greenz.jpを応援してくれている寄付会員greenz people(以下、ピープル)と一緒につくる連載「greenz peopleに学ぶ ”いかしあう〇〇”」。第4回は、兵庫県尼崎市をピープルのみなさんと訪ね、お寺でカレーを食べるイベント「カリー寺」から学んだ現代のお寺のあり方や基金についてお伺いしました。
お寺でカレーを食べるってどういうこと? 今の時代、地域の中でお寺に求められる役割って何だろう?
カリー寺基金発起人の「浄土真宗本願寺派清光山西正寺」住職・中平了悟さんと、共に企画運営する「株式会社ここにある」の藤本遼さんとの対話と、そこからの学びをお届けします。
ー 目次 ー
▼1:そもそも、カリー寺って何?【カリー寺の仕組み】
▼2:カリー寺から広がる地域の輪【カリー寺の発展性】
▼3:資源を循環させるカリー寺基金設立【カリー寺の挑戦】
▼4:現代に問い直すお寺の存在意義【カリー寺から考えるお寺の可能性】
▼5:問いに対して開かれた応答性ある場【カリー寺で得た学びのまとめ】
1:そもそも、カリー寺って何?【カリー寺の仕組み】
カリー寺は2016年夏、「お寺とカレー、なんか相性良さそう。」とお寺を会場にしてはじまったイベント。2019年夏までに4回開催してきました。兵庫県尼崎市にある西正寺がメイン会場になり、境内には尼崎市内の店舗を中心に個性派カレー店が8店舗出店、本堂ではパフォーマンスやライブ、トークイベントなどが催されます。
参加者は年々増え、第4回はなんと700人超! 江戸時代からつづく西正寺において、明治時代の「打ちこわし」に次いで人が集まるイベントになりました。
藤本さん 「カリー寺」は、「お寺でカレーを食べませんか?」と中平さんに相談したのが、はじまりです。偏見かもしれないけれど、だいたいの人がカレーを好きじゃないですか?(笑) もれなく僕もカレーが大好き。
カレーも仏教も、インドにルーツがあります。お寺でインドやネパールの文化体験をできたら、地域の人にとってもおもしろいものになるかもしれないね、と話をしましたね。
中平さん イベント前は100人くらい来てくれたらいいかなって想定していたんですけど、SNSに告知したらあっという間に参加予定が200名を超えて。第1回目で、500名以上の方にご来場いただきました。
カリー寺の参加費は500円。受付で支払うと、代わりにご飯・トレー・スプーンを受け取ります。カレーは各店舗300円で販売され、複数のお店のカレーをあいがけした食べ比べも楽しめます。
運営はボランティアスタッフの力によって成り立っています。第1回目では30名ほどだったボランティアも今では70名を超え、多様な人が関わっているそうです。
藤本さん 韓国やタイなど国籍もさまざまですし、年齢も10代から80代までお手伝いいただいています。回数を重ねるごとに、西正寺の檀家さんやご近所さんの関わりも増えてきました。
中平さん カリー寺は、地域の人と外の若者が交流する機会にもなっています。
藤本さん そう、僕自身も檀家でもないけれど、日常的にお寺に通うようになりました。カリー寺が、お寺への新しい関わり方の一つになっています。もともとお寺が持っているネットワークや資源に、僕たちのように外の人の資源がうまく組み合わさることによって、新しいことが生まれはじめています。
2:カリー寺から広がる地域の輪【カリー寺の発展性】
「お寺とカレー、なんか相性良さそう」。そんな思いつきからはじまったイベントは、今ではさまざまな広がりを見せています。
藤本さん 出店店舗の中にはカリー寺のオリジナルカレーをお店で常設メニューにしているところも出てきました。また西正寺だけではスペースが狭くなったため、第3回目以降はお寺を飛び出して第2会場を借りて、そこでオリジナルスパイスを調合するワークショップやヨガ体験なども開催するなど、地域との連携が増えています。
中平さん つながりが広がる中でお寺の掃除をしたい人たちが月1回、朝7時に集まって掃除をしたり、大学生と仏教について学んだり、かつてお寺が担っていた寺子屋のような動きも出てきました。それを僕が提案しなくても、地域の人からのニーズとしてやっていることもおもしろくて。本来のお寺の姿に立ち返らされているような気がします。
2019年には、地域のお母ちゃんや飲食店とレシピを開発したレトルトカレーを販売。これにより、全国各地のお寺で気軽に“レトルトカリー寺”を開催できるようになりました。
資源を循環させるカリー寺基金設立【カリー寺の挑戦】
そんな中、新たなチャレンジとしてはじめたのが「カリー寺基金」です。
基金とは、ある目的のため積立または準備しておくお金のこと。財団法人や企業、NPO法人が運営母体となることが多いですが、任意団体でも基金を設立することができます。
カリー寺基金は、地域の新たな企画やチャレンジを応援するもので、尼崎に関わるプロジェクトを募集。書類選考とプレゼンを経て選ばれたプロジェクトに、最大10万円を渡し、プロジェクトの実行を応援します。
なぜ、いちイベントだったカリー寺を母体とした基金を立ち上げることにしたのでしょうか?
