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社会と自分の距離を知り、みんなの視点を共有することで学びが深まる。オンラインでつながる“いかしあう映画上映会”に参加して実感したこと

それぞれの学びを持ち寄り、関係性の中で学びを深めあう新企画「greenz peopleに学ぶいかしあう○○」第3回目が開催されました。(過去2回の様子はこちらからどうぞ)

今回は、「映画観察者」という肩書きをもち、年間50本以上は映画を観るというgreenz.jpライターの石村研二さんと一緒に映画を観る企画。開催は2019年の年末、世界がコロナ禍に突入する前のイベントでした。

まさかこの数ヶ月後に、みんなで集まって映画を観るイベントが開催しづらくなるとは誰も想像しませんでしたが、実はこの日、都内のグリーンズ事務所とつないでオンラインでのご参加者もいたため、今になって振り返ってみると、はからずも今後増えていくであろう「オンライン映画上映会」の実験的側面をもち合わせていたように感じます。

“映画観察者”でありgreenz.jpライターでもある石村研二さん(撮影: 三輪卓護)

石村さんは、かつて大学院で専門的に映画について学んだバックグラウンドがあり、なんと年間300本の映画鑑賞という自己課題を達成した正真正銘「映画の猛者」です。

豊富な知識を活かし、映画鑑賞とレビュー執筆を淡々と続けている石村さんから「映画の観方」を教わります。それも、ドキュメンタリー映画に絞り、同じ時間に石村さんと一緒に観ることで考察のポイントなどを聞き、また、他のgreenz peopleと一緒に深めあう、題して「石村研二さんと映画を見て、あれこれ語り合う会」。

参加くださったのは全部で13名のgreenz people。グリーンズオフィスに約半数と、海外を含めたオンライン参加がもう半数。物理的な距離を超えた映画鑑賞はみんなにとって少し新しく気づきも多い経験となりました。当日の様子をお伝えします。

この日のメニューはこちら

主催者側からの趣旨説明のあとは、

・参加者のチェックイン
・石村さんのレクチャー&質疑応答
・映画『アーティフィッシャル 野生のサーモンを救うための闘い』の鑑賞
・最後に参加者同士で学びのシェア

という内容で進行します。

題材となる映画『アーティフィッシャル 野生のサーモンを救うための闘い』は、パタゴニア社の創業者であるイヴォン・シュイナード氏がプロデュースして制作されたドキュメンタリー映画。

タイトルの「アーティフィシャル(Artifishal)」とは、人工的= artificialと、魚=fishを掛けた造語です。さらに副題には「絶滅への道は、善意で敷き詰められている」と記されており、この時点で少し”業界の闇”を漂わせている気もしますが、さすがパタゴニアだと思わせるのは、この問題提起作品を無料で公開していること。そのおかげで、同じタイミングで、オンライン参加のみなさんとも一緒に映画を観ることができました。

本記事もこの日と同様に、石村さんのレクチャーと合わせて追体験していただけるよう下記でご紹介します。(どうしても映画の内容が気になる、という方は先にこちらのパタゴニア社の予告編をどうぞ)

わたしたちは今まで
「映像を見てなかった」という事実

それではさっそく、石村さんによるレクチャーの内容をお届けしましょう。

冒頭でも触れましたが、石村さんは大学院時代、とある映画監督の先生から「映画の観方がわかるためには年に300本、それをできれば10年、最低でも3年続けること」と言われたそう。それを本当に10年実践したと話す石村さんに、会場からは驚きと尊敬のざわめきの声が上がりました。

それをきっかけに、「毎日映画を観てホームページに書くことで義務化しよう」としたことが、レビュー記事を書き始めたきっかけになったそうです。ほぼ毎日のペースで映画鑑賞とアウトプットを行うとは、なかなか真似することは難しそうな、かなり本格的な訓練ですよね。

もうひとつ、石村さんが当時の学びから私たちにも活かせる視点を教えてくれました。

300本観ることと、もう一つ、映画は映像なので映像をしっかり観なくてはいけない、と習ったんです。

「しっかり観る」とは、どういうことなのでしょうか。まず説明いただく前に「実習」することになりました。用意されたものとやり方はこちら。

・用意されたもの:
映画『人生フルーツ』の冒頭部分(約1分20秒)の映像

・用意するもの:
メモが取れるもの(自分用なので紙とペンではなくスマホやPC等も可)

映画『人生フルーツ』 (C)東海テレビ放送

まずはみんなで一斉に映像を鑑賞します。とても短いのですぐ観終わります。

では、今の映像に写っていたものを書き出してください。30個くらいあるかな、何個でもいいですよ。

「え…?」部屋の隅にいた私には、参加者のみなさんの小さな驚きの声と緊張した空気が伝わってくるようで面白かったのですが、まさか、ほんの1分ほどの映像を観察することが求められるとは。

