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「食べる」を国や宗教の違いを超えるきっかけに。食材をピクトグラムで見える化し、誰もが安心できる食卓をつくる「インターナショクナル」菊池信孝さん

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特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。こちらの記事は、会員サイト「マイ大阪ガス」内の支援金チャレンジ企画「Social Design+」との連動記事です。

未知なるものとの出会いはワクワクするもの。しかし、その一方で「わからなさ」には不安をも伴います。たとえば、食べ物。アレルギーや宗教上の理由で食べられないものがある人なら、どんなにおいしそうに見える料理でも、使われている食材を把握せずに口に運ぶことができません。

もし言葉が通じず、アレルギーや食に対する価値観を理解してもらうこともできなければ、食べるに食べられずに途方に暮れてしまうことでしょう。

以前、greenz.jpでご紹介したNPO法人「インターナショクナル」の菊池信孝さんは、学生時代にサウジアラビアから来た留学生が、日本での食事に苦労する姿を目の当たりにしました。

この経験をきっかけにして、宗教・体質・信条の異なる人たちが、言葉の壁を越えて安心して食事を楽しめるように、食材のピクトグラム「フードピクト」を開発。2010年には、横浜で開催されたAPEC JAPAN(アジア太平洋経済協力会議)で採用されるなど高い評価を受けています。

前回の取材から約3年が経つ今、「インターナショクナル」はフードピクトで得た経験をもとに、次のステージに向けて準備を進めています。菊池さんは今、何をしようとしているのか。改めてお話を伺ってみましょう。
 
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菊池信孝(きくち・のぶたか)
1986年大阪うまれ。米国同時多発テロを契機に世界平和に関心を抱き、2005年に大阪外国語大学に進学。さまざまな留学生との食事体験から、宗教上の食戒律やベジタリアン、アレルギーがある人々への理解と対応不足を実感し、インターナショクナルを設立。世界1,500名の協力を得てピクトグラムによる食材表示ツールを開発。広告代理店での勤務を経て、代表理事に就任。専門はコミュニケーションデザイン。

世界最大公約数のことば“ピクトグラム”

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2014年、札幌市で開催した北海道のホテル各社を対象にした研修にて。

トイレ、非常口、禁煙、車椅子。主に、空港や駅などの公共空間において、図で意味を伝達する視覚記号・ピクトグラム。言葉のわからない国や慣れない場所で、ピクトグラムに助けられた経験は誰にも一度はあると思います。

実は、ピクトグラムの歴史において、日本は重要な役割を担ってきました。1964年の東京オリンピック開催時に、外国人と日本人の意思疎通のために競技種目を表す体系的なピクトグラムを世界で初めて開発したのです。その系譜を継ぐかのように、インターナショクナルが開発したのが食材を表す「フードピクト」でした。

2006年、まだ学生だった菊池さんは仲間とともにデザインを考案。さらに、2009年にはISO(国際標準化機構)のピクトグラム制作規則を参考にしながら、世界1500名への理解度、視認性、必要品目に関する国際調査を実施してブラッシュアップしました。14種類の表示品目は、アレルギー、ベジタリアン、宗教による食戒律の8割以上に対応できるよう設計されています。

3年前は、数百店だった利用店舗数も、ホテルグループなどを中心に1300店(2015年3月末)にまで広がりました。
 
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災害時避難所コミュニケーションカード「COMUMUNICA(コミュニカ)」(開発中)

そして現在は、フードピクト制作で得たノウハウを用いて、災害時避難所コミュニケーションカード「COMUMUNICA(コミュニカ)」を開発中です。「COMMUNICA」には、避難所運営に必要なピクトグラムと多言語情報を収録する予定。目標は、「2016年にパッケージ化し、全国9万カ所の避難所で整備してもらうこと」だそう。現在、Webサイトで寄付も受け付けています。

多くの文化があるからこそ学べることがある

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体験型プログラムでは、チーム対抗で世界各国の食品パッケージを使ったゲームに挑戦。最後は、みんなで試食もします。

国籍、宗教、言語、年齢の違いを越えて、誰にでもわかるフードピクトをつくった経験から、インターナショクナルにはダイバーシティ教育に関する講演・研修のリクエストも舞い込みます。当初は、各国の食品パッケージを使った体験型プログラムを中心に提供していましたが、昨年は新しく“まちあるき”のフィールドワーク「The JAPAN Quest!」もスタートしました。
 
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フィールドワーク「The JAPAN Quest!」では外国の人たちと一緒にまちあるきをします。

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そして、フィールドワークで見つけたことをマッピングして地図に落としこんでいきます。