藤本さん カリー寺の参加費は500円。例えば500名が来ると25万円になります。そこに僕らが店舗の出店料を加えた数字が、カリー寺の収入です。経費を差し引くと微々たる金額ですが年々積み上がっていき、どう使おうかと考えたことが基金設立のきっかけでした。
中平さん 以前から、お寺で奨学金のようなものを提供できないかと考えていたことも、基金設立を後押ししました。カリー寺に関わるお金が、どこにどのように出ていくのか、どう使われているのか、どう循環しているのかを見えるようにできたらいいなって。
中平さん お寺や神社の活動や頼母子講(たのもしこう)・無尽講(むじんこう)といった地域の相互扶助など、もともと地域にはいろいろな助け合いや支え合いがあったんですよね。そういったものを、自分たちの手で、地域につくってみるチャレンジができればと思いました。それが、本来のお寺や神社の活動ともつながっていくように思います。
せっかく尼崎の活動から立ち上がった基金なので、何かしら尼崎で新しいチャレンジを応援する仕組みをつくりたいですね。
藤本さん お金を渡して終わりではなく、僕たち自身も知らなかったことに出会い、新しい取り組みにつながることを期待してやらせていただいています。人をつないだり、一緒にアイデアも考えたりもしていきます。
4:現代に問い直すお寺の存在意義【カリー寺から考えるお寺の可能性】
カリー寺をきっかけに、西正寺周辺の人や場の関係性は変わりつつあります。そうした変化が見えはじめた今、お二人はあえてお寺で開催する意味をどう捉えているのでしょうか。
藤本さん たまたまお寺で開催して、なぜだかわからないけどいい感じだった、それは第1回目から僕たちに共通している感覚だと思います。イベント自体は、公園や施設などの場だけを借りて開催することもできます。しかし、それだとイベントの次につなげるのが難しい。お寺には人がいて、ネットワークがある。カリー寺で起こったことが次につながるかもしれない、そんな発展性があることが魅力です。
中平さん カリー寺の評価軸は、数ではありません。お寺に700人が来たとか、カレーが1時間で売り切れたとか語れるものはありますが、数のインパクトは求めていないんです。僕たちはカリー寺で、色々な人が混ざり合うところに価値を感じていて。大学生も地域の人も檀家さんも、さまざまな人が関わる機会になっていることが1番の価値だと考えています。
中平さん というのも、お寺にとって、檀家さんからどう見られているかは評価軸の一つだからです。檀家さんに対して、どれだけ価値があり接点を生めるかを常に気にしています。だから、数だけではちょっと軽い感じがしていています。
お寺と檀家さんは、「ありがとう」でつながる関係。例えば、早朝掃除にはカリー寺のボランティアをしている若い人たちが参加してくれていて、中には車で1時間かけて来る人もいます。
檀家さんにとっては、本来、自分たちがやること。それをなんでか知らんけど、若い人が担ってくれているわけだから顔を合わせば「ありがとう」って言ってくれるし、毎回朝ごはんを差し入れしてくれる檀家さんもいるんです。そこからお互いのことを話したり、一緒に朝ごはんを食べたりして交流が生まれてます。すごく嬉しい関係ですね。
5:問いに対して開かれた応答性ある場【カリー寺で得た学びのまとめ】
カリー寺からはじまった様々なご縁は、地域の中に染み渡りつつあります。カリー寺基金も誕生したことで、ますます西正寺は尼崎の資源を循環させるハブになっていきそうです。
ここまでの対話を聞いて、参加者の皆さんはどのような学びを受け取ったのでしょうか。おふたりとも、カリー寺にスタッフとして参加している方です。
参加者Aさん カリー寺のスタッフに参加してから、継続的に西正寺に通うようになりました。僕はなぜお寺に足を運ぶんだろう。話を聞きながら考えてみると、「安心」を求めているんだと気づきました。知っている関係性があるから、何か困ったら助けてくれる駆け込み寺のような存在なんです。きっと西正寺が、誰ともつながりのなく、ポツンとある公園のような場だったら来ていなかったんじゃないかな。
参加者Bさん 僕はもともとカレーが好きで、SNSでカリー寺のイベントを見ておもしろそうだなと思ったことがはじまりです。その一度きりではなく今も早朝の清掃やイベントに通っているのは、「西正寺に来たらなんかおもしろいことに出合えそう」っていうワクワク感があるからだなと思います。
