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ついに、グリーンズが出版社に!? People’s Books『ほしい未来をつくる言葉』の製作で見えてきた、メディアの可能性とグリーンズの未来

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こちらの記事は、greenz peopleのみなさんからいただいた寄付を原資に作成しました。

グリーンズではこれまで、greenz people会員向けの本として、過去5冊の「green Books」を発行してきました。そして今年の2月に発行した最新号からは、green Books 改め「People’s Books」としてスタート。新しい名前になってから初めてとなる、通算第6号のテーマは、『ほしい未来をつくる言葉』です。

「みんなでつくる」を掲げた今回の「People’s Books」では、 グリーンズのコアメンバーやライターはもちろんのこと、greenz people会員の方や、読者の方からも、今までグリーンズが発信してきた記事の中から、みなさんの心を動かした言葉を選んでいただきました。

その他にも、その「言葉の主」からのメッセージや、greenz.jp元編集長の兼松佳宏(YOSH)と編集長の鈴木菜央の対談など、言葉が主役のコンテンツがぎゅっと詰まった今回の「People’s Books」。(実は私も、その編集に参加したメンバーの一人だったりします。)

今回は、「People’s Books」編集長の鈴木菜央と、企画を考えたシニアエディターの池田美砂子さんに、その内容と製作の裏側を伺ってきました。
 
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今回お話を伺った鈴木菜央さん(左)、池田美砂子さん(右)

『ほしい未来をつくる言葉』に辿り着くまで

水野 今回の『ほしい未来をつくる言葉』というテーマは、どうやって決まったんですか?

池田さん これまでのgreen booksは、グリーンズの暗黙知を棚卸しするものでした。でも、菜央さんが「今回は全く新しいものをつくっていくっていう考え方でいい」って言ってくださって。思い浮かんだテーマが、「言葉」でした。

水野 「言葉」が思い浮かんだのは、どうしてですか?

池田さん greenz.jpがこの10年で発信してきた言葉の力を可視化してみたい、と思ったんですよね。

私がgreenz.jpにライターとして参加したのが2008年だったんですけど、その当時、著名人の名言を日替わりで紹介する「エコスゴイ言葉」っていうコンテンツがあって、すごく好きだったんです。

「一人で見る夢は、夢でしかない。みんなで見る夢は、現実になる(オノ・ヨーコさん)」とか、短いフレーズだけどそのインパクトはすごくて、ことあるごとに思い出していました。言葉の力ってすごいなって思っていたんです。

水野 なるほど。

池田さん でも、ライターとしてインタビューを重ねていく中で、「いやいや? 言葉って、著名人だけのものじゃないぞ」って思うようになりました。

まだまだプロジェクトを始めたばかりだけど、その人の経験に裏付けされた、思いの底から湧き出たような等身大の言葉。そんな言葉にたくさん出会い、それを記事で発信することが、別の誰かの背中を押すきっかけになっていることを実感してきました。

それで、そういった、“ほしい未来”に向けて踏み出している人たちの言葉が誰かの心に届いていく様を一冊にまとめてみたい、と思ったんです。この本を手にとった方々が、自分の中にくすぶっている想いを「言葉にしてみよう」と思うきっかけになるといいな、と。

水野 それで、言葉集をつくることになったんですね。

池田さん そうなんです。さらに言葉の力を実感したのは、去年の秋にgreenz.jpライターが一同に会して合宿をしたときでした。「いい記事とは何か?」という議論を重ねたりして、ライターさんたちの話から、記事や言葉の力を再認識したんです。

greenz.jpライターのみなさんからいただいた気付きが、この一冊へとつながっていきました。感謝ですね。
 
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2015年10月、greenz.jpライター合宿にて。今回の一冊をまとめるときに、ライターの言葉を引き出す力に編集メンバーは感銘を受けていました。

「People’s Books」の読みどころは?

水野 ここで、編集を担当したおふたりに、『ほしい未来をつくる言葉』のおすすめポイントを教えてほしいです!

菜央 僕は、イラストですかね。この絶妙な、言葉と関係あるような、ないような(笑)

池田さん 私、すごくツッコミたい(笑)

菜央 あるなぁって分かるのもあるんだけど、あるのか? みたいに思うものもある。

池田さん これが面白いんだって、菜央さん言ってくださって。

菜央 これとか、ゆるくないですか?(笑)

池田さん ゴミ箱…ですよね(笑)

菜央 これ由来してないものなんだろうね。由来していない自分を捨ててる(笑) すごいな、これ。
 
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「グランドライン」徳永青樹さんの言葉『自分に由来したものでないなら捨てないと、自分の世界観をつくっていくことはできない』が載ったページ

水野 池田さんは、いかがですか?