「The JAPAN Quest!」は、インバウンド(訪日外国人旅行)を意識したもの。国内に滞在する外国人と一緒にまちあるきをして、外からの視点を組み込んで地域の魅力を再発見していきます。

いわゆるインバウンド向けの観光ガイドはたくさんありますが、地元側の視点で伝えるまちの魅力と、外国人が感じるまちの魅力は意外と違っていることも多くて。外国人ゲストと地域住民が一緒にまちを歩けば、あたらしい発見があるのでとても面白いです。

「多文化共生」というとなんだか堅苦しいようですが、基本はとてもシンプルです。お互いに持っている視点を交換し、理解しあい、そして尊重しあうこと。友だち同士なら誰もがそうしているように、より多くの人に対して心を開くことから始まるのです。

NPO代表理事、“お父さんの育休”をとる!

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インターナショクナルを応援したい人のための、マンスリーサポーター制度とプロジェクト支援募集ページ。ウェブサイトも、2015年に全面リニューアルしました。

もうひとつ、この3年間の大きな変化といえば、菊池さんがお父さんになることをきっかけに、約1年半の間“育休”をしたこと。企業に勤める人でも、特にお父さんの場合は、育休はまだまだ一般的ではありません。そのうえ、NPOの代表理事といえばフリーランスのようなもの。かなり大きなチャレンジだったと思うのですが、「あまり不安ではなかった」と菊池さんは言います。

育休は、創業して以来走り続けてきた菊池さんにとって、いったんクールダウンして自分自身とインターナショクナルの事業を見つめなおす時間にもなったようです。

僕は、創業者として前面に出るスター的なリーダーというキャラではないなと気づき始めてもいました。どちらかというと、フードピクトは広がってほしいけれど、僕のことは誰も知らなくていい。職人的なところがあるのかもしれません。

また、フードピクトで使われている食材を表示するとかえって「食べられなくなる」という負の側面がちらちらと見え始めてもいて。今は、フードピクト表示と同時に対応メニューを考えてくださるシェフの方が増えましたが、当時はただ表示するだけに留まっていたんです。

育休中は、「フードピクトのライセンス使用について問い合わせがあったときだけ対応していた」という菊池さん。ゆっくりと、自分らしく事業を育てていくスタンスを見直し、そして「フードピクトを必要とする人がいる」ことを再確認していたようです。

育休に入ったときに、創業時の「やるぞー!」みたいな熱はいったん下がってしまったのですが、その一方で「フードピクトはけっこう役に立っている」という実感もありました。

昨年、フードピクトの利用店舗にアンケートをとると98%の飲食店が「フードピクトを導入した効果がある」と回答してくださったんです。「説明がしやすい」「外国人のお客さんにも視覚的に伝えられるのでコミュニケーションがしやすくなった」とか。

フードピクトを必要とする当事者、彼らのために導入してくれた利用店舗の人たち、みんなが喜んでくれていたというのは大きかったです。

「役立っている」という手応えに力を得ながら、菊池さんは少しずつ現場に復帰していきました。ただ、菊池さんと同時に共同設立者であり副代表理事の白川和子さんも育休に入っていたため、インターナショクナルの売上はガクンと落ち込んでしまいます。それだけでなく、売上の減少は次年度の助成金申請にも大きく影響しました。

NPOとしてはふたり同時に育休に入るのは致命的で。育休後の社会的信用のなさといったらありませんでした。

まず、助成金申請が通らないんです。「なぜ、売上が落ちたのですか?」と問われたとき、「育休していました」は理由にならないんです。復帰一年目の助成金はゼロ。けっこう厳しかったですね。

インターナショクナルの収入の内訳は、フードピクトのライセンス使用料やダイバーシティ教育などの事業収入が7割、助成金、寄付金、会費が各1割ずつ。復帰時には、事業収入が多いことが強みになりましたが、事業環境の急激な変化が起きたときにリスクを抱える可能性もあります。

そこで、復帰後は経営体制も見直し。フードピクトのライセンス販売、ダイバーシティ教育のプログラムを増やすのと併行して、経営の土台となるマンスリーサポーター制度をつくることにしました。今後は、マンスリーサポーターや寄付を増やしつつ、収益のバランスを調えることを目指しているそうです。

課題が明確だから協力する人が集まってくる

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昨年、新たに理事に加わった押谷さんと。

インターナショクナルの経営のあり方や今後の事業方針は、理事会での話し合いで決められています。現在、インターナショクナルの理事は菊池さん、白川さんを含めて6名。

総務大臣補佐官の太田直樹さん、博報堂MD戦略センター クリエイティブ戦略企画室 室長の藤井久さん、ベネッセコーポレーション中学生商品開発部 部長の山本新さん、そして昨年には新たに加わった元・ワールドマーケティングディレクターの押谷衣里子さんと、錚々たる顔ぶれです。