そんな声を聞いて、中平さんはこう返します。
中平さん 「安心」を求めて来てくださるとおっしゃいましたが、来ていただく方が僕たちにもたらしてくれる安心感もすごくあります。カリー寺でテントやクーラーボックスが足りないとなった時も、「ありますよ!」とすぐ持っていただいたこともありますし、カレーもつくり慣れているのでお任せできます。こういうのを、”いかしあうつながり”っていうんでしょうね。
藤本さん “いかしあうつながり”は、優しいことばかりではありません。対立はしないけど、議論はします。中平さんとも、「それは中平さんだけが思っているんじゃないの?」「仏教の世界ではなぜそうなの?」と気になることは踏み込んできました。その積み上げの上に、何か新しい価値が生まれてくる感覚があります。
僕はお寺と檀家さんの関係に、楔を打つ人間。異物です。檀家でもない僕は、本当は西正寺に来ても来なくてもいい存在。だからこそ、言えることがあるし、起こせるイノベーションがあると信じています。
中平さん 大切なのは藤本くんのようなよそ者と、どう関わっていくかですよね。よそ者とどう関わるかのプロトコルは、お寺側にあるわけです。前提を問うてもらって変わることも変わらないこともあります。変わることで失われるものもあるから、そこはすごく慎重になります。だから、ベンチャー企業みたいにパパッとは変えていけないけれど、変わらないよさを感じて、お寺に関わってくれる人もいます。僕にもまだ正解はわかりません。
藤本さん 僕は外の人間だから最終的なリスクは取れません。中平さんが一番リスクを背負ってやっているので、最終の意思決定は尊重します。でも、外から見たときに、もっと資源を生かせると思ったら、提案したり問いを投げたりしています。大事な答えが返ってきたり、何か一緒につくれるものが浮かび上がってきたり。そうした応答性があることがおもしろいんです。
お寺と檀家さんの固定化された関係に楔を打つ、カリー寺。その営みの中で、現代に求められるお寺のあり方が見えてきました。
藤本さん そもそも問いに対して開かれているかが大事やと思うんです。お寺って、閉鎖的な印象を持つ方も多いのではないでしょうか。だけど、西正寺には応答性があるから、カリー寺がはじまり、地域に広がりが生まれました。
西正寺だけではなく、全国のお寺が応答性ある場になれば、日本の停滞感を打ち破るきっかけをつくる楔になるんじゃないかって可能性を感じています。そこに僕のような外部の人間は、可能性を最大化できる方法を考えて関わっていけたらおもしろいんじゃないですかね。
お寺でカレーを食べる、と聞くとなんだかそれだけでワクワクしてきますね。楽しく美味しい時間を過ごすところから、お寺と檀家さん、若者の関係が育まれたり、イベントの収益が基金となって地域の新しいチャレンジを後押したりすることにつながる循環は、まさに”いかしあうつながり”です。
今では様々なところに広がりを見せるカリー寺も、はじまりは「お寺とカレー、なんか相性良さそう。」といった思いつきから。”いかしあうつながり”は、特別な何かをすることではなく、オープンマインドで対話を重ね、お互いの得意を持ち合うところから生まれていくことを参加者のみなさんも実感したようです。
私自身、過去にgreenz.jpで何度か藤本さんに取材する機会をいただき、藤本さんの考えや場づくりのポイントについてお話をお伺いしてきました。「遊びをきっかけに地域をおもしろがろう」。「場づくりは個と個の関係性からはじまる」。そう話してきた藤本さんの言葉をまさに体現した場が、カリー寺です。
今回の取材では、カリー寺に関わる方々と藤本さんの関わりを間近で見ることができ、藤本さんが一人ひとりと対話し、言葉と時間を積み重ねてきた上に、カリー寺の全国的な広がりがあることを実感しました。
企画のおもしろさも大切ですが、根っこにあるのは一対一の関係。「私はこんな人間です」。「あなたはどんな人ですか?」。そんなやりとりから、自分のまちをおもしろくする一歩は、はじまっているのだと教えてもらいました。
カリー寺を自分のまちでも開催したい方は、ぜひ中平さん、藤本さんに連絡してください。