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現代社会でも成立する林業とは? 高知県のNPO法人「土佐の森・救援隊」がつくる、環境共生型林業のしくみって?

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わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

高知県は森林率日本一を誇り、県土84%を占める森林が清流四万十川や仁淀川を育み、豊かな自然と恵みを生み出しています。

しかしそんな森林県・高知であっても、時代の変化による木材需要の推移で長らく林業は衰退していました。

放置された森林は荒廃し、森林の土壌が本来の役割を失って、土砂崩れや洪水など自然災害を引き起こします。森林に囲まれた高知にとって、ひとの暮らしを脅かす重大な社会問題になりました。

そんな高知県で立ち上がったのが「NPO法人土佐の森・救援隊(以下、土佐の森・救援隊)」です。土佐の森・救援隊は環境保全につながる森林・林業の再生を目指し、「林業+地域通貨+バイオマス利用」を組み合わせた「土佐の森方式」で、山の恵みを対価に換え、そのお金が山に戻り、そして地域に還元される活動を続けています。

「林業は儲からない」という現代の既成概念を覆して、ひとと森の持続可能な付き合い方を実践する土佐の森・救援隊の副理事長(事務局長)、四宮成晴さんにお話を伺いました。
 
四宮さんは元々中山間地域の活性化やまちづくりコーディネーター。「「森づくりイコール仕事づくり」で、中山間地域に仕事づくりを当てはめていって、移住・定住促進につなげて、まちが少しでも元気になればいい」という思いもあって、土佐の森・救援隊に参加。
四宮さんは元々中山間地域の活性化やまちづくりコーディネーター。「「森づくりイコール仕事づくり」で、中山間地域に仕事づくりを当てはめていって、移住・定住促進につなげて、まちが少しでも元気になればいい」という思いもあって、土佐の森・救援隊に参加。

現代林業≠誰にでもできる林業=「自伐型林業」

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日本は国土の約7割が森林。この割合は先進国ではフィンランド、スウェーデンに次ぐ第3位と世界有数の森林大国です。全森林の割合は、約半分が天然林、約4割が人工林、その他と続きます。

特に人工林は、昭和20年から10年間、戦後復興のために木材需要が増えたことで国策として意図的に拡大造林政策が行われました。それから半世紀以上経った今、育った人工林の木々の多くは伐期(伐採を行う時期)を迎えていますが、そのほとんどが手つかず状態です。

その背景には、時代の流れとともに木材の需要が急激に下がったことにあります。戦前は家庭燃料としてメインで使われていた木炭や薪が、戦後、電気・ガス・石油に切り替わります。この燃料革命は森林の形を変えます。

燃料として価値が下がった木材は、建築用材の需要価値の高いスギ・ヒノキの針葉樹にシフトしていきます。しかし昭和30年代の段階的な木材輸入自由化によって、国産材は海外材との価格競争に負けて、木材の価格も下落します。

林業経営者は倒産が相次ぎ、山主も間伐による保育作業や、伐採や搬出にかかる費用が回収できないため、森林は放置されます。こうして、人工林の存在は「産業」から「社会問題」にシフトしていきました。

高知県は人口林率も高く、全森林の6割強です。さらに伐期を迎えた人工林の手入れがほとんどほったらかし状態。

山に人の手が入らないことで、山の生態系が脆弱になって、その下流にあるまちの生活も脅かされています。そんな現状を知る地元の僕らが、なにかできないかなと考えていました。

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一昔前まで、自分の山は自分で管理するのが一般的で、山主自らが間伐や伐採などを行って山を整備していました。できなければ、寄合で手分けをする。そんな昔ながらの森業(もりぎょう)が成り立っていました。

それがいつのまにか山主は森業を業者に委託するようになりました。そして時代の流れで木材の価格が下がって、いくら木材を売っても、利益どころか山の整備に赤字が出ます。そんなの誰もやらなくなりますよね。

