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ずっと気になってる。だから楽しく学びたい。“憲法について考え、議論する基礎”「憲法のきほん」をつくった、三上悠里さんインタビュー

自分の仕事に直接関わる事柄じゃない。でもずっと気になっていて、もっとよく学びたいと思っている。というか、できれば何かプロジェクトを立ち上げてみたい。みなさんには、そんな風に関心を抱いているテーマはありませんか?

デザイナーの三上悠里さんにとって、それは「憲法」でした。三上さんは仲間と共に、“憲法について考え、議論する基礎”を学ぶプロジェクト「憲法のきほん」を企画。2017年3月から9月にかけて、全7回の講座を開催しました。

「グリーンズの学校」卒業生の挑戦を追う連載「マイプロジェクトの育て方」。今回は三上さんに、きっかけとなった出来事や、挑戦を通じて学んだことを伺いました。政治や憲法に関心のある方はもちろん、「知識や経験はないけれど興味のあるテーマでプロジェクトを始めたい」と思っている方もぜひご一読ください!

三上悠里(みかみ・ゆうり)2008年武蔵美術大学卒業。株式会社電通テック、株式会社佐藤卓デザイン事務所を経て2016年にグラフィックデザイナーとして独立。夫や美大時代の仲間と共に「憲法のきほん」を開催。

楽しくわかりやすく、憲法について学べる場

「憲法のきほん」は、毎回憲法学者が登壇し、テーマごとに条文を解説していく講座です。特徴は、左右どちらかの立場に立った「結論ありき」の説明をしないこと。こうしたスタンスのイベントは、ちょっと珍しいかもしれません。

三上さんはなぜ、「憲法のきほん」を始めようと思ったのでしょうか。

ウェブサイトから各回のダイジェスト動画を視聴できます

2012年頃から憲法改正の議論が活発になってきましたが、選挙時の投票率は依然として低いままでした。本当に憲法が改正されるとしたら国民投票が行われますが、そのときに投票率が低いと組織票を持つ側に有利になってしまいます。そこで、夫と「投票率を上げるような仕掛けを考えよう」と相談しました。

そのとき考えていたのは、「自民党の改憲草案はこういうところがおかしい」「投票に行こう!」というような、自分たちが正しいと思う結論に人を導くような展開でした。「憲法のきほん」では結論を前提にせず、できるだけ中立にと心がけていましたが、最初はこう……いま振り返ると、自己中心的というか、結論ありきの考えでしたね。

夫婦間で議論する中で、「結論ありきの状態で何かをしても、特定の思想を持っていない、ニュートラルな層には響きづらい」という考えに至った三上さんご夫婦。政治に関心のない人に興味を持ってもらえるよう、政治的な色が強すぎず、かつ楽しくわかりやすく憲法について学べる本を出版することにしました。

しかし、企画を進めるうちに、「本は編集が入るから、中立性を保つのは難しい」「自分たちの知識量も足りない」と感じるように。そのまま企画は宙ぶらりん状態になってしまいました。

転機となったのは、第一子の妊娠・出産です。2016年に産休と育休で時間ができたため、「あのときやりかけていたことを形にしよう」と再始動することに。アウトプットをイベントにしたのは、2012年に通った「グリーンズの学校」での経験が影響しているといいます。

私が受けたのは、「ソーシャルデザイン学」です。自分自身の関心と社会課題が交わるポイントでプロジェクトを行おう、という授業でした。その実践として、私は実家の一部を住み開きしたんです。いくつかイベントを行う中で、「イベントならできそうだな」と思ったし、さまざまなことに挑戦する人たちと出会って、「自分も」と背中を押されました。

それに、「憲法学者に憲法について教えてもらう講座にすれば、自分たちも学べるな」と思って。

実家で開いたイベントのチラシ

民主主義=多数決、ではない

「憲法のきほん」を形にするにあたって、三上さんが参考にしたのは『映画で学ぶ憲法』(法律文化社)という本です。映画を切り口に憲法を考える内容で、「こんな風に楽しく憲法を伝えるイベントにしたい!」と刺激を受けたそう。編者の志田陽子先生は母校の教授だったため相談に行き、プログラムや登壇者についてアドバイスをもらいました。

「憲法のきほん」は、三上さん夫婦を含む武蔵美術大学の卒業生5人で実施しました

最終的な目標として設定したのは、「話し合うための土壌をつくること」です。政治や憲法について話すとき、お互いが持っている前提にズレがあると議論がかみ合いません。だから、共通言語・共通認識を培える講座にしようと考えました。

結論ありきの情報ばかり摂取していると、違う意見を持つ人との分断は大きくなるばかりです。そこで先生たちには、左右に振れず、できるだけニュートラルに語っていただくよう念を押してお願いしました。

「多数派の意見はこうで、少数派にはこういう意見もあって、かつてはこう考えられていたけれど現在はこのあたりに落ち着いています」といった形で、客観的な情報を教えてほしい、と。

講座は全て千代田区にある「3331 Arts Chiyoda」で実施しました。『映画で学ぶ憲法』と同じく映画を切り口に各条文を解説する内容で、参加者からは「わかりやすい」と好評だった様子。参加者の年齢層は20代から70代までと幅広く、リピーターが多かったといいます。三上さんご自身の考え方にも変化はあったのでしょうか。

当たり前のことだと思っていた自分の考えや意識は、歴史的な背景の中で醸成されてきたものなんだと気づきました。自分の思考に影響をもたらしているものに対して自覚的にならないといけませんね。

第十三条に書かれている「個人の幸福を追求する権利」などいまの感覚では当然に思える権利がないがしろにされていた時代もあって、さまざまな人たちの努力によっていまの社会が成り立っている。そう考えると胸熱です。

