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なぜか起業したくなる。移住者が活躍するまちの不思議な力-千葉県いすみ市で次々に生まれる「コミュニティベンチャー」の秘密(前編)

11/13-11/14にいすみ市で、起業アイデアを発想してプレゼンまで行う二泊三日合宿イベントを行います。
詳細は記事末をご覧ください。

土地には、なにかの行動をうながす力があります。

ある土地に行くと温泉に入りたくなったり、また別の土地では、お洒落をして出かけたくなったり。

千葉県いすみ市を訪れ、そこに暮らす人々と話していると、そんな力の存在を感じます。その力とは、「やりたかったこと、やっちゃおうかな」と思わせる力。東京や別のまちにいたときは、自分には難しいと思っていたことも、いすみ市ならできるかもしれない、という気持ちが湧いてくるから不思議です。

そんな力のせいか、いすみ市ではローカル起業が次々に生まれています。

どうしていすみ市では、「やっちゃおうかな」という気持ちが湧いてくるのか。その理由を探っていくと、“コミュニティベンチャー”とも呼べるような、つながりを通じた起業が生まれる生態系があることが見えてきました。

“コミュニティベンチャー”が生まれる生態系とは、どんなものなのか。そして新たに始まることになった「いすみコミュニティベンチャースクール」とはなにか。前編と後編を通してご紹介します。

後編:地方に移住して見つけた「コミュニティで起業する」ことの意義-千葉県いすみ市で次々に生まれる「コミュニティベンチャー」の秘密

ローカル起業のまち、いすみ

いすみ市は、千葉県南東部、太平洋に面した九十九里浜の最南端にある、人口38,000人ほどのまちです(令和2年8月1日現在)。

東京駅から特急わかしおに乗って70分で着くというアクセスの良さがある一方、里山・里海の豊かな自然に囲まれ、イセエビやアワビ、サザエ、タコなどの海産物や、いすみ米などの農作物の産地、日本のサーフィン発祥の地のひとつとしても知られています。

いすみ市を走るいすみ鉄道。

そんないすみ市が持つもうひとつの顔が、「ローカル起業のまち」というものです。

これまでgreenz.jpの連載「いすみローカル起業プロジェクト」でも紹介してきたように、ナチュラルスイーツのケーキ工房、空き家を活用した古民家シェアハウス、1点モノのハンドメイド服ブランド、農業体験、古民家を改装したカフェ、建築設計事務所などなど、いすみ市ではさまざまなローカル起業が生まれているのです。

「いすみローカル起業部」のメンバーの活動拠点をまとめたマップ。各地で多彩な取り組みが生まれています。

ローカル起業を支えるコミュニティの生態系

ローカル起業がさかんな地域は、いすみ市以外にも全国にたくさんあります。ただそのなかでも、いすみ市ならではの特徴があると語るのは、いすみ市に住んで10年目のNPO法人グリーンズ代表・鈴木菜央。

菜央 いすみにはローカル起業をとりまく生態系があるんだよね。コミュニティに育まれて仕事が生まれて、その仕事がまたコミュニティを育む……っていう循環がある。つまり、“コミュニティベンチャー”と呼べるような、つながりを通じた起業のあり方が、いすみの特徴だと思うな。

たしかに、仕事の関係で最近パートナーといすみ市に移住した筆者の友達も、「最初は移住に乗り気じゃなかったけど、来てみたらすごく好きになった。いろんなコミュニティがあるのが楽しいんだよね」と言っていたことを思い出します。

コミュニティの例として挙げられるのは、たとえば「ローカル起業」を市民も行政も共に応援する「ローカル起業プロジェクト」。

起業に取り組んでいるメンバーが集まり、講座、ワークショップ、メンタリングなどを通じて助け合う「いすみローカル起業部」や、二泊三日で起業スタイルの具体化を目指す宿泊型ワークショップ、ローカル経済の先進地から講師を呼んでの講演、ローカル起業家のプレゼンテーション、ワークショップなどを行う「ローカル起業フォーラム」を実施しています。

「いすみローカル起業部」の様子。現在は120人が所属しています。

いすみローカル起業キャンプの様子。

そのほかにも、「いすみといえば多様なマーケット」と言われるほどたくさん開催されているマーケットも、ローカル起業を支えるコミュニティ。

大原漁港で、毎週日曜日に行われている「港の朝市(※1)」をはじめとして、市内各地で開催されるマーケットが、コーヒーやパン、雑貨、農作物など、小商いに取り組む人々を支えています。(いすみのマーケット文化については、こちらの記事で詳しくご紹介しています。)

(※1)現在は新型コロナウィルス感染者拡大防止のため、当面の間開催中止に。

そのほか、持続可能な文化や学びを学ぶことができる「パーマカルチャーと平和道場」や、「ブラウンズフィールド」、いすみ発の地域通貨「米」など、さまざまな領域のコミュニティが、いすみにはあるのです。

いすみ市にある、ローカル起業を支えるコミュニティの生態系。(鈴木菜央作成)

移住には、あるコミュニティに馴染めないことが、そのままその地域に馴染めないことにつながる、というリスクがつきまといます。

その点いすみ市のように、「こっちのコミュニティはちょっと合わないけど、あのコミュニティはすごく肌が合うな」というように、所属するコミュニティの選択肢があることは、キャリアの選択肢の多さにもつながるはず。

東京での会社員経験を経て、2011年にいすみ市へ移住した三星千絵さんは、「移住してからしばらくは、いろいろなコミュニティに顔を出して、どこが自分に合うのかためしていた」そうです。

