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アナログレコードの穴の向こうにある、デジタルでは体験できない暮らしと未来。京都が生んだ、世界で1番ラブリーなレコード市「京都レコード祭り」

こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

みなさんは、アナログレコードの音を聴いたことはありますか?

私は、長らくパソコンやスマートフォンでMP3で音楽を聴いていたのですが、ひさしぶりにアナログレコードで音楽を聴いたときにビックリしました。「なんて人間に近い音がするんだろう」と。mp3が音の輪郭だけをなぞっているとしたら、アナログレコードは丸みを帯びた音の粒をやわらかく耳に着地させてくれるように感じたのです。

「ぬくもりある音がいい」「大きなジャケットがいい」「モノとして愛着が持てる」など、アナログレコードを好む理由は人によってさまざまです。ただひとつ確かなのは、私も含めて、今もレコードに触れている人たちは「レコードは楽しい」と思っていること。

その楽しさを、まるっと2日間で表現しているのが、今回ご紹介する「京都レコード祭り」。京都中のレコード店、ミュージシャン、そして音楽を愛する人たちが一堂に介する、年に1度の“お祭りレコード市”で、今年は7月9日(土)・10日(日)に開催されます。

今回は、会場全体がターンテーブルになって、音楽に関するモノやコトがゆるやかにグルーヴするこのお祭りについて、仕掛人のひとり「100000tアローントコ」店主・加地猛さんにお話を伺いながらご紹介したいと思います。
 
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加地猛(かじ・たけし)
1973年大阪生まれ。レコード店勤務を経て、2010年寺町御池上ルに『ふる本・レコード・CD 100000t(じゅうまんとん)』を友人とともにオープン。ビル立ち退きのために、2012年に現在の場所に移転してからは『100000t アローントコ』に店名変更。京都のレコード店主による任意団体、K.R.A(Kyoto Record Association)の一員として『京都レコード祭り』とその関連イベントの運営に参加している。ホホホ座員として『みんなのミシマガジン』にて『ホんまかいな通信』連載中。

音の溝を針で辿る、アナログレコードのしくみ

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アナログレコードには、A面/B面があり、LPなら約20分ごとに、ドーナツ盤なら一曲終わるたびにひっくり返します。曲の頭出しは、曲間を識別する“マーカースペース”を目印に針を落とします。

アナログレコードが、新譜リリースメディアの座をCDに譲ったのは、もう30年以上も昔のこと。おそらく、アナログレコード未体験なgreenz.jp読者もいると思いますので、はじめに少し説明をさせてください(レコード愛好家の方はここは読み飛ばしてください!)。

アナログレコードとは、音楽をアナログ信号として、円盤状の樹脂などに音溝として刻んだもの。一定の速度で回転するターンテーブルに乗せてレコード針を落とすと、音溝の振幅をトレースして電気信号に変換してアンプへと送信し音を鳴らします。
 
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アナログレコードの種類:左から1分間に33回転する12インチ(直径30cm)のLP、78回転のSP盤、1分間に45回転する7インチ(直径約18cm)のEP(ドーナツ盤)。

アナログレコードの扱いにはいくつかの注意が必要です。まず、盤面にはなるべく手を触れないこと。手荒に扱うと破れてしまうので、ジャケットはそうっと扱うこと。ターンテーブルに載せたレコードに針を落とすときもそうっと……。盤面がホコリで汚れていたら、針がホコリの上を走り「プチ、プチ」と小さなノイズ音を立てますから、盤と針のお手入れも必要です。
 
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音の溝を走るのは繊細な針。音楽がリアルマテリアルとして感じられるのもレコードの醍醐味です。

「タッチパネルに触れるだけで音楽が聴ける時代に、何でそんなにめんどくさいことを?」とあきれる人もいるかもしれません。その「?」の答えは、レコードを聴く人の数だけあります。きっと、まだレコードを聴いたことがない人も、聴けば答えが見つかると思います。

たとえば、以前、京都のレコード屋さんで出会ったスペインの女の子は「レコードを聴くのはまるで茶道(tea ceremony)みたいで、すごく気に入ってるの!」と話してくれました。ていねいにコトを運んでじっくり音楽を聴く。たしかに、レコードを聴くことにも所作の美しさがあり、「音楽とちゃんと向き合う」作法と言えるかもしれません。

