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楽しいことしかやってません! 藤野電力のオフグリッド発電システムを新築の自然住宅に導入しちゃった工務店「創和建設」の“みんな楽しい”家づくり

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わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

家を建てるとしたら、どんな家を建てたいだろう…。誰もがそんなふうに、1度は自分の理想の家を思い描いたことがあるのではないでしょうか。

家づくりの数多くの選択肢の中に“自然住宅”と呼ばれるものがあります。自然住宅とは、化学物質を使わず、自然素材を採用したり、自然エネルギーを導入するなどした、安心安全で、環境負荷が少ない住宅のことです。

神奈川県・旧藤野町(現相模原市緑区)にある「創和建設株式会社」は、そんな自然住宅づくりを手がける工務店です。自然住宅と聞くと、徹底的に環境配慮をし尽くさなければならないような堅苦しさを感じるかもしれませんが、創和建設の家づくりにはそれがありません。

創和建設の判断基準は、自然住宅の定義を踏まえながらも、常に“施主さんに合っているか”、“まちに合っているか”、そして“楽しいかどうか”ということ。

たとえば、グリーンズでもお馴染みの「藤野電力」と提携し、それまで実用性が低いことから先行事例のほとんどなかった「新築住宅へのオフグリッド発電システムの施工」をスタートさせたのも、“やりたいという施主さんがいて”、“まちにそれを実践できる団体があって”、“楽しそうだったから”。

そこには、代表取締役・志村敏夫さんが、持続可能な仕事の在り方を模索した中で、人やまちありきの自然住宅づくりに辿り着いたという、物語がありました。

自然住宅はプラス思考の施主さんが多いから面白い!

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創和建設株式会社・代表取締役の志村敏夫さん

創和建設が自然住宅を本格的に手がけるようになったのは、今から10年ほど前のことです。それまでは小学校の体育館から大型公共施設の耐震補強、高級注文住宅、多棟の建売住宅まで、なんでも手がけるごく一般的なまちの工務店だったそうです。

志村さん 評判も悪くなかったし、お客様への感謝の気もちは今も昔も変わりません。でも…終わったら次、終わったら次っていう流れになんとなくストレスを感じていて「このままでいいのかなぁ?」と思っていたんです。

そんなときにある人と知り合ったことで、志村さんは自然住宅に興味をもつようになります。

志村さん 都内で仕事をしているときに「なんか志村さん、楽しそうじゃないよね」ってとうとう言われちゃったんです。その人がたまたま自然住宅をつくっている人で、「自然住宅、面白いよ」って言われて。「何が違うの?」って聞いたら「施主さんが違う」と。

通常の建築では、間取りや企画構成を考えるときに、デメリットを極力排除し、マイナス面を解消する方向で検討します。しかし自然住宅を建てたいという人は、そのあたりには多少目をつぶっても「こうすると楽しそう」「こうしたら心地よさそう」というプラス思考で突っ走る人が多いのだそうです。

志村さん そう言われて気がついたんです。

藤野でものづくりをされている人やシュタイナー学園(※藤野にある“芸術としての教育”を行なうシュタイナー教育独自のカリキュラムを用いた私立小・中・高一貫校)にお子さんを通わせている方の家づくりに関わると、第3者的に見ると不便でしかないことも、とっても楽しそうだし面白そうにやっているなって。

まさにプラス思考でものごとを考える面白い人が、藤野にはたくさんいたんです。

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そういう人たちが住みたがる家が、住み心地の良い、無垢材や自然素材、自然エネルギーを使った家だったので、会社も流れのままに、自然住宅に向かっていったのだと志村さん。今では、創和建設で手がける建築のほとんどが自然住宅です。

また、施工する側としてみても、大変さも増しましたが、それ以上に楽しさが大きかったのだそうです。志村さんは、明らかに職人さんの表情が生き生きし始めたのを感じています。

志村さん 一応“楽しく心地いい自然素材の家をつくる工務店”という名目なんですけど、じつは“つくっている私たちがいちばんストレスがたまらない家づくり”。これが大きかったりします(笑)

“楽しいと思えること”から自然住宅の輪が広がる

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JR中央本線藤野駅前にある創和建設本社。使われていなかった古民家をリノベーションして利用しています。不動産業も手がけているため、藤野に住みたいと思ったら、まずは立ち寄る場所だったりします

これだと思ったら、行動の早い志村さん。そこからは、近隣の工務店や製材所を廻って地元産材の家をつくる仲間を集めようと奔走したり、自然住宅の建築団体と提携したりと、一気にシフトしていきました。

