グリーンズ新刊「ほしい未来をつくりたい人のためのブックガイド」

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自分を知ることで、やりたいこととできることが結びついていく。河合由海さんが学びを通じて選んだ、家業を継ぐという道

家業を継ぐ。なんだか重みのある言葉です。

誰かがやってきたことの後を継ぐというのは、ただ単に仕事をつなぐだけではなく、歴史や伝統、関わってきた人たちの思いをも、引き受けることでもあります。それには、大なり小なり「覚悟」のようなものが必要ではないでしょうか。

埼玉県さいたま市にある、家族経営の洋菓子店に勤務する河合由海さんは、今から1年ほど前にこの家業を「継ごう」と決めました。

もともとほかにやりたいことがあり、後継者になる気はまったくなかったという河合さん。いったい河合さんにどんな心境の変化が生まれたのでしょうか?

河合由海(かわい・ゆうみ)
1987年生まれ。埼玉県さいたま市出身。さいたま市にある洋菓子店勤務。洋菓子店は、会社経営者だった祖父が、地域貢献の一貫として「地域の子どもたちが喜ぶような店をつくりたい」と思い立ち、由海さんの母が1985年にオープン。安心安全で、生産者の顔が見える国産素材を使う、という創業当時からのコンセプトは受け継ぎながら、さらなる素材やデザインの追求、カフェメニューの見直し、スタッフの教育や風通しの良い職場づくりなど、新たな改革も行なっている。

自分が本当にやりたいことを模索し続けた日々

物心つく頃には家業の洋菓子店がすでにあり、従業員のおにいさんやおねえさんが遊び相手。仕事のお手伝いをすることが遊びがわりだったという河合さん。しかし、楽しい思い出は多々ありつつも、後を継ぐことは考えたことがありませんでした。

私は雑貨とか洋服が好きだったんです。だから大学も服飾系の大学に行きましたし、とにかく自分の手でものづくりがしたいと思っていました。

大学卒業後、店舗をリニューアルするタイミングでお店を手伝ったこともありましたが、あくまでただのお手伝い感覚。やっぱりものづくりがやりたいと2年ほどでお店を離れ、東京の藍染工房で1年半ほど働きました。

しかし実際に働いてみると理想との違いに戸惑いました。藍染工房をやめようかと悩み、それを機に、もう1度お店に戻ることにしました。

「カフェはコミュニケーションの場」というコンセプトのカフェスペース

戻ってみたものの、まだ漠然とこれからを考えていた矢先のこと。greenz.jpで、Happy Outdoor Weddingの柿原優紀さんが講師を務める「地域編集クラス」が開講されることを知りました。

私はもともとブライダルの仕事にも興味があって、柿原さんの大ファンだったんです。ちょっと前に結婚したばかりで、自分たちで式を挙げたいとも思っていたので「柿原さんがやるなら受けたい!」って、ただのミーハー心で即、応募しました。

ミーハー心で、と言いながらも、内心には、未来に向けた学びの気持ちをしっかり持っていた河合さん。

家業は地域の方々や生産者さんと密接に関わっていて、ただ物を売るとか空間を提供するということではない、社会的背景がある仕事です。柿原さんはそれをブライダルと結びつけてすごく上手にやられているので、どういうことをされているのかを肌で感じたかったし、いろいろとお話をお伺いしたいと思いました。

これからどうしようかなって悩んでいる、いいタイミングで見つけたという感じです。

「地域編集クラス」を受講して、自分を知る

河合さんが通った地域編集クラスの様子。真剣な表情です

河合さんにとって、自分を見つめ直す大きなきっかけになったのが、授業の中で行なった自分年表の作成でした。

自分が楽しかったときや辛かったときを折れ線グラフで上げ下げして書いていくんですけど、これまでを振り返ったら、嬉しかったことや人にやって喜んでもらえたことっていうのは、ものづくりではないのかもしれないってわかったんです。

ものをつくることはもちろん好きなんです。でも接客も好きで、向き不向きでいうと、つくることより売ることのほうが向いてるんじゃないかなって思いました。

これは、それまで自分の手でつくることに強いこだわりを持っていた河合さんには、とても大きな気づきでした。

河合さんの自分年表。じつはお店を手伝っているときのほうが充実度が高いことがわかります

そしてもうひとつきっかけになったのが、greenz.jpプロデューサーの小野裕之に言われた「容赦ない現実を叩きつけてくる言葉の数々」でした。

最後のプレゼンで言われたのは「きれいに上手にまとめたね」っていうことで。

なんとなく地域の仕事やりたい、なんとなく地域の仕事=伝統産業っていう発想になっていました。「興味のあるワードはわかったけど、それこそファッション的というか見た目だけになってるよね。言いたいことはわかるけど」って言われて。地に足がついてないって気づきました。小野さんだけじゃなくて、柿原さんにも同じようなことを気づかせてもらったんです。

…もう号泣しましたね。私ダメだなっていうか、すべてのことに対して甘いし、覚悟が足りないんだなって。

たぶんずっと、それで過ごせてたんですよね。本当にやりたいことはこうじゃないのに、なんとなくいろいろな要素をもってきてきれいにまとめて、はいどうぞ、これでいいかなって、そういう人生を送ってたんだなって。そこで自分ともうちょっと向き合うべきなんだなって気づきました。

