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みなさんの寄付で連載がカタチになります! かものはしプロジェクト青木健太さんと一緒に考える新連載「人を育てるものづくり」キックオフ談義

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左:鈴木菜央 右:青木健太さん

みなさんは、ものを買うときどんな選び方をしますか?

「とにかく値段!」という人もいれば、「デザインが最優先」という人もいるでしょう。産地や製法、企業の誠実さで選ぶ人もいるかもしれませんね。

「ものが有り余っているいまの時代、マーケティングを駆使して自社製品をどう買ってもらうかということに、意味を感じられないんです」。

そう話すのは、「NPO法人かものはしプロジェクト」共同代表の青木健太さん。カンボジアにものづくりを行う工房を建て、女の子たちのライフスキルを育んできた方です。

greenz.jpでは、そんな青木さんと一緒に、「人を育てるものづくり」という連載を始めることにしました。さまざまな工房を訪れてものづくりの背景を伺い、いまの時代にものをつくるとはどういうことなのか、ものを買うとはどういうことなのかを探る連載です。

今回はそのキックオフとして、青木さんとgreenz.jp編集長・鈴木菜央の対談の場を設けました。かものはしが取り組んできたものづくりと、女の子たちの成長についてお話していただきましょう。
 
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長年取り組んできた事業も、より良い解決策が見つかったら手放す。
かものはしのいままでとこれから

菜央 まずは、かものはしプロジェクトの概要を簡単に教えていただけますか。

青木さん かものはしは「子どもが売られない世界をつくる」をミッションとしたNPOです。性的な人身売買を世界から無くそうと、2002年に活動を始めました。

現在の活動地域はカンボジアとインド。カンボジアでは子どもが売られないよう現地に仕事をつくっていて、インドではもう少し多面的に、法律改正や裁判支援などにも携わっています。
 
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菜央 僕は数年前に一度だけ青木さんに会ったことがあって、具体的にいつだったのか覚えていないんですが、そのときは「ITでカンボジアに仕事をつくる」とおっしゃっていたと思います。

青木さん それはかなり初期段階ですね。現地に仕事をつくるといっても、資金のない僕たちがどうやったら仕事をつくれるのか。考えた結果、日本でITの仕事を受注して現地で開発業務を行う、いわゆるオフショア開発がいいんじゃないかというところに行き着いて、最初の数年はITビジネスに取り組んでいました。

菜央 そうそう、そういう話でしたね。

青木さん ただ、2006年にそれまで積み上げてきたIT事業を手放す決断をするんです。それは、カンボジアで活動をしていく中で、人身売買の被害に遭うのは農村の子どもだということがわかったから。

「出稼ぎの仕事がある」と騙され、そのまま売られてしまうんですね。原因がそこにあるなら、都市にいる人にITの訓練をするよりも、農村に行って仕事をつくったほうがいい、と判断しました。

菜央 数年取り組んできた事業を手放して方向転換する。それってかなり勇気が必要だったんじゃないですか?

青木さん そうですね。ただ、僕たちはいつも、「何のために始めたか」に立ち返るようにしているんです。

一番の目的は、子どもが売られない世界をつくること。「ビジネスとして成り立つか」「食べていけるかどうか」も大事だけど、それありきでミッションがおそろかになってはいけない。もちろん長年取り組んできた事業には愛着があるけれど、より良い解決策があるならそっちに移ろう、と。それでコミュニティファクトリー事業を1から始めたんです。

菜央 すごいなぁ。外からかものはしの取り組みを見ていて、どうやってジャンプしてきたのかなと不思議だったんです。そういう決め方をしていたんですね。
 
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青木さん そうして活動してきた結果、カンボジアでは児童買春の問題が解決に向かっているんです。そこで2012年にはインドに進出しました。

このときもかなり悩みました。カンボジアでは確かに子どもが売られなくなってきています。でも、まだまだ解決すべき社会問題は山積みです。今までカンボジアで活動に取り組んできて、基盤やネットワークを持つ僕たちだからこそできることはきっとある。ほかの地域で0から活動するよりも、社会的インパクトは大きいでしょう。

ミッションを広げるのか、それとも当初のミッションを貫いて地域を広げるのか。議論を重ねた末に、かものはしは2017年度にカンボジアでの支援を終了することに決めました。そして、かものはしからのスピンアウトという形で、カンボジアで新しい法人をつくることにしたんです。

菜央 現地の人に任せる、ということ?

