昨年からはじまった「グリーンズ求人」は、ソーシャルグッドな取り組みをしている会社・団体の求人情報を紹介しています。単に求人情報だけでなく、多様な働き方やユニークな採用方法をとっている組織などを紹介することで、個人も、組織も、社会も、ほしい未来をつくれるような“いい採用”を提案していきたいと思っています。
今回は病児保育や小規模保育などに取り組むNPO「フローレンス」、ネクタイ専門ブランド「giraffe」や現代のセレクトリサイクルショップ「PASS THE BATON」などを運営する「Smiles(スマイルズ)」、コワーキングスペース「co-ba」や中古リノベーション住宅のプラットフォームサービス「cowcamo(カウカモ)」などを手がける「ツクルバ」の採用担当者をお呼びして、人事座談会を開催。3人がそれぞれ取り組んでいる採用や工夫していることなどを伺い、「いい採用ってなんだろう?」と考えてみました。
まずは、3人の自己紹介から。
大関香織さん フローレンスで採用を担当している大関です。部署名は「働き方革命事業部」といって、「ただのバックオフィスではなく、世の中に新しい働き方を提示していく事業部であろう」という意志がこめられています。また、社外だけでなく、社内に対して新しい働き方の制度を提案し、もっと効率的に生き生きと働くことができるための企画も行っています。
私自身は8年ほど一般企業で人事を担当していたのですが、一年半前にフローレンスに転職しました。もともとフローレンスのビジョンに共感しており、何とかここで働けないか、と思っていたところ、採用担当者の募集を見つけてすぐに応募しました。
松島さおりさん 私は2013年新卒でスマイルズに入社しました。当時は新卒社員は全員、まず「Soup Stock Tokyo」の店舗に配属され、現場を経験することになっていました。
スマイルズは「世の中の体温を上げる」という理念を掲げていますが、私も新卒時代に店舗で働くなかで「どうすれば目の前のお客様の体温を上げられるだろうか?」と日々考え、行動したことはとてもいい経験でした。そのあと本社の人事部に異動し、新卒採用を担当していました。
スマイルズには「交換留職制度」というのがあって、交換留学の職場版なのですが、私はその制度で経済産業省に派遣されることになり、2年3か月、クールジャパン政策課でデザインや地域文化、ファッションなど日本文化の発信に取り組みました。スマイルズに戻ってからは、中途採用をメインで担当しています。
小林杏子さん 私はツクルバで人事と広報を担当しています。私がツクルバに入社した当時25人くらいだった社員数が、2年経った今では100人ほどまで増えました。採用の専任担当は、ほんの最近まで私ひとりだったので、もちろん社内外のいろんな人に協力してもらいながらですが、奮闘の日々です。
特に、今年リリースから3年目を迎える「カウカモ」事業が急速に成長していて、事業計画に合わせた採用のスピード感を担保しながらも、マインドやカルチャーなど組織をつくる上で譲れない部分をどう保っていけばいいのか? と、いいバランスを探りながら、試行錯誤しています。
ビジョンに共感できているかが大事
この座談会では「いい採用とは?」について考えていきたいのですが、みなさんの組織ではどんなことを目指して採用をしているのでしょうか。
大関さん いい採用ができた、と思うときは、ビジョン共感がある人と出会えたときですね。私たちが目指しているビジョンと共感できているか。そして、お互いに夢を叶えることができるか。このふたつが合致した人を採用できたときです。
まずビジョンについてですが、フローレンスはNPOなので、前提として解決したい社会問題があり、それを「なんとかしたい!」という強い思いがあることが一番重要だと思っています。私たちは世の中で誰もやっていないことにチャレンジをしていくので、正直、その過程で大変なことがたくさんあります。そこで最後に踏ん張れるかどうかは、この思いがあるかどうかだと思うからです。
また、上司がよく「フローレンスを出たことがキャリアやブランドになるような組織にしたい」と言っているのですが、人が成長する組織でありたいです。フローレンスでは、自分で手を挙げる人にはチャンスを与えようとしてくれます。私も組織の人事制度の設計をやりたいと言っていたら、4月からそのプロジェクトマネージャーを務めることになりました。そうやって、ここにいることでその人自身にもいい影響やメリットがある、というのがいい採用だと思います。
松島さん スマイルズも共感型というか、「こういうシーンをつくりたい」ということにフォーカスするので、面接でもこれまでの実績とか経歴だけではなく、スマイルズの何に惹かれたのかを聞いています。共感しているポイントが合っているかは大事にしていますね。
