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環境にやさしい買い物は、地球を救わない? 映画『グリーン・ライ~エコの嘘~』が教えてくれる現実

サステナブル(持続可能な)という言葉を耳にする機会が増えました。欧米に比べると環境問題への意識が低いと言われる日本でも、環境に配慮した商品が数多く販売され、それらを購入することを心掛けている人は多いかもしれません。

スーパーで商品のパッケージを確かめ、さまざまな認証マークを目にすると、安心してそれをカゴの中へ。でも、もしそこに嘘が潜んでいたら…? 環境問題を取り巻く嘘に切り込んだのが、今回ご紹介する映画『グリーン・ライ~エコの嘘~(原題: The Green Lie)』です。

サステナブルという言葉の向こうでも、環境破壊は起きている。

プラスチック問題を扱った映画『プラスチック・プラネット』を制作したヴェルナー・ブーデ(Werner Boote)監督と、ジャーナリストで作家、グリーンウォッシング(※)に詳しいカトリン・ハートマン(Katharina Hartmann)は、「持続可能な」と表示のあるパーム油を使用した加工品をスーパーで目にします。

「持続可能なパーム油なんてない」というハートマンの主張を確かめるべく、二人は世界中で起きている環境破壊の現場に足を運び、それを隠蔽し、環境にやさしいとうたった商品を売り出す当事者たちに会いに行きます。

※グリーン・ウォッシングとは、環境に配慮していると見せかけて、実際は環境に悪影響を与えている企業やその行動を指す言葉

まず二人が訪れるのは、インドネシアのパーム油農園。スーパーで売られている商品の約50パーセントに含まれているというパーム油。食品から洗剤など、さまざまな加工品に使用され、私たちの便利で豊かな暮らしに欠かせないもののひとつと言えるでしょう。

パーム油を製造するために、企業は熱帯雨林を焼き尽くし、パーム油農園のプランテーションが今も次々に生まれています。真っ黒に焼け焦げた大地の前で立ち尽くし、言葉を失う二人。緑で覆われ、多様な生き物の宝庫であった熱帯雨林の変わり果てた光景の映像は、パーム油が熱帯雨林を破壊しているという現実をまざまざと見せつけるでしょう。

パーム油を使用して加工品を製造するメーカーは、「持続可能な」パーム油を使用していると消費者に発信をしますが、パーム油を販売している商社やそれを生産している企業など、全てのサプライチェーンを完全に管理できているわけではないといわれています。その結果、不法行為が横行してしまっているのです。

インドネシアを皮切りに、二人はアメリカやドイツ、ブラジルへと旅をして回ります。そこで次々に嘘が暴かれていくさまには、環境にやさしい生活をしたいと買い物をするたびに注意を払ってきた人たちを失望させるかもしれません。

このようにとてもシリアスな問題を取り上げている映画ですが、真剣でありながら深刻になりすぎず、興味を掻き立てながら見続けさせるのは、監督とハートマン二人のキャラクターと、そこから生まれる軽妙とも言える会話や異なる意見をぶつけ合うディスカッションによるものでしょう。

スーパーで買うチョコレートが、熱帯雨林の破壊につながることがなかなか実感できず、現地の運動家にそのチョコレートを差し出してしまう監督と、企業の嘘を暴き、信念のもと突き進むハートマンはいいコンビです。二人で行動を共にする間に、監督は環境問題の深刻さと根の深さを理解していきます。その流れの中で、観客もまた自然に理解を深めていくことができるはずです。

私たちは消費者なのか、市民なのか? 環境問題への取り組む方法はまだまだある

環境破壊の現場に足を運ぶとともに、二人は環境破壊を止め、環境にやさしい社会にする方法を探ろうと、活動家や学者を訪ねて回ります。

その中でも、ノーム・チョムスキー(Noam Chomsky)の言葉には新たな気づきがあると感じました。資本主義が発展し、さらに新自由主義が広がっていく中、21世紀の現在、企業が手にしている権力は絶対王政時代のそれだといいます。

民主主義社会で、選挙によって自分たちの代表を選び、よりよい社会システムをつくっているつもりでも、それ以上に強大な権力を持つ存在が生まれているのです。

資本家と企業の利益のために行われる経済活動は、多くの人を貧しいまま置き去りにし、地球を破壊しようとしています。そんな流れに逆行するように、最近ではシェアリング・エコノミーやサーキュラー・エコノミーといった、新しい経済のシステムを実践しようとする人たちが生まれてきていることが思い出されます。経済のシステムそのものを考え直し、変革することこそが、この地球を守るために必要なことなのかもしれません。

今の経済システムの中で生きている私たちについて、ハートマンは言います。

業界はもはや私たちを市民と呼んでいません。消費者と呼びます。しかし、私は自分自身を消費者とは考えていません。私は人間であり、市民です。

日本に暮らしていると、市民としてではなく、消費者として扱われることのほうが多いという人が圧倒的ではないでしょうか。巨大な経済の動きの中で、私たちはただモノを買い、消費するだけの歯車として動いているのです。その小さな動きひとつひとつが大きな動きとなり、地球を破壊しています。

そこで私たちは何ができるのでしょうか? 環境破壊という地球規模の巨大な問題に対して、個人が行動できることは限られています。環境問題について一人ひとりができることを、というと環境に配慮したものを買う、消費は投票といったことは繰り返し言われています。私自身も、これまで環境問題についての記事を書く中で、そういったメッセージを使用したこともありました。

さらに最近の日本では、「サステナブル」という言葉がまるで流行語のようにメディアで取り上げられるようになりました。「サステナブルだから」という呪文で心地よくさせ、モノをもっと買わせ、もっと消費させようと働きかけているのではないかと思えるほどです。「サステナブル」という言葉自体が、消費されそうな世の中です。

そんな社会で私たち一人ひとりにできることは、消費者として、モノを買うことで環境問題に関わることだけではありません。

たとえば、市民としてデモや署名に参加したり、環境問題を政策に掲げる政治家に投票したり、子どもに環境問題の大切さを伝えたり、不要になったものを捨てるのではなく身近な人に譲ったり。

消費という行動を通してではなく、環境問題に関わり、取り組む方法は、きっと人それぞれの形があるはずです。

耳に心地いい言葉だけに踊らされることなく、市民としてできることをひとつずつ誠実に取り組めたら。映画『グリーン・ライ エコの嘘』は、環境問題にまつわる嘘を暴くことで、私たちが目指すべき社会の仕組みや、私たち自身の生き方について、改めて考える機会を与えてくれました。

(画像提供: (c)e&a film)

– INFORMATION –

『グリーン・ライ~エコの嘘~』

監督:ヴェルナー・ブーテ 脚本:ヴェルナー・ブーテ、カトリン・ハートマン
撮影:ドミニク・シュプリッツェンドルファー、マリオ・ホッチル
録音:アンドレアス・ハムザ、アタナス・チョラコフ、アイク・ホーマン
編集:ガーノット・グラスル、ローランド・ブッジー
プロデューサー:マーコス・ポーゼー、エリッヒ・シンドレカ
出演:ヴェルナー・ブーテ,カトリン・ハートマン,ノーム・チョムスキー,ラージ・パテル,ヴィンセント・ハンネマン,ディーン・ブランチャード,スコット・ポーター,ソニア・グァジャジャラほか
制作:e&a film 配給:ユナイテッドピープル 宣伝:スリーピン 原題:The Green Lie
97分/オーストリア/2018年 ©e&a film

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http://www.temporary-cinema.jp/greenlie/

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