青木さん 現地の人、プラス僕ですね。僕はカンボジアに残ることにしました。大学生のときに起業して14年間取り組んで来たかものはしを、今回初めて退職するんです。理事としては残りますけどね。

菜央 そうなんだ!それは大きな決断ですね。

洗練されたデザインの新ブランド「SUSU」

青木さん かものはしから独立するにあたって、今年2月に「SUSU」という新ブランドを立ち上げました。カンボジアのい草に革を合わせた、ハンドメイドファッションブランドです。

実を言うと、いままでコミュニティファクトリーでつくっていた製品は、必ずしも利益が出なくてもよかったんです。かものはしの支援者さんたちが活動そのものに共感して寄付してくれていたから。でも、かものはしから独立するとなると、それに頼ることはできなくなります。そこで、デザイナーさんに入ってもらい、洗練されたデザインの製品をつくることにしました。

菜央 クオリティが一気に上がりましたよね。僕、サイトで製品の写真を見て感動しました。
 
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青木さん 「SUSU」は、カンボジアの言葉で「がんばって」という意味なんです。カンボジアの女の子を励ますという意味合いもあるけれど、使う人のことも励ませたらいいなと思っています。困難な状況の中でも前向きに仕事に取り組む女の子たちの想いや温度感って、製品を通して使う人に伝わるんじゃないかと。

菜央 つながりを身につける。そういう気持ち良さってありますよね。

青木さん 買い手とつくり手の距離が近いんですよね。いまって、それが無いままものを買うのが一般的じゃないですか。ブランドは知っている、でもつくり手のことは、素材や製法のことは知らない。製品全体ではなく、「コスト」や「デザイン」などのわかりやすい一部分だけ切り取られて評価される。

そもそも、もうものは有り余っていて、どう捨てるかが話題となる時代なわけです。みんなのクローゼットはいっぱいになっている。そこにマーケティングを駆使してどう自分たちの製品をねじ込むかに、全く意味を感じないんです。なんというか、長持ちしない関係性だなって。

製品だけじゃなくて、それに紐づいているもの、背景だったり、つくり手の気持ちだったり、買ったときの思い出だったり、そういう製品に紐づいたものも含めて選んでもらえるといいな、それが健全なんじゃないかな、と思っています。
 
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コミュニティファクトリーは、「安心してつまずける場所」

青木さん コミュニティファクトリーの一番の目的は、女の子たちのライフスキルを育むことです。それを突き詰めた結果、女の子たちには2年で卒業してもらうことにしました。スキルを身につけて、ほかの会社や工場に転職してもらう。そうしたほうがキャリアの幅が広がるし、給料が良くなる可能性もあります。そして僕たちは新規で人を雇える。

菜央 ライフスキルって、具体的にどんなものをイメージしているんですか?

青木さん 僕たちはライフスキルを6つに分解して捉えています。「問題解決」、「自信」、「人との関係づくり」、「自己管理」、時間を守るなどの「職業倫理」、栄養に関する知識や貯金をするといった「基礎リテラシー」です。

「時間を守る」なんて当たり前のことのように思われるかもしれませんが、農村には存在しなかった概念なんですよね。「毎日同じ場所に出勤する」ということも。日雇いの仕事は行けばお金がもらえるけど、毎日行く義務はありませんから。

そこに対していきなり「工場の感覚に慣れろ、無理なら農村に帰れ」というのも乱暴な話ですから、「遅刻をすると周囲に迷惑がかかるんだよ」とか、「休みを取るときは連絡を入れること」といったことを、コミュニティファクトリーでの仕事を通して教えていくんです。外の社会とのパイプ役ですね。

6つのスキルは更に細かく30の項目に分けていて、定期的にチェックしています。得意なことがあれば苦手なこともあるのが人間なので、全部にマルがつく必要はありません。でも、入ったときは3つしかマルがなかったのが、卒業時には15、20になっています。それ位になると、ほかの場所でもクビになったり逃げ帰ってしまったり、ということはなくなりますね。
 
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菜央 しっかりとしたシステムがあるんですね。

青木さん 彼女たちは、僕らからすると結構小さなことでつまずいてしまうんですよ。真面目で技術力があって、農村にいるよりも工場で働いたほうが4倍位いいお給料を貰えるような子が、「住む家が見つからなかった」「同僚とケンカした」といった理由で自ら手を離し、農村に戻ってきてしまう。

それは誰かに相談するとか、人と関係性を築くよう努力するとか、ちょっとだけ考えたり頑張ったりすれば何とかなる問題なんです。そういった問題を僕たちが全部取り除いてあげるのではなく、安心してつまずける場所、自分で問題を解決する練習ができる場所をつくろう、と思っています。
 