池田さん 5人の方から寄稿いただいた「言葉の主からのメッセージ」も、やってよかったなって思ったコンテンツです。

ある言葉が、読者にすごく響いたんだとしたら、その言葉を言った人にとって、その言葉はどういう言葉だったのか。そんな、巡り巡る言葉の力を表すことができました。 5者5様の、“らしさ”が感じられる言葉を寄せてくださって、本に厚みが増したと思います。
 
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池田さんが選んだお気に入りのページは、「サンタのよめ」兼松真紀さんの言葉が掲載されたページ

「正しい言葉」ではなく、「居場所をつくる言葉」を発信したい。

水野 池田さんは本格的な書籍をつくるのは初めてだったと聞きましたが、こうして完成して、手にとって本を眺め、振り返ってみて、どのような感慨がありますか?

池田さん 改めてページをめくっていると、ここで紹介した言葉は「正しい言葉」ではないんだなぁって思って。

水野 「正しい言葉」?

池田さん 正しい言葉ってすごく強くて、ときに人を傷つけることがあります。

吉野弘さんの『祝婚歌』という詩の中に、「正しいことを言うときは、控えめにするほうがいい」「正しいことを言うときは、人を傷つけやすいものだとわかっているほうがいい」というフレーズがあるんですね。この詩は私が両親から贈られたものですが、それがすごく心に残っていて。

水野 ふむふむ。

池田さん 正しいことって、本当に正しいんですけど、その分すごく強くて。私、たまにFacebookを眺めていると、閉じたくなってしまうときがあるんです。「正しい言葉」、いわゆる“正論”を目にして、居場所がなくなってしまうような感覚といいますか。苦しいなあって思うことがあります。

今回この一冊をつくったことで、グリーンズが伝えてきたのは、「正しい言葉」ではないと気づきました。人を阻害するような“あるべき論”ではなく、背中を押したり、存在を肯定したり、人の心に「居場所をつくる」ような言葉だなって。

もちろん、生きていく上では、「正しい」言葉も必要かもしれない。でも私は、あらゆる人の居場所となるような言葉を、これからもグリーンズで発信していきたいなって思っています。
 
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「green Books」から「People’s Books」へ

水野 今回から、「green Books」という名前が「People’s Books」に変わりました。その背景には、菜央さんの中でグリーンズの次の段階が見えてきたからだと聞きましたが?

菜央 はい。実は今、グリーンズで出版社をつくれたらいいなと思っているんです。

それがどんな名前になるか、まだわからないんですが、そこで出す本を「green Books」といったほうが、しっくりくるかなと思っていて。

だから、グリーンズで出す本の全体は「green Books」と呼び、このgreenz peopleのみなさんにお届けしている本を「People’s Books」と呼んだほうがいいんじゃないかと思って、変えることになりました。

水野 その出版社をつくろうと考えている、という話を、もう少し教えてください。

菜央 これはまだちょっと半分妄想なんですけど。greenz.jpは、毎日記事が上がって、スマートフォンやPCで読める。みんなの「なんかしたい」っていう気持ちを奮い起こしたりとか、なんかやりたいって思ってるけどなかなか実現しない人に、燃料を届けるようなものだと思うんです。

水野 たしかに。
 
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菜央 だけど本当に未来や自分の将来のことを考えようと思ったとき、googleで検索するよりも、じっくり本を読んだり、誰かに会いに行く方が、多いと思うんです。

だから、メディアとしてひたすら毎日記事を出しつづけたものの中から、学びや経験、見えてきたことを本という、 グリーンズにとっては”新しいメディア”にしていきたい。そんな気持ちがだんだん湧いてきたんです。

水野 なるほど。

菜央 結局そういうことを考えるようになった背景には、ウェブマガジンの面白さと限界という理由があって。

水野 と言いますと?

菜央 ウェブマガジンの面白さでいうと、みんなの暮らしにスッて入っていけるところ。通勤途中にスマートフォンで読めたり、ね。だけど限界はやっぱり、10年スパンで見たときには、社会に何を残せるんだろう?という思いもある。

一方で紙っていうのは、一回一回つくるのは大変なんだけど、その分、社会にくさびが打ち込まれる感覚がある。

水野 くさびとは?

菜央  ある時、ふと「自分はどこにいるんだっけ」「自分の人生、どこに行きたいんだっけ」って思ったときに、僕が何をするかというと、ウェブを見に行くのではなく、やっぱり紙の本を読むんです。

本を読んで、「そっかー!」って納得したり「そうだった、そうだった」って、チューニングを合わせたりとか、立ち位置を確認したりする。そうやって考えると、ウェブマガジンだけじゃなくて、やっぱり紙も出したいなあ、っていう気持ちがあるんです。なので、その出版社をつくりたいんですね。

水野 どんな出版社にしようと考えているんですか?