スマイルズのブランドは一つひとつの個性が強いので、「ブランドが好き」をきっかけに応募してくださる方が結構いらっしゃるんです。でも「好き」だけだと、ファンとしてはありがたいけれど、採用したいのはその先を一緒につくっていける人。このブランドの何が好きなのかとか、もっとこうできたらいいと思うことを自分なりに語れる人を求めています。
小林さん ツクルバで募集するのは建築デザインや、Webエンジニアなどの専門職も多く、そういう場合には自分の専門性がどこにあり、どんな役割で活躍できるかをお互いにはっきり認識できます。一方でビジネス職や特に新卒採用の場合には、「自分は何ができるかはっきりわからないけど、でもビジョンに共感しているから何か一緒にしたい」といった形でオープンポジションのような応募をいただくことも多いです。
そのような場合に、スキルや経験、職能でのマッチングではなく、「意志」のマッチングを重視して採用に至るケースも多くあります。意志によってつながっている組織は強いなと思うし、職種とかではなくて、個人の思いが磁石のように引き寄せられて、結果的に採用に結びついている、みたいな流れが「いい採用」のひとつの形なのかなと思います。
自分のものさしを持つ
小林さん 面接で多くの方とお話しして感じるのは、ほとんどの方が「相対評価」で会社選びをしているということ。いくつかの会社を並べて、比較して決めるのは、消極的な選択だなと個人的には思います。なかなか難しいとは思いますが、「ここしかない!」と絶対的判断で決められる方が、お互いの納得感は高いですよね。
世の中にたくさんある会社を全て比較して会社選びができるわけではない中で、自分なりの「ものさし」を持っている人は、やはり納得感の高い選択ができているように感じます。その「ものさし」のひとつが「意志」なのかなと思います。
意志がある人は多くの会社を見てそれぞれを比較しなくても、自分に合いそうだなという会社を能動的に選びとれると思うんです。転職のシーンだけでなく、自分なりのものさしを持つことは、仕事をするうえでも大事ですよね。
大関さん 自分のものさしがない人は、「いいこと」をすることでやりがいを感じられるのでは、と思っている人が多いですね。逆にものさしがある人は課題感や問題意識を持っています。
フローレンスでも、相対評価で来る人はあまり採用に至らないですね。他社と比較して来る人より、「ずっと前から興味を持っていました」「この問題を解決したいです」という人に採用が決まります。
小林さん そういう人かどうかは、面接で話していればすぐに分かりますよね。心の底から意志を持っている人だと、「自分の言葉」で語ることができるというか。自分が主語になっていたり、言葉ひとつひとつへの思いの乗っかり方がちがうので、こちらにガツンと伝わってくるものがあります。
想定質問にスラスラと模範解答を返せる人よりも、踏み込んだ問いかけに対して、きれいな言葉じゃなくてもいいから、自分なりの言葉で語ってくれる人のほうが、ツクルバにはフィットするし、活躍できると思います。そういう人は、自分の意志や想いをエネルギーに変えて自走できるはずなので。
松島さん 恋愛も就活と似ているなと思っていて。恋愛相手もチェック項目に多く丸がつく人…とかって決めないし、決められないですよね。仕事も同じで、自分のものではないものさしや、世の中な基準で選ぶことはもったいないし、チェック項目で決められるようなことでもない。現実を見つめて、いい部分も課題な部分も納得していたら、何かあっても乗り越えていけるし、長く続けていける。完璧な人もいないし、完璧な会社もないっていう前提を持っています。
組織のいいところも、悪いところも知ってもらう
松島さん 以前、社員が登壇するトークセッション形式の会社説明会を開いてみました。どうしても採用担当者だと会社のいいところばっかり話すと思われがちかなと思って、あえて「スマイルズの課題って何ですか?」と店舗で働いている人にぶつけてみたんです。いろいろな課題をみんなの前で言われてヒヤヒヤしましたが(笑)、自分ごとで会社の課題を話してもらう様子を開示したことで、いいところも悪いところもお互いに見せ合えたのかなと思っています。
大関さん フローレンスでも、必ず悪いところを伝えています。面接で悪い面を伝えて、「大丈夫ですか?」と聞いています。
松島さん いいイメージを持っている人ほど、「大丈夫ですか?」って聞きますね。採用は妥協しないのが大前提です。職種によって応募数にバラつきがあって、たとえば店舗運営スタッフの応募は少なくなりがちなんですね。でも、妥協したくない。店舗運営スタッフはお客さまと直に接するので、お客様の体温を直接上げられる存在です。そこはビジョンを共有できる人でないといけないなと思っています。
また、急に店舗運営の人材を採用したいと思っても難しいので、普段からの発信を大事にしていきたいです。一緒に働くイメージを持ってもらうために、店舗で働く人の顔や想いをもっと発信するなど、これからは採用広報力を高めたいと考えています。
