東日本大震災を経てからというもの、エネルギーの問題はすっかり人ごとではなくなりました。
それまでは意識せずに使っていた自宅のガスや電気についても、
「お湯を出しっぱなしにしない」
「エアコンの設定温度を適切にする」
など、エネルギーの節約に目を向ける機会が増えたかもしれません。
一方で家そのものが、風通しが悪かったり日差しがあまり入らなかったりすると、どうしてもクーラーや電気に頼るしかないことも。自分で工夫するにも限界がありますよね。
家を改築するのは、時間もお金もかかる。そう思いがちですが、それは発想とデザイン次第かも? パリのあるアパートメントでは、建物に木でできたバルコニーを増築するだけで、エネルギー使用量を4分の1までカットするプロジェクト「PLUG-IN CITY 75」が進んでいるんです!
アパートの窓に取り付けられた「木の箱」のバルコニーは、木片や木材粒子できていて、軽いけれど耐久性に優れているそう。実にいろいろな方向に向いており、形も大きさもさまざま。あらかじめ別の場所で組み立てられ、その後、部屋の窓に取り付けられます。
「たったこれだけ?」と思うかもしれませんが、光を取り入れる面積が増えて自然光がたっぷり差し込み、窓枠を覆う形で取り付けられることで、冬も暖かくなるのだとか。
「木の箱」によって、既存のエネルギー使用量を75%もカットすることが可能に。1平方メートルあたりの年間電気使用量は、190kwhから45kwhになり、市が掲げる地球温暖化防止を目指した「気候プラン」の基準を満たすほどになりました。
さらにメリットは、エネルギーの効率だけではありません。部屋自体も明るくなり、スペースも増え、緑化も進められるようになったのです。
「PLUG-IN CITY 75」が行われているアパートができたのは1970年代。その頃にありがちな建物で、部屋は狭くて暗く、エネルギー効率も良くありません。21世紀の今では、決して暮らしやすいとは言えない住居です。
とはいえパリの建築法は制限が多く、建物自体の高さを変えることは不可能。なので、アパートを“横”に拡張することでエネルギー効率を高めようと試みました。そして「木の箱」を増築することは、アパート自体を改築するほどコストもかからないのです。
今回のプロジェクトは、アパート住民の「家を広くしたい」というシンプルな声から始まりました。アパートのオーナーは、建築家のStephane Malka(以下、ステファヌさん)に改築を依頼。ステファヌさんはパリの有名な建築家で、「Parasitic Architecture(寄生する建築)」という独自のコンセプトを用いて建物を設計している建築家です。
今回のように、既存の建物を生かす(=“寄生”する)ことで、コストをかけずに環境負荷を減らすデザインへと変えていきます。街中に、変わった角度で飛び出ている増築部分は、街を新たな視点で見ることにもつながりそう。
「Parasitic Architecture」という手法には、ステファヌさんの建物や街そのものに対する考えが表れています。
今日、街や建物が変化するには、過去の遺産の上に新しく築いていく必要があります。既存の建物に新たな部分を足したり拡張したりすることで、街や建物が負った傷を癒しながら…。私たちは文字通り、街に“寄生”しながら生きているのです。
アパートの増築は2018年に完成する予定。実際に住む人々の暮らしがどう変わるのか気になりますね。
エネルギーの節約をしたくても、家そのものには手を加えられない…そう思いがちですが、このように大幅な改築をすることなくできるアイデアもあるはず。まずは家の構造とエネルギー使用量がどのような関係になっているのか、どうすればエネルギー効率の良い家になるのかなどを、調べたり考えたりしてみませんか?
そうすれば家そのもの、ひいては街全体を、自分たちの手で環境に配慮したものに変えていくことができるかもしれません。
[via Malka Architecture, FAST COMPANY, CLAD , CARTON]
(Text: 菅原沙妃)
(編集: スズキコウタ)