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まちの未来は、子どもの教育にある。岡山県・和気町から学ぶ、教育を軸にしたまちづくり

「できれば、子どもは自然豊かな環境でのびのび育てたい。だけど、教育のことを考えたらやっぱり都会の方がいいのかな……?」

地方への移住を考える、都会の子育て世代にとって「教育」は重要なテーマのひとつ。今回ご紹介する岡山県の和気町(わけちょう)は、そんな子育て世代のニーズを汲んで「教育」を軸に新しいまちづくりを進めるまちです。

町域の多くは山林で、まちの中心には吉井川がゆったり流れている和気町。でも、電車に乗れば岡山駅まで約30分、瀬戸内海の海水浴場には車で1時間もかかりません。和気町役場・地方創生課の海野均さんは、「人間関係も都会ほどドライではないし心地よい距離感なんですよ」と言います。

実は、海野さんは東京生まれ・東京育ち。18歳のとき、ご両親の故郷・岡山の大学に進学するために和気町の親戚宅に下宿し、そのままIターンを決めたそう。今回の取材は、海野さんに和気町を案内していただくことから始まりました。

海野均(うみの・ひとし)
1972年東京生まれ。岡山大学農学部を卒業後、和気町役場に就職。社会福祉協議会、岡山県庁への出向などを経て、和気町の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」の策定に関わる。現在は、総務部 地方創生課にて、まち・ひと・しごと創生総合戦略の実現に奔走する。

満員電車に乗るよりも、のんびり仕事をして暮らしたくて

取材当日、少し早めに和気に着くと駅前でレンタサイクルを借り、小一時間ぐるりとまちを走ってみました。初めて訪れる和気町のイメージをつかんでみたいと思ったのです。

駅の北側にある古い商店街を抜けるとすぐに見えたのは金剛(こんごう)川。海野さんが働いている和気町役場はこの金剛川のほとりにあり、夏になるとちょうど町役場前の河原が子どもたちの水遊び場としてにぎわうそうです。

金剛川と吉井川が合流するあたりで橋を渡り、さらに北上すると山が近づいてきます。この道はかつての鉱山鉄道・片上鉄道(かたかみてつどう)の線路跡にあたるそう。適当なところで引き返し、もと来た道を南下して線路を越えると、大きなスーパーや飲食店が集まっているエリアがありました。お昼どきの飲食店はかなりにぎわっています。

インタビューに先だって、まずは海野さん自身が「これぞ和気町!」と思う景色が見られるスポットを教えていただくことに。すると、海野さんは「ここに登ればまち全体が見渡せますよ」と、小高い山に案内してくれました。

夏になると子どもたちが水遊びをする金剛川

旧柵原(やなはら)町から和気町を通り、備前市を結んでいた鉱山鉄道・片上鉄道が廃線になった跡は、「片鉄ロマン街道」というサイクリングロードになっています

まちを一望できる丘の上から。和気のまちは山地に囲まれた盆地なのです

見晴らしのよい丘からは、ゆるやかに低い山地に縁取られた和気は小さな盆地であることがよくわかります。山があり川がある、ひたすらのどかな景色に心がなごみます。でも、ふと疑問も浮かんできます。東京で生まれ育った20代の海野さんにとって、このまちに住むことは退屈ではなかったのでしょうか?

海野さん いやあ、「東京で、いつまでも満員電車に乗っていられないな」という感覚があって。小中学生のときは、夏休みには両親の実家のある岡山に来ていたので、東京とは違う時間の流れや生活環境があることも知っていました。好きなことをやりながら、のんびりと仕事ができる岡山での暮らしの方が合っていると思ったんです。

Iターンをして、和気町役場で働きはじめてもう20年。もう東京よりもこのまちで過ごした時間のほうが長い海野さん。2年前からは、地方創生に関わる仕事を担当。和気町の「まち・ひと・しごと創生総合戦略(以下、総合戦略)」の策定にも携わりました。

総合戦略の策定には、財務省から派遣されてきた総合政策監の小西哲史さんが中心的な役割を担ったそう。小西さんと海野さんは、なぜ「教育」を軸にしたまちづくりを進めようと考えたのでしょうか。その内容とともに、詳しく伺ってみましょう。

「住めば子どもの学力が上がるまち」を目指して

日本の多くの地域が抱える最重要課題は、20〜39歳の若年人口の転出超過。この年齢層が流出すると、将来的な出生数の減少を招いてしまい、人口減少に歯止めが利かなくなってしまいます。

和気町では、総合戦略を作成するにあたって町内アンケートを実施。20〜30代が居住地を検討するにあたって「職場が近い」「交通の便がよい」等とともに、「教育・保育の環境」を重視していることに気がつきます。

