\12周年、タグラインをリニューアルします/

7月16日からgreenz.jpのタグラインは「ほしい未来は、つくろう。」から「いかしあうつながり」に変わりました。

詳しくは編集長鈴木菜央のコラムを読んでもらえると嬉しいです。

7月16日、greenz.jpのタグラインは「いかしあうつながり」に変わりました。

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学ぶ楽しさを、世界へ! 多様性を信じて防災教育をつくり、届ける「HANDs!プロジェクト」って?

日本の防災教育といえば、学校で“やらされた”避難訓練を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。

まず、授業中に災害が起きたという設定で、避難をうながす校内放送が入り、先生の誘導にしたがって、クラスごとに校庭へ移動します。そして点呼をとったあと、校長先生の講評を聴いて解散。訓練中は、おしゃべりも控えて、先生の指示通りに粛々と行っていたように思います。

しかし世界に目を向けると、他にも違った種類の防災教育がたくさんあります。

たとえば、これはインドネシアの防災教育「StarSide Project」。地震や津波で被害を受けた地域の小・中学校で、8種のゲームを行います。ゲームは、災害時の対処法が記された防災カードや、非常用バッグづくりを題材にしていて、子どもたちははしゃいで参加しながら、被災時の行動や災害への備えを身につけます。

Knowpal(Knowledge+Penpal)住んでいる地区の災害について写真から学ぶ生徒たち。ここでの学びを踏まえて、他校との文通をはじめる

また、ネパールの防災教育として計画されている「Knowpal(Knowledge+Penpal)」も魅力的です。被災地にいる生徒同士が文通しながら、お互いの持つ防災知識をシェアして、心のつながりをつくっていきます。カトマンズ市内の学校で防災教育を通して友情が生まれる取り組みで、これから遠隔地での実施にも期待が集まっています。

これらの防災教育が生まれるきっかけをつくったのは、国際交流基金(THE JAPAN FOUNDATION)アジアセンターが取り組む「HANDs!プロジェクト」です。なぜHANDs!プロジェクトからは、楽しそうで参加したくなる防災教育が生まれるのでしょう? プロジェクト統括・後藤愛さんとプログラム・オフィサー・Purwoko Adhi Nugroho(以下、アディさん)にインタビューしました。

写真右から後藤愛(ごとう・あい)さんとPurwoko Adhi Nugroho(プルウォコ・アディ・ヌグロホ)さん

国際交流基金とHANDs!プロジェクト

2013年12月に東京都港区で開催された「日・ASEAN特別首脳会議」で、4つの柱を掲げるステートメントが採択されました。なかでも「心と心のパートナー」という柱に含まれた「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト~知り合うアジア~」では、2020年に向けてアジアの国々がともに新しいアジア文化の創造を目指すことが、安倍総理から提案されました。

この提案を受けて、世界規模で国際交流事業を実施する国際交流基金に、2014年4月アジアセンターが新設されました。主に「日本語パートナーズ」と「芸術・文化の双方向交流」に取り組んでいます。後者では現在数十のプロジェクトを実施しており、“クリエイティブな防災教育”を広める「HANDs!プロジェクト」も、その1つです。

毎年、アジア各国から防災に高い関心を持つ若者を「HANDs!フェロー」として迎え入れ、「スタディツアーによる防災研修・地域交流」と、「各HANDs!フェローの専門性を活かした防災企画実施のサポート」を続けています。

フィロソフィーとコンセプト

HANDs!フェローは、スタディツアーを通じて、HANDs!プロジェクトの3つのフィロソフィーを学びます。

1つ目は「風・水・土」の理論です。地域に対して、「風」は外の人、「土」は現地の人、「水」はその間をつなぐ人です。

「風」はアーティストや建築家など、地域活性のきっかけになる種を運んできます。「水」は「土」に合う「風」を見極めて、調整やサポートをします。「土」は「風」の運ぶ種が地域に必要なのか検討し、迎え入れる準備をします。

この理論の提唱者である、HANDs!プロジェクト総合アドバイザーの永田宏和さんは「風・水・土」のチームワークがうまくいくと、とてもよいプロジェクトが生まれるのだと言います。

