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目的や意義を追い求めない場があってもいいんじゃない?「尼崎ENGAWA化計画」藤本遼さんのあり方から感じ取る、“グラデーション”ある世界を生きるということ。

お絵描き、木登り、お店屋さんごっこ。
時にはアニメのヒーローになったり、アイドルの真似をして唄ったり踊ったり。
みなさんは子どもの頃、どんな遊びに夢中になっていましたか?

所属も、肩書も気にせず一人の“私”として「思いっきり遊んだなー!」と最後に感じた時はいつでしょうか?

「これは何のためにやるの?」とか、
「この仕事をしたら何を得られる?」とか。

私たち大人は遊び心を忘れ、事前に定めた目標に向かってひた走ったり、わかりやすい成果を求めがちになったり。まず頭で考えてから行動してしまいます。

もちろんそれも大事。だけど効率や効果を追い求めすぎてしまうと、時にはしんどくなってしまうこともあるでしょう。

そんなあなたにご紹介したいのが、兵庫県尼崎市で「尼崎ENGAWA(えんがわ)化計画」を立ち上げた藤本遼さんです。

目的や意義なんて考えずに「楽しい」という純粋な気持ちを大事にして、「自分の人生を生きてみない?」と問いかける藤本さん。その根底にある想いとは?

藤本遼(ふじもと・りょう)
尼崎ENGAWA化計画/場を編む人
1990年4月生まれ。兵庫県尼崎市出身在住。尼崎ENGAWA化計画代表。コンセプトは「あわいと余白のデザイン」。現在は、イベント・コミュニティの企画運営、空間のプロデュース・リノベーション、会議・ワークショップのファシリテーション、対話・恊働に関する研修など、場づくりやまちづくり、公共空間の活用に関する仕事・活動を行なう。代表的なプロジェクトは、「amare(あまり)」、「尼崎ぱーちー」、「尼崎傾奇者(かぶきもの)集落」など。クリエイティブアウォード関西2015グランプリ受賞。

”遊び”をきっかけに
尼崎をもっとおもしろがろう

藤本さんご自身のお話を伺う前に、まずは藤本さんが取り組む「尼崎ENGAWA化計画」の活動をご紹介しましょう。

「尼崎ENGAWA化計画」は、「まちにENGAWAを。」をテーマに、まちをおもしろがるためのさまざまなイベントや企画をプロデュースするプロジェクト。遊びを切り口に、自分たちが住むまち・尼崎に関わるきっかけづくりをしています。

さまざまな活動の中から最初にご紹介するのは、藤本さんが「尼崎ENGAWA計画」をスタートするきっかけになった場所「amare(あまり)」です。

「amare」は2015年8月に、阪急「塚口駅」前の塚口サンサンタウン6階にオープンした。2017年10月末に、施設建て替えのため閉店

阪急「塚口駅」から徒歩1分。「さんさんタウン」6階に「amare」がオープンしたのは、2015年8月のことでした。

藤本さん、尼崎市役所職員・江上昇さん、DIYパーツ販売店「GASAKI BASE」番頭・足立繁幸さんの3名が集まり「まちをおもしろがれる場所をつくろう!」と、もともと古い喫茶店だった場所を自分たちの手でリノベーション。口コミやインターネット発信を通じて、のべ228名の人々を巻き込んで改装し、子どもからお年寄りまで、年代も職業も背景も異なる人が集まる場所に育ててきました。

写真左から、DIYパーツ販売店「GASAKI BASE」番頭・足立繁幸さん、尼崎市役所職員・江上昇さん、藤本さん

「amare」を拠点に、週2~3回のペースでイベントを開催してきた藤本さん。その中の一つが、「オトナテラコヤ」です。

「オトナテラコヤ」は、「あまがさき市民、みんなが先生」をキーワードに、気軽に楽しく、デザイン、建築、アート、法律、ICTなどさまざまなことを関心に沿って学べる機会を提供する大人のための寺子屋。2017年10月末までに100回を数え、1,200名以上の市民に、知らない世界に触れるきっかけを提供してきました。