今、ここで「へぇ」と思って読んでくれた、そんなあなたにおススメしたいのが京都レコード祭り。「買うかどうか」「レコードを聞くかどうか」なんて後で決めればいいこと。まずは「レコードにまつわるおもしろいこと」を体感してほしいのです。

京都×レコードが生んだ“ちょうどいい”お祭り感

京都レコード祭りは、2012年に古本・中古レコード&CDを扱う、100000tアローントコ(じゅうまんとん・あろーんとこ)店主、加地猛さんらが中心となって、京都中のレコード店に呼びかけてスタートしました。当時のことを、加地さんに振り返っていただきました。

加地さん 京都はいわゆる小商いの人も多くて、お店同士でイベントを企画して盛り上がろうとするところがあるねん。

うちは、古本も扱っているから「一箱古本市」や、イベントやライブ会場での出店に声がかかることも多い。けど、レコード屋関連のイベントは、全国各地にある「レコード市」すらなかってん。それで、ART ROCK NO.1の店主・村松(浩二)さんと「なんかやってみよか?」という話になって。

たしかに、京都は小商いの人々の横のつながりが強く、同業種・異業種に関わらず声をかけあってイベントを企画し、お客さんを融通し合う文化があります。一方でお客さんたちの側にも、こうしたイベントで知らないお店や品物との出会いを楽しむ気風があります。
 
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学生やOL、地元のおじさん、おばさんからクラブDJ、レコードコレクターの紳士まで。京都レコード祭りの客層の多様さは、他のレコード市と一線を画しています。

京都レコード祭りは、この京都ローカルな文化・気風と融合しながら、いわゆるレコード愛好者をメインターゲットとする「レコード市」とはひと味違う“お祭り”としてつくられていきました。

会場に選ばれたのは、地下鉄・京都市役所前駅の改札を出てすぐにある「ゼスト御池 河原町広場」。交通アクセスが便利で、地下街の広場空間なので通りすがりに誰でもが立ち寄れるので、「レコードのためにわざわざ出向く」という敷居の高さがありません。
 
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左から、音楽ライターの湯浅学さん、小説家のいしいしんじさん、いしいさんのご愛息・ひとひくん。アナログレコードを愛する3人がレコードをかけながら、楽しいトークを繰り広げます。

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京都を中心に活動するアーティストのライブ。「えっ、フリーライブで見られるの!?」とビックリするようなアーティストも登場します。

また、加地さんは、レコードと音楽を愛する人たちにも声をかけ、会場内のステージイベントを企画。小説家のいしいしんじさんといしいさんのご愛息・ひとひくん、音楽ライターの湯浅学さんの3人によるトークDJイベント「アナログバカ三代」や、京都を中心に活動する人気アーティストのライブも展開することにしました。

加地さん 珍しいレコードを探したり、掘り出しものを見つけたりするだけじゃなくて、それにまつわる諸々を盛り込んで、楽しい感じにしたかってん。

今年は、吉田省念くん、松野泉くん、オオルタイチくん、Homecomingsなど「フリーでいいの?」という人たちがライブに来てくれるし、音楽ネタの落語もあって、イベントの充実度もすごいと思う。

たとえば、音楽が好き、音楽がある場所が好きという気持ち。あるいは、音楽を聴くこと、誰かと一緒に楽しむときの幸せな気持ち。京都レコード祭りには、“レコードに手を伸ばす以前にあるはずの何か“を会場全体に醸し出し、「レコードを買いたくなる気持ち」をじわじわと底上げしてくるようなところがあります。

“村の青年団”のようなつながりが生まれた

今ではすっかり「京都の夏の風物詩」のひとつになりつつある京都レコード祭り。でも、第一回の立ち上げ時には、まるで今のような未来は想像できていなかったそうです。

加地さん レコード屋がわっと集まることによって、レコード屋の存在自体もアピールできるやん。

歩いて回れる範囲のなかに、これだけ多くのレコード屋さんが集まっているという意味では、京都は全国有数のまちやと思う。その事実を改めて知ってもらうことにもなるかなと思ってたかな。でも一回めは、はっきり言ってやみくもやってん。