永田さんは、NPO法人プラス・アーツで、阪神・淡路大震災10周年事業として生まれた、楽しく学ぶ新しい防災訓練「イザ!カエルキャラバン!」を展開。(写真はジャカルタでのレクチャーの様子)

2つ目は「デザイン思考」です。「土」の1人にフォーカスする考え方です。今どんな状況に暮らしているのか、何が必要か、どんなリスクを抱えているのか、「風」や「水」の人がしっかり観察することを大事にします。

3つ目は「システム思考」です。たとえば、ある国に避難訓練がないなら、なぜないのか。現場の先生にやる気がないのかもしれない。理由は給料が足りていないからかもしれない。なぜ足りないのか。その国の学校はどういう税収に頼っているのか。先生は公務員なのか。アルバイトのように雇われているかもしれない……。

このように社会の全体像を知らなければいけないという考え方です。

「デザイン思考」をしつつ、「システム思考」もすることが大切だということです。

風水土の理論、デザイン思考、そしてシステム思考。この3つのフィロソフィーに基づく、“クリエイティブな防災教育”こそ、HANDs!プロジェクトの魅力です。

アディさん 従来の「防災」は重いイメージになっていたし、防災を学ぶ人は少なかったんです。そこでHANDs!プロジェクトのコンセプトを「DISASTER EDUCATION+CREATIVITY」にしました。

後藤さん 専門知識や技術をレクチャーするだけでは興味を持ってもらえません。どうすれば面白味を感じてくれるか。知識や技術を伝えることも大事だけど、どういう手法で伝えるのかということも同じくらい大切にしています。

では、なぜHANDs!プロジェクトは、“クリエイティブな防災教育”というコンセプトを掲げるようになったんでしょう? その理由は、HANDs!プロジェクトができるまでの出会いに隠されています。

HANDs!プロジェクトができるまで

大学を卒業したばかりのアディさんは、2011年11月に国際交流基金ジャカルタ事務所に入りました。3ヶ月後、試用期間のアディさんがデスクワークに打ち込む事務所へ、前任者と交代するため、東京から後藤さんがやってきます。

ジャカルタの仲間たちと二人

後藤さん 当時、私たちはジャカルタ事務所に来たばかり。お互いフレッシュな気持ちだったので、「何か新しいことをやりたいね」って話していたんです。

当時、東日本大震災から1年が過ぎた頃でした。インドネシアから日本に募金をしたりボランティアに行く人がいたりしていて、「インドネシアの人の気持ちに合った何かをしたいね」って。

アディさん まずはリサーチからはじめました。ジャカルタにある、他の文化センターのプログラムを調べて、チャンスがあったら一緒にコラボレーションしたいと思っていました。

予算はゼロ。二人は国際交流基金ジャカルタ事務所の業務をしつつ、自分たちで主体的に取り組むプロジェクトとして、防災に関するプログラムの準備をはじめました。

ある日、二人はインドネシア科学院で災害リスクの啓発という観点から防災を研究しているイリーナ・ラフリアナさんを訪ね、防災について問題意識を共有しました。その帰り道、1時間半の渋滞に巻き込まれます。インドネシアで渋滞は珍しくないそうですが、二人にとっては、改めてプログラムのことをじっくり話し合う機会になりました。

後藤さん イリーナさんも、インドネシアには防災が必要なのに何もなされていないのはなぜだろうと考えていたんですよ。だから帰りの車中で、アディさんと「日本に興味のあるインドネシアの人は、どんな仕掛けだったら防災プログラム自体にも興味を持ってくれるだろう?」って話し合いました。

アディさん 学生たちに「防災を勉強しなさい」って何かを配付しても、つまらないし、読みません。でもコンペティションにしたら、みんな楽しいから寄ってくるんじゃないかな。「入賞すると日本に行けるって企画にできたら、きっとみんなの関心が集まると思う!」って話しましたよね。

当時の上司・小川忠さんも防災を通じた新たな文化交流事業の開発に興味を持っていて、「やってごらん」と二人の背中を押してくれました。そして、「そういう企画なら、この人に連絡するといいよ」と、のちにプロジェクトの総合アドバイザーを務める永田さんを紹介してくれたのです。