「仏教×考える」「女性にとっての性と生 」「空気を感じる司会術」「公務員の仕事ってぶっちゃけどうよ?」など、オトナテラコヤで扱うテーマは多彩

さらに活動を広げるため、藤本さんは「amare」を飛び出します。

2016年7月から年に1度、尼崎市内にある浄土真宗本願寺派 清光山 西正寺の副住職、中平了悟さんと一緒に「カリー寺」を企画・運営。お寺を会場にさまざまなカレー屋さんの出店や、アジア各国のパフォーマンス、仏教やカレーにまつわるトークイベントなどを用意し、日頃なかなか訪れる機会のないお寺に足を運ぶ機会をつくっています。

1日500名を超えるお客さんで賑わう「カレー寺」。明治時代の打ちこわしの以来、西正寺史上おそらく2番目に人が集まったそう

2016年10月には「尼崎ぱーちー」を開催しました。ものづくりのまちとして栄えてきた尼崎ならではの特色をいかし、工場で製造している材や、使用している機械などを会場にオブジェとして設置。尼崎市内のお店や作家、パフォーマー、アーティストとともに尼崎ならではの場をつくり、1万人の市民で賑わいをみせました。

尼崎でしかできないことを自分たちの手でつくろうと、「尼崎の森中央緑地」で開催された「尼崎ぱーちー」。100近い出展者が集まり、4時間に渡るステージライブが繰り広げられた

このように「amare」をきっかけに、尼崎では数々の場が生まれてきました。

さらに2016年2月には阪神「尼崎駅」から徒歩10分のところに、「尼崎傾奇者(かぶきもの)集落」が誕生。ここでは藤本さんと一緒に「amare」をつくったDIYパーツ販売店「GASAKI BASE」番頭・足立繁幸さんと材木屋「吉田悦造商店」の吉田浩之さんが、空きスペースをいかして新しい集落の形を実験中です。

集まる人は、みんなどこか世の中の”普通”からちょっと“傾いた”人。材木屋を中心に、DIYパーツショップや革工房、コーヒースタンドが集り、各々が理想の暮らしや生き方を見つめています。

「尼崎傾奇者集落」は100年近い歴史をもつ材木屋「吉田悦造商店」の一画にある。月1回、村のお祭り「SOERU」を開催

2017年10月に建物立て替えのため「amere」が閉店した後も、藤本さんは拠点を「尼崎傾奇者集落」に移し、活動を継続。

番台前のスペースでお酒を飲みながら交流する「おふろバー」や、尼崎のママによるマルシェイベント「あままままるしぇ」を企画するなど、尼崎をフィールドに、尼崎に住む人が自分の住むまちに関わるきっかけをつくり続けています。

蓬莱湯にて開催される「おふろバー」。銭湯のフリースペースが、市民の交流スペースに大変身!

「カリー寺」、「尼崎ぱーちー」、「おふろバー」、「あままままるしぇ」。藤本さんが企てるイベントはどのネーミングもゆかいな響きで、子ども心をくすぐられるものばかり。「どんなイベントだろう?」「なんだか楽しそう!」と一度、足を運んでみたくなりますよね。

私が初めて藤本さんに出会ったのは、まだamareがオープンする前。ちょうど喫茶店をリノベーションしていた頃でした。それから時折、藤本さんの活動をのぞいてみると、なんだかいつも楽しそうで、子どもから大人までたくさんの人が笑顔で関わっている姿が印象的で。尼崎ってとても楽しそうなまちだな~と遠目から見ていたのです。

多くの人々が惹き付けられる場を、どんな考えで企てているのだろう? そんな問いを持ちながら、藤本さんにお話をお伺いしました。

”みんなとちょっと違う”僕だから気付けた
知らないことを知るきっかけとしての場づくり

じぶんたちでつくり、まなび、あそぶまちの「ENGAWA」として生まれた「amare」。遊び=楽しいことだからこそ、みんな主体的に関わる

まず私は、惜しまれつつも閉店した「amare」についてお話を聞きました。ここに、藤本さんが大切にしているものがすべて詰まっている気がしたから。

「amare」の特徴をあげるとしたら、訪れる人が組織や所属を背負ってきていないことですね。

楽に人と出会って、語り合って、関わり合って。何か発見があればいいし、なくてもいいし。学びや気付きがあったらいいし、なくてもいいし、何か始まらなくてもいい。

そういう場所が今の社会を見た時に少ないし、必要だよねと思って運営していました。

「amare」や「尼崎傾奇者集落」、そしてイベント。あらゆる場づくりに関わる藤本さんが大切にしている共通項が、「世代も、職種も、背景も違う人たちが集える場をつくること」です。そこには幼少期の藤本さんの原体験が大きく関係しています。