さらに、移住した後に新たな取り組みへと舵を切りたくなった際、新たなコミュニティに加わることで新しいチャレンジにも踏み出しやすくなる、というメリットもあるでしょう。

コミュニティベンチャーを生む「一緒にやろうよ」の精神

つながりを通じた起業、“コミュニティベンチャー”を取りまくコミュニティの存在は、目に見えるもの。しかしいすみ市に訪れた際に感じるのは、そうした目に見えるものの背景に、コミュニティベンチャーを支える目に見えないエートス(気風)が存在するということです。

そんな気風を体現しているのが、市役所で移住や創業の支援に取り組む職員のみなさん。企画政策課の海老根良啓さんは、次のように語ります。

海老根さん やっぱり想いを持っていすみ市に来る方は、僕ら市役所の職員としても全力で応援したいですよね。

いすみ市では2006年に「まちづくりのための勉強会」を実施したことをきっかけに、地域の若者の間で自発的にまちづくりに取り組もうという機運が起こったんです。それ以来、いすみ市では行政と民間が手を取り合って移住・定住・創業を促進してたんですが、民間の方も市の職員も、「想いを持った方を応援したい」っていう気持ちは同じだと思いますね。

同じく企画政策課の尾形和宏さんも続けます。

尾形さん 僕ら市役所職員も知らないところで、次々にコラボレーションが生まれているんですよ。つながりのなかで新しい取り組みが次々に生まれるのは、いすみの特徴です。「一緒にやろうよ」っていう精神が、いすみ市の人々に共通してあるのかもしれないですね。

最近も、新型コロナウイルス感染症の影響でマーケットやイベントが次々と中止になったことを受けて、小商いに取り組む人々が連携し、完全予約制のドライブスルー「ナカガワお持ち帰りBOX」の取り組みが始まりました。

毎週火曜日の19時に、その週に販売される商品情報がWEB上に掲載され、予約した商品を土曜日に指定の場所で受け取れる、というもの。

こうした取り組みが、誰かの声かけからすぐかたちになるのも、いすみ市に存在する「一緒にやろうよ」の精神があることを物語っています。

「いすみコミュニティベンチャースクール」とは?

そんないすみ市で、つながりを通じた起業、“コミュニティベンチャー”を応援するために2021年から始まるのが「いすみコミュニティベンチャースクール」です。

「いすみコミュニティベンチャースクール」は、地域おこし協力隊のプログラムを活用した起業支援プログラム。エントリー検討期間と、地域おこし協力隊として活動する3年間を通して、コミュニティベンチャーの立ち上げをサポートする仕組みです。

いすみ市を舞台に、支え合いながらコミュニティベンチャーづくりに取り組みます。

2021年に始まる「いすみコミュニティベンチャースクール」への想いを、市役所の海老根さん、尾形さんは次のように語ってくれました。

海老根さん 「自分はいすみでこれをやりたいんだ」っていうアイデアを持った方をサポートするスクールは、私たちがずっと取り組みたいと思っていたことでした。ぜひ、熱い想いを持った方にエントリーしてほしいですね。逆に、想いはないけど助けてくれるだろう、っていう受け身のスタンスだと、ちょっと難しいかもしれないですが。

尾形さん 「いすみコミュニティベンチャースクール」のページにも、「コラボできる人たくさんいます」という項目をつくりましたけど、「一緒にやろうよ」っていう人は地域にたくさんいる。例えば僕も、デザイナーさんと一緒に、いすみで生まれた商品のパッケージデザインやプロモーション、空き家や空き施設の活用、空間のデザインなどに取り組んでいきたいです。

海老根さんや尾形さんをはじめ、いすみ市の人々が持つ「一緒にやろうよ」の精神が、「いすみコミュニティベンチャースクール」としてかたちになろうとしています。そこで生まれる事業は、東京とも、他の地方ともひと味違う、つながりの豊かさが詰まったものになるはずです。

今回の記事では、いすみ市のコミュニティベンチャーをめぐる生態系と、その背景にある「一緒にやろうよ」の精神を探っていきました。

後編では、実際にいすみでコミュニティベンチャーの実践に取り組む人々の活動や想いを紹介します。

後編:地方に移住して見つけた「コミュニティで起業する」ことの意義-千葉県いすみ市で次々に生まれる「コミュニティベンチャー」の秘密

「いすみコミュニティベンチャースクール」について

2021年から始まる「いすみコミュニティベンチャースクール」は、地域おこし協力隊のプログラムを活用した起業支援プログラム。エントリー検討期間と、地域おこし協力隊として活動する3年間を通して、コミュニティベンチャーの立ち上げをサポートする仕組みです。

募集の詳細やエントリーに向けたフィールドワーク、合宿など、詳細情報は公式ページをご覧ください。また、最新情報はFacebookページでお届けするので、こちらもぜひ「いいね」をお願いします!

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合宿のお知らせ

2020年11月13日(金)14日(土)15日(日)に、自分がいすみで起業するならどんなことをするか、アイデアを発想してプレゼンまで行う二泊三日合宿イベントを行います。

ゆっくり自分と向き合う時間をとって、先輩起業家に会ってじっくり話したり、いすみの豊かなコミュニティのリアルを感じながら、「そんないすみで起業するとしたら…」という妄想をカタチにしてみる。そんな時間をすごしてみませんか?

エントリーをご希望の方は、peatixのイベントページからお申し込みください。

イベントの詳細・申し込みはこちら

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