石村さんも優しく笑いながら、「じゃあ、トウモロコシ見れた人はいますか? 大根おろしは? じゃがいもは? 肉じゃがのじゃがいもじゃなくて、畑に転がってたじゃがいも、わかった人いる?」とタネあかしをしながらこの実習の意味を教えてくれました。

ここでわかることは、みんな全然、映像を見ていない、ということです。見たつもりで見れていないんです。主人公に集中するのは仕方ないことですが、映画とは、映像ぜんぶで構成されているものだということをまず認識しておくといいでしょう。

映像の中の何を見ているかは、あなた次第。 (C)東海テレビ放送

たとえば、冒頭の時点ではなんてことないシーンに、後々のストーリーの伏線が含まれていることもあるため、映像を隅々まで見ることで作品の楽しみ方が広がるそう。この『人生フルーツ』の場合は、食卓に並ぶもので主人公のおふたりの習慣に触れることができる、とのことでした。(同作品についてはgreenz.jpでも石村さんが紹介していますのでぜひ合わせてこちらもご覧ください)

あともう一つ、見えるものは人によって違うということもわかると思います。同じ映画を観たとしても、人によって見えるものが全然違うということは、違う映画を観たようなもの、と言っても過言ではないんです。このことが、今日伝えたいことのほとんど全てなくらいです(笑)

もちろんこの実習は「やらなくてもいい」そうですが、映画をよく見られるようになるためには有効的なトレーニングだそう。石村さんの場合は、レビューを書くことにも活かせる、ということでした。

ドキュメンタリー映画で体感する
社会と自分との距離

ここまでの練習は、映画全般をより楽しく観られるかもしれないという練習でしたが、いよいよドキュメンタリー映画の観方に進みます。

制作者の意図によって細部までつくりこまれている劇作品と違って、予期せぬものや全く無関係のものが写り込むことも多いドキュメンタリーはさらに、人によって見えるものが変わる傾向が強まります。とはいえ、編集の手法などからつくり手の意図を知ることも面白いと思います。

ここでまた、短い動画を4種類見ることに。「もうテストはないですので」という石村さんの言葉もあり気楽に見始める参加者一同。

4本の動画の内容はこちらです。

【1本目】フレデリック・ワイズマン監督の『メイン州ベルファスト』の一部。ひたすら、ある工場の内部が映し出されている約2〜3分。
【2本目】アイスランドの市民革命を描いた『鍋とフライパン革命』の冒頭。市民活動家と思わしき方が話す約2分。
【3本目】石村さんも「皆さんご存知の」と話すマイケル・ムーア監督『世界侵略のススメ』は監督自身が各地で出会ったもののダイジェスト映像2分くらい。
【4本目】ミニマリスト思考を体現した『365日のシンプルライフ』で、作品のエッセンスがわかるダイジェスト映像を同じく2分ほど。


一気に観たあと、石村さんからは「つくり手の意図」について解説がありました。

これらの映像で見てほしかったのは、つくり手の意図や映像のつくり方の違いです。

1本目はただそこにあるものを写すだけで、カメラに向かって話す人はいません。つくり手は部外者というか、ある意味で傍観者のような立場になります。

2本目はインタビューになっているため、つくり手はカメラの横に立ち、インタビュイーとして話を聞いていました。

3本目のマイケル・ムーアはどんどん自分が画面の前に立ち、そこにある事象を示していた。4本目は、まるで劇映画のようにカメラ位置を決めて、ストーリーのステップを踏んでいましたね。

「ドキュメンタリー」と聞くと、ただ出来事を映しているだけと思いがちですが、つくり方はこの他にも様々な手法があるし、少なからずつくり手の意図があります。この違いによって、物語への入り込み方が違ってくるんです。

1本目のように傍観者となる場合、映画の中で起きていることに感情移入しづらくなります。ただ、ワイズマン監督は傍観者として彼が学んだものを提示することが彼のスタイルでもあるので、余計な説明やストーリーを加えることなく、映像で提供し、映画を観る側は彼の学びを追体験するかたちになるんです。

2本目のインタビューの場合は映画を観てる側が、映像の中で進む事象を一緒に知り進める感覚になれるし、3本目、マイケル・ムーアの場合は、観る側が少し距離をもって彼の破茶滅茶な学びを一緒に見て楽しめる。4本目は『スーパーサイズミー』以来増えたドキュメンタリーのタイプで、観る側からすると「自分はやらないけど人がやったら見たい」ことを楽しんで学ぶものです。