菜央 その出版社は、普通の出版社ではなくて、今までにない、グリーンズらしい面白い“オーガニックな”出版社にしたいと考えています。オーガニックって言ってもそれがどういう意味かまだわからないんだけど(笑)

そのためにはプロトタイピングとか、練習を積んでいく必要があるし、みんなでメンバーや読者と一緒につくるということをやっていきたい。その実験の場が、旧「green Books」、今の「People’s Books」ですね。
 
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「みんなでつくる」が生んだ変化

水野 今回のPeople’s Booksで掲げた「みんなでつくる」という考え方は、なぜ生まれたのでしょう?

菜央 だってみんなでつくったほうが楽しくないですか(笑)

一人でつくっても限界があるし、物の見方だとか。そして、「いいもの」にしようというときに、一人の世界観なんて、そんなに面白くないんですよ。

やっぱり多様な視点を入れて、いろんなものを出していかないと、出版社は成立しないんですよね。別に、僕が一人で本をつくって出したいっていうだけだったら、自分でやったほうがずっと簡単(笑)

だから、そういう意味では、みんなが本づくりのパワーを使えるようになってほしいっていうのはありますね。

水野 本づくりのパワーとは?

菜央 ひとつは、本というメディアと流通がもつチカラです。本は、500年間進化し続けてきたメディアですから。ウェブなんて、せいぜいここ20年ぐらいのものでしょ?

社会をつくる作業って、少なくとも10年スパンです。社会の仕組みが半年ごとにコロコロ変わったら困ります。そういう時、どんな社会がいいか?という議論の土台になるのはやっぱり本というメディアだと思います。

ウェブメディアはイメージをする、素案を出す、対話するのには長けているのに対して、本はじっくり向き合う、まとまった議論を提案できる、社会のコンセンサスをつくる議論の土台になりうると思うんです。

2つめは、リアルであることの強み。隣近所に配ったり、イベントしたときに心でつながった人たちに読んでもらったり。そういうのはウェブじゃできない。

3つめは、本というメディアをつくるプロセスがもつチカラです。本をつくる過程でつくり手もすごく成長するし、関わった人が本をつくるのを通じて、ものすごく成長できて、次に進める。本をまとめることによって、次に進む。

水野 その進む先とは?

菜央 たとえば、その本に共感した人は、自分が何を本当はやりたいのか、大きなビジョンと向き合うことを突きつけられるから、深く考えるようになるし。そうすると、自分のプロジェクトが前に進んで行くことにもなる。

そうやって、つくる方も、取材される方も、サポートする方も、みんなが本づくりという機会を通して、社会とすごく関わるわけですよ。その結果、言ってみれば文化が前に進むみたいなところがあると思っていて。それをグリーンズがやれたらいいですね。
 
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水野 実際につくってみて、自分の中で変わったことや、考えたことはありましたか?

菜央 僕は、みんなでつくるっていう実験ができてすごくよかったですね。製作に関わったみんながいろいろ感じたことがあったのだとしたら、それが僕の学びと成長です。この新しい仕組みが、うまくいってよかったと思っています。

池田さん 私は本をつくる行程を通して、これからシニアエディターとしてgreenz.jp編集部に深くコミットしていく上でのチームのつくり方とか、そういう意味での学びはすごくありました。

たとえば連載のディレクションをするとき、ライターさんに、「頼まれ仕事」ではなくて 「連載を一緒につくっていく立場なんだ」と当事者意識を持ってもらうことって、すごく大事。その意識の変化ひとつで、どんどんいい循環が生まれるんじゃないかなって思うんです。

菜央 greenz.jpの連載と本が両方あることによって、すごく面白い企画がどんどんできていくようにしたいなと思います。

今年は10周年ということで、ウェブのリニューアルだけでなく、池田さんも交えて、greenz.jp編集部の新体制づくりを進めています。その一つの実験として、「People’s Books」とウェブと絡めて企画をつくるという意味で、今回の「People’s Books」は非常にいい試みだったと思います。

今後、「People’s Books」はどうなっていくの?

水野 今後の「People’s Books」で「こんな企画をやってみたい」というのはありますか?

菜央 ひきつづき、グリーンズの出版部門をつくるために実験をしていこうと思っていますが、発行が年間2回なので、1回はグリーンズのこれまでを棚卸しするシリーズにして、もう1回はgreenz.jpと連動した実験的なことをやる。そのように、交互にやれるといいなあと思ってて。

水野 緩急がついて、いいかもしれませんね。ちなみに、実験的なことって、どんなことでしょう?