都市化の波に飲み込まれないためのライフスキル

飛田 途上国支援と聞いて気になるのは、「先進国のようになるのが果たして本当にいいことなのか?」という問題です。うつ病ややりがい搾取が蔓延する日本からすると、カンボジアの仕事観のおおらかさは羨ましいような気もします。

青木さん それは大事な問いですね。僕もカンボジアで子育てしていて、受容性に富むカンボジアの感覚や仕事との距離感はとてもいいなと感じています。

ただ、そうしたカルチャーがある一方で、都市化が否応なく進んでいるのも事実です。それは僕らには止めようがありません。農村には仕事がなくて、都市で仕事をすることに慣れていかないといけない。

農業を六次産業化に取り組んで起業して、という道もあるけれど、全員が全員起業できるわけじゃないし、雇われて工場や会社で働くほうが能力を発揮できる子もいます。

そうした状況を冷静に見ると、僕たちがすべきなのはカンボジアの良い部分を残しながら新しい社会に適応させていくこと。そのために必要なのがライフスキルだったり、本人の成熟だったりすると思うんです。自分がやりたいことは何で、そのために何ができるのか考えて実行する力。
 
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菜央 カンボジアを飲み込もうとしている大きな流れに翻弄されず、自分の道を貫く力、ということですね。日本でも必要だと思う。

青木さん 経済が発展して社会がめまぐるしくなっていく中で、好きなことや自分が本当にやりたいことって見失いがちじゃないですか。だから、先ほどお話ししたライフスキルの項目はスタッフも定期的にチェックしているんです。スタッフが成熟していなかったら、支援している女の子たちが成熟するわけありませんから。

ものづくりに関する価値観や哲学が深まる対話を求めて

さて、それではそろそろ、この連載の主旨についておふたりに語ってもらいましょう。実は今回のgreenz.jp×かものはしプロジェクトのコラボ連載、「連載を支援してくれる読者がいるかどうか」で記事の本数が決定するのです。

greenz.jpは、「greenz people」と呼ばれる会員の寄付によって運営が成り立っています。この連載を機に新しくpeopleになってくれる人が5人いれば、記事が1本リリースされるという仕組みです。記事のクラウドファンディング、とも言えるでしょう。25人なら5本、50人なら10本、と連載は続いていきます。

ひとまず目指すのは、5本の記事をリリースすること。greenz.jpにとっても初めての試みです。果たして実現できるでしょうか。
 
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菜央 僕たちにとってはすごく大きなチャレンジです。greenz.jpにはとても素敵な読者がたくさんついていて、記事を読んで新しい物の見方やアイデアを学び、実践してくれる人がたくさんいるんですね。記事をきっかけに物事が動いていく。

でも、じゃあその記事をつくるためのお金、ライターやカメラマンへの謝礼などをどうやって捻出するかというのはウェブメディアの永遠の課題です。今回は、「取材先のチャレンジを、ライターのチャレンジを応援したい!」という読者にお金を出してもらって、一緒に記事をつくっていこうという挑戦です。長年構想を練っていて、ようやく形にすることができました。

青木さん 「SUSU」もいま、クラウドファンディングに挑戦しているんですよ。応援してくれる人と一緒につくる、という感覚はよくわかります。

菜央 greenz.jpは気持ちいいメディアを目指しているんです。読者が「こういうメディアがあるのはいいな」と思ってお金を出してくれる、それでgreenz.jpが前に進む。気持ちいい関係ですよね。どうすればそのループが回るのか、という実験なんです。

青木さん その初回のパートナーに選んでもらえて嬉しいです。
 
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菜央 かものはしでコミュニティファクトリー事業が立ち上がったのは2006年。greenz.jpが生まれた年と一緒なんですよね。グリーンズもこの10年間、ウェブマガジンが社会にできることを模索して、さまざまなことを体験してきました。お互いの10年間を重ねあわせて、ともに連載をつくっていくと、きっと面白いことができるのではないかと思ったんです。

青木さんはこの連載「人を育てるものづくり」にどんな期待をしていますか?

