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成功や失敗を問わない。それが遊びだ! 秋元友彦さん、岡本菜穂さん、堀田幸作さん、村上秀貴さんに聞く、遊びの効いた仕事とは?

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9月12日(月)、渋谷ヒカリエ 8/COURTで開催。写真は第一部、秋元友彦さん(ロフトワーク)、岡本菜穂さん(SIRI SIRI デザイナー)、モデレーターはgreenz.jpの小野裕之

こんにちは。greenz.jpシニアライターの新井です。ぼくは今年で33歳になったんですけど、若い頃に職場の先輩から「もうちょっと“遊び”があるといいね」ってよくダメ出しをくらいました。

そんなとき、「嗚呼、ぼくも遊びのある提案したいなぁ!」なんて、たびたび心で吠えた記憶があります……。だって、なんかカッコイイじゃないですか、「遊び」って!

みなさんの中にも、そんな「遊び」に対する憧れを感じてきた人がいるはずでしょ?

というわけで、大人らしい魅力の象徴でもあるような気がぼくにはしてしまう「遊び」をテーマにしたトークセッションを取材しました。
 
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写真は第二部。堀田幸作さん(tasobi)、村上秀貴さん(料理家・キッチンわたりがらす主宰)、モデレーターはgreenz.jpの鈴木菜央

渋谷宮下町リアルティ東京急行電鉄、グリーンズのタイアップ企画「暮らしの価値を上げる遊びと仕事~ものすごいクリエイティブな、渋谷の未来を考える~」です。

今、渋谷のキャットストリートの渋谷駅寄りの場所には多くのクリエイターが行き交い活動する創造拠点となる複合施設「SHIBUYA CAST.(渋谷キャスト)」が建てられているそう(2017年春にオープン予定)。そんな施設の完成に先駆けて、「渋谷から新しいクリエイティブを発信していこう!」と、過去にも2度イベントが開催されました。

ちなみにテーマは初回が「住む」、2回目が「働く」。「遊ぶ」がテーマとなった3回目は、ロフトワーク秋元友彦さん、SIRI SIRI岡本菜穂さん、tasobi堀田幸作さん、キッチンわたりがらす村上秀貴さんが登壇しました。

「デザイン」や「食」、「ものづくり」や「まちづくり」にとって、遊びにはどんな魅力があるのでしょう?

「デザインとものづくり〜秋元友彦さん×岡本菜穂さん〜」

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それぞれ、地域のクリエイターと協働している秋元さんと岡本さん。「土地の人」と仕事をすることでプロダクトにどんな遊びが生まれるのか、greenz.jpプロデューサーの小野裕之が聞きました。
 
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秋元友彦さん(ロフトワーク:写真左)
建築設計事務所勤務を経て、IID 世田谷ものづくり学校で企画室長 / 広報を担当。在職中に、隠岐の島ものづくり学校や三条ものづくり学校などを立ち上げる。2014年、株式会社ロフトワークに入社。国産プロダクトの海外流通をサポートする「MORE THAN プロジェクト」といった行政やコミュニティに関連するプロジェクトを担当している
岡本菜穂さん(SIRI SIRI:写真右)
桑沢デザイン研究所スペースデザイン科在学中よりジュエリー創作を開始。自身の金属アレルギーに気づき、ガラスや自然素材を使ったジュエリーをつくるブランド「SIRI SIRI」を2006年にスタート。2012年、『ゴシックチュール〜ファッションが伝統工芸と出会うとき〜』展にて若手注目デザイナー5組の1人に選出される。2015年、第23回桑沢賞受賞。

小野 お二人に共通するところは活動する地域の「地域らしさ」を意識していることだと思いますが、どのくらい意識していますか?

秋元さん ぼくは全国各地の取り組みに関わっていて、ひとつの地域に入り続けていられるかというと、そうはいきません。

だから、例えば新潟県三条市で廃校を活用した「三条ものづくり学校」を立ち上げた際は、デザイン関連はすべて三条地域のデザイナーに発注しました。

土地のことは土地の人がやったほうが絶対にいい、とまでは言い切れませんが、地元の人たちだからこそ生み出せる価値があるんじゃないかなとは思っています。

クリエイティブが地場産業と出会い、生まれる価値

小野 一方で、商品が一定のクオリティを越えていなければ生活者に届かないようにも思います。土地の人と仕事をしたがために失敗してしまうことはないんですか?
 