創和建設の家づくりの大きな特徴は、地産地消を大切にしていること。建材は、神奈川県、山梨県、東京都などの周辺地域産材を使い、藤野在住のアーティストや近隣の家具工房とのコラボもたびたび実施しています。

また、地熱利用や太陽熱温水器、雨水利用や薪ストーブの導入など、自然エネルギーも積極的に導入。希望される方には職人さんのサポートのもと、比較的手がけやすい壁塗りやタイル貼りなどのセルフビルドに挑戦することも推奨しています。

最近ではとうとう、森林組合の協力のもとで山に入り、自ら大黒柱となる木を伐って、ヤスリをかけて仕上げたという施主さんも現れたそうです!
 
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山梨県都留市の「結びの家」。右側の大黒柱が施主さん自ら伐り倒し、加工した柱です。よく見ると、枝がついたままになっていますね(笑)。これはこの家の設計士・池辺潤一さんのアイデア。池辺さんはグリーンスクール「コミュニティ経済と地域通貨クラス」の講師としてもお馴染みです

セルフビルドは時間もかかるし、仕上がりもプロにはかないません。それでも勧める理由は、自ら家づくりに参加することで家への愛着が増すこと、そしてなにより、やったほうが楽しいから。

ここでも志村さんから出てきたのは“楽しいから”という言葉でした。

自然住宅といえば、環境への強いこだわりをもって家づくりをしているイメージが浮かびますが、志村さんの場合は、“楽しいから”“面白いから”というシンプルな理由がまず第一にあります。

こだわりのポイントがそこなので、予算の都合でどうしても100%自然素材が難しいというお客さんでも「それがお客さんに合っていれば全然いい」と考えますし、お客さんのイメージする家が地元産の杉・ヒノキ材では実現できそうにないときは相談の上で輸入材を利用することもあります。

けれども、そのハードルの低さが、結果的に多くの施主さんの環境や暮らしに対する意識を変え、自然住宅の裾野を広げる結果になっています。

元々自然住宅を建てたかった人たちだけでなく、なんとなく木の家っていいなぁと思っていた人や、大手ハウスメーカーで建てればいいやと思っていた人たちが、話を聞くうちについ心引かれて創和建設で家を建ててしまうケースも多いのだそうです。
 
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「柿渋の家」のテーマはずばり“小屋”。ドアや収納をなくし、極力シンプルで小さな家を低予算で実現しました。そうは感じさせないセンスのよさは、さすがものづくりをされている家主さん。中央の柱は、地元で行われているきらめ樹間伐(皮むき間伐)の材を使った柱

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「命が輝く家」の施主さんは、自然素材で家を建てたいとは思っていたものの、薪ストーブや藤野電力までは取り入れるつもりはありませんでした。しかし話を聞くうちに、たとえ大変でもエネルギーのありがたみが感じられる中で生活するのはいいことなのではと思うようになり、導入を決めました。「創和さんは、家づくりをとおして、自分の生き方や生活づくりを考えるきっかけを与えてくれました」

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「大空間の家」は、新築ではなく、元工場をリノベーションしたお宅。断熱材入れや壁塗りはほぼご夫婦だけで手がけたそう。カフェでも始めるのかと思うほど、広々とした心地いい空間が広がっています(写真提供:創和建設)

藤野電力とコラボしたオフグリッド発電システム

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パネル1枚からでも導入可能な、藤野電力のオフグリッド発電システム

その中でももっともユニークな取り組みは「藤野電力」とコラボした「オフグリッド発電システムの施工」ではないでしょうか。

藤野電力は、エネルギーを自分たちの手に取り戻そうと始まった市民運動で、グリーンズ読者には、手軽につくれるミニ太陽光発電システムの組立ワークショップを開催していることで知られていると思います。

最近では、エネルギーを身近に感じ、自分ごとにするという最初のフェーズから、より具体的なアクションの実践へと社会全体が移行しつつあり、ワークショップの開催件数自体は減っています。その一方で、藤野周辺を中心にひそかに(?)新築住宅にオフグリッド発電システムを施工する仕事を始めていました。

2016年6月時点で約30軒の新築住宅へ施工し、今後もゾクゾクと施工の予定が入っています。

しかしオフグリッド発電システムは、電力会社への依存を減らし、災害時のセーフティネットとして機能するという利点がある反面、どうしても発電規模が小さく、実用的になりづらい感が否めません。