参考映像の3本目はマイケル・ムーア監督『世界侵略のススメ』フランスの小学校で、アメリカとは大きく異なる質の高い給食を体験する監督自身。(C)2015, NORTH END PRODUCTIONS

確かに一言で「ドキュメンタリー映画」といってもスタイルは多様だとわかります。ここで「だいたいこの4種類くらいなんですか?」と参加者からの質問がありましたが、石村さんの回答は「もっとあるし、厳密には分けにくい」とのこと。

つくり手の視点を必ずしも意識する必要はありません。ただ、ドキュメンタリー映画の場合、映画のつくり手と観る側の距離感が顕著に出るんです。観ることで初めて距離感がわかると思うのですが、取り上げられている事象を自分ごとにする時にこの距離感がわかっていると適度に映画の世界観に入り込めると思います。

ここで、2019年に石村さんがgreenz.jpでレビューしてくれた映画に『i-新聞記者ドキュメント』というドキュメンタリー映画を例に出して補足してくれました。

同作では、つくり手による映像の手法がいくつも使われているそうです。「多分たくさんの手法を混ぜることで観てる人の視点をぐちゃぐちゃにして、個人の思考をより内側に向けさせようとしてるのではないかな。それがタイトルの一人称単数とつながっている気がする」と深い考察を披露してくれました。これはきっと、同作をご覧になった方は膝を打つポイントなのではないでしょうか。

次々とドキュメンタリーの観方を分解してくれる話が続きます。つくり手だけではなく、映画の中で発言している人へのエンパシー(共感力)についても教えてくれました。

話している人の意見に自分を重ねてみることです。なんでこう思うんだろう、と考えてみること。他人の視点で物語を見て想像することは、社会を知る上でとても大切なスキルだと思うんですが、映画はそれを可能にするものです。

特にドキュメンタリー映画は、普段は接することもない世界の人が出てきて話して行動するものですので、彼らを見て共感力を高める。そうすることで自分との関係性が見えてくる。ドキュメンタリー映画を観ることは、社会と自分とのつながりを考えるいい機会だと思います。

石村さんの考察はとても深く、これまで捉えていた「映画」もしくは「ドキュメンタリー映画」の概念を広げてくれる話でした。映画を通して浮かび上がった自分と社会との距離感や関係性を、(石村さんの記事のように)ブログやSNSで書いてみたり、誰かと話したりすることで新しく生まれるつながりもありそうですね。

予告編はチェックする? しない?
参加者からの質問多数。

一通りのレクチャー後、はじめて触れる「映画の観方」について参加者のみなさんから質問も出ましたのでいくつかご紹介しましょう。

今回の参加者は、「映画が好き」という人もいれば「実はそんなに観ない」という人もいて、また、好きな映画も邦画、洋画、ドキュメンタリー、アニメと多様、子育て中で映画の選び方を工夫している方や、定期的に映画上映会を企画する方など、映画との付き合い方も様々でした。

Q.上映会をする際、参加者からの感想がなかなか出ないこともあるんですが。 
A. みんなで観るときは、早く考えをまとめる必要がありますよね。意見が引き出せるように質問を絞るといいかもしれません。印象に残ってる言葉やセリフ、共感したことはどこか、登場人物で自分の考えに近いと思ったのは誰、など質問を変えてみると答えやすくなりますね。

Q. 映画を観たあとに調べものとかしますか? 
A. するときもあります。特に知らなかった事象が紹介されて気になったりすると調べますね。先ほど少し見ていただいた『鍋とフライパン革命』は全然知らなかったので映画の後に調べてみて、無血革命のすごい出来事だったと知りました。

Q. 逆に事前のリサーチはしますか? 
A. 全くしないです。本当は予告編すら見たくない、映しすぎる予告もあるから。タイトル、制作スタッフ、キャスト、あとは、あらすじ5行くらいは読むかな。今日の『アーティフィッシャル』も、みなさんと一緒に初めて観ます。

Q. 映画はどこで探すんですか? 
A. いろいろです。試写状が送られてきたり、映画祭に行ったり。あとNetflixの場合などは、画面でおすすめされた端からチェックしたり。タイトルとキャスト、あらすじ2行で観るか観ないか決めて、10分くらい観てやめる時もあるし、つまらなくても最後まで観ることもあるし。

映画の中には面白くないと思うものもあるんですが、なんで面白くないのか考えるのもいいですよ。ちなみにひとつ決めていることは、どんなに面白くない映画でもどこか褒めるところを見つけながら観る、ということです。淀川長治(※昭和初期〜平成初期まで活躍した伝説的な映画評論家)方式ですね。映画をつくる人へのリスペクトだと思うし、自分に返ってくるものがある視点だと思ってます。