幼い頃に両親が離婚して、僕は父方に引き取られました。参観日に来るのはおばあちゃん、遊びに連れて行ってくれるのはおじいちゃん、少年野球の試合を観に来るのはお父さん。そんな家庭事情が、僕にはありました。

周りの友達も気を遣っているのがわかったので、「僕はみんなと違うんだ」という意識がずっとあって。コミュニティには属していたし、いじめられることもなかったですが、心から属している実感を持てたことはありませんでした。

自分は、みんなとちょっと違う。子どもの頃に芽生えた意識が、藤本さんが大人になる過程においても大きく影響していきます。

僕自身が”みんなとどこか違う”という感覚を持って育ってきているから、「誰かと同じなら安心」という考えが、あんまり好きではないんです。大学生の頃もファッション関係のサークルで活動していましたが、オシャレな人がオシャレじゃない人を見下したり、排除したりする感じが居心地悪くて。

なぜ自分とは違う人に対して厳しい態度をとるのだろうと考えた時に、排除される人がいることに想像が及ばないこと、そして誰かを排除する前に、ありのままの自分を受け止められていないから自分を自分で排除しているのかもしれないと気付きました。

「amare」リノベーションの一コマ

人との違いを幼い頃から実感してきた藤本さんだからこそ気付いた疑問や課題。日常の中で抱いた違和感から、藤本さんはさまざまな問いを自分に投げかけるようになります。

大学3年の秋になると就職活動をみんな始めたけれど、「本当に僕は会社で働きたいのかな?」と自分に問うて。たとえどこかに内定をもらっても、仕事と暮らしが自分の人生から離れてしまう気がして、納得いかないなと。

だから僕は就職活動をせずずっと図書館で本を読んで、どう生きるべきかを考えていました。

ありのままの自分でいられる
本当の居場所

両親の離婚、ファッションサークルでの経験、就職活動への考え方など、人生のあらゆる場面で藤本さんは、自分の心の声をちゃんと聞き、違和感に素直になって自分がありのままでいられる場所を探してきました。その中で、自分とみんなの違いを自覚することが、相手を理解するために必要なスタート地点だと考えるようになります。

自分とは違う人がいるという事実にどうしたら目を向けてもらえるだろう。違う正解をもつ人同士は、どうしたら認め合っていけるだろうと、問うようになりました。

自分とは違う立場の人のことを知り、理解するにはどうすれば良いか? 答えの一つが、「世代も、職種も、背景も違う人たちが集える場をつくること」でした。
さらに藤本さんは、生まれ育った尼崎に軸足をおいて活動している理由も教えてくれました。

自分の生活圏で家族のような、信頼し合える関係性をつくっていけたら嬉しいですし、僕が生み出す場が一つのきっかけになればいいなと思っています。

僕は“正規ルート”じゃないところにいたのに、大学も出て、全うに仕事をして生きていられるのは色々な救いがあったからです。

家族以上に僕のことを受け止めてくれた大人や、本を通じて出会った偉人、彼らとの出会いや受け取った言葉があったらから僕は今、前を向いて生きています。

きっと一人では何もできなかった。偶然、仲間と呼べる人に出会えた。この人たちとなら何か一緒にできるかもしれない。そんな経験があるから、今まで希望を持って生きてこれたのは決して自分の力ではなくて、運と縁だと藤本さんは考えます。