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京都に訪れる外国人旅行者向けに英語版のマップを作成。「レコードの街」としての京都の顔を世界に向けてアピールしています。京都レコード祭り後は各レコード店で配布。

加地さんたちは、「レコード屋を歩いて巡る楽しみがある」ことを知ってもらうために、『京都レコードマップ』を作成し会場で配布。イベントだけを盛り上げるのではなく、イベント後のムーブメントづくりも意識してのことでした。それでも第一回の開催前は、どれだけ万全に準備をしても、「本当にお客さんは来てくれるのか?」という不安は拭えなかったそう。

加地さん ところが、フタを開けてみたら、開場前からお客さんが集まってきてて、うわ〜!って盛り上がって(笑) あの瞬間、最高やったなあ。

魚の水揚げみたいに、みんなで力を合わせてうわーって網を引っ張ってる感じで、いつも冷静な店主さんまでハイになってたし。

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混雑する会場レジ。参加店の店主・スタッフが力を合わせて会場運営にあたります。

京都レコード祭りの開催は、京都のレコード店全体にさまざまな影響を及ぼしました。

加地さん 毎回出店している人同士はもう村の青年団みたいな感じで、一人で細々やっている感じはちょっとなくなってきた。

とは言っても、どの店もシビアに商売しているし、馴れ合いの関係ではないんだけど「みんなで一緒にやっていること」がある感覚があるからかな? イベントごとに着実に売上もあるし京都レコード祭りから派生して始まった催事もある。そのことによる心強さはあると思う。

レコード店主間の交流が深まったことによって、レコードの価格付けやパッケージの工夫などのノウハウが共有されたり、お客さんを紹介し合うことも増えました。同業者としてライバルではあるけれども、仲間としての関係も生まれてきたのです。
 
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京都レコード祭りの派生イベントも。東急ハンズ京都店では、京都レコード祭りのポップアップショップ『Add Some Records To Your Day』が2回開催されました。

アナログな街・京都にレコードを探しに行こう

店主のユニークさや気さくさ、レコード店を歩くときの古都の街並みなど、京都には京都でしか味わえない「レコード散策の楽しさ」があります。また、各店舗の品揃えにも京都らしさがあります。

加地さん 京都のレコード屋は、地理的にも店の品揃えもネットと逆行しているところがあるねん。一般的には、ネットが普及して以降のレコード屋は専門店化して、オンライン販売に移行するパターンが多い。ところが、京都はオールジャンルの店が多いから、「どこに探しているレコードがあるかわからない」というハプニングな状況になってるねん。

それが成立しているのは、歩いて巡れる範囲にレコード屋が集まっているとか、ネットで買うよりも実店舗で買うお客さんが他の都市より多いとか、小商い店でお金を使う人が多い経済が回ってたりとか……。ひとつではなく、いろんな要因がつながってネットへのカウンター的状況が生まれたんやと思う。

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フレンドリーなレコード店主として知られる加地さん。

京都とアナログレコードを重ねてみると、京都という都市のアナログさが見えてきます。京都が世界中の人に愛されるのも、アナログレコードが忘れられることがないのも、もしかしたら同じ理由なのかもしれません。デジタルな世界ではなく、アナログレコードの穴の向こう側に、見えてくる暮らしや未来もまたあるかもしれません。

みなさんも、今度京都に来ることがあったら、京都のレコード店を訪ねてみてください。そして、7月9日・10日の週末に京都に来ることができるなら、ぜひ京都レコード祭りに遊びにいきませんか。私も会場にいて、ライブを見たりレコードを眺めたりしていると思います。京都で、そしてレコードのある場所でお会いしましょう。

– INFORMATION –

 
第4回京都レコード祭り
【日時】
2016年7月9日(土)、10日(日) 11時〜20時
【場所】
ゼスト御池河原町広場(地下鉄「京都市役所前駅」改札から徒歩1分)

ゲストを含めると30店舗以上が出店。掘り出し物レコードももりだくさん。ステージでは、国内外のアーティストによるフリーライブ、トークイベント、落語、DJタイムがめくるめく展開します。詳細は京都レコード祭り公式ブログをご覧ください。