菜央 今考えているのは、「グリーンズ白書」ができないかなぁと。

水野 「グリーンズ白書」とは?

菜央 greenz.jpの10年間の記事数でグラフをつくってみるとか。あとは、各年にどんな記事が一番人気だったかを振り返っていくと、変遷が見えてきますよね。たとえば、地域のネタが、ここ1〜2年で増えてきているんじゃないか、とかね。

僕の印象だけど、単体のソーシャルデザインのやり方は、多くの人々に浸透していて、単体では立ち上がって上手くやれるようになってきた。でも、それぞれがどうつながるか、地域の中でそれぞれがどうサポートし合うか。そんなネットワークに課題があるなと感じますし、地域とソーシャルデザインの領域に課題と可能性がまだまだあります。
 
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池田さん 本は、ウェブではできなかったことができるような場にしていきたいです。ライターのみなさんの「やってみたい」を形にできるといいですね。ウェブに書けない超ロングインタビューを一冊書くとか。

菜央 つくった本を全部書店に売っていくんじゃなくて、身の回りで流通して終わりでいいというのもあるし、直販しかやらないっていうのもあってもいいかもしれない。

greenz.jpで企画をしたものが、どんどん本になっていく。そういうのがやりたいんですよ。全部流通にのせようって思った瞬間に、すごく重くなっちゃったりするんですけど、そうしないことで実験的な本をつくれる余地も残す。

水野 面白そうですね。

菜央 だから、会員向けではない販売目的の本においては、定価をなくそうと思っていて。

たとえば、500円〜1500円という幅をもたせて金額を設定する。500円出してくれたら、配送料と印刷料が出ます。1500円出してくれたら、ちょっと儲けがグリーンズにあります。そんな目安を買い手に提示したうえで、値段を決めてもらう。もっとラディカルなのでは、金額を受け取り手が決める、という完全ギフトもやってみたい。

池田さん 定価とか、当たり前の構造だと思っていたけど、そこを疑うっていうのは面白いですね。

菜央 そして誰でも本は出せるし、出せばいいじゃんと思っています。 メディアの民主化ができたら面白いな。

最近、ZINEが面白いなーと思っています。それは、現状、マーケティングされて、ターゲティングされたメディアが多すぎるからだと思う。どうでもいいぐらいの感じのものが街にあふれてると面白いんだけどね、気楽っていうか(笑)

そういう状況をグリーンズとして仕掛けられたら面白いのかなと、妄想が広がります。

池田さん 「People’s Books」みたいな「一冊誰かにあげてください」という仕組みを広げていくのも面白いかもしれない。

菜央 そうだね。だってどうせ、印刷して余るから。一冊あげても、二冊あげても、コストは何にも変わらないですからね。だったらみんなにギフトしよう、と。

池田さん 本当、その仕組みがいいなぁと思っていて。実際、今回の「People’s Books」も、greenz peopleのみなさんが、カフェや小学校などに寄贈してくださっていて、手にとってくださる方が少しずつ増えています。

「なんだろこの本、定価もないし」って話題にしてくれたらうれしい。もっと本の形が自由になると面白いですよね。

菜央 たとえば「ギフトエコロジー」をテーマにした本は、まだあんまり世の中に出てないじゃないですか。でも、そういう新しいけど重要な分野を本にするのは、グリーンズにできるんじゃないか。

たとえば、「People’s Books」ぐらいの薄さだったら、連載を一年やって、ちょっとコンテンツ足して、気軽に本にできる。それで、ギフトエコロジーをやっている人たちが、講演するたびに配ったり、そういう使い方もできる。

何も、書店におろして売るだけが本じゃないんだと思うんですよね。もっと、みんなが自由に使える。メディアのパワーを自由に使えるようにできるといいなあって、思っています。
 

(対談ここまで)

 
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いかがでしたか? 最新号『ほしい未来をつくる言葉』には、日常の中でふと迷ったとき、傷ついてちょっと疲れてしまったとき、落ち込んだとき… そんなときに手に取ってみると、居場所を照らし、背中を押してくれるたくさんの言葉が詰まっています。

さらにそれだけではなく、たくさんの新しい試みとこれからのgreenz.jpというメディアの未来も感じられる一冊でもあるのです。

『ほしい未来をつくる言葉』は、6月中にgreenz people会員になっていただけると、7月初旬にお届けしています。

みなさんも、ぜひPeople’s Books最新号『ほしい未来をつくる言葉』をgreenz peopleとして手にとって、グリーンズの未来、そしてメディアの未来を想像してみませんか?