元上司・小川さんは、書籍『インドネシア―イスラーム大国の変貌』(新潮選書)などの著者でもあり、現代アジア研究者として知られる

後藤さん いろんな人の協力を得て、2012年12月に「日本・インドネシア防災教育 若者コンペティション」を開催できました。永田さんは審査員を務めてくれただけでなく、「せっかくインドネシアに行くんだから」と率先してレクチャーまでしてくれたんです。

インドネシア各地から80人の大学生が集まって、入賞チームの発表をしました。まるで国際映画祭みたいに、受賞した学生たちが歓喜で席から立ち上がるほど盛り上がったんですよ。

このコンペティションは大成功に終わり、入賞チームの学生たちは外務省「キズナ強化プロジェクト」への推薦を受け、念願の日本視察に向かいました。

しかし、学生たちの期待と視察内容には微妙なズレがありました。

みなさんは震災1年後の日本を思い出せますか? あの頃、日本は海外に向けて「もう危なくないよ。大丈夫だよ」と伝えることに力を入れていたのです。

アディさん それはまったく悪いことではないんですよ。でも、入賞チームの学生たちは、日本がいかに安全であるか、ということではなく、どんなふうに災害対策しているのかを知りたがっていました。それを聞いて、学生たちの希望にもっとピッタリ合ったツアーを、自分たちで企画したいと思いました。

私たちのホープ・アンド・ドリームス

2年目は趣向を変えて、学生たちが各地で防災教育を行って、その様子を撮影した動画を募集するコンペティションを実施。力の入った防災教育活動が集まり、盛り上がりました。

そして3年目となる2014年を迎えます。

後藤さん この年、アジアセンターが新設されて、東京からプロジェクト案を募る声がかかりました。2年の活動を踏まえて、もっといろいろできるイメージが湧いていて、他国の事務所にも「一緒にやらない?」と声をかけました。

各国の事務所が“クリエイティブな防災教育”というコンセプトに賛同すると同時に、アジアセンターのプロジェクトにも採択されました。こうして、アジア6カ国(インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、インド、日本)から参加者を募ったHANDs!プロジェクトが誕生します。

後藤さん アジア各国の立場に関係なく、ひとりひとりがアクターになれるはず。経済的な格差は誰にも分かりやすく問題として認識されやすいですが、実は、人が将来に対して夢と希望を持てるかという「希望の格差」が気になっていました。

Hope and Dreamsの頭文字を取った「HANDs!」という名前には、あなたは希望であり夢であるということ。そして、自分たちのコミュニティで希望と夢を広める伝道師になってほしいという気持ちを込めて、この名前をつけました。

2017年度のプログラム

2017年度のHANDs!プロジェクトは、9カ国(上記6か国に加え、ミャンマー、ネパール、カンボジア)から参加者を募り、10月8日〜19日にフィリピンと日本でスタディツアーを実施しました。

フィリピンでのレクチャー

HANDs!フェローたちは、まずフィリピンで永田さんからフィロソフィーのレクチャーを受けました。その後、フィリピン国立芸術高校のキャンパスで合宿。実践として、高校生と共同で、キャンパスの環境や防災にまつわる課題を発見し、地図をつくったり、危険な部分の対策を考えたりしました。

フィリピン国立芸術高校の生徒たちとキャンパス内の災害リスクを扱うワークショップ

日本に移ってからも、引き続き永田さんから防災教育をローカライズする事例を教わり、企業とタイアップした防災プロジェクトを視察しました。

「3がつ11にちをわすれないためにセンター」の視察

その後、宮城県の仙台市、女川町、石巻市を巡りました。「3がつ11にちをわすれないためにセンター」(上写真)や「震災遺構 仙台市立荒浜小学校」を視察したり、女川町の宿泊施設「ホテル・エルファロ」の取り組みを学んだりしました。

石巻2.0でワークショップ

震災の前の街に戻すのではなく、新しい未来をつくりたいと活動する「石巻2.0」とワークショップもしました。石巻を訪問する外国人を増やして街をますます元気にしたいという課題について、クリエイティブな思考で解決策を考えるワークショップです。

