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遅くても、面倒でも、日常を自分で選ぶ。COMMUNEのクリエイティブディレクター上田亮さんが見出した、”小さいこと”で広がる可能性

みなさんが「自然とつながっている」と感じるのは、どんなときですか?

森のなかにいるとき。
田園風景を眺めているとき。
海のなかで波に揺られているとき…。

頭に浮かぶのは、どこか田舎にいるときのイメージではないでしょうか。

でも今、都会にいながら自然とつながる生き方をする人が増えています。自然電力とgreenz.jpのパートナー企画「都会で自然とつながって生きることはできるのか?」は、そんな生き方をする人を紹介する連載です。

今回お話を聞いたのは、札幌・東京・ストックホルムの3拠点で活動するクリエイティブディレクター、上田亮さん

上田さんは、クリエイティブコレクティブ「COMMUNE」代表として、ブランディングやプロデュースを中心に活動しています。

これまで、スウェーデンお茶ブランド「Yuko Ono Sthlm」、フレンチレストラン「aki nagao」「french panda」「Bird Watching」野球チーム「東北楽天ゴールデンイーグルス」シーズンチケット、菓子メーカーきのとや「La La La Cookie」、電力企業「INFLUX」、カフェ&ロースター「Ritaru Coffee」などのデザインなどを手掛けてきました。

デザインにおいて大切にしているのは「本質的であること、シンプルであること、美しいこと、機能的であること、協同的であること、永続的であること」。

上田さんは自身が立ち上げたプロジェクト「MEET.」のウェブサイトにて「震災と原発事故以降、今ある日常の危うさ、本当の幸せとはなにかについて、考えるようになった」「デザインやアートだけがクリエイティブではなく、暮らしかた・生き方を学ぶことや地域や社会のために何かをやることもクリエイティブ」と語っています。

札幌やストックホルムでの日常、キャンプやスキーを楽しむライフスタイル、さらには震災以降の挑戦から導かれた「小さくあり続ける」という哲学などを、札幌の中心地からほど近いCOMMUNEのオフィスで伺いました。そこから見えてきた、上田亮さん流の「都会で自然とつながって生きる」生き方とは?

上田亮(うえだ・りょう)
クリエイティブコレクティブCOMMUNE代表・クリエイティブディレクター。デザインにおいて、本質的であること、シンプルであること、美しいこと、機能的であること、協同的であること、永続的であること、を理念として、ブランディングやプロデュースを中心に活動。様々な企業やショップ・飲食店などのアイデンティティから、パッケージ、ウェブサイトやインテリアまで、デザインが関わることができるすべての領域でクライアントワークを行う。また、札幌オフィスに併設する、出会いと学びをテーマにしたクリエイティブサロン「MEET.」にて、展覧会、ワークショップ、トークイベント、ライブなど、様々なプロジェクトのオーガナイズを行う。更に、ともに学び、ともにつくるをテーマに、将来的にエネルギーや食材などを自給することを目指すOFF-GRID CAFE「PHYSICAL」を運営するなど、インデペンデントな活動も積極的に行う。2011年には、1年のうち1ヶ月をスウェーデンで暮らす「1/12 SWEDEN PROJECT」をスタート、2014年には、札幌国際芸術祭にて本の交換プロジェクト「BLIND BOOK MARKET」を開催し、活動の領域を広げている。

ワンフロアに広がるオフィス、サロン・カフェ

上田さんが代表をつとめるCOMMUNEは、北海道の仕事が7割、東京の仕事が3割、さらに海外からのオファーもあるそう。

農家さんや飲食店、中小企業のような小規模のクライアントの場合、課題や目的などが曖昧なケースが多く、それを聞き出すところからスタートします。課題や目的などがはっきりしたら、ソリューションを提案・提供するのが僕らの仕事です。

生産者さんだと生産物の価値がきちんと伝わって、生業が成立するように何ができるのか考えること、中小企業だとクライアントのブランド価値が上がることで、ビジネスをより良く成立させることなど、ビジュアルに関わる部分だけでなく、経営や未来へのビジョンの策定にも関わります。

COMMUNEのオフィスでは、100坪ほどの広々としたフロアの一部に、これまで手掛けたパッケージ・グラフィック・プロダクトデザインなどの仕事が展示されています。この他に、イベントスペース・カフェも同フロアに併設しています。

2年ほどかけて、札幌駅の西側エリアで物件を探しました。通常は流通の拠点になりうるエリアなのですが、おもしろいことができる可能性がありそうだな、と。結果的には、100坪という十分な広さがあり、ワンフロアで様々な機能が展開できるこの物件に出会いました。

