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生活費は国から永遠に支給? ベーシックインカム制度、ギフト経済、どうなるコロナショック後AI時代のお金と働き方

紆余曲折ありましたが、新型コロナウイルスの支援金として全国民に一律10万円が支給されることになりました。今回の政府の決断は緊急措置ですが、Facebook創業者のMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏や起業家の堀江貴文氏も支持しているベーシック・インカム(Universal Basic Income)制度というものがあります。

これは国が永遠に全ての人に対して無条件に最低限の生活費を配るというもの。伴う税金の大幅な上乗せや働く意欲が失われるのでは?という懸念もありますが、すでに社会実験が行われたというフィンランドの結果はどうだったのでしょう?

また既存のマネーゲームとは違う、与え合い、支え合いで成立するギフト経済もあります。ベーシック・インカム制度とギフト経済、新しいお金との付き合い方・働き方について、その仕組み・実態について取り上げます。

国が生活費を支給するベーシック・インカム制度

ベーシック・インカムがあれば、誰もが新しいことに挑戦できる」というのは、Facebook創業者Mark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏です。

これは彼が2017年、母校ハーバード大学の卒業生に向けたスピーチ。ここで(動画2:18あたりから)ザッカーバーグ氏は、志ある人たちが、生活費や医療費、子育て資金などを心配せず、やりたいことをビジネスとして形にしていくためにも、全ての人へのベーシック・インカム支給の必要性を強調しています。

ベーシック・インカム制度とは、国が全ての人に生きていくために必要なお金を無条件に配るという制度です。その代わりに生活保護、失業手当、基礎年金、児童手当、障害者保護などの現給付制度は廃止。雇用、収入、年齢とは関係なく全ての成人市民に無条件に定められた最低所得を給付する制度です。

長きに渡って富の分配の不均衡が問題となっているアメリカでは、初めて指名大統領候補になった女性政治家のHillary Clinton(ヒラリー・クリントン)氏も、ベーシック・インカム制度の導入を検討していました(※1)。

テスラ創業者のイーロン・マスク(Elon Musk)氏も、ベーシック・インカム制度導入はこれからのAI社会に必要であるという立場をとっています。これは「社会問題に目を向ける起業家」というスタンスを表すだけではなく、AIによるオートメーション化でほとんどの人間の仕事がいずれ無くなることを指摘したオックスフォード大のマイケル・オズボーン(Michael Osborne)教授の論文「雇用の未来」に代表されるような失業化問題への反発を避け、思う存分AI化を進めたいとする思惑もあるでしょう。

※1. NHKクローズアップ現代+「お金が“タダ”でもらえる!? 〜世界が注目・ベーシック・インカム〜」(2017.10.26.放送)

AI時代到来を待たずして、大量失業時代は現実的に

新型コロナウイルスの蔓延によって、AI時代の到来を待たずして、世界恐慌、大量失業は現実的に感じられるようになりました。私の身近なところでは、ハワイ観光業に従事していた親友夫婦も、コロナショックで観光業が全ストップになり、緊急ミーティングに呼び出され「全員解雇! みんな解散!」と通達されたそうです。そして翌日から突然夫婦そろって失業者に。

日本でも外出自粛を受けて現在大きな被害を受けているのは観光業、飲食業、イベント業ですが、来る金融不安で新しい事業を始めるのが難しくなり、実体経済はさらに悪化して、ほぼすべての職種で影響を受けるでしょう。

この事態を受けて、日本政府は当初ばらまきを避けるためにと支援金支給対象者を絞っていましたが、その受給基準の不平等さや、識別に伴う行政コストへの懸念で国民の大きな反発を買い、最終的には国民一律10万円の支給を決めました。

ばらまき一律10万円が国の制度になったとしたら?

ではもしもこれが一時金ではなく、国の制度になったらどうなるでしょう? 国が最低限の生活を保障したら、社会主義経済の失敗のように、国民の働く意欲が失われて経済が破綻するでしょうか。またベーシック・インカムの財源確保のために、消費税や所得税が大幅増となって、GDPだけでなく幸福度までも減ってしまうのでしょうか。

起業家の堀江貴文氏は、社会が荒れずに健全であり続けるには、ベーシック・インカムが最適解だとする考えを主張しています。働く意欲問題に関しては、現在の”仕事”から定義が変わり、”好きなことで食べていける”という新しい価値観になることで、ベーシック・インカムによるゆとりが生かされるのではと考えています(1)。

※1. NHKクローズアップ現代+「お金が“タダ”でもらえる!? 〜世界が注目・ベーシック・インカム〜」(2017.10.26.放送)

フィンランドの社会実験の結果は?