東京、大阪、オーストラリアからも。
グリーンズ初、オンライン映画鑑賞スタート

レクチャーと質疑が落ち着いた後は、いよいよドキュメンタリー映画『アーティフィッシャル』を鑑賞。オンライン上のマイクを切って、みんなで一斉にスタートボタンを押します。

先ほど予告編をお知らせした『アーティフィッシャル』の全編はこちらで無料公開されています。上映時間は約1時間20分。ぜひ読者のみなさんもご覧になって、このイベントを追体験してみてください。(映画鑑賞後は感想を分かち合いますが、内容自体に触れることは少ないので、映画本編をご覧になる前に下記を読み進めても大丈夫です)

映画の感想をシェアするのは
学びの幅を広げるため

どっぷり『アーティフィッシャル』の世界観に浸った参加者一同。少し休憩をした後は3〜4人のグループに分かれて20分ほど感想を分かち合う時間を持ちましました。今回の趣旨は「greenz people同士で話すことで学びを深める」ことにあるので、分かち合うときの主なポイントは、

・映画自体の感想や印象に残ったこと
・石村さんのレクチャーを聞いた上で感じたこと
・これまでの映画の観方との変化

です。

もちろんオンライン組もうまくグルーピングし、それぞれの思いで一気に語り合う一同。途中で石村さんを呼び込んで質問するグループもありました。

グループごとの話し合いの後は、全体で共有しあいました。なかでも主に「映画の観方」について、こんな気づきが上がりました。

・石村さんのレクチャー通り、つくり手の距離感を意識して、日本とアメリカの違いや出てくる人の立場を意識しながら観れた。
・映画の中で、対立する考え方の両論の人が出てるのがいいと思った。ただ同時に、どちらもどこまで本音の声なのか気になった。
・話す人はみんな淡々としていると感じた。感情的に話す人は少なかったけど、そういう手法なのかな、と考えた。
・全体的に難しかったという意見が多く出た一方で、製作者の伝えたいことは明確にも感じられた。

その他、今回の映画自体は議論が分かれるテーマだけに、内容に関する熱い感想も多く上がりましたが、全体的な意見としては「難しいテーマの映画であるからこそ、自分以外の人の視点を知ることができて良かった」という全体的な意見もありました。

翌日にFacebookのイベントページにも、「映画をどういう視点で観るかという観点が新しく面白かった」「自分だけでは拾いきれなかったであろう他の人の視点が参考になった」など、みんなで学ぶ良さを実感する声が寄せられました。

石村さんのレクチャーと、greenz peopleのみなさんとシェアした視点を経て、わたし自身の中でも小さく、しかし、確実にハッキリと映画上映会のメリットが腹落ちしました。映画の世界観に入り込みやすい性格なのか、観終わった後にすぐに感想を言葉にするのが難しいと感じることが多かったのですが、そもそもドキュメンタリー映画であってもつくり手のメッセージは込められているということと、一方で、受け止め方は観る人によって自由であるという、ある種、「観る側の役割」を自覚することができました。言葉にするとあまりにも当たり前ですが、どんな感想を抱いても良い、と背中を押してもらえたような気がします。

また、想像以上に多くの視点を追体験させてもらえた感想のシェアリングからは「映画鑑賞と感想シェアはセットで捉える方がいい」と感じました。思いもよらなかった視点を聞くと、確かにそうだなぁ、とあとから調べてみたり、良い言葉だな、と思ってメモを取ったり、と自分のためになることばかりなのです。一人ではカバーしきれなかった部分を、みんなで観ることで補ってもらえる、という実感がありました。

greenz.jpでも、本や映画のレビューを紹介する「グリーンズの本棚(レビュー)」という連載をより充実させていきたいと思います。是非みなさんも、今回のシェアリングのようにgreenz.jpのレビュー記事にもお気軽に感想などお寄せください。

石村さんはこれまでもgreenz.jpにて映画に関する記事をたくさん書いてくれていますので、過去記事をご覧いただくときっと、新しく出会う作品や視点があるかと思います。

また、石村さんが立ち上げた「ソーシャルシネマ 」(略してソーシネ)は、社会の一片をすくい上げた様々なテーマの映画を対象に、石村さんのレビューが詰まったウェブマガジンです。ご自分の感想と比較したり、映画選びの参考にするなど、ぜひこちらも覧になってみてください。

【連絡先】
ソーシャルシネマ ウェブブログ  
https://socine.info/

連載「いかしあう○○」、次回はgreenz peopleの藤本遼さんの取り組み「カリー寺」から、お寺を舞台にしたいかしあいの仕組みについて学びます。どうぞお楽しみに!