四宮さんたちは、業者に頼まず「自分たちでやってみようや」なんて軽いノリで山に入ってみることに。木材を搬出して、トラックに積んで木材市場へ持ち込むところまでやってみると「必要経費を差し引いてもけっこうお金が残るんだなぁ」と感じたといいます。「林業が儲からない」という通説が崩れた瞬間でした。
 
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森林組合や業者と違って、大規模な機械をつかわないですから、コストは人件費とちょっとした道具に林業機械と運搬車両のみ。最低限の設備、最低限のコストで、ちゃんと林業ができるんです。無理のない各人のライフスタイルに合わせて森業を実践することで、豊かな森づくりと豊かな生活ができます。

これが、間伐や、搬出、運材を個人や小規模なグループが行う「自伐型林業」。誰でも、どんなスタイルでもはじめることができる林業です。

森林の活路を見出した四宮さんらは、これをもっと広げていきたい、そして胸を張って「もう一度山へ戻ろうや」といいたい、その思いから平成15年、土佐の森・救援隊をはじめました。

会員制「ボラバイト」で森林保全を持続可能な活動にする

とはいえ、林業をやりたい人、一人ひとりに「自分で間伐したら儲かるからやりなさい」といっても実際には難しいところ。そこで土佐の森・救援隊は、活動領域である仁淀川流域の山林をフィールドワークとして週3〜4回、森林整備を実施。山主だけではなく地域住民たちも巻き込んで森林保全活動を実践しています。

また、上流から下流までの運材費が、森林整備実践者に大きな負担となっていることから、土佐の森・救援隊では中間土場を設置。中上流域から出てくる木材のターミナル駅「木の駅」を開設しています。
 
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土佐の森・救援隊では、「山の整備を手伝うスタッフ=ボラバイト」という制度を採用。ボラバイトとは「ボランティア・アルバイト」の俗語で純粋なボランティアでもなく、かといってピュアなアルバイトでもない「正業・副業/アルバイトの中間的な仕事(労働)」の形態で、仕事の対価を地域通貨「モリ券」で支払っています。

現在約70名の会員がいて、週数回、間伐のために数人が山に入ります。
 
搬出などには、土佐の森・救援隊が考案した「土佐の森方式」による架線集材を活用。活動を通じて森林ボランティア育成にも力を入れる。
搬出などには、土佐の森・救援隊が考案した「土佐の森方式」による架線集材を活用。活動を通じて森林ボランティア育成にも力を入れる。

平日はリタイア組が山に入って間伐しています。あのおっちゃんら、ようやるわ、毎日(笑)

朝5時に起きて、6時過ぎには家を出て、8時には山入って、まだ日が高い時間に作業を終えます。森から出してきた木材を中間土場「木の駅」まで持ってきて、夕方には家に帰ってきて、一杯やるわけですよ。そういうおいちゃんグループがたくさんいるわけです。みなさん楽しそうですね。

そして、その活動はボランティアではないので、対価を支払います。対価は地域通貨券です。

「ボランティア」だけでは、長く続かないことを四宮さんらは知っていました。森林は永続的に関わらないと意味がない。森林を整備するという目的があって、その手段をビジネス化する。持続可能にするにはやはり対価が必要です。
 

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モリ券は、仁淀川流域を構成する市町村の地元商店や地元スーパー40数店舗で使える地域通貨です。1モリで日本国通貨1,000円以下の価値を持ちます。地場産品と交換することで「地域経済」を促進します。 日本国通貨との併用はできず、おつりも出ません。

ここで面白いからくりがあって、今日の買い物は2100円分だとしましょう。

だとすると、お釣りが出ないため、モリ券3枚、3000円分が必要になります。そうなると、900円分買えるじゃないか、と思うわけです。2100円分しか買い物しないお客さんが、あと900円分、なにか買おうと使い道を考えます。

