ここにある食べ物、好きなだけ持っていってください!
そう言われたら、みなさんはどう思いますか? 素直に大喜びする人がいる一方、少し戸惑いを感じる人もいるかもしれません。
実はこれ、ニュージーランドにある無料食品店「The Free Store」で実際に起きていること。デニッシュ、サンドイッチ、パイ、サラダ、お惣菜など、さまざまな食品が並んでいます。
実はこの食品店に並んでいるのは、地元のカフェやレストランから集められた、“まだ食べられる”フードロスなんです!
(フードロスとは、まだ食べられるのに、流通・消費の段階で捨てられてしまう食品のこと。国内外で大きな課題になっています。)
「The Free Store」があるのは、ウェリントンの中心部。教会の敷地内に改装した貨物コンテナを設置し、平日に開店しています。
フードロスが生まれてしまうレストランや人々がいる一方、その日食べるものに困ってる人たちがいる。この2者をつなげる場所をつくれないかと、2010年にスタートした「The Free Store」は、「誰でも、どんな理由でも、好きなだけ」持っていけるというルールが話題に。開店時間は日々たった1時間にも関わらず、毎日約100人が集まる賑わいぶりなのだそう。
提供される食品数は、平日5日間の平均で1000個以上。金額にすると、NZ$22,000(約170万円)にもなるとか!
提供してくれる飲食店も2014年には25件だったのが、2016年には65件に増加。提供している飲食店の方は「食べられるけど、捨てるしかなかった食品が、誰かのために役にたっているのを見るのはとても嬉しい」と話しています。
それにしても、食品が無料で提供されるとしても、店の運営にはコストがかかるはず。なぜ「The Free Store」の取り組みが完全無料で実現できるのでしょう。その背景には、地元のボランティアたちの存在がありました。
あるボランティアの方は、こう話します。
お金がなくてしばらく食べ物にありつけていなかった時、このお店を利用したことで、命を救われました。そこで、もらい続けるだけではなく自分も何かできないかと、並んでいる人にコーヒーをふるまうボランティアを始めたんです。
つまり、もらった恩を次の人に送る「ギフトエコノミー」で運営されているわけです。実際に利用したことがきっかけで、ボランティアに参加する人も多いのだそう。
こういった地域一体となって運営されている「The Free Store」。今では、ニュージーランドの他の地域に4ヶ所生まれ、外国に広がるまでになっているといいます。広まった理由は、いわゆるホームレスや貧困層だけを対象にした慈善活動ではなく、学生や在職者もステークホルダーの対象としていること。そして、普通のお店と変わらない開放的な場所にしていることではないでしょうか。
共同設立者のBenjamin Johnson(以下、ベンジャミンさん)は、「The Free Store」はどこでもできると話します。
どの地域にも、余っている食品はあります。必要なのは、その日に並べる小さなスペースと、それで助かる人。必要なのはそれだけなんです。
人間関係が希薄になり孤立感を感じやすい現代社会では、お腹だけでなく、心も満たされる、「人と人のつながりの場」が大事です。「The Free Store」がそんなコミュニティになっていることは、地域にとって、何よりのメリットだと思っています。
フードロスや社会問題の解決というと、大きなテーマに感じてしまい、どこから手をつけてよいのか分からなくなりがち。
しかし、自分ができることや、身近な余りものを贈ることを始めるだけでも大きな意味があるのだと、「The Free Store」は気づかせてくれます。
(Text: 加茂信志)
(編集: スズキコウタ)
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