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電力自由化直前!! 100%自然エネルギーをドイツ全土16万人に販売する共同組合「シェーナウ電力」に行って「自然エネルギー革命の起こし方」を聞いてきました

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わたしたちエネルギー」は、これまで“他人ごと”だった「再生可能エネルギー」を、みんなの“じぶんごと”にするプロジェクトです。エネルギーを減らしたりつくったりすることで生まれる幸せが広がって、「再生可能エネルギー」がみんなの“文化”になることを目指しています。

2022年の脱原発の実現、そして100%自然エネルギー社会をめざして、エネルギーの大転換を押し進めるドイツ。すでに自然エネルギーで電力の約28%を供給しています。たくさんの市民もアクティブに、自ら小さな発電事業者になったり自然エネルギーでつくられた電気を選んで購入したりしています。

中でも、日本でもよく知られているのは「シェーナウ電力会社」のムーブメントではないでしょうか。ドイツ南部の小さな町・シェーナウの市民が、チェルノブイリ原発事故をきっかけにつくった、市民のための電力会社です。ドキュメンタリー映画『シェーナウの想い』が全国各地で上映され、ご覧になった人も多いと思います。

今回なんと、greenz.jp編集長・鈴木菜央がシェーナウ電力を訪ね、ドイツ南部、バーデン=ヴュルデンベルク州に行ってきました。

シェーナウ電力会社が取り組んでいること

環境都市として日本でも知られているフライブルク市を通り過ぎると、だんだんとのどかな田舎の風景が広がってきます。曲がりくねる山道を上り下りすること約1時間、シェーナウの町中心部にほど近い、シェーナウ電力会社に到着しました。
 
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オフィスの屋根の上には、太陽光パネルがずらりと並ぶ

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屋根には太陽光パネルがずらりと並び、「原発いらない」のマークも! 中へ入ると、広報担当のターニャさんさんが待っていてくれました。ここからは、鈴木菜央とターニャさんの対談をお届けします。

菜央 シェーナウ電力のみなさんにお会いできて本当にうれしいです!自分も含めて、日本のたくさんの人たちが、映画『シェーナウの想い』を観て勇気付けられました。今は実際に、シェーナウ電力会社はどんなことを行っているんでしょうか?

ターニャさん 私たちは、自然エネルギーを使った発電、配電網の運営、電気の販売の、3つの分野で事業を行っています。電気事業の川上から川下まで取り組んでいるのはユニークだと思います。100%自然エネルギーでつくった電気は、ドイツ全土、約16万人の顧客に販売しています。

シェーナウ電力は希望する市民が運営に参加できるように、協同組合方式で運営されています。全社員含め、約4,500人の市民が株式を持っているんですよ。
 
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菜央 シェーナウ電力は、電力網の購入から始まったんですよね?

ターニャさん そうです。今はシェーナウの町と周辺の一般家庭などに電力を供給する配電網を9つ、所有・運営しています。

1986年のチェルノブイリ事故後の当時、電力市場はまだ自由化されておらず、大企業が発電・送電・配電をほぼ独占していました。

それでもシェーナウの人々は、本当に環境にやさしいエネルギーを使いたければ、配電網も運営する必要があると考えました。シェーナウの町に電力を供給していた会社・KWRは原発の電気を約4割使っていたんですが、市民が環境に優しいエネルギー供給を呼びかけても、まったく耳を貸さなかったんです。

シェーナウ電力がめざす社会

菜央 シェーナウ電力は日本の市民にとってすごくいいお手本ですが、活動を始めたばかりのとき、どんなビジョンや直感を持っていましたか?
 
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ターニャさん 1つは原発のない社会です。これは今でも目標に掲げています。原発を持っている国々は、今すぐに原発から撤退すべきだと思います。ドイツは2020年までに撤退する予定ですが、それまで待てません。

菜央 心強いですね。日本の多くの市民も、同じ目標を強く持っていると思います。

ターニャさん 私たちも日本の市民には本当に勇気をもらったんですよ。福島原発事故のあとの節電は、すごいものでしたよね。

菜央 そうですね。福島原発事故後、たくさんの市民、企業、団体が節電に多大な努力をしました。その後も節電は国民の間で定着して、震災前の2010年度に比べて、2014年度の電力販売量は約10%も減り、日本の電力のあり方に大きな影響を与えつづけています。その後も、多くの市民はエネルギーシフトに一生懸命取り組んでいます。でも、社会全体としては、原発のない社会、100%自然エネルギー社会に向かう道はまだはっきりしていないように思います。

チェルノブイリ事故後の当時は、電力システムや電力会社はとても巨大だったと思いますが、どんなふうに活動を始めたんでしょうか?
 