青木さん いままで話してきた僕たちの活動って、一言でいうとものづくりを通したひとづくりなんです。ものづくりを通して、つくり手やスタッフがライフスキルを伸ばしていく。それに共感する使い手、買い手が増えていく。

そうやって自分たちの活動を再定義したときに、日本ではどんなものづくりがあって、そこではどんなひとづくりが起きているんだろう、ということが知りたくなりました。ものが有り余っている時代に、どういう気持ちでものをつくっているのか、使ってもらう努力をしているのか。そういった話をものづくりに携わっている人たちと話してみたいです。
 
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菜央 家具づくりや床はりの方法を教えて「つくれる人」を増やす「DIYがっこう」など、取材予定先もユニークで面白いですね。僕も記事を読みたい。

青木さん まだ決まっていませんが、伝統工芸の職人さんにも話を聞きたいと思っています。ものづくりに対して真摯に向き合っていた人からしたら、僕たちの考えなんてまだ甘いと怒られるかもしれない。でも、それでいいんです。ものづくりに関する哲学や価値観が深まっていくような対話を生む連載にしたい。

菜央 もしかすると、取材を通して出会った人や言葉が「SUSU」の方向性を変えてしまうかもしれませんね。

青木さん それは大いにありえますね、割と影響されやすいから(笑)

菜央 今日青木さんの話を聞いていて感じたのは、青木さんの「考えて、行動して、改善する」というプロセスを回す力はすごい、ということ。

いま青木さんがものづくりに対して「わからない」と思っていることが、この連載で徐々に明らかになっていったら面白いなと思います。そのプロセスを読者も共有して、青木さんの思考回路や問題解決の手法が自然と伝わっていく。そういう価値を読者に届けられたらいいな、と。

青木さん 読者の価値観を揺さぶる連載にできるといいですね。いままでものを買うときの基準がひとつだったのが、ふたつみっつに増えたり、そもそも「私はものを買うべきかどうか」と悩んだり。

僕は、「ものの買い方、使い方を変えないと、資本主義の中で世界は優しくならない」と思っているんです。
 
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菜央 「経済」という定規だけでものを測ったら「高いな」と思うものも、素材やつくり手の背景といったものも含めて立体的な定規で測ったら、逆に「安いじゃん」と思うかもしれない。一部の人には当たり前の考え方かもしれないけど、まだまだ一般的ではありませんよね。

青木さん 「色々考えた結果、安いのが一番!」というならそれでいいんです。でも、多くの人は自分が大事にしたい基準を考えたことがないんじゃないでしょうか。それを探ってみることで、自分にとって気持ちいい買い方ができるようになるかもしれません。

菜央 青木さんも価値観を揺さぶられるし、読者の価値観も揺さぶられる。そういう連載になるわけですね。いやぁ、楽しみです。
 
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(対談ここまで)

いまの時代、人はどんな風にものと向き合うべきなんだろう。自分にとって気持ちよい買い物って何だろう。青木さんと同じように、人とものとの距離を見つめ直したいと思っている人って、きっとたくさんいるのではないかと思います。

これから始まる連載でそれが明らかになる、とは言えません。むしろ、もっとモヤモヤしてしまう可能性だってあります。どんな答えが出るかはわかりませんが、私たちはここで一度、全国の工房や職人の元を訪れ、ものをつくること、ものを買うことについて真剣に考えてみようと思います。

私たちと一緒に、「人を育てるものづくり」を巡る旅に出ませんか?

(撮影: 植原正太郎)

– INFORMATION –

かものはしプロジェクトとgreenz.jpがともに取り組む「人を育てるものづくり」連載。

こちらの連載は、greenz.jpを寄付でサポートしてくださる「greenz people」が5名増えるごとに、プロジェクトを取材して、1本記事が公開できる仕組みになっています。つまり、25名のサポート読者が集まれば5本の取材記事、50名集まれば10本の記事を連載展開できることになります。

ちなみに現在、取材を検討しているプロジェクトは、こんな感じ!

【取材予定先】
・SUSU(突然高い品質を求められるようになり生産効率がガクッと落ちた話、デザインを担当した「NOSIGNER」の意見など、詳しい開発秘話を伺います!)
・家具から空間までをつくれる人になるDIYがっこう(運営:KUMIKI PROJECT)
・伝統工芸の職人(現在調整中)

僕らは読者のみなさんの力を借りながら、この連載を一緒にカタチにしていきたいのです。連載サポーターは、greenz people(月々1,000円のご寄付)に入会することでなっていただけます。連載サポーターになっていただいた方々には、取材の進捗や、連載のこぼれ話をお届けする計画も。

そしてgreenz peopleに会員特典としてお配りしている、月刊メールマガジンと年2冊の「People’s Books」も、もちろんついてきます。ぜひこの機会にgreenz peopleになって、「人を育てるものづくり」連載をサポートいただけませんか? 以下の専用URLより、お申し込みください!

https://people.greenz.jp/?code=kamonohashi

※おかげさまで、現在11名の方に連載サポーター読者になっていただいています!(2016/8/3) 1本目、2本目の取材準備を進めています。記事公開をお楽しみにいていただけると嬉しいです◎ 引き続きサポーターを募っています。応援よろしくお願いします!