ここでは、オフィス機能の他に、クリエイティブサロン「MEET.」と、オフグリッドカフェ「PHYSICAL」をつくりました。

「MEET.」では、自らイベントを企画したり、レンタルスペースとして貸し出したりしています。アパレルやアウトドアブランドのポップアップショップ、企業のワークショップやマーケットイベントなども不定期で開催しています。また、「PHYSICAL」ではスウェーデンやヨーロッパで、デザインやエシカルな目線で買い付けてきたプロダクトを販売もしています。

デザインという仕事において、クライアントやパートナーとのコミュニケーションはとても重要です。このようなスペースを自分たちの実績やビジョンを伝えるショールームとして機能させることで、自分たちをより理解してもらえたり、デザインのアイデアが湧き出てくると考えています。

また、仕事に関わる人だけでなく、カフェやイベントに来ていただく方にも、自分たちのことを知っていただける場所としての役割も期待して運営しています。

オフィスに併設されたオフグリッドカフェ「PHYSICAL」が目指しているのは、広義でのオフグリッド。エネルギーだけでなく、あらゆるものを自分たちでつくるという上田さんの哲学があらわれています。

既存の仕組みを盲目的に受け入れるのではなく、しっかり考えて選びたいし、つくりたいんです。つまり消費活動も創作活動も、自立した選択をしたい。

そのためには、お互いの考えを知り、顔が見える関係を築いたり、それぞれの生業をつなげることで、支え合うような小さいネットワークをつくり、その中で循環していくようなコミュニティが必要だと感じています。

PHYSICALでは、どんなカフェをつくるかを、建築家やインテリアデザイナーさんに集まってもらって考えたりしました。店内でつかっているソファーは、中古パレットを購入して、インテリアデザイナーに設計してもらい、クッションも職人さんに帆布の端材をつぎはぎしてつくってもらいました。様々な人が関わってひとつずつ、つくり上げてきたんです。

中心地から15分でスキー場に行ける札幌、週末はコミュニティガーデンで過ごすストックホルム

現在、上田さんは札幌・東京・ストックホルムの3拠点で活動しています。東京は仕事で適宜滞在する程度で、生活の中心は住まいがある札幌。ただし、出身は滋賀。札幌には大学時代からきて、そのまま20年以上暮らしているそうです。今では、地元の滋賀よりも北海道で暮らした期間の方が長くなったと言います。

人生の半分以上を過ごす札幌。大自然がすぐ近くにあり、梅雨はなく、夏は涼しく、冬は世界有数のパウダースノーがある環境で、畑やキャンプや登山、スキーなど、自然と戯れるライフスタイルを満喫しています。

札幌市内にはいくつもスキー場があり、一番近いスキー場は車で15分。仕事帰りにナイタースキーを楽しむ人もいますし、山では朝一番でパウダーを滑ってから会社に行く方もいます。スタッフとみんなでキャンプにもよく行きますね。脳科学的にも、都市部よりも自然の中のほうがリフレッシュできることは証明されていますし、キャンプの段取りやチームワークは、デザインのマネジメントとも近いので、学びもあります。

ストックホルムとの縁は、大学在学中に留学したことで始まったそうです。その後、約20年にわたって日本と行ったり来たり。現在は1年のうち1ヶ月をスウェーデンで暮らす「1/12 Sweden Project」を実践しています。

大学時代、グローバルな仕事がしたいという漠然とした海外への憧れがあり、大学の交換留学制度を利用してスウェーデンへ短期留学したのが最初でした。

授業で知るスウェーデンは、日本の文化と対極にあるとされることが多く、スウェーデン人は日本人とはかなり違うと考えていました。ところが、実際に行ってみるとまったく印象は違いました。自分が出会ったスウェーデン人は、思慮深く、礼儀正しく、とても日本人に似ているんです。

スウェーデンは、人口は1000万人ほどしかなく、自然が豊かで、社会福祉や教育が非常に成熟しています。冬は寒いですが、人々のライフスタイルも豊かで余裕がありますし、とても暮らしやすく感じました。北海道の自然環境やライフスタイルと近いものがあり、これからの自分の北海道での暮らしのモデルになるのではないかと考えています。

写真提供: 上田亮さん

上田さんはストックホルム滞在中は、現地の友達の家を転々としながら、旅行者というよりも現地の人のように生活しているそうです。実際には、どのように時間を使っているのでしょうか?