導入してみて、万が一不便があったらと考えると、それを人生最大の買い物ともいわれる新築住宅に施工するというのは、ちょっとした決断が必要なように感じます。しかも施工をするのは、電気工事店ではなく、いち市民団体です。

それでも、創和建設がオフグリッド発電システムを導入することにした最初のきっかけは、提携している設計士さんに、藤野電力に関わっている人がいたこと、そして施主さんのほうから藤野電力のシステムを取り入れたいと相談されたことでした。

その記念すべき導入第1号の施主さんが、藤野のお隣、旧相模湖町の小川賢一さん。小川さんの仕事は塗装業で、創和建設でも、数多くの塗装や左官を手がけています。
 
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藤野電力のオフグリッド発電システム施工第1号の、合同会社オクト塗装・小川賢一さん。セルフビルド・ワークショップの講師を務めるなど、創和建設の家づくりにはもはや欠かせない塗装屋さんです

今では自然系の塗装屋さんとして知られる小川さんも、最初は仕事として関わるようになったにすぎず、自然住宅にも環境配慮に対しても、特にこだわりのない職人さんでした。

そんな小川さんがなぜ、藤野電力のオフグリッド発電システムをいち早く導入するに至ったのでしょうか。それには、あるきっかけがありました。

オフグリッドの良さを体感したことがきっかけに

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機材も配置の仕方も、家によってさまざま

東日本大震災の直後、計画停電が続く中で、ダメもとで行きつけの整体院の予約を入れた小川さん。断られると思ったのに「大丈夫ですよ」と言われて向かってみると、その整体院にだけ煌煌と灯りがついていました。

それがじつは、整体師であり、藤野電力のコアメンバーでもある鈴木俊太郎さんのお宅でした。

震災前から独自にオフグリッド発電を実践していた鈴木さんのお宅は、まち全体が真っ暗な中、電気がつき、音楽が流れ、薪ストーブのおかげでとても暖かかったそうです。その状況に感動した小川さんは、自分が家を建てるときには同じシステムを取り付け、薪ストーブも導入しようと決めたのです。

そして小川さんのおかげで施工実績ができ、藤野電力の関係者や興味のあった施主さんが、次々と施工を希望するようになっていきました。

藤野電力を入れることで、暮らしの意識が変わる

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「内郷の里プロジェクト」で誕生した3軒は、すべてのお宅で藤野電力を導入。今では電気料金を競い合い、とうとう400円台を実現したお宅も現れたとか!

施工の規模は施主さんによってまちまちです。災害時のセーフティネットにさえなればいいと小さなシステムを取り付ける人もいますし、なんとか冷蔵庫まで動かせないだろうかと大きめのシステムを検討する人もいます。最近では、家の電力のかなりの部分をオフグリッドで賄うお宅も現れ始めました。

配線も徐々に本格的になり、一見するとオフグリッドシステムを導入しているとはわからないほど。施工を続ける中で確実に改良とバージョンアップを重ねています。

じつは創和建設の志村さん、オフグリッド発電システムの実用性のなさから、コラボを始めた当初はそこまでピンときていなかったそうです。でも関わる人が楽しそうにしているのを見て、藤野電力には、エネルギーの自給とは別の価値があると気づきました。

志村さん 藤野電力を導入した人って、電気を使わない生きがいみたいなのを語るのね。端から見ていると結構不便な思いをして暮らしてるんだけど、それがすごく楽しそうで。

藤野電力を入れても、それだけでは大幅に電気代が安くなるわけではありません。しかしみなさん「電気のありがたみがわかった」「電気を大切に使うようになった」「いざというときも最低限の電気はなんとかなるという安心感がある」といった、気もち面での良い変化を挙げています。

志村さん 藤野電力のいいところってそこなんだよね。目的は、それで利益を得る、得をするっていうことじゃない。藤野電力を入れることで、電気を使わないように暮らしていくっていう意識が頭の片隅にできる。それが、すごいところだと思います。

快適な機能を付加していくだけではなく、足りないからこそ、知恵や工夫で乗り越え、楽しみに変えてしまう。非常用でなく日常用、買電でも売電でもなく自産自消電、創和建設には、そんな施主さんが不思議と集まってくるのです。
 
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「モクレンの家」は自然エネルギーを積極的に利用。パネル:100w×2枚/バッテリー115Ah、80Ah、50Ah(切替式)/インバーター1000W(正弦波未来舎)。室内12V照明5ヶ所、100Vコンセント(2階居室以外すべて)(写真提供:創和建設)

