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「食」は、人が自然とつながるメディア。青山ファーマーズマーケットのチームが”food experience(食の体験)”を提供し続ける理由

みなさんが「自然とつながっている」と感じるのは、どんなときですか?
森のなかにいるとき。田園風景を眺めているとき。海のなかで波に揺られているとき…。頭に浮かぶのは、どこか田舎にいるときのイメージではないでしょうか。

でも今、都会にいながら自然とつながる生き方をする人が増えています。自然電力とgreenz.jpのパートナー企画「都会で自然とつながって生きることはできるのか?」は、そんな生き方をする人を紹介する連載です。

第2回でインタビューしたのは、メディアサーフコミュニケーションズ株式会社、通称「メディアサーフ」で「青山ファーマーズマーケット」の企画・運営を行う田中佑資さんです。

いまや東京・表参道の風景のひとつとなりつつある青山ファーマーズマーケット。訪れる人からは「都市の真ん中にいながら、新鮮で美味しい野菜や果物を農家さんから直接買うことができる」と好評で、毎週土日には約15000名もの方が訪れ、会場は賑いをみせています。(青山ファーマーズマーケットについては、こちらをあわせてお読みください)

開始からこれまで、「マーケット」という場を通して都市に住む人と農家さんの新しい関わり方を提案し、ひとつのムーブメントへと成長させてきたのが、ファーマーズマーケットのプロジェクトチーム「NPO法人Farmer’s Market Association」。田中さんをはじめとするメンバーが、これまで大切にしてきたこと、そしてこれからの10年で挑戦したいこととは?その答えからは、都市で生きながら自然と共にあろうとする田中さんたちの姿が見えてきました。

田中佑資
1985年東京都生まれ。 メディアサーフコミュニケーションズ株式会社にて、青山ファーマーズマーケットの企画運営、『NORAH – Farmer’sMarket Chronicle』の編集に携わる。現在は、青山ファーマーズマーケットと同時開催している『TOKYO COFFEE FASTIVAL』『青山パン祭り』『AOYAMA SAKE FLEA』など、それぞれのテーマに合わせたマーケットの企画運営も担当。その他ケータリングなど、食を中心とした活動を展開している。

心地よい循環を生み出す ”food experience” とは

「今日のりんご、どう?」
「甘味と酸味がバランスよくて美味しいんだ。ちょっと食べてみてよ!」

気持ちのよい休日の昼下がり、農家さんと、立ち寄った人の明るい会話があちこちで聞こえてきます。

青山の国連大学前で開催される青山ファーマーズマーケットは、全国の農家さんを中心に料理人や職人などのつくり手が、野菜や果物、お茶、パン、お菓子、オーガニック食材などを持ち寄って販売するマーケットです。

東京・表参道の青山ファーマーズマーケット。国連大学前に移転してからの9年間、ほとんど休むことなく毎週末開催されてきました

今から11年ほど前に表参道のGYREというビルの地下1階で、たった5店舗から始まったこのマーケットは、9年前に現在の国連大学前に場所を移し、いまでは1日に約100店舗を集めるまでに成長しました。

農家さんと訪れるひととの団欒の一コマ。「元気?」から始まる友達のような会話が印象的

運営しているのは、メディアサーフのメンバーを中心に編成されるプロジェクトチーム「Farmer’s Market Association」。創業時から青山ファーマーズマーケットの企画・運営を担当する田中佑資さんは、プロジェクトが始まった当初をこう振り返ります。

これまでの11年間、「野良を目指して」というコンセプトを掲げてきました。野に良いって書いて、野良。自然を表す言葉です。人間活動の基盤には自然があるから、その自然と向き合おうと。そしてそのために、自然と密接に関わって生きる農家さんをサポートしていきたいと考えていました。農家さんが買う人と直接出会って自分のファンを増やすことで、収入を最大限に得られる環境をつくりたいと思ったんです。

そんなとき、メディアサーフの代表である黒崎が「世界中の街を見たときに、いい街だと感じる場所には必ずいいマーケットがある。日本にもそういう場所をつくりたいね」という話をしていて。そもそもいいマーケットってなんだろう? と、各地を回りながら考えていると、僕たちがいいなと思うものに共通していることがあったんです。