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greenz.jpプロデューサー・小野

秋元さん よくあります(笑)。ただ、逆に「これだけよくやれているのに……」と感じる仕事も多いんです。届いていない良品をなんとかできないかなぁと思っています。

岡本さん わたしは、ものづくりだけではなく、広めることにも興味があります。

以前は「世の中に出回っているものは全部、カッコイイから出回っている」と思っていたんですね。それを知人に話したら「まったく違う!」って言われて衝撃を受けて。

以来、ちゃんと伝えないと意味がない。伝わらなければゼロと一緒なんだと気付いて、PRに力を入れています。

秋元さん ぼくはPRを含めた「まとめて、伝える」仕事をしていますが、地域の職人のおっちゃんのなかには「ええもんつくっていれば売れんねや」という方がまだまだいる。

そこに「おっちゃん、それではあかんで」っていきなり言ってもダメ。どんな成果が出るのかちょっとずつ見せながら、彼らの意識が少しでも変わっていくようにアプローチしていく必要があります。

小野 それは「ぼくが売ってくるから、お金のことは考えないでいいですよ」と進めていくということですか?
 
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秋元さん ひとつ事例を紹介すると、日本ブランドを海外へ届ける「MORE THAN プロジェクト」を担当しているのですが、そこに「播州刃物」というブランドが参加しています。

兵庫県小野市や三木市は金属加工物の産地なんですが、職人が高齢化していて、売上が悪く、後継者も育てられない状況でした。

そこで地域の若者が金属加工産業に「播州刃物」と名付けてリ・ブランディングを行い、クリエイターが加わってパッケージやパンフレットを刷新しました。

それだけならよく聞く話ですが、流通も変えたんです。以前は問屋を通して販売されていたのを、新たに独自ルートをつくって売値も倍に。すると同じ商品なのに以前より飛ぶように売れたんです。

その結果、昔からの問屋の仕入れ値も上がって、毎月おっちゃんたちがもらえる金額は30万〜40万ぐらい増えました。すると後継者を雇うこともできるようになって、「MORE THAN プロジェクト」を通じて実際に後継者が生まれるまでにいたりました。

デザインが伝統技術と出会い、生まれる価値

岡本さん 20代の人たちの間では、手に職をつけて食べていく人生をある意味でカッコイイと思う感覚が芽生えてきていますよね。

わたしは「SIRI SIRI」をはじめてから10年、江戸切子の工房と仕事をしていますが、当初は60代以上の職人たちに囲まれて20代の女性職人が一人いるだけでした。それが今では数名に増えています。

小野 岡本さんのようにずっと一緒に仕事をしていると、発注先の職人の意識は変わっていくものですか?

岡本さん 変化でいえば別の問題が出てきました。20代が増えて、以前からいた女性職人が管理職になったんです。彼女は社長や他の職人との関係を意識しながら、わたしたちともやりとりをするようにようになり、「管理職」としての役割を果たすようになりました。以前のように女性の一職人とものづくりをしている感覚とは違った関係になってきています。

具体的なことは言いづらいですが、発注に応じて商品が安定的に供給されるような働きかけをしたいと思ったときに、どこまで介入していいものか、そもそも介入したほうがいいのか、介入すれば何か変えられるものなのか、そんな難しさを感じています。

小野 地域の伝統産業と関わる上で、そういった難しさは秋元さんも感じていますか?

秋元さん ぼくも同じような状況を目の当たりにすることは多いですね。ただ、介入するのは本当に難しい。不用意に入りすぎることでダメになっちゃうこともある。どこまで踏み込んでいけるのかは、当人同士の関係性によります。

小野 そんなデリケートなやりとりをしつつも、岡本さんが東京の職人との仕事を10年以上続けているのはなぜですか?
 
