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大麻全面合法化のカリフォルニアで、今何が? マリファナを合体させた「ガンジャ・ヨガ」オークランドを運営するジェシカ・ドゥガンさんに聞く、大麻ウェルネス産業の現在形。

2018年1月より、私の住むアメリカ合衆国カリフォルニア州では嗜好・娯楽目的の大麻(英名カンナビス)の売買、所持が合法化されました。

医療目的では20年以上前から合法化されていたので、夕食後のデザートに大麻入りのクッキーやチョコレートが食されていたり、大麻用電子パイプ・ヴェイプでマリファナを吹かしながら散歩をする人の姿を見かけることは、カリフォルニアでは以前より特別ではありませんでした。

とはいえ連邦政府として大麻は薬物の製造・濫用を規制するため、1970年に制定された規制物質法 (大麻だけではなく、LSDやマジックマッシュルームなど他の主要な幻覚剤も含む)により禁止。けれども2010年代に入り、アメリカでは医療ならびに嗜好目的の大麻解禁の風が吹いているというのも事実です。

2016年のギャロップ調査によれば、60%のアメリカ国民 (18〜34歳:77%, 35-54歳:61%, 55歳以上:45%)が大麻合法化に賛成しているといいます。そして2018年中にカリフォルニア州を含めて全9州とワシントンD.C.が全面合法化。医療目的の合法化を認めているのは、全30州です。

いっぽうで日本人にとっては不法薬物である大麻。全面合法化に伴って、カリフォルニアでは一体どんなことが起き、今後の経済・雇用・安全面などにどう関わっていく可能性があるというのでしょう。

深緑が全面合法化の州(アラスカ、カリフォルニア、コロラド、メイン、マサチューセッツ、ネヴァダ、オレゴン、ヴァーモント、ワシントン)とワシントン D.C.。グリーンが医療用大麻合法化の30州。淡い緑の16州では、向精神作用の無い大麻成分 CBD(カンナビジオール)のみが合法。CNN Moneyより。

カリフォルニアに旅行しても21歳以上でも、日本人はダメ。

カリフォルニア州で施行中の大麻合法案「Proposition 64」とは一体どのようなものなのでしょうか。要点をざっとまとめると以下です。

・21歳以上であれば医師の処方箋がなくても嗜好・娯楽目的で大麻を売買、所有できる。
・1オンス(約28グラム)までの所有と、栽培は最大6株まで可能。
・ただし、車、ボード、その他乗り物を運転中の使用は禁止。禁煙区間や学校、児童館、ユースセンター、公園などの公共場所での使用・売買は厳しく規制される。

とはいえ21歳以上でも、日本人がカリフォルニア州に旅行をして大麻を所持した場合、日本の大麻取締法(1991年改正)で罰せられます。第二次世界大戦終戦に伴って米GHQの指導のもと「ポツダム宣言」を受託し、これに基づいた省令によって日本では禁止となった大麻。いっぽうでアメリカでは合法化が進んでいるとは、興味深いですね。

好景気の米ウェルネス産業で注目される、大麻。

全面合法化に伴って、大麻産業はカリフォルニアにおける大きなビジネスになると考えられています。カリフォルニア州知事、ジェリー・ブラウンによる最新の予算予測によれば、合法化初年の税収入は6億4300万ドルにものぼるとか。

カリフォルニアはヒッピー文化が今なお根ざし、瞑想や個人の体験を重視。オーガニック食材にも関心が高いヘルスコンシャスな人々が暮らす州ですから、大麻は特に好景気のウェルネス産業でも注目されています。

カリフォルニア州サンフランシスコとオークランドで人気の、大麻とヨガを組み合わせた「ガンジャ・ヨガ(ガンジャとは、花から製造された大麻のこと)」は、その代表格。大麻解禁に伴って続々と参加者を増やしているといいます。今回はオークランド地区代表のJessica Dugan(ジェシカ・ドゥガンさん、通称・ジェス)に、この動きをどう捉えているのか、尋ねました。

