greenz.jpを読むみなさんは、環境問題に意識が高い人が多いかもしれません。でも、動物園にいる動物ですら絶滅の危機におびやかされていることを知っている人は意外に少ないのではないでしょうか?
たとえば子どもたちにもお馴染みのアフリカゾウ。国際自然保護連合のリストによると、絶滅危惧II類(絶滅の危機が増大している種)にカテゴライズされています。減少の主な原因は密猟です。1989年に象牙の取引が禁止されましたが、現在でも密猟は後をたちません。
動物園で何気なく目にしたり、絵本や童揺でもおなじみのゾウ。平和的なイメージがあるからこそ、子どもたちにこうした危機的な話をすることをためらう親も多いかもしれません。そう、シリアスになりがちだからこそ、環境のことは楽しく学ぶのがいいですよね。
プリンター・複合機、家庭用ミシンなどでお馴染みの「ブラザー工業」が主催する「Brother Earth アカデミー」は、まさに“楽しい学びの場”。先日、自社製品を使って製作したワッペンとトートバッグで絶滅危惧種を学ぶワークショップが開かれました。今日はその様子をレポートします。
「Brother Earthアカデミー」とは
「Brother Earthアカデミー」の開催は、今回で2回目。1回目は名古屋市栄区の商業施設「ラシック」で開催され、およそ1,200人の来場者を記録しました。今回はさらにグローバルな視点で海外から訪れた人も参加できるように、会場を移しての開催となりました。
今回の会場となったのは中部国際空港セントレアのイベントプラザ。イベント会場のそばにはフードコートなどがあり、空港を訪れた家族連れで賑わう場所です。
ワークショップでは、絶滅危惧種の動物たちをモチーフにしたワッペンを使って、小さなトートバッグをつくります。私もさっそく、体験してみることにしました。
「Brother Earth アカデミー」のかわいい校門をくぐると、待っているのは4種類のトートバッグ。生成りのコットンに「河川」「樹木」「池」「原っぱ」の景色がプリントされています。
好きなトートバッグの柄を選んでみると、中には1枚のカードが入っていました。そこには2種類の動物のワッペンがあります。私がひいたカードはアフリカゾウとカワウソ。説明文にはこのように書かれていました。
象牙は日本では印鑑や床の間の飾り物、お茶杓などに使われる高級品。私が子どもの頃、「印鑑といえば象牙がいいのよ」とよく聞いていました。
一時期より象牙の流通は減ったという気がしていましたが、それでもまだ密猟が終わっていないなんて、残念です。
一方のコツメカワウソ。こちらも国際自然保護連合で絶滅危惧II類に分類されています。カワウソのような広い地域に生息する小動物ですら絶滅の危機にあるなんて。どの動物も普段はなかなか意識する機会がなかったけれど、衝撃的な真実です。
それぞれの動物が住む環境に思いを馳せながら、ワッペンをボンドでトートバッグに貼り付けていきます。針と糸を使わないので、子どもからお年寄りまで、手芸が苦手な人でも誰でも参加できそうです。
今回のイベントでは、他にもスマトラトラ、ニシローランドゴリラ、コアラ、ユキヒョウ、クロサイ、フクロテナガザル、アオキコンゴインコ、キリン、ジャイアントパンダ、キタイワトビペンギン、ホッキョクグマ、トナカイなど計14種類のワッペンが用意されていました。
ワッペンが貼り付けられたら、スタンプで名前をつけたり、足跡をつけたり好きなようにカスタマイズします。
デコレーションが完成したら「Brother Earthアカデミー」卒業の証として、ブルーのリボンをつけてもらい、最後に記念撮影コーナーへ。
撮影した写真はすぐに現像してもらい、トートバッグとともに持ち帰ることができました。またこの写真はリアルタイムで特設ウェブサイトに掲載されていきます。アカデミーの一連の体験は20分ほど。
ワッペンの刺繍がとても精密で、「かわいい」と連呼していたらあっと言う間にアカデミーも終了。しかし、お土産にもらったトートバッグを使うたびに、いつも私は動物が直面している現実を思い出すのでしょう。
参加した方からも感想をいただきました。
家族で参加したお母さん 子どもが絶滅危惧の動物に関心があったみたいで、集中して取り組んでいました。動物園にいる動物なのに、絶滅の危機に瀕しているんですね。知らなかったです。
家族で参加したお父さん かわいいトートバッグだなと思って参加したんですが、ワッペンの動物が絶滅危惧の動物だったなんて知りませんでした。コアラも絶滅危惧なんですか? ふつうに動物園にいるのに。
参加者のみなさんは子どもから大人まで、それぞれに学びや気づきを得ている様子です。
私も後日、もらった写真に記載のあった特設サイト「絶滅動物園×Brother Earth」を覗いてみました。人間による捕獲で数を減らした動物、地球温暖化や開発で棲み家を追われて、個体数を減らした動物など、普段私たちがあまり知ることのない動物たちの真実の物語がたくさん載っています。
私個人はいくつかの動物保護団体をサポートしているので、こうした話には明るい方だと自負していました。しかし、改めて動物たちに住みよい環境を残すために自分にできることを考えるきっかけになりました。
楽しく環境保全に取り組む、その心とは?