普通に「暮らして」います。いわゆる観光はほとんどしません。

僕が滞在する夏は、日本と約8時間の時差があるので、ストックホルムの朝が日本の夕方。まず朝起きたら、すぐにオンラインで札幌のスタッフとミーティングをします。1日の報告や、デザインのチェックなどを済ませ、自分の仕事も15時くらいまでに終わらせます。

そこからフリータイム。22時頃まで明るいので一日が長く使えます。友達と会ったり、カフェに行ったり、ランニングしたり、登山もします。あとは、自炊したり、パンをつくったり。北欧の男性はパンを焼ける人が多いんですよ。

写真提供: 上田亮さん

こういった日常を過ごしつつ、スウェーデンのサスティナブルなライフスタイルもしっかりチェックしているようです。スウェーデンの人々が生活に取り入れている自然との営みを教えもらいました。

スウェーデンにはKoloni Lott(コロニーロット)という小さい小屋付きのコミュニティーガーデンの文化があり、畑で野菜を育てたり、週末をその小屋で過ごしたり、自分の時間を大切にしています。

写真提供: 上田亮さん

スウェーデンでは、Allemansrätten(アッレマンスレッテン)という自然を享受する権利が憲法で保証されているんです。土地の所有者でなくても、森を歩いたり、湖で泳いだり、きのこやブルーベリーなどを自由に採ることができるので、休みには森や湖に出かける人も多いです。

ストックホルムから車で40分ほどの場所にあるJärna(ヤーナ)という街では、エコやサステナブルなライフスタイルに関心が高い人達が多く住んでいます。そこに住む大学教授のSiri(シリ)さんとその家族は、オフグリッドハウスをDIYで建て、排泄物も肥料にし、食べ物はほぼ自給している。1月に出るゴミはスーパーのビニール袋1袋分。そして、さらに、土地を移住者に開放して、Eco Byggというエコハウスの工法を教えながら、家を立て、エコビレッジをつくるなど、学ぶことも多いんです。

写真提供: 上田亮さん

日常を守るために、何が一番良い選択肢なのかゼロから考えた

クリエイティブディレクターという多忙な仕事をこなしながら、イベントスペースやカフェをつくったり、ストックホルムでの生活をプロジェクト化したりと、忙しく活動する上田さん。なぜこういったライフスタイルを選んでいるのでしょうか? その背景には、今ある日常の危うさに気づいたことがあります。

東日本大震災では、札幌もかなり揺れました。原発のこともありましたし、これからも当たり前にあるはずだと思っていた日常が、意外に脆いものなんじゃないかと感じました。これからも北海道で、仕事も暮らしも、自分なりに実現していけると思っていたことが、実現できなくなるかもしれない。そして、何より、家族と過ごす日常、仲間と働く日常こそが、本当に大事なんだということに気づきました。

サロンやカフェスペースをつくったり、ストックホルムでの生活をプロジェクト化したりと、前述した活動が本格的にスタートするのは2011年以降。上田さんは、東日本大震災をきっかけに、自分の日常における「選択」を見直しはじめます。ゼロから少しずつ自分たちで日常をつくれるような選択をする。その選択をするために、学びや実践をしていく。スピードは遅くても、面倒くさくても。

震災の後「あらかじめいくつか用意されているテンプレートを選んでいくような人生はいやだな」と思ったんです。

コンビニに行けば何でも手に入るので、ついコンビニでご飯を買ってしまう。でも、オーガニックスーパーで買うとか、友達の農家から買うとか、自分で育てるとか、食べ物を手に入れる選択肢はいろいろあります。自分にとって何が一番良い選択肢なのか、ゼロから考えたかった。それは不便であることを受け入れる必要があったり、より手間がかかるかもしれないですが。

イベントスペースやカフェも挑戦のひとつ。畑は5年くらいやっています。鶏の屠殺をやらせてもらったり、豚の解体も見せてもらったりもしました。そういった経験をすると、日々の暮らしに必要な物事に対して、いかに自分が無知で、何もできないかがわかります。同時に、そういうことを知っていく喜びも実感します。100を目指すとしたら、まだ0.1ぐらいのステップですが、一つひとつをつなげながら、少しずつ、形になっていると思います。

写真提供: 上田亮さん

振り返ると、上田さんはどんなことでもゼロからイチにすることに興味があったといいます。

考えてみれば、仕事もほぼゼロからスタートしました。

デザイン会社を約3年で独立し、フリーランスデザイナーとしてスタートしましたが、最初からクライアントがいたわけではなかった。当時はいろんな人にとにかく会って、ポートフォリオを見せたり、ビジョンを語ったりしていくうちに、少しずつクライアントが増えました。

外国人スタッフがたくさんいたり、海外のクライアントもいる環境や、デザインだけでなくブランディングの仕事をすることになったことも、COMMUNEのデザインメソッドやワーキングスタイルをゼロからつくり上げたから実現できたんです。