号泣するほど追い込まれたら、苦い思い出で終わってもおかしくありません。でもそこで逃げなかったのが河合さんでした。

私、意外と負けず嫌いだったんだなっていうのは思いました(笑) 率直に言われて、すごく悔しかったんです。

やりたいのは「嘘のない誠実なものづくりをする」こと

河合さん自身がプランニングした結婚式の会場は森の中

当時はまだこの先も家業を継ぐかどうかは決心がついておらず、次にやる仕事として、ブライダル業界への関心はかなり高かったそうです。そのため、実際に自分たちの結婚式を企画し、開催もしてみました。でも実際にやってみたところ、それであっさり満足してしまったのだそう。

ブライダルの仕事には、今もリスペクトを持っています。自分の結婚式のプランニングをやってみて、本当にすばらしい仕事だなと思いました。でも、だからこそ中途半端にはできない、私にはそこまでの情熱を向けられないと感じました。

じゃあ何がいちばんやりたいのかっていう自分のコンセプト的なものを改めて考えたら、それはやっぱりものづくりだったんですね。

「嘘のない誠実なものづくりをする」っていうこと。

うちの店では、伝えたいバックグラウンドがある生産者さんとつながって、ストーリーのあるものづくりを自分たちの手でやっていました。それを考えたときに、「あ、なんだ。やりたいこと(=嘘のない誠実なものづくり)、ここにあるじゃん」みたいな。

そうしたら、後を継ぎたいなって素直に思えたんですよね。

灯台下暗し。洋菓子店という外殻でなく、家業の本質と自分がやりたいことの本質を照らし合わせたとき、答えはすぐ足元にあったのです。

それこそものづくりなら、学生時代に洋服の勉強をしたからそっちにもいけたし、アクセサリーづくりを本気でビジネスとしてやっていこうと考えたこともありました。でもやっぱり、お菓子が良かったんでしょうね。お菓子づくりは面白いし、人を幸せにできる仕事です。

私は、生産者も幸せで、つくり手も幸せで、お客さんも幸せっていう三方よしの環境がつくりたいと思いました。お菓子づくりでならそれができる。自己実現だけじゃなくて、目の前の人もちゃんと幸せにできる仕事がしたかったんだなと、今は思います。

ていうか、よくよく考えたら恵まれた話じゃないですか。ゼロからつくらなくても、こんなにすてきなお店がもうあるわけだから。だから今は、家族に本当に感謝しています。

そしてもうひとつ。結婚式をやったときに、わかったことがありました。

人に任せたほうがうまくいくこともあるんだってわかったんです。自分でやるよりも人にお願いしたほうが、想像以上のすてきなものをつくってもらえる。それまでは自分の手でつくることにものすごく執着していたけど、得意なことは得意な人にお願いして、私が得意なことは私がやるねっていうふうに役割分担することで、もっとすてきな景色を見れるんだなと知りました。

今はお店の子たちと一緒にものづくりができています。それってなんてすばらしいんだろうって思います。スタッフとこういうものをつくりたいねって話をして、それを実際につくってもらって、私は私で、売ることや見せ方に責任を持つ。

同じ場所で働いていても、気持ちひとつでこんなに変わるものかって思います。そして、そういうふうに一緒にものづくりができる人たちに出会えたっていうことが幸せですね。

すべては自分の中にあるものからしか生まれない

インタビューはカフェスペースの一角で行ないました

今はやりたいことができている、だからとても楽しいと話してくれた河合さん。若い頃は東京志向が強く、地元を出たくて仕方がなかった時期もありました。しかし家業を継ぐことに決めた河合さんは、地元の良さを自分が見ようとしていなかったのだと気がつきました。

家業で経営する店舗のある地域は、個人店ができてもすぐ潰れるし、まち自体がよくなっていかないと、この先どんどん寂れていっちゃうだろうなぁとは思っています。でもじつは、近所で頑張ってるおじさんやおばさんはいっぱいいて。だったら、見知らぬまちでやるより、自分がいるこの場所で仲間や地域の人たちと理想をつくっていくほうが面白いなって今は思います。

それって要は、自分年表で気づかせてもらった「すべては自分の中にあるものからしか生まれない」っていうことなんですよね。

自分を知ることで、やりたいこととできることが結びついていく。30歳を間近にして河合さんが見つけた足元の宝物は、この先さらに磨かれて、新しい価値を持ったケーキやお菓子を生み出していくのではないでしょうか。

学びとは経験であり、きっかけでもある

最後に、河合さんにとって学びとは何か、聞いてみました。

経験、ですかね。経験したことによって学ぶ。頭で考えたことは学びにはならないなって思います。あとはきっかけです。いくら本を読んでもいくら人の話を聞いても、結局答えは自分の中と経験の中にしかないんですよね。要は、それに気づけるか気づけないか。

私の場合は、グリーンズの学校に関してはきっかけでした。そして結局は、自分の中に答えがあったんです。

グリーンズの学校できっかけをもらい、結婚式を自分でやってみるという経験が、家業を継ぐことに踏み込む気づきをもたらしました。今、河合さんは充実感がある反面、もっとできることがあるし、もっと伝えたいことがあると感じているそう。

「なんだ、やりたいこと、ここにあるじゃん!」

巡り巡って足元の豊かさに気づいた遠回りの旅。しかしその道のりがあったからこそ、導き出した答えへの確信は力強く、この先の道をも照らしています。プロセスに無駄なことなんて、きっとなんにもないのです。

もっと前へ。もっと深くへ。河合さんの学びと挑戦は、まだまだこれからも続きます。