ブロンドに青い眼という美女ジェスは、もともとフェス専門ジャーナリストとして活躍。その後カリフォルニアに移り住み、大麻専門の投資会社the ArcView Group(※CEOのトロイ・デイトンは、2016年4月20日フォーチューン誌で、大麻産業の最も影響力がある人のひとりに選ばれた)初の社員となり、会社の中枢として勤務。退職後は「心と身体のつながり」を探究するべく、ガンジャ・ヨガ創立者のディー・デュソーさんの共同運営パートナーに。GANJA YOGA https://www.theganjayoga.com/

サンフランシスコでガンジャ・ヨガを指導する創立者のディー・デュソーさん(左)とジェスさん(右)

 ガンジャ・ヨガとは一体なんなのですか?

ジェスさん ヨガと大麻を組み合わせることで、心身をリラックスさせ、ストレスや不安、体の痛みなど現代人が抱える問題を解消するのがガンジャ・ヨガです。

クラスでは特にコミュニティづくりを重視していて、ヨガを行う前後30分間に参加者と講師がお互い自己紹介しながら温かいお茶を飲んだり、さまざまなタイプの大麻をウッドデッキで空を眺めながら一緒に試したりとサロンの時間を持ちます。

先日のクラスでは、ローズ水とカカオ、そしてアーモンドミルクに蜂蜜を加えた手製のスペシャルドリンクを参加者に振る舞ったんですよ。カカオはスーパーフードというだけでははく、古代マヤ文明より”ハートを貫く水“と言われ、儀式に使われていたからです。

サロンはガンジャ・ヨガの核となるひとときで、参加者が心と体を解放させていくために、批判的ではない安全なスペースをつくります。その後、気持ちがほぐれてきたところで、75−90分かけてヨガをゆっくりと行うのです。定期的に参加するうちにヨガと大麻だけではなく、ここで会える友人との再会が目的になるという参加者も多いんですよ。

コミュニティづくりを重視するガンジャ・ヨガのサロンの様子(写真は、ディーさんを囲んで)。費用は、ヨガのクラス代が25ドル(インターネット申し込み手数料を含めて26.87ドル)。自由に試せる大麻は無料。初めての参加者には協賛会社からのギフトも。©Monica Lo 2017

 クラスで提供される大麻製品について教えてください。

ジェスさん 私たちの大麻製品は高い意識のもと育てられた花弁を使用し、臨床検査を経た何度も受賞経歴のあるクオリティが高いものです。

クラスでは、大麻用電子パイプ、濃縮大麻(オイルタイプ他)、花弁、食用大麻(イディブル。クッキーやグラノーラなど)、カンナビスチンキやクリームなどといったさまざまな製品を用意しています。大きく分類すると、向精神作用のあるものと無いものがあります。大麻成分のCBD(カンナビジオール)を合有し、向精神成分のTHC(テトラヒドロカンナビノール)を含まない製品は、ハイになりたくない参加者におすすめです。

濃縮大麻をつけて吸引する大麻用電子パイプ、ディッパーもスタイリッシュなデザインのものをセレクト。

左上より時計回りに。「Dipstick Vapes」のマリファナ用電子パイプには、“リラックスしたい”“エネルギーを充満させたい”など用途に合わせて選べる4種類の大麻オイルが。ダビングと呼ばれる独自の濃縮技術で花弁を燃焼させることなく濃縮大麻オイルを抽出。「Papa & Berkley」社の「Releaf Tincture」は、THCとCBDを1:30の割合で調合し、体の痛みを緩和させるだけではなく、ハイになりすぎたときの効果を抑制するチンキ。「HARBORSIDE」は、最大規模かつ、最もよく知られたディスペンサリー(大麻調剤薬局)。巻きたばこ式の濃縮大麻で、サティヴァといって気分をハイにするものとインディカといってメローにするもののブレンドからなる。

 大麻とヨガクラスをどのように連動させているのですか?