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岡本さん まず誤解してほしくないのが、わたしたちは何も東京の伝統技術や職人文化を守りたいから、そういう方々と仕事をしているわけじゃないんです。

わたしは以前から海外のプロダクトに触れるたび、「その地域から生まれてきたということが感じられる独特の雰囲気がある」と思っていました。それを日本でも表現したいと、知人と話していたんです。

すると、「海外のプロダクトの産地には、地元の工場や産業を利用してものづくりをするしかないという制約がある。だからこそ、意図せずともその地域から生まれてきたような共通の雰囲気や魅力がプロダクトに宿っているのではないか」という話になりました。

であれば、わたしも自分が生まれ育った東京でものづくりをしよう。東京や近郊で、わたしのデザインした作品を仕上げることができる職人と、プロダクトを考えるところから最終的なアウトプットまで一緒につくっていこうと決めたんです。
 

(前半ここまで)

 
お二人の仕事から、歴史ある地場産業にクリエイティブなアプローチで挑戦すると潜在意識が求めていた変化にたどり着けることや、先鋭的なデザインが土地に根づくものづくりの経脈と結びつくことで独特な魅力を得られることが発見できました。

そんな実験的な仕事には、挑戦し続けられるだけの余裕を持つ意識、つまりニュートラルでいられる遊び心が必要なのかもしれません。

「食とまちづくり〜堀田幸作さん×村上秀貴さん〜」

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“食”の先にいる人の存在を意識した仕事が魅力的な堀田さんと村上さん。「安い、早い、旨い」のような旧来の価値観を超えていける、そんな二人の食を通じた仕事を支える「遊び」について、greenz.jp編集長の鈴木菜央が聞きました。
 
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堀田幸作さん(株式会社tasobi:写真左)
「旅」と「遊び」を仕事にして10年。各地の食に携わる人々と出会い、料理人と生産者をつなぎ刺激を得てもらう仕事を続ける。過去には建築設計事務所「ブルースタジオ」や農業実験レストラン「六本木農園」、南の島の畑で働いたことも。さまざまな業種を渡り歩いた経験から、つなぎ合わせることでおもしろいことが起こると確信している。
村上秀貴さん(キッチンわたりがらす:写真右)
建築学科卒業後、世界20カ国への旅に出る。帰国後、浮世離れした遊びから日本人の美意識を探る雑誌『雷神』創刊。趣味の料理はホームパーティーに100名が集まるほど好評で、茅場町のレストランでシェフに抜擢される。2009年、ケータリングを主としたキッチンわたりがらすを南麻布の高架下で始める。2012年には恵比寿に移転。素晴らしい食材を探して、生産者を訪ね続ける

菜央 二人の活動を見ていると「新しい関係性をつくる」という共通点を感じます。そんな二人にどうすれば食を通じてまちをおもしろくしていけるのか聞いてみたいです。

堀田さん じつは最近、スペインのバスク地方にあるサンセバスチャンというまちに行ってきました。広さは世田谷区と同じくらいですが、人口は4分の1くらい。特に大都市でもなく、スペインの中心部からも離れています。

そんなまちですが、総人口に対するミシュランの星の数が世界で一番多いと言われています。

ふつうはレストランにとってレシピは知的財産だから守りたいじゃないですか。でもサンセバスチャンでは、まちの飲食店同士で勉強会をするのだそうです。レシピのオープンソース化ですよね。するとまち全体が美味しくなっちゃう。

食がみんなをハッピーにするまちづくり

菜央 どの飲食店も美味しいんですか?
 
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greenz.jp編集長・鈴木菜央

堀田さん それが、好みじゃない店もあったんです(笑)。でも美味しさには主観が入りますよね。

何が言いたいかというと、サンセバスチャンには1日に5、6軒ハシゴする文化があるんです。各店がクラシックな料理や前衛料理など何かの専門店だからハシゴできる。仮に5軒回って3軒美味しかったら「美味しかった」って記憶が残ります。

狙っていたのかはわかりませんが、それもありサンセバスチャンは活性化したんだと思います。まち全部が美味しいと広まって、世界からの訪問者が増えた。各店は地元食材にこだわっているから、地域の農家や漁師も潤っていく。みんながハッピーになるまちづくりにつながっているようです。
 
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菜央  それに比べて日本では個々の飲食店がそれぞれ頑張っている印象ですよね?