今回のイベントを主催したブラザー工業は、会社の基本方針と行動規範を定めたブラザーグローバル憲章の中で「企業活動のあらゆる面で地球環境への配慮に前向きで継続的な取り組みを行っていく」とし、これまでビジネスを展開する全世界で環境への取り組みを続けてきました。
また2010年には環境スローガン「Brother Earth」を策定し、「よりよい地球環境を、あなたとともに。」を統一メッセージとして、一般の人でも参加できるかたちでさまざまなイベントや募金活動を行ってきました。今回、絶滅危惧種の動物にフィーチャーしたのには、理由があります。ブラザー工業株式会社CSR&コミュニケーション部シニア・チーム・マネジャーの岩田俊夫さんにお話しを伺いました。
岩田さん これまで自社としてさまざまな取り組みを行ってきましたが、より幅広い層の方に環境を理解してもらいたいと思っていました。そんなときに、これまで名古屋市にある東山動植物園さんにコアラの学習展示設備を寄贈するなどのつながりがあった中で“絶滅動物”というキーワードが浮上しました。
そこで、「絶滅動物園」というコンテンツを自社ホームページ上で立ち上げました。ただ、ウェブサイトだけで展開するのではなくもっと身近なかたちにして、体験をして学んでいただく場を設けたいと考えました。
「環境」と構えてしまうと、入りづらい雰囲気になりますが、「これぐらいならできる」というところを体感していただくことが大事だと思っています。
絶滅動物が生まれる原因はさまざまありますが、いずれも人間の営みが大きく関与していることは否めません。動物の保護や環境保全の取り組みは、関心が高い人はどこまでも関心が高く、実際に何らかの保全する取り組みを行う人もいるでしょう。しかし、問題がいまだ解決されないのは、原因をつくり出す人間の大部分の人が無関心であることがとても大きいのです。
無関心でいることはとても簡単です。グローバル化が進んだ今日、自分たちの暮らしに必要なあらゆるモノがどこからやってきているのかもわからないのが普通。自分がその問題に加担してしまっていることにすら、気づくきっかけもないのですから。
イベントを体験した後「絶滅動物園×Brother Earth」のウェブサイトを見てみました。そこには、スマトラ島の熱帯林にのみ住むスマトラトラも絶滅の危機に瀕しているとあります。この情報を見た後、私なりにさらに原因を調べてみました。
スマトラトラは大型の哺乳類だけに、繁殖を続けて個体数を保ちながら暮らしていくためには広い面積が必要です。ところがその森林は1985年から15年間のうちに、半分の面積になってしまいました。その原因はヤシ油を採るためのアブラヤシや、紙パルプの原料となるアカシアなどの植林拡大です。遠く離れたスマトラトラの住む森をうまく想像できませんが、実は私たちの暮らしの中でヤシ油も“植物油脂”という表記で使われているのだと気づき、私自身も消費していたことにどきっとしました。
「絶滅動物園×Brother Earth」のウェブサイトには、こうした海外の事例だけではなく、日本でも減少し続ける“うなぎ”や“めだか”など身近な生き物も取り上げられています。印象的な写真と現実を端的に伝えるテキストが、環境問題を私たちの身近なところへぐぐっと引き寄せてくれます。
岩田さんは今後の取り組みについて、力強く話してくれました。
岩田さん 今回は環境をテーマに、若い世代や親子連れの方、また海外の方も参加してくださいました。世界各国の問題は国や社会によって異なりますが、環境問題はグローバルに取り組める問題です。
「Brother Earth」は今後もまた異なる層の方に届けていきたいと思っていますので、これからも変わらずに続けていきますよ。
46億年前に誕生した地球で同時代に暮らす私たち人類。これまで地球は生物を増やしながら、動物も植物もバランスをとりながら、地球の歴史を前に進めてきました。何十億年もかけて築いたこの多様性が数十年のうちに失われていくなんて、実に罪深いものです。こうした問題を生活者である私たちとともに改めて考えるきっかけを与えるブラザー工業の取り組み。いかがでしたか?
あらゆる生き物が相互に作用しながら暮らしているこの地球。身近な動物に出会ったら、彼らの棲み家に思いを馳せてみてください。それを守っていくことが、ひいては人間にとっても住みやすい暮らしにつながるのだと思います。
(写真: 衣笠名津美)