「職場の近さ」「交通の便」は変えられませんが、「教育・保育の環境」であれば改善できます。

和気町は、奈良時代の終わりから平安時代の初めにかけて活躍した「和気清麻呂公」の生誕の地。町内には日本最古の庶民のための学校「旧閑谷(しずたに)学校」の流れを汲む「岡山県立和気閑谷高校」もあります。まちの歴史・風土を背景に、「住めば子どもの学力が上がるまち」を目指すことを考えました。

駅改札を出るとすぐ目の前に、旧銀行跡地の建物をリノベーションした「ENTER WAKE」があります

「町営の無料公営塾の設置」も、2015年10月に策定した総合戦略に盛り込まれた計画のひとつです。2016年1月には、和気駅前にある旧銀行跡施設「ENTER WAKE(エンターワケ)」で、中学1、2年生を対象とした「公営塾」をプレオープン。英語力のある地域おこし協力隊が講師になり、英検対策、宿題指導のほか、国際基督教大学や岡山大学の留学生と「Skype」で話すオンライン英会話を実施しました。

公営塾は、各メディアでも取り上げられ、好スタートを切りましたが、対象学年を広げるにはまず講師数を確保しなければなりません。そこで、和気町は地域おこし協力隊に加え、地元大学(岡山大学、ノートルダム清心女子大学、就実大学など)の学生を講師陣に加えて、本格的な運用を開始。現在は水曜と土曜の週2日開講、対象学年も小学5、6年生と中学全学年に広げることができました。

海野さん 今では、中学生が101名、小学生は58名登録しています。これは、町内の中学生の約3割、小学生は約2割になります(2016年11月末現在)。人気の秘訣ですか? そうですねえ。おそらく若い大学生のスタッフだと思います。他の自治体の公営塾では、教師OBや地域の人たちが講師を務めますが、和気町はなるべく若いスタッフが教えるようにしているんです。

和気町出身で岡山大学に在籍する大道加奈(だいどう・かな)さんも学生講師のひとり。公営塾に関わりはじめた3月頃のことを「教える側も、子どもたちもお互いに緊張していた」と振り返ります。

大道さん 最初はお互い様子見でしたが、私から働きかけるようにするとちょっとずつ心を開いてくれて。最近は、ちょっとした勉強の変化を教えてくれたり、「この前教えてもらったことがテストに出たよ」と報告してくれるようになりました。子どもたちにとっては、学校以外の友だちと一緒に学べるけれど、塾ともまた違うよい感じのポジションの場。私も中学生なら行きたかっただろうなと思います。

オーストラリアでの留学経験もある岡山大学教育学部の大道加奈さん。子どもたちの「お姉さん的存在」として大人気。恋の悩み相談を持ちかける子どもたちも(写真:和気町提供)

和気の良さは「落ち着いた雰囲気、人と人の関わりが近いこと。街にはない自然があること」と大道さん

もうひとつ、公営塾の開講とともに、和気町の総合戦略に盛り込まれたのが、「小・中学校への英語特区の導入」。子どもたちの英語教育を充実させることで、和気町はどんな未来を描いているのでしょうか。

外国人にやさしい「誰もが英語を話せるまち」に

2017年4月、和気町は7校ある小学校を3校に統廃合するため、今までよりも低コストで各小中学校に外国語指導助手を配置できるようになります。このメリットを生かすためにも、小中学校を対象とした英語特区校の認定を受けたいと考えているのです。

英語特区の認定が受けられると、幼稚園や保育園で始めた英語教育を小学1年生から中学校まで途切れることなく学習できます。すると、中学校卒業までの12年間を通し、英語の能力を育成することができるようになるのです。

英語特区実現に向けて、2016年3月からは、ベネッセコーポレーション(総務省の地域おこし企業人制度を活用して社員を招聘)、岡山県教育委員会、そして地元大学教授と和気閑谷高校校長と、産官学の有識者6名で構成する「和気町教育推進連絡協議会」を開催。専門的な見地から「外国語指導助手が常駐し、英語の授業時間数を増やす」「生徒の英語力向上を具体的に評価する」などが検討されたそうです。

アメリカから岡山大学に留学中のクリスさん。公営塾で教えています

和気町が、とりわけ英語に力を入れる背景には、子どもたちが学校を卒業して社会に出るときに役立つ力を身につけてほしいという思いがあります。

海野さん グローバル社会において、英検の取得や英語力アップは必ずプラスになると思うんです。学習指導要領の変更によって、小学校5、6年生の英語活動は授業になります。和気町はそれを先取りして英語特区を申請し、他の自治体に先んじるかたちで独自のカリキュラムを展開しようとしているんです。

