\12周年、タグラインをリニューアルします/

7月16日からgreenz.jpのタグラインは「ほしい未来は、つくろう。」から「いかしあうつながり」に変わりました。

詳しくは編集長鈴木菜央のコラムを読んでもらえると嬉しいです。

7月16日、greenz.jpのタグラインは「いかしあうつながり」に変わりました。

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人の幸せを前提に考える「新しい経済学」を学べる世界でたった一つの大学院。イギリスのトットネス「シューマッハ・カレッジ」ってどんなところ?

「スモール・イズ・ビューティフル」。その言葉を体現するかのような、小さな小さな大学院が英国の田舎町トットネスに存在する。それがの学び舎であり、本連載「ローカルから始める、新しい経済の話」のアイデアの源泉となった「シューマッハ・カレッジ」だ。

1973年に出版された『スモール・イズ・ビューティフル -人間中心の経済学-』をご存知だろうか。グローバル経済の急速な拡大がもたらした、物質的な豊かさの実現とともに、同時に生み出してきた痛みにもしっかりと耳を傾けること。そして、自然環境との分かちがたき調和のもとに、人々が生きがいや幸せであふれる生活・仕事を行えるような経済のあり方を提起した歴史的名著である。その著者である、経済学者E・F・シューマッハの名前と思想を受け継いで生まれたのが、「シューマッハ・カレッジ」である。

New Economics: 新しい経済学って??

「シューマッハ・カレッジ」の事務棟。コース参加者を綺麗な花で迎えてくれる。

「シューマッハ・カレッジ」は、少人数制の大学院修士コース(1年間)と多種多様な短期コース(1週間〜3週間)が混じり合ってできている。その中の一つに、「New Economics」と呼ばれる、新しい経済学を学べる修士コースがあり、私はそこで学んでいる。

新しい経済学と呼ばれるNew Economicsが、世界的に学問として体系化され認知されている存在かといえば決してそうとは言えない。しかし1980年代以降、実学としてさまざまな形で経済の向かう先を議論し、よりよい経済のあり方を模索する動きは、世界中で綿々と続いてきた。経済学者E・F・シューマッハはその先駆者であり、シューマッハ・カレッジはその動きを「New Economics」として先駆的な学びの場を先導してきた存在と言える。

トットネスのまちづくりについて意見交換する授業。

授業では、「スモール・イズ・ビューティフル」を体現すべく、一人ひとりが主体性をもち、スモールでローカルな小さな経済圏を形成していくこと。そして、自分達自身が新しい目をもってその経済の一員になっていくことの重要性や歴史的変遷を学ぶ。

また、E・F・シューマッハが生きた時代から、当然ながら社会環境やテクノロジーの変化はあるため、昨今ではS(スモール)とL(ローカル)に加えて、O(オープン)とC(コネクト)を付け加え、SLOC(スロック)という言葉を用いて、世界に開きつながったローカルなあり方を模索していくアイデアを世界の実例とともに学んでいく。トットネスというまちづくりで世界的にも有名でユニークなまちにカレッジがあることも、学びの求心力を高めてくれている。

廃校になった近所の美術大学を今後どのように活用するか模索する授業。

授業は、教室で知識を得ることに偏らず、実際に理解するために実践してみることを重視している。

例えば、カレッジの近所にある廃校になった跡地をどのように活用するか、などに対して、新しい経済の目をもって、どのように解決していくことができるかを皆で現場に飛び出して模索していく。

もちろん、短期間で現代の課題をすべて簡単に解けるわけではないが、そのプロセスをなによりも重視し、課題に直面する多様な人と実際に行動を共にしコミュニケーションをとっていくことで、問題の本質と複雑性に関する理解を深めていくことができる。

また、授業の講師も現場で活躍する多様な実践者を日々向かい入れ展開していく。シューマッハ・カレッジの教師はなにかを教えるというよりも、各自が深く学んでいくことをファシリテートする役割を担っているのが特徴的だ。

エコノミーの前にエコロジー

地球史の流れを実際に歩いて体感し学ぶ「Deep Walk」。

おそらく世界中でシューマッハ・カレッジだけなのではと思う。経済学を学ぶ前に、自然を学ぶことから始めるのは。

エコノミー(経済)とエコロジー(生態系)はともに、エコ(ギリシャ語で「家」)を頭に置く、切っても切れない関係性にある。エコノミーは、家を意味するエコと運営・管理することを意味する「ノモス」によってできた言葉であり、元々は「家を運営・管理すること」である。

また、エコロジーは、家を意味するエコと知識を意味する「ロゴス」によってできた言葉であり、もともとは「家の知識」である。「家の知識」であるエコロジーを学ばなくして、どうやって「家を運営・管理すること」であるエコノミーを学ぶことができるのか、という姿勢だ。

それを象徴するような授業に、「Deep Walk」と呼ばれる、地球の歴史を歩いて体感する名物プログラムがある。地球の46億年の歴史を、4.6kmに置きかえ、雄大な自然を歩く。1メートルは100万年、1ミリは1000年。だいたい、一歩は50cmなので、一歩一歩は50万年ということとなる。