仕事を理解してもらうための葛藤
小林さん ツクルバは今、「カウカモ」の営業職を特に募集していて、いわゆる一般的な呼称で言うところの「不動産仲介売買営業」という職種になるのですが、実は、人となりも雰囲気も、マインド、お客さまと向き合う姿勢も、世間が「不動産売買仲介営業」という職種に持っているイメージとは全然違うんです。
おもしろいことに、実際、カウカモの営業職に応募くださる方で他の不動産会社と併願している人はほとんどいないんです。「不動産」にこだわらず、何かをお客さまに提供することで人生をより豊かにすることのお手伝いをしたい、といった志向の人が多いです。
でも、例えば普通の求人サイトとかで使っている一般的なカテゴリーに当てはめると「不動産仲介売買営業」になってしまう。だから「カウカモエージェント」っていう職業の本質的な価値や役割を、きちんと伝えていかないといけない。業界の中でも、新しいサービスをやっているからこそのジレンマですね。
松島さん よくわかります! 今までと何がちがうのかを説明して、理解してもらうのに時間がかかりますよね。私たちの場合は「100本のスプーン」というファミリーレストランを運営しているのですが、シェフを募集するときにイタリアンやフレンチのシェフは「ファミレス」というワードではなかなか来てもらえません。
実際に「100本のスプーン」の調理場で求められることはレストランとほぼ変わらないのですが、「ファミレス」という既存の枠組みのイメージがついていると、一般のファミレスとは何がちがうのか伝わるまでに時間がかかります。
お客さまへは「大人も子どもも楽しめるファミリーレストラン」というコンセプトで伝わっていいのですが、募集したい人へは表現を変えないといけないな、と頭を使っています。
大関さん フローレンスも働き方革命について発信している関係で、「あの働き方がしたい」と、働き方のみに注目して応募をしてこられる方も多いです。
たとえば、家庭の事情で金沢に行くことになった社員が遠隔からでもコミュニケーションがとれる遠隔プレゼンスロボット「Double(ダブル)」を活用して働いているのですが、そのことを発信したところ「私もあの働き方で働きたい」というお問い合わせを多数いただきました。
もちろん、これからこのような働き方も増えて今まで働くことのできなかった方が働けるようになっていくことはいいことだと思うのですが、背景として、この社員はもともと長くフローレンスで働いていて、ビジョン共感が強く、遠隔でも仕事ができることが分かる実績があって、だからこそ長く一緒に働きたい、そのためならこういった事も積極的にやっていきたい、ということでもあるので、そういったメッセージも一緒に伝えていく必要があるかな、と思っています。
採用は、社員みんなで取り組む「仲間集め」
小林さん あと課題だと思っていたのが、どうやって人を巻き込むか、ということ。採用目標人数がどんどん増えている中で、担当者は私ひとりという状況が長かったので…。優先順位をつけてやらないことを決めるってことを心がけてやってきたものの、やはりひとりでできることには限界がありました。全部自分で完結させなきゃ! と思っていると、結果的には自分の首を絞めることになって、結果も出せなくて…。まわりに頼ることも必要だと学びました。
ツクルバでは「ツクルバー」という、オープンオフィスのようなカジュアルなイベントを月に1回くらいのペースで開催しています。当初は企画から集客、飲食物の発注や当日の運営まで全部自分でやっていたんですが、なんてことない業務なのに、それなりにシンドイんですよね。「ツクルバー」以外にも色々な形で採用イベントを回していたので、入社して半年ぐらいは採用担当というより「イベンター」でした…。
どこかのタイミングで、これはもう無理だ! と開き直って、まわりのメンバーを頼ることにしました。「ツクルバー」のイベントも、回ごとにメンバーをアサインして、企画と運営を任せるようにしたんです。
最初は、負担をかけて申し訳ないなぁと思っていたのですが、意外とみんなが楽しみながらイベントづくりをしてくれて、入社したばかりの人でも「うちの会社はね」と、会社や自分の仕事のことを楽しそうに語ってくれていて。採用担当者が話すより、みんなが自然体で語れる場になっていて、結果的にはメンバーが主体になることで、よりツクルバらしい場にすることができました。
小林さん 採用というより「仲間集め」ですね。それは採用担当だけがやることではなくて、みんなにとっても自分の仲間集めだから、私はプロジェクトマネージャーの気持ちで、みんなでやっていけばいいんだ、と最近になって思うようになりました。そしたら肩の力が抜けてうまく回り始めたし、まわりを巻き込むこともしやすくなったし、みんなにとってもいい機会になりました。