学内では英語特区の取り組みを進めつつ、学外では公営塾でフォローする。二重の体制でより手厚く子どもたちの英語力を育てたいと思います。

また、子どもたちが学んだ「英語を使う」機会づくりも、外国人観光客を増やす対策(インバウンド対策)と重ねて検討を進めているそう。

海野さん 教育と同時に観光にも力を入れていこうと考えています。

2020年には東京オリンピック・パラリンピックの開催が迫っていますし、今年は岡山空港に香港便と台湾便が就航しました。旧閑谷学校も日本遺産に指定され、岡山を訪れる外国人観光客が確実に増えています。世界共通語の英語に力を入れることで、観光・サービス分野での仕事もつくり出していきたいですね。

準備段階として、旅館・飲食店向けの英語講座も始めているんですよ。

町営の総合宿泊施設「和気鵜飼谷(わけうがいだに)温泉」には、ソフトバンクのロボット「Pepper」を設置。日本語に加え中国語と英語の観光案内ができるように設定を行っています。今後はさらに、ソフトバンクへ複数台のPepperの無料貸与を申請中で、公営塾や認定こども園(2017年4月~)、観光施設に配置する予定です。「Pepperは楽しいですよ」と海野さんはニコニコしていました。

海野さん Pepperはロボットですから、こちらが間違えても恥ずかしい思いをすることはありません。公営塾でPepperを先生にして英会話をして、インバウンドの観光客にはPepperにまちを案内してもらう。観光と英語とPepperを結びつけられたらいいなと思っています。

外国人観光客の間で「和気に行けば英語が通じる」というイメージが定着すれば、和気を滞在先に選ぶ人も増えるはず。子どもたちにとっては、いろんな国の人たちに出会い、グローバルな視点を知るチャンスも多くなります。

今年9月から地域おこし協力隊としてまちに移住し、公営塾の講師も務める中村和馬さんは、子どもたちの将来のことをこんな風に話してくれました。

中村さん 学校でも公営塾でも、自分から興味を持って主体的に学んで、自分の将来と結びつけながらポジティブに勉強する姿勢が育ってほしいと思っています。公営塾は地方創生の事業のひとつ。この場が、和気町に対する愛着心を育み、このまちとの絆になる役割を担えたらいいなと思っています。ここで学ぶことで「和気町って面白いまちだな」と思ってもらいたいですね。

マンツーマンで英検対策の指導をする中村さん

生まれは東京の葛飾柴又。「柴又なんて何もないと思っていたけど、離れてみてまちの良さに気づいた気がします」

公営塾、英語特区構想、インバウンド対策、Pepperの設置などなど。総合戦略が策定されてからの約1年で、「教育のまち」に向けた和気町の取り組みは急ピッチで進められてきました。「総合政策監が持っている国のスピード感についていくのは大変ですよ」と海野さんは言いますが、計画が現実のものになっていくことには手応えも感じているようです。

海野さん 大きなまちだったら、ここまでのスピード感では動けませんし、無料の公営塾という取り組みもなかなかできないと思うんです。小さなまちだからこそできる教育の充実と施策を打ち出していって、結果的に子どもたちの学力向上につながれば。将来的には、公営塾で学んだ子たちが大学生になったときに「私も教えたい」と戻ってきてくれたらうれしいなあ。

最後に、移住を考える人たちに「これだけは考えておいてほしい」ということを、聞いてみました。都会の暮らしでは想定できない「移住者のお困りごと」はありませんか?

海野さん 和気町内での仕事探しはなかなか難しいので、岡山など都市部への通勤も考えていただくことになると思います。あと、暮らしていく上で車は必要ですので、それが経済的な負担にはなりますね。ただ、岡山駅まで電車で約30分で行けますし、都市部に比べて家賃が安かったり、ご近所付き合いがうまくいっていれば野菜がもらえることもあるというメリットはありますよ(笑)

今の和気町には、新しい未来をつくっていこうとするエネルギーがあります。その熱が、大学生をはじめとした地域おこし協力隊の人たちを惹き付け、子どもたちの可能性を育てていく循環を生み出しているように見えます。

海野さんが言うように「今、公営塾で学んでいる子どもたち」こそが、まちの未来をつくる人たち。もしも、この記事を読んでみて和気町の未来に明るい光を感じるのなら、一度まちを訪ねてみませんか? あなたと、あなたの家族の未来もそこで待っているかもしれません。

(撮影: 浜田智則

[sponsored by 岡山県和気町 / ココホレジャパン]