だからこそ、人との関わりをどうつくっていくかが、課題の多い現代社会で求められているのでは、と。

血縁関係も大切だけれど、それだけじゃなくてもいい。家族以外とつながれる場所やつながる方法が、今は少ないなと思って。信頼できる人がいるかどうかって、そういう人と出会う機会が多いか少ないかの差でしかない。

名前が分かって、顔が分かって、何かあった時にふと頭に思い浮かぶ。そんな関係があればすごく良いですよね。

実は取材はさせていただいた日の少し前に、「尼崎傾奇者集落」 に出入りしていた方がお亡くなりになったそうです。その時のことを藤本さんはこう振り返ります。

亡くなった方はいつも集落に遊びに来ているというよりは、たまに顔を見せるくらいの人でした。だけどその方が亡くなったと聞いて、集落に関わる人たちがすごく身近な人が亡くなったという受け止め方をしていて。ああ、こういう関係良いなって。

「amare」や「尼崎傾奇者集落」という場があることで、自分の生活圏で暮らす人に出会い、言葉を交わし、顔見知りになれる。家族とも会社とも違う、ゆるやかにつながる関わりの中で頼り合い、気にかけ合える仲間がいることは、一人の“私”として生きていく上でとても心強いことだと感じます。

余白、あわい。
目に見えないプロセスに生まれる価値

「世代も、職種も、背景も違う人たちが集える場をつくること」、「尼崎のなかで家族のような関係性をつくること」に加えて、場をつくる上で藤本さんが大切にしていることがもう一つあります。それが「みんなで一緒に場づくりをすること」です。

たくさんのイベントを開催しているけれど、僕はイベント屋さんではありません。“場を編む人”です。だから決して僕一人で動かずに、「何をしよう?」ということからみんなで案を出して考えています。

50人関わったら50通りの意見がある。良いアイデアが出ることもあれば、時には文句が出ることもある。そこを折り合いを付けたり、自分たちの企画にしていくというプロセスにこそ、今の社会が忘れているものがたしかに詰まっているんじゃないかと思います。

効率化、削減、スピード……経済を発展させていくために必要なことが、時には人と人の結びつきや気付き、学びを置き去りにしてしまうこともあります。

でも本当は「めんどくさい」、「非効率だ」と切り捨ててしまう過程やコミュニケーション、その”余白”にこそ、本当に大切なものが詰まっているんじゃない? と、藤本さんは問いかけます。

藤本さんにこれからのことをお伺いすると、「障がい者、LGBT、夜の世界などマイノリティ、アウトサイダーと呼ばれる人たちの力になっていきたい」と語った

あってもいいし、なくてもいい。
やってもいいし、やらなくてもいい。

藤本さんが発する言葉は、どれも柔らかく、色んな立場の人に配慮していて、これが正解だと決めつけることはありません。

世の中には色んな所属、肩書、背景をもった人が生きているから。善も悪も、美も醜も、時代や置かれる立場によって変わるもの。制度や言葉で隔てられるから、私たちはそこに明確な境界線があるように思ってしまいますが、本当は全部つながっていて、白黒はっきりと別れている世界はない。

取材を通して藤本さんは、「ほら、世界はグラデーションでできているよ」と語りかけてくれました。

尼崎、クソおもしろいよ。みんな一回遊びに来て。

ありのままの自分で思いっきり遊べる尼崎の魅力に、きっとあなたも虜になるはず。

今年9月に、「ピープルのみんなと遊びたい!」という思いからgreenz peopleになったという藤本さん。藤本さんに会いたい、尼崎に行ってみたいと思われた方は、ぜひ藤本さんに連絡をとってくださいね。

Facebook:https://www.facebook.com/ryo.fujimoto.0410
メールアドレス:fujimotoryo0410@gmail.com

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そんな藤本さんも参加している、ほしい未来をつくる仲間が集まるグリーンズのコミュニティ「greenz people」。月々1,000円のご寄付で参加でき、あなたの活動をグリーンズがサポートします。2017年12月12日(火)には、藤本さんが活動する尼崎で「関西ピープル大忘年会2017」を開催予定です!あなたもgreenz people コミュニティに参加しませんか?お待ちしています!

詳細はこちら > https://people.greenz.jp/