ツクルバはリファラル採用がすごく多くて、4割の社員がメンバーの紹介で入社しています。働きやすい環境や、紹介しやすい仕組みをつくり、仲間にしたい人に伝わるようなメッセージをちゃんと発信しつづければ、自ずと人は集まると思うので、もしかすると採用担当者が採用活動をしなくても、採用できちゃう状態をつくることこそが「いい採用」かもしれませんね(笑)
大関さん フローレンスの場合はオウンドメディアが強いので、ホームページで採用情報も含めて毎日4本くらい記事をアップしています。更新頻度が高いのでフローレンスに興味を持ってくれている方はいつもホームページを見てくれていて、採用情報もチェックしてくれているのだと思います。まずは普段の活動をしっかりやった上で採用、という位置づけですね。
その上で、ほしい人材のイメージを分かりやすく出すことも大事にしています。以前、経理を募集したときに、あまりビジョン共感がない人や、主体的に動くのが苦手な方からたくさん応募が来てしまって、困ったときがありました。私たちがほしいのは、守りではなくどんどん切り込んでいく「攻めの経理」。そこで、「こういう人がほしい」というイメージを伝えるためにインタビュー記事をつくり、ホームページに掲載しました。結果、求めていたような人材が来てくれました。
大関さん それにしても、ツクルバさんのリファラル採用が4割ってすごいですね! 見習いたいです。何か工夫していることはあるのですか?
小林さん 採用頑張ってるよ! っていうことを事あるごとに社員に伝えて、みんなの頭の隙間に「採用」を刷り込んでいます。人不足というとネガティブに聞こえますが、人が増えたらもっとおもしろいことできるじゃん? っていうポジティブなメッセージに転換して発信するように心がけていますね。
あとは「リファラルランチ」という補助制度があって、ツクルバに興味のある知人や、一緒に働きたいと思う人へ会社を紹介する機会に、食事代を会社が負担しています。
先ほど紹介した「ツクルバー」などのオープンオフィスイベントも、「うちの会社で飲み会やるからオフィス見にきなよ」という風に、声をかけるきっかけをつくるための仕掛けです。また、社員紹介で入社が決定した際に、全社定例の場で表彰する機会もあるので、「採用はみんなでやるもの」という風土が自然とできているのだと思います。
松島さん なるほど。「Soup Stock Tokyo」では、社員200人に加えて、パートナーと呼ばれているアルバイトスタッフ1500人の情報共有ツールとして「スマッシュ」というSNS機能をつけた社内報を活用しています。
商品開発担当者が商品のこだわりや開発背景を投稿したり、店舗スタッフからは「今日こういうお客様がいらっしゃって、こういうことをしたら喜んでもらえました」という体験談や「もっとこんな風にしたらよいのではないか?」という改善案などが投稿され、双方向のコミュニケーションが活発に行われています。それにより、ブランドの自分ごと化が進み、仕事にやりがいを感じてもらうことで、実際に友人を紹介する社員やパートナーも増えています。
社員やパートナーは、Soup Stock Tokyoのブランドの理念や思いに共感して働いているので、退職後もひとりのファンとして、お店に来てくれる方がとても多いんですね。そこで「退職後も我々の仲間ですよ」という思いから、「バーチャル社員証」という制度をつくりました。辞めた後も、従業員時代と同様のサービスを受けられる制度となっています。
小林さん いいですね。ツクルバは社内の情報交換のツールとしてSlackを使っています。Slackには、最近あった出来事や、興味関心のあるニュース記事のシェアとか、お客様とのストーリーなどを投稿するチャンネルがあるので、義務ではなく自己表現の場として各々が活用していて、相互理解の促進につながっていますね。
実際、仕事でぶち当たっている壁や悩みなんかを発信して、そこからアドバイスをもらえたり、突発的ににディスカッションが始まったりすることもあり、コミュニティの密度が上がっていると実感しています。メンバーの関係性の質を上げるには、相手の背景を知ることも重要ですし、その結果が、チームとして成果を出すことにつながると思います。
「Slackいいですね! こういうときはどうしてますか?」…と、他社の採用について聞く機会が少ないこともあり、みなさんまだまだ話がつきない様子でした。
みなさんの会社や組織では、どんな採用に取り組んでいますか?
「いい採用」の定義は組織やときによって異なり、模範解答もありませんが、今後もグリーンズ求人はよりよい採用を探求していきたいと思っているので、ぜひいっしょに考えていきましょう。
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