HANDs!プロジェクトのスタディツアーでは、ともに学び合うことを重んじています。

後藤さん 個人的な経験ですけど、私がアメリカの大学に留学していたとき、発言をためらう私にある先生がこう言いました。

「あなただって日本人だからこそ知っていることがあるでしょう?」。

アフリカから来た学生にも、「あなたしか知らないことがあるでしょう。それは絶対に言いなさいね」と言っていました。

実際に立場の違う人が話してくれるから、気づけたことがたくさんあったんですね。そんなことがアジアでもできたら楽しいし、自分だけではできない、何か新しいものを生み出せるはずだって思っていたんです。

日本は災害先進国として知られていますが、アジアの他国でも、各地域特有の社会状況や文化に合わせた防災があります。だから、地元に根ざしたおばあちゃんの知恵袋を含めて、各国の人が学び合うことを大事にしています。

HANDs!フェローから後藤さんは、「Mother(お母さん)」と呼ばれています。異国に行く緊張や防災教育の先輩から教わるなか、HANDs!フェローが受け身になっていると、「もっと質問しなきゃ。あなたが感じていることを話さないと、他の人が学ぶ機会を奪ってしまうことにもなるんだよ」と発破をかけるからなんだとか。

これからのHANDs!プロジェクト

HANDs!プロジェクトがはじまって3年。記事の冒頭で紹介した、「StarSide Project」や「Knowpal(Knowledge+Penpal)」のような“クリエイティブな防災教育”がたくさん生まれました。

後藤さん 「The Adventures of Bunny & Nao」は、カードゲーム付き体験型防災コミックです。HANDs!フェローで、漫画アーティストのボニィとデザイナーのナオミが共同制作しました。今は出版に向けて動いています。

アディさん 漫画を読んでいくと、防災にまつわる問題が出てきます。その解決策は漫画に付属するカードのなかに含まれているので、そこから探してカードを使い、読み進んでいく防災教育です。

また、成果物以外の価値も生まれました。

後藤さん 個人的に大きな変化は、仕事をするマインドが変わったことです。最初は組織のなかで既存のやるべき仕事を回すことが仕事だと思っていました。

でも、このプロジェクトをゼロから立ち上げ、いろいろな方と一緒に進める経験ができたことで、目標を達成するための手段はいろいろあり、イノベーティブやクリエイティブであるということは自分自身の日々のあり方そのものだと気づきました。

アディさん HANDs!フェローにはもちろん学びのインパクトが残っているんだけど、プロジェクトに参加するアドバイザーたちにも実は学びが生まれていると思います。毎年HANDs!フェローがくれる意見に刺激を受けて、アドバイザーたちの取り組みや、このプロジェクト自体も徐々にアップデートしていっているんですよ。

HANDs!プロジェクトやプロジェクトを支えるスタッフたちも、アジア各国から集まるHANDs!フェローの多様性によって豊かになっていく。自分たちの志と活動が結びつき、好循環を生んでいます。

後藤さん 今後はHANDs!プロジェクトに賛同してくれる個人や団体や企業との連携をもっと深めていきたいと思っています。

アディさん 2020年に向けて設立されたアジアセンターのプロジェクトですが、2020年以降もプロジェクトを続けていけるようにしていきたいです。HANDs!プロジェクトがなくなってしまうのは、惜しいので。

HANDs!プロジェクトの“クリエイティブな防災教育”は、HANDs!フェローたちが「風」になり、各地に種を運んでいます。その種は、「土」の人たちも楽しく参加して防災知識を深めていけるように、「水」を得て、地域に合ったプログラムをつくりはじめました。そんな防災教育の循環が将来に渡って広まっていくことをHANDs!プロジェクトメンバー全員が望んでいます。

HANDs!プロジェクトの“クリエイティブな防災教育”には、新しい防災のあり方がありました。まずはみなさんも自分の地域に合った防災教育をイメージしてみませんか? できればワクワクする、楽しそうな内容で。

(記事冒頭の写真: Kenichi Tanaka)
(インタビュー写真: 関口佳代)

– INFORMATION –

HANDs!プロジェクト


社会を面白くそして安全にしてゆきたい! と熱いハートを持つHANDs!参加メンバーたち。みなさんもこのバスにいっしょに乗りませんか?
http://handsproject.asia/

[sponsored by 国際交流基金]