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ターニャさん シェーナウ電力は女性たちから始まったんです。チェルノブイリ事故後、ドイツ南部では放射能の雨が降りました。女性たちは子どもたちが庭で遊べるのか、何を食べさせたらいいのか、とても心配しました。

今の福島の女性たちと同じようにです。シェーナウの近く、スイスやフランスとの国境近くにも、ドイツ国内にも原発があります。チェルノブイリでさえ2,000km離れているのに、ふだんの暮らしに影響を及ぼしました。もし近くの原発で事故が起きたら?と多くの人は考えました。

エネルギーは食べ物などと違って目に見えないので、人を惹きつけませんよね。でも突然に女性たちは、自分の使っているエネルギーと、子どもたちがサラダや森のきのこを食べて病気になることの関係性を理解し、解決策を探し始めました。

民主主義についての疑問も生じました。なぜ大きな電力会社だけが資源を使う権利があるんでしょうか。どこでどんなエネルギーをどうつくるか、誰が決定しているんでしょうか。

電力の無駄づかいが原発推進の根っこにあることが分かり、まず私たちは省エネを市民に呼びかけ始めました。それから太陽や風といった誰でも使える自然エネルギー技術に変える、そして所有の構造を変えることに取り組みました。

大きなチャレンジを市民と乗り越える

菜央 なるほど。始まりにはさまざまな意識のつながりがあったんですね。その後、シェーナウの市民がKWSが所有していた地域の配電網を購入し、市民のための電力供給会社をつくる様子は『シェーナウの想い』でも描かれました。振り返って、どんなことが困難だったでしょうか?

ターニャさん 配電網を獲得するために、2回の住民投票を行わなければいけなかったことです。

1回目の住民投票に勝ったものの、KWRも住民投票の実施を望みました。KWRは、市民に配電網の運営ができるわけがない、自分たちは資金も仕事も提供するなどと主張しました。私たちもできるんだと市民に確信を持ってもらうために、長い間、もう聞きたくないというぐらい、エネルギーのことを市民と話し合ったんです。大きな挑戦でしたが、多くの人々が私たちのグループに参加しました。
 
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菜央 映画の中でも感動する場面でした。

ターニャさん 住民投票は勝つか負けるか、誰も想像できませんでした。もし勝ったとしても、配電網をしっかり運営できるのか、人々は恐れも感じていました。ドイツ全土の人がシェーナウに注目していました。

菜央 大きなプレッシャーですね。

ターニャさん 2回目の住民投票に勝ったあとはKWRから配電網を購入する必要がありましたが、購入費は当時の日本円で5億円以上と莫大でした。そんなお金をどうやって集めればいいのか。でも、これができなければこれからもできないと、市民は思いました。

マーケティング会社にも相談し、大々的な寄付のキャンペーンを行いました。脱原発運動に関わる人々含め、ドイツ全土、さらにはヨーロッパ中の本当に多くの人がシェーナウの考えを支持してくれ、なんと、数週間のうちに購入資金を集めることができたんです。

菜央 すごいなぁ。まさにPeople’s Powerですね!

ターニャさん 本当に市民の力を感じたときでした。

一歩一歩進むこととムーブメントの楽しさ

菜央 シェーナウ電力は、「原発のない社会」という哲学を掲げるだけではなく、現実的な挑戦を行ってきているのがすごいと思います。戦い続けてこられた秘訣はなんでしょうか?