それは、“食べ物をつくるところから食べるところまでを、ひとつのストーリーとして体感できる場所”であること。だから、日本でもそんな場所がつくれたら、と思いました。

田中さんが言うように、青山ファーマーズマーケットが大切にしているのが、食べ物をただ食べるだけではなく、食べることを通じて新しい発見を提供すること。今では、それを”food experience(食の体験)” と呼んでいるそう。

食べ物のことって、知っているようで意外と知らないことが多い。こうやって食べるんだ! とか、こんなの食べられるんだ! とか、新しい発見に満ち溢れているんです。僕たちは、food experienceを通して、そんな発見を共有していきたい。そのためには、どうしたらいいかを考え続けてきました。

そこで参考になったのが、アメリカ・サンフランシスコのファーマーズマーケット。そのマーケットは、出店している農家さんひとりひとりを、ホームページなどで丁寧に紹介しています。農園の歴史や働く人のキャラクター、経営体制、オーガニックなどの認証を取っているかだけでなく、雑草が生えていることに対してどう考えているか、作物が病気になることに対してどういう考えを持っているかなど、農家さんの価値観も公開しているそう。

オーガニックだとしても美味しくなければ買わないし、この人から買いたくないと思ったら買わない。値段が高すぎても買わないじゃないですか。僕らは生産者ではありませんので、僕らができることは買う人と売る人がお互いに納得して取引ができるよう、発信する側が情報をできるだけオープンにすることだと感じました。

その農家さんや野菜に興味を持ったら食べてみて、気に入ったらまた買って。食べ物を通して買う人の発見や共感が増えると、農家さんの収入も増えて、またさらに美味しい農作物をつくることができます。food experienceを提供することは、そんな心地良い循環につながっていくのです。

「food experience」をつくりたいという思いの原点は、学生時代に見た畑の風景

つくるところから食べるところまでを、ひとつのストーリーとして体感できる場所をつくりたい。

田中さんは、なぜそう思い始めたのでしょうか。その原点は、田中さんの学生時代の経験にありました。

青山ファーマーズマーケットの企画・運営を行う田中さん

田中さんは高校生のとき、野球部に所属し、トレーニングの一環で食事の勉強をしていたときに「食べ物をつくることはとても大切なことなのに、なぜ農家さんはまったくスポットライトを浴びていないんだろう?」と違和感を感じたそう。

実際の農家さんの姿はどのようなものなのか、自分の目で確かめるために改めて祖父母の畑へ足を運んでみると、これまであまり目を向けてこなかった農家さんならではの農作物を育てるための工夫や、その周りにある豊かな自然を目の当たりにします。そこには田中さんにとっての新しい発見が溢れていて、未知の世界に好奇心を駆り立てられたそう。その後はいろいろな農家さんのもとへ訪れるようになりました。

農家さんのところへ通うようになって感じたのは、こだわりを強く持っている農家さんの作物ほど、既存の流通では価値がつきにくいこと。

たとえば、有機栽培や自然栽培にこだわると、従来の農薬を使った栽培方法に比べて収穫量が十分に確保できず、規格外(不揃いな野菜など)の野菜の割合が多くなってしまうことがあります。農家さんが一生懸命につくった野菜は規格外でも食べると美味しいし、捨ててしまうのはもったいない。けれど今の市場では規格外の野菜はなかなか取り扱ってはもらえません。

そうなると、農家さんは市場を通さずに自分の野菜を買ってくれるお客さんを自分で探さなければいけません。でも、どうやって探したらいいかわからない人も多かったんです。

一方で、友人を誘って農家さんのところへ行くと、普段農家さんや畑に接することがないのでとても喜んでくれました。「オクラってこんな花なんだ!」とか「空気がきれいで癒される〜」とか。農業に触れると、人間も自然の一部なんだと感じることができる。接する機会がないだけで、関わってみると結構楽しいんですよね。