「憲法のきほん」に登壇した憲法学者は口を揃えて「十三条こそが大事」と話していたといいます

また、印象的だったのが第十八条を巡る議論です。ここには「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」と書かれていますが、「奴隷制がなかった日本には必要ないのでは」という主張もあるそうです。

でも、その回の先生は、「さまざまな国が犯したさまざまな失敗がすべて反映され結実したものが日本国憲法だ」とおっしゃっていました。人間は同じ過ちをくり返すから、他国の失敗からも学ぼう、ということですね。日本国憲法の見方が変わりました。

「憲法のきほん」を通して、「歴史から学ばないと、物事は前進していかない」と痛感した三上さん。本業でも美術史・デザイン史を学び直しているそうです。美術の歴史も思想や政治と密接に絡んでいるのだとか。その話も面白そうですが、ちょっと踏み込んで、改憲についての意見も変わったのかどうかを伺いました。

変わりました、だいぶ。いまの政権が進める改憲案には反対ですが、一方で「絶対に変えるな」という言説にも距離を感じています。民主主義がきちんと作用して、その上で改正するならそれは構わないと思っています。ただ、いまの状況ではそれができそうにないな、と。

それはつまり、「現在は民主主義が作用していない」と感じているということなのでしょうか。

「民主主義の本質って何だろう」と、仲間とずっと話し合ってきたんです。そこで、民主主義イコール多数決じゃないよね、という結論に辿り着きました。意見が違う人同士が話し合って譲歩が生まれたり、意見が重なったりすること。変化が生まれる余地を残すこと。それが民主主義なんだ、と。

もちろん全員が納得する結論なんてありえませんが、それでもちゃんと話し合いを経て物事を決定するのが民主主義のプロセスのはず。

それがいまは、議論を放棄したまま数の力で物事が進もうとしているし、私たち一人ひとりも話し合おうとしていません。政治に限らず、夫婦間の家事分担とかちょっとしたことでも、話し合わないから問題が大きくなるんですよね。まずは対話の手法や文化を醸成しないと。その先に、憲法を改正するかしないかという議論が来るべきだと考えています。

学ぶほど何も言えなくなる、でも言葉にする努力を忘れない

そもそも、なぜ「憲法」だったのでしょう。出発点が憲法改正の議論だったとはいえ、大きく「政治」と括ったり、「選挙」「歴史」にフォーカスしたりする手もあったはず。——そう聞くと、三上さんは次のように答えてくれました。

デザイナーなので、「形を規定しているものは何か」に注目するんです。そう考えると、日本という国や社会のあり方を規定しているのは、やっぱり憲法なんじゃないかと考えました。

普段意識はしていないけど、現在の日本の社会基盤の根底には憲法があるはずだ、と。憲法が変わると、国の形まで変わってしまいます。だから、「憲法」にこだわりました。

「憲法のきほん」各回で、三上さんは持ち歩けるサイズにデザインした日本国憲法を配布しました。表紙は淡い水色。青と赤は補色関係にあるので、しばらく見つめてから目をつぶると残像で日の丸が浮かび上がる仕組みです。

ただ、この表紙は色が薄いため、なかなか見えてきません。「日本という国は、よく見ようと目を凝らしてもなかなか見えてこない」——そんな想いを込めたデザインは、2017年グッドデザイン賞を受賞しました。

「憲法のきほん」は一旦終了しましたが、三上さんたちは今回の学びを元に、新たな企画を考えているそうです。

お話を伺う中で印象的だったのは、「自分の政治的な考えをきちんと表明しつつ、講座で発信する情報はできる限りニュートラルであろうとする」という三上さんの姿勢です。

バイアスが掛かっていない情報なんてないから、本当は安易に中立とかニュートラルとか言えないと思っています。

でも、情報の背景やソースをきちんと示して、できる限り誠実な講座であろうとしました。「できました」とは言えないけれど、「努力した」とは言えると思います。

政治というややこしく難しい問題と向き合うとき、人は先に結論を決め、それを補強するような情報を手にいれようとしがちです。また逆に、そうした姿勢への反省から過度に「中立」を意識して、その実ただ勉強不足で意見を言えないだけ、という場合も……。それはどちらも「学ぶ」という姿勢から程遠い姿勢です。

学べば学ぶほど多角的に物事が見えるようになり、はっきりした物言いをすることが難しくなってくるもの。それでもなお、自分の意見を持ち言葉を選んで伝えようとする三上さんの姿勢は、とても真摯で誠実なものに思えました。

「憲法のきほん」を開催するにあたって、仲間とたくさん議論し、考えてきたことが窺えます。実践する人が一番大きな学びを得るものなのでしょうね。

最後に三上さんに、「関心を持っているテーマはあるけど一歩踏み出せずにいる人」にアドバイスをお願いしました。その返答でこの記事を締めくくろうと思います。

「偉そうなこと言えないなぁ」と迷いながらも答えてくれた三上さん

うーん、やっぱり、自分がいきいきと楽しめている状態が一番ですよね。そういうときって、社会にも何かを還元できているはず。だから、「何か辛い、物足りない」と感じるなら、そのままにせず、ちゃんと考えて動くこと。それが自分の人生をハッピーにするし、周囲や社会にも好影響を与えるものだと思います。

でも、難しく考えなくていいんじゃないかな。政治や憲法というとすごく真面目に見られるし、実際真剣に考えていましたが、私たちも「新しいことを学ぶのが楽しい」「メンバーで集まれるのが嬉しい」「終わったあとのビールがうまい」と、楽しみながら取り組んでいましたから。楽しいのが、本当に一番だと思います。

「ほしい暮らしも、ほしい仕事も、自分たちでつくろう」。グリーンズの学校は、みんなの「こうしたい」「こうありたい」思いやアイデアをかたちにする場です。http://school.greenz.jp/