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雑誌「チルチンびと」第4回住宅建築賞佳作を受賞した「果樹のある家」。屋根材一体型の太陽光発電&集熱モジュール「そよルーフ」に加え、藤野電力も導入しています(右下)。パネル:200w/バッテリー:115Ah×2/インバーター1500w(正弦波電菱)。24V照明3ヶ所、100Vコンセント3ヶ所

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「内郷の里プロジェクト」のうちの1軒「悠の家」は、2016年7月時点での最高スペックをもつお宅。ご主人の趣味である木工の機材も、晴れていれば充分、藤野電力の電気だけで稼働できるそう。パネル:100w×4、205w×6/バッテリー:照明300Ah(2V300Ah6直1並列)、コンセント300Ah(2V300Ah6直2並列)/インバーター1500w(24V正弦波COTEK)。12Vエジソン照明12ヶ所、12V照明3ヶ所、12V照明小2ヶ所、屋外5ヶ所、玄関外1ヶ所、100Vコンセント13ヶ所

プラス思考なのは施主さんだけじゃない!

なんでも楽しみ、価値を実感できる人が集まる。それは、設計士さんや職人さん、業者さんも、同じです。

小川さん 創和の現場は、とにかく楽しいんですよね。こんなに楽しい現場は、あまりないですよ。

今まで近くにいたことがないタイプの人たちばっかりだから、面白いんです。僕自身は特に理念もないし、だからこそ逆に自然系の人たちにすげー興味が沸く。え、いっつもそんなこと考えてんの?って(笑)。

この、自分にはなかった考えを面白がって、受け入れられる柔軟さ。そこには、多様性の担保された信頼関係が確かに感じられました。

小川さんはいまだに特に環境に対するこだわりはないそうですが(笑)、自ら自然住宅に暮らすことで、その心地良さを実感しています。こだわりはなくとも、住まい手、そしてつくり手として、自然住宅の魅力を理解し、認めているのです。
 
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ウェブサイトの企画で開催された座談会の様子。志村さんのほか、森林組合、製材所、大工、設計士、そして施主さんが集まり、家づくりを振り返って笑いの絶えない座談会になりました

開発現場ではなく、周囲の風景の一部に

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自然住宅をつくり始めた頃、とある広告媒体のコンテストで賞をもらい、その副賞として、創和建設がこの先生き残っていくにはどうしたらいいのか、コンサルティングしてもらったことがあるそうです。

そこで言われたのが、とにかく藤野が面白いまちだから、会社というより藤野というまち自体を良くしていったほうがいい、ということでした。

同時期に、お客さんとの世間話の中で言われたことも志村さんの心に刺さりました。それは「いいまちっていうのは、不動産屋と建築屋が街並をちゃんと考えている」ということ。

志村さん その方はなにげなく言ったんだと思うんだけど、自然住宅を始めたばかりの自分には「頑張れよー」って言われてるように聞こえたの。だから、里も山も川もあるこの景観を壊さない家づくりをしようと思いました。

通常の宅地分譲だと、1区画40〜50坪ぐらいが一般的ですが、創和建設が手がける数々のプロジェクトでは、あえて、ひとつの敷地を100〜150坪で分譲しています。それも、どう建てたら、いちばんまちに馴染んだいい景観になるかを考えた結果。

志村さん 地元の工務店でもある創和建設が自らこの環境を壊すことはしません。

本当なら、500坪あったら8〜10軒は家が建てられます。駅から徒歩圏内の土地で500坪に4軒って、不動産屋の経営からするとちょっと異常なんですけど…(笑)。でも完成したときには楽しい気もちでいっぱいになります。開発現場の完成ではなく、周囲の風景の一部として映って見えますから…。

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家が周囲の風景の一部に。平屋のみで構成された創和建設の家プロジェクト「連のいえ」

広い視野をもち、まちをつくるように、家をつくる。そして、仕事であっても、常に“楽しいこと”を選ぶ。簡単なようでなかなかできないことですが、これがじつは根源的で、とても大切なこと。

志村さん そのほうが長く続けられる。だって、楽しいから(笑)。で、結果的にビジネスになっています。

創和建設がつくっているのは、きっと、家づくりに関わる人々の“心”。

自然素材や自然エネルギーのある暮らしを心地よく、楽しいと思える心が、多くの繋がりや新しい挑戦となって、これからの暮らしのカタチを、私たちに示してくれているのです。

(写真:袴田和彦)