そのとき、農家さんと都市に住む人がお互いに出会うことにニーズがあるんだなと感じて、そんな出会いの場所をつくっていきたいなと思いました。

出会いの場所をつくることを通して、自分が好奇心を駆り立てられることを、同じように好きになってくれる人に伝えていきたい。そして「好き」という共感の輪が広がることで、農家さんのサポートができるはず…。学生時代の田中さんの中にはすでに、今の ”food experience” につながる思いがあったのです。

「好き」を共有できる仲間と一緒に、農業の可能性を広げていく

「好き」という共感の輪を広げていくためには、自分たちの「好き」をまっすぐに伝えていくことが必要です。田中さんをはじめとする「Farmer’s Market Association」のメンバーは、出店してもらう農家さんを決める時にも「この人から買いたい」「この人の野菜が好きだ」という自分自身の感情を大切にしているそう。そのため、まずは農家さんとの1対1のコミュニケーションからスタートします。

僕たちにとっては、農家さんが自分自身のやっていることを好きかどうかが大切。

ある唐辛子専門の農家さんは、普段エンジニアをしていますが、唐辛子が好きすぎて、ある時ホームセンターで見かけた唐辛子の苗を育ててみたら面白くなっちゃって。今では唐辛子だけで年間100種類も栽培しているんです。累積では、約1000種類は育てていて、もはや研究者ですよね。農家さんも人間だから、それぞれにキャラクターがあって面白いんですよ。

もうひとつ大切なのは、その農家さんが作物を生産した先に目指す未来が描けているかどうか。「美味しい野菜をつくる」ことの先に、直接届けて喜んでもらいたい、料理人とコミュニケーションをとりながら自分の役割を考えたい、など一歩先の視点を持つ農家さんを応援したいのだそう。

旬の野菜をピクルスにして販売。見た目も美しく、手に取りたくなります。

さらに青山ファーマーズマーケットでは、農家さんが新しい情報に触れることで「面白いな」「自分はこうしてみよう」と刺激を受けて、仕事の可能性を広げる機会をつくることも目指しています。

ワインのイベントの後、出店者さんとみんなで交流会をした時に、ある農家さんがまたたびの塩漬けを持ってきてくれて。ケッパーに香りが似ていてワインにぴったりで、「またたびはこんな風に食べられるんだ!」って発見がありました。日本の今の農家さんたちはこのことをどれだけ知っているかといえば、多分知らない人が多いと思うんです。そんな発見を一緒に面白がっていきたいですね。

農家さんのために様々な分野の垣根を越えた「出会い」をつくり、関わる人たちみんなで新しい発見を共有する場をつくることも、田中さんたち運営チームの役割であるといいます。

農家さんも仲間の一員。農家さんからは、ファーマーズマーケットに参加するようになってから「難しいことを考えるのもいいけど、硬くなりすぎずにまずは自分自身がその場を楽しむことが一番!という考え方に変わった」という声も。

食を通して、都会で自然とつながって生きる

田中さんの話を伺っていると、「食を通して都会で自然とつながって生きる」という生き方の哲学が見えてきました。

食べ物は、植物だったり動物だったり、命ある生き物。種があって、芽が出て育って、実がなって、また種になって還ってくる。そういうプロセスがあるけど、僕たちは食べ物を「食べられる状態」というごく一部の状態でしか捉えられていないんです。

生き物だから、たとえ同じものを育てていたとしても、生育環境が違ったり、年によって天候が変われば、味も食感も変わってくる。生き物としてのプロセス全体を知り、体感することで、そういった小さな変化を理解できます。こういう体験を通して、人の想像力や知識が豊かになっていくんだと思います。

食べ物は、植物であり、生き物である。農家さんとの会話から、生き物としての成長のプロセスを知ることができます。

食べることを通して、都会に生きながらでも自然とつながって生きることができる。しかしそれは「そうしなければいけない」という義務感からではなく、「気持ちがいいから、そうしたい」というポジティブな感覚にもとづいた生き方だと田中さんは言います。

本来は人間も、人間がつくる都市も、すべて自然に内包されるもの。大きく捉えると、僕は人間が生み出したものも自然に含まれると思うから、単純にプラスチック=不自然、ということではないと思うんです。