これを社会実験してみた国がフィンランドです。2017年、1年間毎月7万円をランダムに選ばれた2000人の失業者に支給しました(当初の予定であった2年間を短縮)。失業手当や福祉と違い、ベーシック・インカムの場合は+αの収入があっても減額されません。そこで「働いてしまったら支給がストップされる」と生活保護の罠にハマらず、むしろ労働者の働く意欲が促進されるのでは、と予測したのです。

今年(2020年)2月にフィンランド政府が行った記者会見での暫定結果では、働いた日数も稼いだ額もほとんど変わらず、給付による雇用の促進はなかったようです。一方で健康面に対しては「とても良い」もしくは「良い」と答えた人は、ベーシック・インカム受給者56%が、それ以外の46%を上回りました。またストレスに関しても「まったく感じない」か「あまり感じない」は、ベーシック・インカム受給者55%に対して、それ以外の46%を上回ったそうです(※2)。

その他特筆すべき点に、受給者の他者への信頼度、法への信頼度が高かったことが挙げられます(※2)。この結果からベーシックインカム制度の導入によって、現代病とされる鬱やストレスの解決、生活のためにブラックな勤務状況を余儀なくされない、社会への信頼回復などの可能性が感じられます。

ただし2年間の予定だった社会実験が1年に短縮されたことを見逃してはなりません。その最大の理由は、財政負担が多く、政府がこれを維持できなかったためです。また実際に財源確保として消費税や所得税が増税された場合に関しても、ここでは実験・検証されていません。

※2. 山森亮「フィンランド政府が2年間ベーシック・インカム給付をして分かったこと」(現代ビジネスオンライン2019.06.17.付)

アラスカでは、ベーシック・インカムで出生率が大幅アップしたが…

ちなみに1982年以降、独自のベーシック・インカム制度を取り入れているアメリカ合衆国アラスカ州は、導入後に出生率が大幅にアップしました。配当金のために生活不安が減り、出生率が13%も上がったというのです(※3)。

これは、日本の少子化対策へのヒントになるかもしれません。ただ、同州は石油という豊富な天然資源があり、人口も少ないからできるのでは? という懸念もあります。日本はそうではありません。そんな日本では、私が通うスーパーもセルフレジが導入されていますが、例えば多くの仕事がAIに置き換わることを単に困った失業と捉えず、設備投資を引いたAIによる粗利のみを財源とした小規模ベーシック・インカム制度を試してみるというのも一つの手かもしれません。

※3. 山田敏弘「ベーシック・インカムを取り入れた米アラスカ州で出生率が激増していた」(courrier Japan 2020.02.15付)

支え合いや与え合いで成り立つギフト経済とは?

税や福祉の制度を変えない形での、私たちの慣行経済である資本主義経済とはまた違ったお金やサービスとの向き合いかたとしては、ギフト経済が挙げられます。ギフト経済とは、平たく言えば支え合いや与え合いの中で生きる経済のことです。

資本主義の場合は、お金が価値を表象します。例えばサービスの与え手と受け取り手の間に何も関係性がなくても、お金があればほとんどのものが交換できます。お金が価値を伝える使者として働いてくれるからです。お金の力でトラブルなく、同等の価値を持つものとそれを交換できます。

一方ギフト経済の場合は、お金だけを資本とせず、優しい言葉、笑顔、重い荷物が持てない人の代わりに買い物をしてあげるなど、受け取る人がハッピーになるものは全て資本としてカウントされます。そのため必ずしもお金を介する必要がなく、そこではお互いの信頼や関係性(社会資本)がベースになって、お金がなくても社会資本があれば必要なサービスが受けられるのです。

与え合いを持続可能にするために大切なのが、与えたときに相手からの直接の見返りを期待しないこと。与える側は「それをしたい」「こうするのが自然だから」と思って行うことです。義務や責任、期待や世間体を気にしてなどではなく、心からそれをしたいという贈る喜びがあって、自分にとって無理がないことをギフトするのです。すると大きなつながりの中で、なんらかの形でいずれどこからかそのリターンがやってくるだろうという確信、それはどこか仏教の縁起のような世界観でもあります。そして、この経済様式が生態系になったものがギフトエコロジーと呼ばれます。

必要な資本はそもそも全部タダで与えられていた。

この考えのベースになるのは、地球には酸素や水、食物、住む土地などの人間が必要なものはそもそもすべて無料で揃っていたという話です。

例えば太陽だって「時給3000円で12時間照らしますね。月末締め払いでお願いします」なんて言わずに、毎日その光を与え続けてくれています。日の光が無いと作物は育ちません。

育ったりんごは「1個税込175円ね」とスーパーは言うけど、りんご自身はゼロ円で身を投げ出してくれています。そして木が酸素を排出してくれるから、私たちは呼吸して生きることができます。空気代を払ったこと、ありますか? 映画『トータル・リコール』の世界じゃないし、今のところは無いですよね。

