゃんとつくってます」って言える会社になったことです。やっぱりウェブと実業ではお金の感覚が違いますよね。ものをつくって売るって、どう切り詰めて利益を出すか、なんです。クリエイティブの方は何百万、場合によっては何千万という仕事もあるので、全然感覚が違う。でも、実業でそういう小さいお金を知ることも大事で。

クリエイティブのお客さんは何かをつくって売って、その利益を僕らの制作費に充ててくれていたりするので、かなり近しい感覚になれた。忘れちゃいけない感覚だと思うんですね。ゆくゆくはクリエイティブと実業の職場をシャッフルしていけたらいいですね、感覚を共有するというか。

小野 深いですね。他にデザインの会社が実業をやることで良いことはありますか?

小池さん ジュースをやっていてデザインの仕事が来ることはよくあります。あとは、クリエイティブな展示会で配るジュースのオーダーを大量に受けたり。

小野 クライアントさんからすると、もちろん実績があるので信用してる上に、ちゃんとやっていることを理解されているという安心感がある。その上でのコミュニケーションのあり方って結構違いますよね。

これからは過去のポートフォリオをまとめたサイトを派手につくるよりも、体現するために実業をやってちゃんと収益をあげることの方が、よりスタンダードで重要性が増してくる。プレゼンだけで自分の信用を勝ち取るのは難しくなってくると思います。

小池さん そうですね。ブランディングの提案は表層的な話になりがちなところを、実態があるともっと踏み込んだ、売れる商品まで考えていく、というようなことはやりやすくなりましたね。

店内では地方の野菜や果物の販売も。背景にあるのは、「ジュースを売るだけではなく、生産者さんとよりつながりやすいお店へ」という想い。

コミュニケーションツールとしてのジュースの可能性

小野 改めてBONUS TRACKに出店された経緯を伺ってもいいですか?

小池さん 「Why Juice?」を5年やってきて、ジュースの持っているポテンシャルは感じつつも、一商材という窮屈さもありました。もっと深いところには、安心安全なものを知る入口でありたいとか、地方の生産者さんと都会をつなぎたいという想いはある。でもジュースだけでは表現できない、というもどかしさも感じていたんですね。

ここのお話を聞いたとき、下北沢は人の流れも良いし、ジュースを軸にしながらもう少し商材を広げてライフスタイル提案ができるんじゃないかなと思いました。今、「ピュアファーム」(※1)の無添加のソーセージにうちのジュースのパルプ(※2)を練り込んでヘルシーなソーセージをつくってもらっています。

今後は、たとえば発酵デパートメントさんなど他の店舗さんの商品との差別化を図りながら商品開発や商材を広げていくことも挑戦してみたい。いろいろなブランドがいるBONUS TRACKは魅力的でした。

(※1)肉、塩、砂糖、香辛料と自然にあるものだけをつかい手造りで製造をおこなうソーセージブランド。
(※2)ジュースを絞って残ったもの。

BONUS TRACK内、「Why_?」の入口。お店の前で生産者さんを交えたイベントが開催されることも。(Photo by Kosumo Hashimoto)

小池さん それに、それぞれのコミュニティがありつつ、混ざり合いつつ、という長屋スタイルも気に入りました。おもしろいところになるなって予感もあったんです。

小野 そうだったんですね、嬉しいです。

小池さん 2階に住める(※)と知ったときも、昔の商店街風で面白いな、と思いました。地方の農家さんが野菜や果物を持って来たら物々交換で泊めてあげようと思ったんです。それが今、一番やりたいことかな。

お付き合いのある農家さんも、情報収集や自分の野菜の売り場を見るために、たまに東京に来るんです。ここでお店やお客さんを見てもらって上で寝るって、最高ですよね。

(※)BONUS TRACKには1階が店舗、2階が住居で店主がそこで暮らすという建物が並んでいる。

小野 東京側における自分たちの拠点みたいなものができると、農家さんにとっても足掛かりになりやすいですよね。

実際、発酵デパートメントは、地方の取引先がすごく多くて、さらにヒラクくん(発酵デパートメントの小倉ヒラクさん)と醸造家さんは親しい間柄なので、みんな絶対寄ってくれるんです。自分たちの場所だと思って過ごしてくれている。

BONUS TRACKはある意味、各ブランドの人たちのコミュニティのホームにもなりたいなって思っていて。用がなくても寄ってもらって、なんとなく立ち話が起こって、そこからなにかが動き出すような、交流の拠点になることに価値を感じています。

「地方の生産者さんの都会の駅のような場所にしたい」と小池さん。

内沼さん 「Why_?」さんとして、今後考えていることはありますか?

小池さん ここでお客さんとつながって地方農家さんに連れて行くような、人が行ったり来たりする拠点にしたいです。

近年、地方の自治体は移住を促進していますけど、まずはちょくちょく行くというのはありなんじゃないかとずっと思っていて。そこで情報交換をして、お金を落として帰ってくる。そういう“逆出稼ぎ”にまだまだ可能性があると思っています。

小野 本業としてのクリエイティブがあるにも関わらず、実業、実店舗を出す意味が今日のお話で見えた気がします。

小池さん ジュースは美味しいし、健康のために、ということではあるんですけど、コミュニケーションのツールでもある。そこを最大限に広げていくことを考えていきたいですね。

(鼎談ここまで)

実業を営むことで、新しい信頼や関係が生まれる。デザインという力で地方と都会をつなぐ、ジュースは自分たちにとってそのツールである。

示唆に富む小池さんのお話の中でも、私は、実業が本業に生かされるだけでなく、地方の生産者さんに新しいコミュニケーションの場を開くきっかけになっていることに大きな可能性を感じました。

都会だけ、地方だけでは解決しない課題もお互いの強みを生かすことでより良い未来が動きだす。「Why_?」のジュースには、ちょっと土臭くも力強いストーリーが生まれていて、BONUS TRACKからまたひとつ新しいコミュニティが生まれる予感にワクワクしています。

小池さんのお話から、あなたは何を受け取りましたか?まずは「Why_?」のジュースを手に取り、「おいしい」や「かわいい」から始まる出会いを楽しんでみてください。

(撮影: 霜田直人)

[sponsored by 散歩社]