地球の誕生から、バクテリアの誕生、酸素濃度の上昇、生命の陸地への到達などなど、歩みを進める毎に歴史的な出来事に出くわし、時間の流れのスケールを体感していく。乳酸が足にたまった頃。最後の最後に人類史も登場してくる。10歩もないだろうか。ちなみに100年は0.1ミリだ。産業革命から今現在までの道のりは0.3ミリにも至らない。

Deep Walkの最後の瞬間。人類の経済史は極めて短い。

コミュニティで学ぶ

カレッジ内の菜園。菜園で採れた食材を使ってみんなでランチ。

また、特徴的なのは、学びを学問に制限することなく、カレッジ全体が生活を共にするコミュニティとして機能しており、日々の暮らし自体も持続可能な社会づくりの学びの一環となっていることだ。

教師、生徒、ボランティアの垣根はなく、一体となりコミュニティを形成し、料理、菜園、掃除等の役割を皆で毎日ローテーションしながら担っている。

例えば、季節によって大きな変動はあるが、カレッジで食べる野菜の最大で約70〜80%をカレッジ内の菜園から自給している。ローカル経済の中心といえる食と農を中心にし、自分達自身が実際に食・農の循環するシステムの一員となり、よりよい方法を模索しながら、仲間とまさに寝食をともにしながら過ごしていく。そんな学習するコミュニティだ。

カレッジ内の食の循環システムをどのように向上させるかを日々議論。

一人一人の内発的動機を大事にする新しい組織のあり方

シューマッハ・カレッジで学んでいくことは、みんながみんな、千差万別に違うものだと思う。それだけの多様性と自主性に委ねられており、刺激的であり同時にタフでもある。

参加者はまさに世界中から集まる。
国籍も経歴も年齢もバラバラだ。

例えば、私の修士コースの友人は、普段はアメリカの大学で教鞭をとっているが、特別な休みをとって「New Economics」の観点を新たに学び入れるためにきている。また、経済学をバックグラウンドにし社会経験を踏んだあとに、そこでの問題意識をもとに学びを深めにくるものも多い。

唯一、千差万別の中に共通しているのは、各自が、自分の経験や人生の目的をもとに深く学びたいテーマを自分自身で突き詰めることだ。そして、そのテーマの事柄が起こっている現場を大事にし、たくさんの人との出会いの中で自主的に学びを進めていくことにある。それをカレッジという組織全体として実現していこうと試みているのがまた面白い。

最近では、Teal型組織という各構成員の内発的な動機を尊重し生命体のように自己組織化する新しい組織のあり方が『ティール組織―マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』という本を通じて関心が高まっている。

シューマッハ・カレッジは、その新しいマネジメントの特徴と言えるEvolutionary Purpose(進化する目的:構成するメンバーによって目的を変化させる柔軟性と開けたガバナンスを有する)、Wholeness(全体性:構成するメンバーの多様性を重んじ、個々人の特徴を生かした活躍を組織全体で促す)、Self-management(セルフマネジメント: 教師と生徒間の伝統的な指揮命令関係はほとんどなく、アドバイスをもらいながら生徒達が各々の目的をもとに独自の学びやプロジェクトを実践していく)を大事にしており、Teal型組織を古くから目指している先駆的な教育コミュニティと言えるかもしれない。

そもそも経済ってなに??

そんな環境で過ごしているとふと浮かんできたのは、そもそも経済ってなんだろうというシンプルな問い。

先にも出てきたように、英語のエコノミーは「家の運営・管理」を意味する。また、日本の経済の語源は経世済民(けいせいさいみん)にあり、「世の中をよく治めて、困った民を救う」こと。加えて、シューマッハ・カレッジに来る前に私が国づくりの仕事をしながら暮らしていたブータンでは、経済のことをペルジョアといい、「持続する集合的な幸せ」をもともと意味する言葉であった。

世界における3つの“経済”の語源を見ただけでも、私たちが現代でイメージするグローバルスタンダードな経済という言葉とその語源とが離れたものとなっていることがわかる。家の管理というローカルでスモールな視点、困った人を助けるという思いやりの視点、そして経済とは人々の幸せな状態を意味するのだという視点。

本当の旅の発見とは、新しい風景をみることではなく、新しい目をもつことにある。

マルセル・プルースト(フランスの作家)

連載「ローカルから始める、新しい経済の話」を通じて、みなさんと一緒に新しい経済の目をさぐっていきたい。


(Text: 高野翔)

高野翔

高野翔

1983年、福井県生まれ。大学院卒業後、2009年、JICA(国際協力機構)に入構し、これまでに約20ケ国のアジア・アフリカ地域で持続可能な都市計画・開発プロジェクトを担当。直近(2014-2017)ではブータンにて人々の幸せを国是とするGross National Happiness(GNH)を軸とした国づくりを展開。現在はブータン政府のGNH外部アドバイザーとしても活躍。地元福井では、仲間たちとまちづくり活動を行っており、2013年、福井の人の魅力を紹介する観光ガイドブック「Community Travel Guide 福井人」を作成し、「グッドデザイン賞」を受賞。2017年8月末からブータンから英国に渡り、スモール イズ ビューティフルを執筆した経済学者 E. F. Schumacher の系譜を引く、Schumacher Collegeで新しい経済学を学ぶ日々。