お金はとても役立つものだけど、それだけに価値を置いてしまうと、「持っている人」と「持っていない人」という区別性が生まれます。すると、受けられるサービスや命の価値に至るまで、お金の多い・少ないで決まってしまうという不安定な価値観のもとで生きることにもなります。

また関係性や信頼に関してもお金で解決したらよい、という意識が少ながらず生まれてしまうことにも。お金は私たちの大切な助っ人ですがそこにとらわれ過ぎてしまうと、つながりをつくるよりも、お金をつくることのほうが優先事項になってしまいます。

ニップン・メッタさんの与え続ける生き方

©Manuel Gruber (ServiceSpace)

ギフトの実践者として知られるのは、アメリカのNipun Mehta(ニップン・メッタ)さんです。ニップンさんは学生時代にシリコンバレーでIT技術者として成功を収めました。

これは、そして豊かな暮らしをしながら寄付をしました、というありそうな話ではありません。仰天なのは、ニップンさんは持っているお金・時間・スキルやそのすべてがさまざまな縁起の重なり合いで巡ってきたもので、一時的な借り物。恵みの循環にあるもので、自分の所有物では無いとして、それらをすべて贈り続けることに決めました。

つまり受け取って贈る、そしてまた受け取って贈るという無私なるバトン役に徹するというのです。そして完全ボランティアで運営される「ServiceSpace(サービススペース)」という組織をスタートします。

彼はオバマ大統領の貧困と不平等に関する政策提言評議会の委員をつとめたほどの人物ですが、私が衝撃を受けたのは、たまたまカリフォルニア州のヴィパサナー瞑想合宿で彼と遭遇したときのこと。

自家用車を持たない彼がひっそりと参加者のなかに佇ずみ(私はたまたまその前に取材させていただいたので気づきましたが、他の誰もニップンさんが要人だとは気づかない)、シェアライド(相乗り)が必要だと手を挙げたのです。その一方、彼の行いに感銘を受けて何十億円という寄付金を差し出す人も居ますが、彼はそれが必要なときでなければ、受け取らないような人です。与え合いの循環がスムーズに流れるためのパイプ役に徹しているのです。思うに、自分のエゴを極力介在させず、循環の純度と鮮度を保つように努めていらっしゃるのでしょう。

そんな彼は自分のサービスに20年近く値段をつけていないといいますが、それで未だ続いているだけではなく、そのサービスがさらに拡大して世界規模として広がりつつあるのは、たくさんの葉の下に大いなる信頼感が太い根としてあるからでしょう。

それは与える相手への信頼、与えられる自分への信頼、自分に与えてくれる世界への信頼、そしてニップンさんからサービスを受け取ったり、与えたりする人のニップンさんへの信頼です。それは並大抵ではないタフな信頼力です! そして、そこで焦点が置かれているのは、何をやれば人に喜びを感じてもらえるのか、ということ。

何をやれば自分の喜びとなり、人に喜びを感じてもらえるのか。

今回のコロナショックで私が最も心配したのは、客同士のふれあいが名物の小さな食堂を営む知人でした。客同士が肩よせ合うようなカウンタースペースの店のつくりを踏まえると、この状況で客を迎えることはできない。収入がないなかでも、月々の自宅と店舗の家賃はのしかかってくる。

彼女は商店街の仲間やお客さんたちと話し合い、お弁当サービスを開始することにしたそうです。私が感銘を受けたのは、彼女が一番心配していたのは自分や店のことよりも、お客さん同士が集えなくなったことでどうしたら彼らに喜びを提供できるのだろうということでした。そこで、お弁当の容器なども店のポリシーを反映させてプラスチックゴミの軽減と衛生面、価格のバランスをとりながら、お客さんが温かい気持ちになれるものはどんなものだろう? と試行錯誤を重ねているそうです。

ベーシック・インカム制度やギフト経済、どちらもメリットとデメリットの両面があります。導入するしないは別として、既存の資本主義経済の枠組み、その価値観だけがすべてだと思わず、他にもオプションがあることを知るのは必要でしょう。この社会的引きこもりの時期にいろんな事例をチェックしてみるのも良い機会だと思います。

心理学者アブラハム・マズローが言うように、安全や生理的欲求が満たされた私たちには普遍的な自己実現欲求、自分がやったことで人に喜んでもらいたいという強い欲求があります(※4)。

ニップンさんの団体名「ServiceSpace」の中にもあるサービスという言葉は、奉仕役に立つという意味の英語です。表面的にはお金の稼ぎ方、働き方が変わっても変わらなくても、「何をすれば人に喜びを感じてもらえるのか」「それがどう自分の喜びになるのか」というテーマは永遠なのだと思います。

※4. Maslow, A. H. (1943). A theory of human motivation. Psychological Review, 50(4), 370–396. https://doi.org/10.1037/h0054346

(編集: スズキコウタ)

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