ジェスさん ヨガのポーズは、生体力学を用いて基本的にはデスクワーク生活のリハビリになるようなものを選んでいます。

長時間座り続けることでカチカチになってしまったハムストリングスと骨盤底筋をほぐし、PCなど電子機器の使用で凝り固まってしまった肩や目の奥の筋肉をストレッチします。

また、参加者それぞれが呼吸とつながり、自身の内側へと向かっていけるようにと、子どものポーズを一連のヨガの動きの中で何度も取り入れています。これらのポーズと大麻を組み合わせることで忙しい思考から離れ、穏やかな瞑想状態に入っていく可能性が高まっていくんですよ。

子どものポーズを行う参加者。電子パイプなど好きな大麻製品を持っていき、レッスン中に吸うことができる。「カンナビス(大麻)をあなたが今必要としている部分に充満させて」とのジェスの柔らかな声が響く。参加者の声は、「私はガンジャ・ヨガが始まった頃から毎月来ているわ。ストレスフルな毎日を健康的に過ごすために欠かせないの」(50代女性)、「これで平穏な心で週明けの仕事を頑張れるわ」(20代女性)など。

 大麻全面合法化に伴って、変わったことはありますか?

ジェスさん まず参加者の数が増えましたね。サンフランシスコでは、その数は約2倍にのぼりました。ヨガも大麻も一度もやったことが無いという人からエキスパートまで、参加者の幅は広いです。全面合法化とはいっても年齢21歳以上が参加条件となるので、必要な場合はIDの提示をお願いしています。

 日本では大麻は違法です。さまざまな意見があるなか、なぜ大麻全面合法化を支持しているんですか?

ジェスさん まず雇用と税収入の増加という点から、経済的なメリットがあります。

大麻が合法化された州では、学校、ストリート、公園、レクリエーションセンターなど地域社会に劇的な改善をもたらしています。そして全面合法化によって、薬物戦争を終わらせられると私は考えています。大麻ビジネスのカルテル利益は奪われ、多くの人にとって実行可能なビジネスへとなっていくからです。その結果、アメリカが何十億ドルと薬物戦争のために費やしてきた国費を節約できます。

©Monica Lo 2017

ジェスさん 大麻には雄株、雌株があるのですが、薬効成分THCを含む大麻は雌株からのみ採取されます。その成り立ちと同様に、女性植物からできる大麻が家長制度に基づく古いビジネスモデルを再構築していけば、初の男女同権10億ドル産業になるのではないかと期待をしています。

(インタビューここまで)

©Elena Kulikova

正直を言えば大麻に対してアンダーグラウンドな印象をなにかしら持っていたので、好奇心と興奮を抱きつつも、どこか後ろめたいような気持ちを感じながら取材に臨んでいたというのも事実です。

けれども大麻を健康的かつスタイリッシュな形で真剣に提案するクラスを見学しているうちに、良い意味で裏切られました。そして目にした、ガンジャ・ヨガのクラスを終えて「本当にありがとう!」とジェスさんと抱き合う参加者たちのリラックスした優しい笑顔はまぎれもない現実だとも感じました。

アルコールとの併用で犯罪率が増すと懸念される大麻ですが、ディスペンサリー(大麻調剤薬局)向けの配送サービス技術を提供しているサンフランシスコを拠点としたIT企業・Eazeの調査によれば、13%の女性大麻消費者がアルコールの消費を大麻に置き換え、一切止めたという結果もあります。

とはいえ大麻がらみの問題が依然として存在することも事実で、安全面にも懸念があります。

例えば2014年に嗜好目的の大麻を合法化したコロラド州では、子どもが誤ってクマの形をしたマリファナ入りグミを食べて過量服用になってしまったという事例も(これを受けて、カリフォルニアでは、動物や果物の形をした“食用タイプの大麻”の製造・販売を禁止しています)。嗜好品になるからこそ、より適切な使用・管理の方法を提案する必要があるのかもしれません。

そしてジェスさんの予測のように、インドにおけるIT産業がカーストのループを抜け出す光となったのと同様、全面解禁のもとで大麻ビジネスが性に対する意識を根本から変えていくような経済モデルになっていくのでしょうか。現在カリフォルニア州で設定されている15%という高い税による収入は、今後何に使われていくのでしょうか。合法化は始まったばかり。まだまだその動きを見つめていく必要がありそうです。

(Top Photo: ©Monica Lo 2017)

(編集: スズキコウタ)