岡山県和気町(わけちょう)は、岡山駅から電車で約30分。greenz.jpでも、「教育」を軸にしたまちづくりの様子や地域の開かれた和気閑谷高校の取り組みを、過去何度かご紹介してきました。
役場を中心に積極的にチャレンジする風土のある和気町で、新たにはじまったのがドローン事業です。それに伴い、和気町ではドローン事業を担当する地域おこし協力隊を募集します。
2019年10月6日、和気町ではドローン物流検証実験出発式が開催されました。その様子をお届けするとともに、事業担当者である和気町役場の総務部まち経営課係長の庄(しょう)俊彦さんが考える、事業ビジョンや地域おこし協力隊の役割をご紹介します。
2045年を見据え、ドローンで課題解決に挑む
そもそもなぜ、和気町はドローンに着目したのでしょうか。きっかけは、東京の企業の方から、「和気町はドローンに適した土地である」と教えてもらったからだと、庄さんは振り返ります。
庄さん 和気町は山や川、河川敷がある上、高速道路のインターチェンジもあるのでアクセスがよく、ドローンを飛ばしたりドローン人材を育成したりするのに適した土地。だから、ドローンスクールを誘致したらどうかと提案いただいたのがはじまりです。もしかしたらドローンが、地域課題を解決する手段になるかもしれない、とまずはやってみることになりました。
こうして2017年、和気町にドローンスクールが開校。2018年には、大型ドローンを活用した国家戦略特区の指定をめざし、国に提案書を提出しました。
ドローンスクール開校当初は、「ドローンスクールの受講のため和気町を訪れた人が、滞在期間中に宿泊施設や飲食店を利用し、まちの経済が活発になればいい」と考えていたそう。しかし、国家戦略特区をめざす中で、その思いは少しずつ変化していきました。
庄さん 事業を進めるうちに、想定していたよりもドローンは大きな可能性を秘めていることに気づきました。買い物難民支援をはじめ農業や林業に利用し、まちの課題解決につなげたいと思うようになったのです。
ドローンが地域課題を解決する手段になるのではないか? その願いは、和気町が抱く危機感から生まれています。
庄さん 現在、和気町の人口は約1万4200人。しかし国の推計によると、2045年には約40%減の8500人まで減ると推測されています。
現時点では、あまり人口減少も高齢化も大きな問題になっていないかもしれません。しかし、10年、20年後には車を運転できない高齢者が増え、買い物難民が続出するでしょう。一次産業の担い手もますます不足します。だから今から、和気町はドローン活用に取り組むのです。
スマート農業、スマート林業、買い物支援、和気町の新たなチャレンジ
和気町ではすでに農業分野で、ドローンを活用した取り組みを進めています。たとえば、ドローンによって水稲の葉色や茎数データを収集。生育状況のムラを分析し、適切な肥料散布を支援しています。
また獣害対策では、赤外線センサーにより害獣生息状況データを収集し、移動傾向を分析する実験を検討しています。
こうしていくつかの分野でドローン活用が進む中、2019年10月、和気町では新たにドローン物流の実証実験がはじまりました。期間は4ヶ月。ドローンによる生活物資の配送の実験です。
今回、実証実験の対象になったのは中山間地域にある3つの地域です。最寄りのスーパーまで10km以上ある地域で、車に乗れない高齢者も年々増えているのだとか。
現在、和気町では買い物サポートのための車での宅配事業を実施していますが、販売事業者の人手不足が課題です。そこで求められるのが、買い物弱者の増加にともない継続性があり、リーズナブルな支援システムの構築。そこで選ばれたのが、ドローン配送です。
配送の流れはシンプル。電話かFAXで、当日朝9時までに注文すると、お昼までには各地区のヘリポートへ商品が届きます。支払いは2週間に一度の集金のタイミングで。高齢者も気軽に使用できる仕組みになっています。
庄さん 地元スーパーの「天満屋ハピーズ」と「ファミリーマート」の商品を、約200点取り揃えています。パン・サンドウィッチ・お弁当などの惣菜、野菜や肉、魚などの生鮮食品、そしてトイレットペーパーなどの日用品まで幅広く対応しています。
実証実験の日は、実際に商品を注文した住民の声を聞くことができました。お話を聞いたのは、田土区の区長である小崎正史さんです。
小崎さん ちゃんと注文したパンが届きましたね! 普段は、車で15分ほどのところにあるスーパーまで買い物へ行っているんです。だから正直、買い物には困っていない(笑)でも、近い将来動けなくなったときのことを考えると、不安はあります。
ドローンのような新しい技術を取り入れることも大切なのでしょうね。私たちもできるだけのことは協力したいです。
和気町では来年度以降、注文アプリや決済システムを整備予定だそう。ドローンが生活に浸透したとき、町がどのように変わっていくのかとても楽しみですね。
ドローン初心者も歓迎!和気町の地域おこし協力隊
町をあげて、ドローン活用に取り組む和気町。今後、ますますドローンを用いた地域課題解決に力を入れるため、一緒に事業をつくっていく地域おこし協力隊を募集しています。協力隊になると、どのような仕事をすることになるのでしょうか?