小さくありつづけることで広がる可能性

話を聞きながら、上田さんの生き方は、アメーバのようだと感じました。デザインだけでももなく、カフェだけでもなく、畑だけでもない。急激にどちらかの方向に直進するのではなく、さまざまな方向に少しずつ伸びていき、その面積を徐々に広げていくような。

社会におけるお金を生み出すための仕事と、本質的な人の暮らしは別物だと考えると、どちらか一方が多くを占めてしまうライフスタイルは、けっこう苦行ですよね。お金があっても働いてばかりの人生は豊かなのか疑問だし、社会との接点が少なく、お金もない原始的な暮らしも幸せと言えるかわかりません。

つまり、ワークとライフが相反するものだとすると、どちらに振れすぎても不幸な状態なので、ワークがライフであり、ライフがワークである状態、つまり、暮らしが仕事とつながっていて、仕事が暮らしにつながる状態が理想だと考えています。

また、上田さんは自分たちが何かをやる上で「小さいことが大切」だとも感じているそう。

たとえば、美味しくて健康的なお弁当を誰かに食べてもらいたい人が、身の丈にあった規模で商いをしているうちは問題ないのですが、企業や経営を維持・拡大するために、もっと売ろうとすると、より安い材料を使ったり、防腐剤を添加したり、膨大な食品ロスを生んだりする。つまり不誠実になります。今の社会にはそういうものが溢れていて、それをみんな選んでしまっている。

小さくあることで、自分の身の丈に合ったレベルの生活や仕事を維持できる。そんな思いがあるからこそ、 上田さんは、自身の会社を大きなチームにはしません。

僕らの仕事には大企業の仕事もあるし、やりがいがありますが、個人や小さなクライアントの仕事も大切にしたいと思っています。

たとえば、北海道の自然の中で残留農薬のないはちみつをつくる養蜂家さん、実家を継いで地域で希少なリンゴ栽培を続けている農家さんなど、誠実に良いものをつくっているのに、買う人や売る人に価値が伝わっていなかったりする方々のビジネスに対して、ブランディングとデザインで、うまくいくためのお手伝いしていきたいんです。きっと彼らは利益のために魂を売ることはないし、いまと変わらず誠実であり続けると信じられるから。

小さなチームや個人にデザインを提供することで、程よい循環が生まれていく。そんな希望を見いだせるのは、札幌の都市としての大きさも関係していそうです。

札幌の人口は約200万人。これはアメリカだとニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、ヒューストンに継いで5番目と、意外に大きい。面積も実は東京23区より大きいんです。

しかも自然がすぐ近くにある。たとえば、郊外のレストランであれば、フレッシュな食材と自然に囲まれたロケーションという東京にはない価値を持っている。自覚的ではないかもしれませんが、キャンプとか登山とかウィンタースポーツなど、自然の中で本気の遊びを知ってる人が多いのも札幌らしさかもしれません。

偶然導かれた札幌という土地で、自分にとって程よい大きさを保ちながら、自然に寄り添う人としての営みと、クリエイティブディレクター業を両立する上田さん。将来的には、広い土地を手に入れて、自分の暮らしをさらにつくっていきたいと言います。

今、札幌から1時間前後で行ける場所で、数万坪の山を探しています。そこにスウェーデン人の大工と一緒に高気密工断熱のパッシブログハウスを建てる計画をしています。

その土地をいろんな人に開放して、知恵を持ち寄り、学びながら実践していきたいんです。採れた野菜をカフェで使ったり、滞在できるツリーハウスホテルを建てて、白樺の森と雪の世界を堪能してもらったり。自分たちの暮らしと仕事をつなげて、小さな生業の成立するコミュニティをつくりたい。

デザインで人や地域の未来を良くするお手伝いをしながら、自分たちの周りも、少しずつだけど、理想に近づいています。まだまだ時間はかかりそうですけど。

上田さんは、希望を見出す勘がとても鋭いのでしょう。目の前にある選択肢の中から、どれを選ぶと自分にとって心地よいのかが分かっている。取材の終わり際「こうやって自分がやっていることを、きちんと言葉で説明できるようになったのは、最近なんですよ」と、上田さんは笑っていました。

本能的に「こっちに希望があるのでは?」と走り、実践し、ちょっとスローダウンしながらも続けていく。そんな挑戦を何度も繰り返していったら、アメーバのように可能性が押し広げられていた。そんな中で上田さんが気づいたのが、”小さいこと”で広がる可能性でした。

”大きいこと”が価値であると思われがちな現代において、”小さいこと”の価値を体現している上田さん。そのライフスタイルは、都会で自然とつながって生きようとする人たちのひとつのロールモデルとなりそうです。

(撮影: ササカカオリ)