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私はすぐにやらない理由づくりをしていた。専業主婦からフリーランスのカメラマンへ転身した渡部由佳さんが、今目指すのは、ママが楽しい働き方を実現すること。

渡部由佳さんは、1歳半のお子さんがいる一児の母です。
妊娠を機に、多忙だった大手監査法人の会社員を辞め、しばらくは専業主婦になるつもりでした。

ところが、お子さんが1歳になる頃には、東京の多摩地域を拠点とするbaby、kids、familyの専門フォトスタジオ「photo studio present」をオープン。さらに、知人男性とともに、子ども向けの自然体験教育を提供し、成長ぶりをプロカメラマンが記録する「outdoor photo studio OSOTO」も立ち上げ、法人化しようと、新しい道を突き進んでいます。

なぜ専業主婦になるはずが、フリーランスのカメラマンに?
渡部さんが一歩を踏み出した経緯をうかがいました。

渡部由佳(わたなべ・ゆか)
1982年千葉県成田市生まれ。大手監査法人でコンサルタントを経て、2018年に1月に「photo studio present」オープン。現在、「outdoor photo studio OSOTO」代表として法人化も進めている。「親子の日写真コンテスト2017」オリンパス賞受賞。2016年に長女を出産。今年の春、世田谷区から福生市へ拠点を移す。趣味は波乗りとキャンプ。「世界ふぐ協会」会長。

企業で働くママは、奇跡のスーパーウーマン

最近では、女性が産休を取って、職場に復帰することが当たり前のように増えてきました。そんななか、渡部さんは妊娠をきっかけに、行政書士として働いていた大手監査法人を辞め、専業主婦になる道を選びました。

勤めていた監査法人は、チームで動く仕事が基本で、女性は私だけ。そんな状況の中、子育てをしながら働く想像がつきませんでした。このまま働き続けても、かなりオーバーワークになって、家事もできず、イライラしてしまって、仕事も家事も子育ても満足にできない“負け戦”になると思ったんです。それならお金はいらないから、専業主婦になろうと。

とはいえ、せっかく勤めていた大手監査法人。辞めることに、迷いはなかったのでしょうか。

ありましたよ! せっかく頑張って、頑張って、頑張って、行政書士の資格を武器にのしあがって、大手の監査法人に入ったんですよ。でも、子育てと仕事の両立って、本当に大変ですよ。

一見、ほんわかとした雰囲気の渡部さんですが、自分の意見をズバッと話し、「私、結構、毒舌なんです」とケラケラ笑う姿が印象的です。

出産して6ヶ月で生まれた「何かやってみようかな」の思い

「シネマのたまてばこ」の様子。 

お子さんが幼稚園に入るまでは、しばらく専業主婦になろうと考えていた渡部さん。その思いが変わったのは、産後6ヶ月頃のこと。

家で子育てをしていると、社会との大きな隔たりができる、とよく言われますよね。「SNSも発達しているし、そんなはずないでしょ」と思っていたのにも関わらず、隔たりや孤立感をものすごくリアルに感じたんです……。本当に、びっくりしますよ! それで、社会につながりたいと思って、見つけたイベントが、赤ちゃん連れで楽しめる映画祭「シネマのたまてばこ」でした。

このイベントは、立川市の子育て応援団体「子育て・いれかわりたちかわり実行委員会」が企画し、地元映画館の「立川シネマシティ」、さらに、立川市が全面的にバックアップして行われるもの。特徴は実行委員が全員幼い子どものママということで、渡部さんも参加してみたのです。

実行委員の活動内容は、月に2回ほど集まり、チラシをつくったり、広報活動などをすること。いわゆる“ママ友”とのお付き合いとは違いました。

イベントのことで相談しあったり、時にはLINE上でぶつかりあったり、一緒にプロジェクトを成り立たせて、仲間になれたんです。それ以降、ママたちのほか、市役所の方、市民活動している方とも出会う機会が増えたので、「子どもを連れていても何かできるんだ」という感覚を養えました。

幼い頃から大好きだったカメラを仕事に

高校生の時から、オリンパスのカメラを愛用し続けている。

この活動をきっかけに、カメラマンだった祖父の影響で、幼い頃から慣れ親しんできたカメラを手に、子育て中のママや子どもを撮る機会が増え、「カメラを仕事にしてみようかな?」という思いが芽生えます。

ぼんやりとそんなことを考えている時に、青梅市・羽村市×グリーンズによる、全8回の創業サポート「青梅・羽村スタートアップラボ」が開催されることを知り、渡部さんは参加します。

行ってみると、第1回目の講座で1時間程度、グリーンズからビジネスプロデュース部門を分社化した「O&G LLC.」代表の小野裕之さんによるプロジェクトの立ち上げ方の話があり、突如、「自分のやりたいことを5分程度で話してください」と突きつけられたのです。

えーっ! みたいな(笑)

正直なところ、参加費が無料だったから参加したぐらいで、私は娘が幼稚園ぐらいになったら、ゆらりと始められたらいいかな、と思っていたんですよ。それまでに改めてカメラや起業について勉強しようと思っていたので、まさか発表する場をすぐにもたされるとは。

拝島駅が最寄りの「photo studio present」で、渡部さんが撮影。

どうしようと思いつつも、自宅をスタジオにリフォームし、衣装を用意して、現役ママカメラマンが撮影する写真館を開きたいとプレゼンすると、講師のNPO法人「FLAG」副理事長の佐藤竜馬さんにこんなアドバイスをされます。

そんなに用意しなくても、布をぶらさげればできるよ!