庄さん 私たちとともにアイデアを出して、ドローン事業を進めていただける方を求めています。外の視点から和気町を見て、和気町のよさや強みを踏まえながら企画・運営していただきたいです。
ドローンをさまざまな分野で活用しようとすると、部署を横断した調整が必要です。基本的にはまち経営課に所属していただきますが、農業なら産業振興課、防災なら危機管理室など、他の課とも連携して仕事を進めていただくことになります。
応募の時点で、ドローン初心者でも構わないそう。和気町には前述のドローンスクールもあるので、町のバックアップを受けながら、基礎からドローンについて学ぶこともできます。
庄さん 和気町の最重要課題は、人口減少。子どもの数が減っているので、このままだと町から若者がいなくなり、町から活力が失われるのではないかと危惧しています。人口減少によって生じる課題を、ドローンなどの未来技術を活用することで乗り越えていきたいです。
とはいえ新しい技術は、法律が定まっていないからこその難しさもあります。実際、実証実験を行うまでにも、国などと数々のやりとりがあったそうです。
庄さん 道路の上をドローンが飛ぶと、もし墜落した場合、自動車や歩行者に激突する可能性があります。そのため、市街地から河川上空を飛んで中山間地域へ行くルートを選定し、調整しました。しかし、川の上を飛ばすだけでも、河川管理者である国や県、消防、警察、漁協などと協議が必要で、なかなか大変でした。
ドローン活用は、日本ではまだはじまったばかり。ルールが整備されていない難しさもある反面、和気町から先進事例をつくる意気込みを持って取り組めば、大きなやりがいになりそうです。
庄さん 和気町で培った買い物難民や農業、林業に対する事業ノウハウを、いずれは全国に展開したいです。また和気町に大型ドローンの研究開発や生産拠点を誘致して、国産大型ドローンと事業ソリューションを海外に輸出するところまでビジョンを描いています。
その中で、地域おこし協力隊として関わってくれる方にも、こんな期待をしています。
庄さん 3年の任期を終えたあとは、ぜひドローンを使った起業をめざしてほしいですね。和気町では地域おこし協力隊の起業を支援する補助金も充実させていますから。
実際、和気町がドローンによるまちづくりに取り組んでから、「和気町でドローンを学びたい」「ドローンで起業したい」という理由で移住した方もいるそうです。
庄さん 和気町には、すでに地域おこし協力隊が6名います。横の連携もありますから、単身で移住してきても、きっと寂しくないと思います。協力隊のメンバーが、「和気町は田舎暮”らし初心者の町」と言うほど、ほどよく田舎で、ほどよく都市にも近い。自然豊かな環境ですが、駅も高速道路のインターチェンジもあるので、生活しやすい町ですよ。
ドローン物流やドローンを使ったスマート農業などは、日本でまだまだ取り組む地域が少なく、先進的な取り組みです。前例がないからこその困難もあるでしょうが、一方で和気町から日本、そして世界へ事業システムを広げる大きなチャンスが眠っていることを、庄さんのお話から感じられたのではないでしょうか。
これから加速する人口減少と高齢化を、和気町ではドローン技術を活用して乗り越えようとしています。IoTを使った地域課題の解決に関心がある方は、ぜひ和気町のドローン事業に挑戦してみませんか?
(写真: 若林邦治)