村上さん どうにかしたい問題ですね。飲食店はとっても忙しい仕事だから、もともと横のつながりがあまりないどころか、ライバルになりがち。もっと仲良くやれたらいいのになぁ。

菜央  何も「サンセバスチャンになろう!」という話ではありませんが、どうすれば日本もおもしろくしていけるんでしょうね。

堀田さん またサンセバスチャンの話に戻ってしまうんですけど、あそこにはハシゴ文化以外にも重層的な食文化がありました。

例えば、男たちが集う美食クラブ(Sociedad Gastronomica)があって、会によっては100人待ちだったりします。酒を飲みながら、美味いものについて語り合うらしいんです。

村上さん 庶民的な会から名門までありますよね。

すごくハイクラスなキッチンがついている店があるけど、営利的じゃなくて、集まった男たちがこれをつくる、あれをつくるって楽しめる。女人禁制ではないけど、奥さんや娘でも招待されなければ参加できないような縛りがあるとか。

堀田さん そうそう。まるでホームパーティーをまち全体で開催しているような感じですかね〜。

食で広がるまちとコミュニティ

菜央  その美食クラブは誰かが「©」で囲っているわけじゃなく、みんな始めちゃっていいというところがすごくいいですね。

村上さん そんな場所が渋谷にできたらいいなぁ。キッチンスタジオみたいなところが開放されていて、何か目的を持って仲間が集う。例えば男性が料理をして、女性をもてなすでもいいし。

というのも、昔は空き地がもっとあったのにと思うんですよ。適当に座ってごはんを食べられるところがずいぶん減ってきちゃっているように感じます。

菜央  確かに、都市は効率を求められるから、そういう遊びのある空間が残りづらいのかもしれません。ホームパーティーがもっと広がるように都会とつながっているといいですね。どうすれば、美食クラブのようにまちへと昇華されていくんでしょう?

堀田さん やっぱり、その「遊び感」がいいんだろうなぁ。遊びの魅力って、大前提として「成功するかしないかを問わないこと」じゃないですか。

菜央  そうか。それが「遊び」なんですね。

堀田さん 実際、シェフが新しいコースを考えるときは美食家たちを意識して90点以上を目指しますよね。でも、子どもが料理をつくるなら純粋に美味しさだけを目指すはずです。

村上さん そういう試行錯誤は美食クラブのようなフリーキッチンがあれば実践できそうですね。

堀田さん 以前「まかない」に注目したアイデアを考えたことがあったんです。飲食店では、いろんな「まかない」がつくられている。例えばフレンチの「まかない」がすき焼きってこともあります。

例えば商業施設で、他店と集まって「まかない」をつくったら刺激しあえるんじゃないか。「まかない」の食材は商業施設のフードロスをなくすことにつながるようにすれば他の課題も解決される。一般の人も、お金を払って食べられるようにしたらおもしろそうでしょう。

菜央  まだ注目されていない「資源」で、新しい関係性をつくることができるんですね。
 
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村上さん ただ、それを誰が実践できるのか。飲食業は真っ当な食材を仕入れて料理をつくろうとしても、家賃というリスクがあります。当然、余裕は生まれにくい。

例えば、フードロスの食材を集めるのも、時間も手間も必要。現実を踏まえた上で考えないといけませんね。

だからって、何も始めないというわけにはいかない。そういう意味でディベロッパーのような場所を持っている人たちが大事なのかなぁ。リスクと付き合いながら遊びを取り入れて、文化をつくっていくために。

菜央  とても重要な問題提起ですね。飲食業の人たちがもう少し人間的な暮らしをしていける文化ができたほうがいい。ぼくたち食べる側がそれをサポートできるような考え方や仕組みを広めていくことも大事だなぁと思いました。

ぼくたちにできることは何か、もっとみんなでオープンに話し合っていきたいですね。
 
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(イベントここまで)

ぼくは二組の話を聞いて「若い頃じゃわからなかったなぁ」と感じました。社会に出て、頑張って働いて、任された仕事を完遂することやお金を稼ぐことの大切さを知った今だから「遊び」を取り入れる難しさと重要性を実感することができます。

あの頃、大人の「遊び」に憧れた気持ちは、大人になった今だからこそ全力で向き合える「やりがい」になりうるのかもしれません。頼まれた仕事をしたり、給料をもらうことにとどまらない仕事。そんな働き方こそクリエイティブなんだろうなぁ。

みなさんは今、仕事に「遊び」を取り入れられていますか? おもしろい社会、ワクワクする未来につながる「クリエイティブ」な働き方をしていきたいですね。

(撮影: 関口佳代)

[sponsored by 渋谷宮下町リアルティ株式会社]