そのアドバイスを聞き、渡部さんの意識が変わります。

私はすぐにやらない理由づくりをしていたな、と思ったんです。どうせやるなら、ちょっとずつやっていこうかな。そんな気持ちが芽生えました。

また、小野さんから「渡部さんしか撮れないフォトスポットがあったら、もっといいのでは」とアドバイスをもらい、それをヒントに、アウトドアが好きなことを生かし、多摩地域や千葉、湘南エリアの自然をフィールドにイベントを開き、写真を撮ることも考案。講座で事業書をつくるうちに内容も具体的になり、仕事を始めてみようかな、という気持ちが高まっていったのです。

でも、起業はひとりで始めない。仲間を見つけて始める。

海が大好きな渡部さんが撮影したお気に入りの1枚。

今年1月に最後の講座が終わってから、渡部さんは写真館を「photo studio present」と名付け、まずはマイペースに仕事をしていくことに決めました。

一方、大自然をスタジオに撮影を行う「outdoor photo studio OSOTO」は事業としてもう少し練って、形にしてみようと、動き出します。大手経営コンサルティング会社の会社員で働きながら、1年ほど前からカメラマン活動も始めていた香川智彦さんに、一緒にやらないかと声をかけたのです。

小野さんに、自分ができないことをもうひとりの人はやってくれるから、必ず誰か仲間をみつけて、始めた方がいいといわれたんです。それで、以前からの知人でぱっと浮かんだ彼に、副業感覚でよかったら一緒にやりませんか? と軽いのりで誘いました。そしたら、春には仕事を辞める、といわれて、うえー! とひっくり返ったんです。もちろん、彼にはほかにも仕事があってということなんですけどね。

それまでは、正直なところ「稼げなくてもいいじゃん」「楽しけりゃ、人生満足!」と思っていたものの、本気で稼ごうとするガチの相手に「イベントだけじゃ稼げねーじゃん」と一喝され、何をしていきたいのか、しっかりと話し合ってコンセプトを固め、法人化に向けて、動き始めました。

とはいえ、子育てをしながら、どう働く?

あれよあれよという間に、ものすごいスピード感で新たな仕事を始めることになったものの、働くとなると、子どもをどうするのか。フリーランスの場合、保育園には預けづらいし、渡部さんには、子どもと一緒にいる時間は大切にしたい、という大前提もあります。

当初は、おんぶカメラマンとして娘と一緒に活動しようと考えていましたが、やはりフルスロットルで働けないストレスが発生し、それが娘にも伝わってしまいました。そんな時、フリーランスや休職中のママにも優しい「みらいのたね保育園」に出会ったんです。コワーキングスペースに保育園が併設されていて、何かあればかけつけられる。それで、働くことへのピースがそろったような気がしました。

渡部さんは、保育園に9時から16時の7時間の間、お子さんを預け、働き始めました。それでも、今もどれぐらい“本気で”仕事に向き合うか、悩んでいます。

旦那が仕事が大好きな人ということもあって、自分は好きなことで、ちょっとでもお金になればいいじゃん、という主婦的な感覚と、せっかくやるなら、旦那よりも稼いでやるぐらいの心持ちでいたい、という気持ちがいつも「えーい」って戦い合っている感じですね。

また、お金を稼ぐということに対しては、こんな思いも。

正直、お金を稼ぎながら楽しいなと思ったことは今まで一度もないんです。どれだけのお金になるかわからないですけれど、お金を稼ぐのが楽しいな、と思えたらいいですよね。

自分の人生や暮らしのなかで、大切なものは何なのか?
出産、子育ては、仕事に没頭し、突っ走っていた時間を立ち止まらせてくれる貴重な機会になります。

「会社を辞めて、もったいないなと思ったけど、20代は頑張ったよ。経験したいことは、経験したし!」といたずらっぽく話していた渡部さん。

お話を聞いていると、女性は妊娠・出産によって、キャリアを失わざるを得ないことに対する、悔しさもちょっと。新しく始める仕事として成り立つのかな、不安もちょっと。

それでも、「人生は遊び」をキーワードに、波乗り好きの渡部さんらしく、いい波に乗って、ぐーっと前へ漕ぎ出している。そんな爽やかな風が吹いているようでした。

今は、女性が働ける環境が整ってきた一方で、歯をくいしばりながら働いているママが大勢いて、苦労していることがヨシとされている気がするんです。でも、ママが楽しんで働いたっていいと思いませんか? わがままで贅沢かもしれないけれど、せっかくフリーになったので、自分が楽しいと思える働き方を模索して、チャレンジしていきたいですね!

そんな風に、これからの働き方について語ってくださった渡部さん。
みなさんは、家族が増えた時、どんな風に働きたいですか?