でも、感覚として「こっちの方が美しいな」「気持ちいいな」ということはあります。それは、もともと体が「美しいこと」「気持ちいいこと」知っているからだと思うんです。人間って不思議と、汚くて不快なところには近寄りたくないじゃないですか。綺麗に掃除して気持ちよくするだけで人が近寄るようになる。自然か不自然かというよりは、僕は何事においても「気持ちよいかどうか」を体で感じて判断することが大切だと思っています。

青山ファーマーズマーケットでは、「気持ちよく」あるために電力も自然エネルギー由来に変えていきたい、と田中さんたちは考えているそう。

僕たちは毎週末マーケットをやっていますが、音楽を流したり電気をつけたりと、常に電力をつかっています。でも、なるべくサステナブルなほうが気持ち良いんですよね。だから、マーケットで使う電力を自分たちでつくればいいじゃないか! と、三輪自転車で自家発電の機械をつくったりもしました。全ての電力をまかなうには容量が足りなかったんですが、その電力で音楽を流すとか、そういうところから少しずつ切り替えていけたらいいなと。

みどり号というソーラーパネルを積んだ車もあって。一台あれば、山の中でもどこでもパーティができるんです。自然エネルギーを使うことで何十年先も同じように楽しくパーティが続けられるんだったら、その方がいいなと思って。

ソーラーパネルを積んだ「みどり号」。

食においてもエネルギーにおいても、正義感にかられて取り組むのではなく、気持ちいいから、好きだから、楽しいから、続ける。運営メンバーだけでなく、農家さんや訪れるひとなどファーマーズマーケットに関わる全員が、そんな価値観を共有する仲間なのだと感じました。

自然と密接に関わる農家さんをバックアップしていきたい

初回の開催からおよそ10年が経った、青山ファーマーズマーケット。インタビューの最後に、これからの10年で挑戦したいことをうかがいました。

自然と密接に関わる存在である農家さんをサポートしたいという思いは、これまでもこれからも変わりません。ファーマーズマーケットでの販売はもちろん、農家さんの収入の最大化にはそれだけだと足りないので、もっと方法はないか、可能性を探りたいと思っています。

最近は、野菜を瓶詰めにする「TOKYO BINZUME CLUB」など、農家さんの畑で出る規格外のロス野菜を加工品にして販売するプロジェクトを開始。季節に応じて、ジャムやジュース、チャツネなどのプロダクトをつくっています。

「TOKYO BINZUME CLUB」のプロダクト。ジャムやジュース、チャツネなどを販売

他にも、月額の会員制サロン「コミュニティクラブ」を運営して農家さんの学びやアイデアを生み出す場をつくったり、賛同者にお金を募って積み立てて、災害などで農家さんが困った時にそこからバックアップする、という制度も始めています。さらに今後もさまざまな取り組みを計画中だそう。インターンシップも募っていますので、興味のある方はファーマーズマーケットのぺージから問い合わせてみてください。

ファーマーズマーケット運営チームのみなさん。笑顔が絶えない、仲の良さそうなチームです。

「これからもずっと、苦労はあると思いますが、仲間と気持ちよく、楽しく過ごしていければ」。そう笑顔で話す田中さんたちからは、無理なく自然体で「都会で自然とつながる」生き方のヒントを教えてもらったように思います。

そして田中さんの考え方は、分野は違えど、この連載の第1回でご紹介した、ヘアサロン「TWIGGY.」オーナー松浦美穂さんが「気持ち良さを追求することが、環境にいい暮らしにつながる」と語っていたことともつながります。

まずは私たちひとりひとりがどうすれば気持ちよく過ごせるかを考えること。それこそが、「都会で自然とつながる」生き方、そして持続可能な社会をつくる第一歩なのかもしれません。

(写真: 山﨑裕一)

盛岡 絢子(エディター・ライター)

盛岡 絢子(エディター・ライター)

1991年神戸生まれ。求人広告のディレクター/ライターを経て、八百屋で野菜を販売するかたわら、食に関する本や冊子、フライヤーを制作しています。モットーは「素直に生きる」。植物と庭がすきで、部屋にある植木への水やりが日課。

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