本来ならば、2100円分の必要なものだけを買うところを、900円分予定になかったものを買おうと思うんです。消費促進でお店も嬉しいですよね。

それだけではありません。例えばビール。今まで安価な発泡酒を買っていた人が、モリ券を使うことで生ビールにしよう! という。ちょっぴり暮らしが豊かになる気がします。

昨年度のモリ券の総配布数は9000枚。単純計算で900万円が仁淀川流域のお店で使われたことになります。「土佐の森式」はただ、森を綺麗にするわけではありません。地域と森林を人がつなげて、森づくりが同時に地域経済を活性化しているのです。

森林保全の活動はどうしてもボランティア的イメージを抱きがちですが、土佐の森・救援隊は森林資源をきちんとお金に変えることで、森林に価値を生んでいます。さらに、森を整備するという労働は、ボランティアではなく、対価を払う。こうして木材の付加価値を高めて、経済が回っていくことが、森林保全の近道だといいます。それは過去、木材価格の低下が林業衰退を招いたためです。

こうして「林業+地域通貨+バイオマス利用」を組み合わせた「土佐の森方式」は、収入が得られる森づくりを進めているのです。

森林を活用する最新のエネルギーとは

そして、木材といえばエネルギー活用でも注目を集めています。今まで山に置き捨てられていたC材(林地残材)の利活用です。木質バイオマス発電用に、そして「薪」です。

薪というものは、かつてはとても大切なエネルギーで木質系バイオマスの原点です。

昭和30年代、40年代前半までは、お風呂をわかす、ご飯をたくなど、薪がエネルギーの中心でした。そして現代、若い世代を中心に薪ストーブが普及するなど、にわかに薪ブームが訪れて、薪が求められるようになりました。

木の駅を運営する土佐の森・救援隊は「土佐の森・薪倶楽部」を運営。「薪ユーザー」が集い、中間土場に集まったC材を「薪ユーザー」が薪化して、その作業分をモリ券で支払います。さらに「薪ユーザー」はそのモリ券で自分の薪を買う。市場に出回る薪よりも安く、さらに「ボラバイト」することで、労働と引き換えに薪が手に入るシステムです。口コミで人気を呼び、ユーザー数は300人を超えているそう。

本来薪というものは安価なエネルギーで、昔は裏山から切り出して、原料代はタダみたいなもののはずなんです。それが、買うと高い。インターネットなどで買う場合は運搬費が意外に高く、高価なものになってしまいます。地域のエネルギーは地域で賄うという原点を大切にし、安価で薪を提供します。いいでしょう?

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山で伐採するのはハードでも、機械を使って木材を薪に換える作業は子どもでも楽しくできます。こうやって、少しでも森とひとの距離が縮まっていくのは、環境共生を進めていく上で大切なことです。

あと限界集落対策として独居高齢者への薪の宅配サービスも行っています。限界集落と言われる中山間地域の各集落の多くのご家庭はいまだに薪でお風呂を焚いています。高齢化、かつ、独居のご家庭は、薪の調達できないため、薪を届けに行っています。冬場など、2〜3日に一度しかお風呂に入れなかったのが毎日入れるようになったと喜んでもらっています。

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高知市内の病院の敷地に設置した間伐材のベンチ。1年に1度無償で新しい木材でつくったものと取り替える。古くなったベンチは乾いているので薪として再利用する。利用者にとっては嬉しく、事業者にとっては損のない試みだ。

最後、四宮さんに「林業は儲かりますか?」と伺うと、にっこり笑って「儲かる、というか、成立します」と宣言。

森林の理解者であり応援団でもある土佐の森・救援隊。その理念のもとで活動していくうち、森林だけではなく、ひとも社会も元気になっていく様が見て取れます。

社会課題は、裏を返せば地域を元気にするヒント。時代や既成概念にとらわれず、地域資源を見渡すと案外すぐそばに新たなエネルギーが眠っているかもしれません。