ターニャさん シェーナウ電力創立者の1人のスラーデク夫人はよく言います、もしシェーナウ電力の取り組みがすばらしい物語になると最初から分かっていたら、私は取り組み始めなかっただろうと。彼女はいつも、「一歩一歩進もう」と言います。ビジョンを持って、でも次のステップだけを見る、そして次のステップを確かなものにする、それが私たちのやり方です。

菜央 うーん、なるほど。けれど、一歩一歩進みながらも、市民をムーブメントに呼び込むことも大事ですよね。

ターニャさん そうですね。でも人は、なにやら楽しいこと、いい気持ちがするようなことには自然と集まりますよね。

価格や技術を論じるだけではなく、すべての環境運動は、楽しい気持ちを呼び覚まし、人々を惹きつけることが大事だと思います。
 
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菜央 よく分かります。ポジティブなメッセージも大事ですよね。

ターニャさん そうですね。シェーナウのグループは、最初は「原子力に反対する親の会」という名前を使っていましたが、途中で「原子力のない未来のための親の会」に変えました。反対するだけではなく、新しい生活の方法に賛成するというメッセージにしたんです。
 
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会社の正面玄関には、シェーナウ電力が主催する原発の勉強会とコメディーショーのポスターが並んで掲示。”バランス”も大事とのこと!

菜央 NO、NO、NOと言っているよりもいいですよね。ふつうの市民だけではなく専門家も巻き込んだこともカギだったと思いますが、どうでしょうか?

ターニャさん それはありますね。でも大学の先生や学生たちだけではなく、ふつうの農民など広い範囲の市民が集まりました。すべての人が必要だったと思います。シェーナウは古くからの教会の町で、人々を集める基盤もありました。

町を見下ろす教会の屋根全面に、太陽光パネルが設置されているのはご覧になりました? 教会の屋根への設置は本来禁止されていましたが、牧師は実行しました(笑)。自分の行動が人々を助けるのならやろうと、彼は決意したんです。
再エネ法導入後、突然教会は太陽光から収入を得て、パイプオルガンも設置されました。
 
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屋根一面に太陽光パネルが設置された、町のシンボルの教会。住宅の屋根にもあちこちに太陽光パネルが載っていた

菜央 ああ、それはきっと、すばらしい音色なんでしょうね。

ターニャさん 多くの市民が教会を訪れ、これは太陽からの贈り物だと言いました。彼のようなキーパーソン、前に進もうとする人も必要だと思います。

市民がエネルギーのつくり手になる

菜央 今は、シェーナウ電力の活動に、市民はどんな形で参加しているんでしょうか?

ターニャさん 私たちは、すべての顧客が自然エネルギーのつくり手になることを応援しています。

顧客は私たちの「Sun Cents」プログラムを使って、住宅の屋根に太陽光パネルを設置する、仲間と共同で幼稚園や学校に熱電併給(コジェネ)プラントを設置するといったことができます。プログラムの費用は顧客の電気代の一部が原資です。設備を導入した人は、政府の20年間の買取価格に加えて、約5年の間、私たちからも支援金を受け取ることができます。
 
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黒い森地域にシェーナウ電力の顧客が設置した、太陽光発電と風力発電

菜央 プログラムのために、シェーナウ電力の顧客は費用を支払っているんですか?

ターニャさん そう、これは連帯的なプログラムなんです。顧客が支払う電気の基本料金のうち、0.5〜2.0ユーロセントがSun Centsに使われます。約1割の顧客は、さらに任意で払おうと言ってくれています。

太陽光発電、熱電併給、水力発電など、Sun Centsプログラムによって、これまでに2,800以上もの発電所がドイツ中に誕生しています。その1つ1つは市民所有の小さな規模のものですが、合わせると23MWにものぼっています。

菜央 なるほど、それはすごくいい仕組みですね。
 
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配電網を“民主化”する

ターニャさん 地方自治体が配電網を買い戻すことも支援しています。1970〜1980年代には多くの自治体が配電網を運営する権利を持っていましたが、1998年の電力市場の自由化でほとんどが私企業に渡りました。

現在、多くの自治体が配電網を買い戻そうとしているのですが、配電網の運営は決まったリターンが入るいいビジネスなため、難しい状況です。

菜央 そんなに配電網の運営は重要なんでしょうか?

ターニャさん はい、将来的に100%自然エネルギーを電力網に送り込みたいのなら。私たちは電力取引所からは電気を買いたくありません。取引所では原発や化石燃料でつくられた電気もミックスされます。確実に自然エネルギーでつくられた電気を使いたいんです。

シェーナウ電力が供給する電気のほとんどは、現在はノルウェーの水力発電所から直接買っているものですが、国内の地域の生産者からもっと電気を購入したいと考えています。

そのためのコンセプトが「直接市場モデル」です。例えば自分の住む地域に風力発電が建てられるとき、株式の一部を所有して風車のオーナーになれる可能性があるべきだし、さらにその風車から直接電気を買いたいですよね?
 
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菜央 技術的には可能なんでしょうか?

ターニャさん 物理的にはできますが、小規模の自然エネルギーの発電所でつくられた電気を受け入れるために、電力網を変革する必要があります。その時に、地方自治体や市民協同組合は配電網を運営する強みを持っています。古い独占企業は、電力料金をもらえばそれで満足ですよね。

Sun Centsプログラムを使って、シェーナウ電力が配電している以外の地域に住むシェーナウ電力の顧客グループが、地域の自然エネルギー供給のための配電網を構築するのを支援したいとも考えています。

菜央 地域の市民が自然エネルギーをつくることを支援し、それから彼らから購入しようとしているんですね。うーん、日本よりかなり先に行ってるなぁ。

ターニャさん ひとつひとつの発電設備からたくさんの量を購入できないので難しさもあります。でも、すべての人が自然エネルギーでつくった電気を電力網に接続できるように、私たちは地域内で配電網をつなげたいんです。大きな挑戦です。この直接市場モデルがどうなるか、私たちは政府の決定を待っています。

菜央 現在進行形ということですか?

ターニャさん そうです。ドイツ政府や規制機関はまだ電力の独占市場構造を維持したいようです。地方自治体の配電網の運営権を明らかにするために、私たちは必要ならば最高裁で戦うつもりです。市場の独占には、シェーナウ電力は今も怒っているんです。

菜央 ワオ! 配電網も、ある意味民主化される必要があるんですね。私たちはまだまだスタート地点にいますが、日本でも配電網を設計するときに考えるべきポイントですね。
 
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ターニャさん 技術を変えるとき、構造も変えなければいけません。古い構造では新しい技術は働きません。

菜央 映画のその後の挑戦ですね。いやはや、すごい挑戦をしていますね!

ターニャさん 自治体が配電網の権利を買い戻すときには、市民の協同組合と協働することを奨励しています。市民はよい政治の共同体です。そしてエネルギーヴェンデは、カルチャーの変化の問題です。人々の考え方、生き方の問題です。

菜央 本当に、そのとおりです。
 
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顧客からの問い合わせにスタッフが電話対応している部屋

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ターニャさんいわく”ふつうのオフィス”では約100人のスタッフが働いています

ビジョンに取り組む過程を大切に

菜央 最後に、日本で自然エネルギー協同組合や会社を始めようとしている人たちに向けたメッセージをお願いします。

ターニャさん すべての人が、自分自身が正しいと思うことをするのが大切だと思います。楽しい気持ちで活動し、いい取り組みに賛成し合い、すべてのステップを祝いましょう。ビジョンに到達するだけではなく、アプローチしているとき、それは成功と言えると思います。
 
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菜央 人々の力を信じて、つなげて、活かして、新しい世界を切り開いていることに、うーん、本当に感動しました。日本の未来がこうなったらいいなと心底思いました。日本各地でもエネルギーの協同組合ができてきていますが、将来、シェーナウ電力と手を取り合って、何か一緒にできるかもしれませんね。

ターニャさん それは素敵ですね!
 

(対談ここまで)

 
とてもエネルギッシュなターニャさんさんの話ぶりにも現れているように、シェーナウ電力会社は、まだまだダイナミックに挑戦を続けていました。

ふつうの母親たち、ふつうの市民が、さまざま壁にぶつかりながらも一歩一歩歩んできた道は、今では太く大きな道になり、ほかの地域・国の市民をも導いています。

実現したい未来のビジョンを強く持ちながらも、目の前の一歩に取り組み、それを確実なものにする。楽しく、ポジティブなメッセージでというシェーナウの市民のやり方。

日本に住む私たちも、ますます、仲間と、地域で、できそうな気がしてきませんか!?

(Text: 氏家芙由子)