2010年に第一回社会イノベーター公志園に参加して全国大会に進んだとき、5か月間に渡ってメンタリング・コーチングを受けました。太田さん、藤井さん、山本さんは、そのときの伴走者(メンター)だった方たちで、後に理事に参加してくださいました。

菊池さんはよく、「人の話はちゃんと聴いているけれど、実行に移すかどうかについては頑固」だと言われるそう。自分のペースで、やるべきだと思うことに集中する“職人気質”なところもある菊池さんを、理事のみなさんは時に厳しく、しかし温かく応援してくださっているようです。

リスクもないけれど、特にメリットがあるわけでもない。それでも、理事になってくださっているのは、食から多文化共生、ダイバーシティをつくっていくという理念に共感していただいているということがベースにありますから。

もうひとつは、課題が明確なので、みなさんが持つ経験・知識やノウハウを投入しがいがあるからだと思います。

2015年度末のデータでは、日本国内でアレルギーがある人は298万人、宗教上の食の戒律がある人やベジタリアンは121万人いて、「前年比で13%増えている」そう(*)。人口比で言うと、3.3%の人が食に制限を持っていることになり「当時はニッチだった課題も各地で顕在化するようになっている」と菊池さん。

(*法務省「在留外国人統計」(2015年6月末)、日本政府観光局「訪日外客数」(2016年1月19日 報道資料)、外務省「国・地域別 基礎データ」(2015年12月末)等からの推計)

2020年の東京オリンピックの開催に向けて、ダイバーシティは時代のキーワードとして注目されています。さまざまな国からの訪日客を迎えるにあたって、フードピクトの需要も高まることが予想されますが、インターナショクナルはどんなビジョンを思い描いているのでしょうか。

静かに、じわじわ。理解が進むような活動をしたい

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「オリンピックは、すごい数の人が訪日するでしょうからいい機会だと思っています」と言う菊池さん。ただ、食の分野だけを見ても、日本ではまだまだ多様性への理解は低いことを感じているそうです。

たった一度だけでも、一緒にごはんを食べて友だちになれば、その人の国で紛争や災害が起きたら気になると思うんです。

それと同じような感覚で、宗教上の食戒律を守る友人とごはんを食べたら「本人たちは自ら決めたことを実践しているだけなんだ」ということがわかると思います。食事を通して、いろんな価値観や考え方があることを知る機会は、どんどん増やしていきたいですね。

今、インターナショクナルは大きく3つの目標を掲げています。ひとつめの目標は、2020年のオリンピック開催時には、利用店舗をコンビニの店舗数とほぼ同数の5万店舗まで広げること。コンビニと同じくらいフードピクトを表示する飲食店があれば、食事に困らない環境ができるだろうと考えるからです。

ふたつめの目標は、食品パッケージの容器包装にスマートフォンをかざすと、画像認識で知りたい情報を入手できるアプリを開発すること。アレルギー、成人病などの人が食材を買い物するときに、気になる項目をチェックできる機能を搭載することを考えています。そして、みっつめは、すでに述べた災害時避難所コミュニケーションカード「COMUMUNICA」の開発です。

これらの目標を掲げつつも、菊池さんは「あくまで、静かにじわじわ行きたい」と話します。「静かにじわじわ」。どんな感じのことでしょうか?

大上段に構えられると「アツいなあ!」と引かれるか、まったく響かないかどちらかだと思うんです。そうではなく、気がついたら身の回りにフードピクトがあるとか、勉強だと思わずに参加したら多文化共生やダイバーシティ啓発の面白いプログラムだったとか。ゆるやかに、静かに浸食していくような活動をしたいんです。

フードピクトに関しても、まったく関心のないお店に「使ってください!」とアツい新規営業に行くのではなく、「すでに関心を持ち、使いたいと思っている人たちを取りこぼさないようにていねいに」を心がけるようにしているそうです。

強い信念を持ち、明確な課題と解決方法を提示しながらも、伝え方はあくまでさりげなく静かに。菊池さんとお話をしていると、なんだかこちらもほんわかした気持ちになってきました。

きちんと理屈は立てるけれども、尖らせずにふわっといく。尖らせると好き嫌いがでちゃいますからね。

国や文化の違いを目の前にしたとき、私たちは他でもない私たち自身の心のなかに、いくつもの“バリア”をつくります。おそらく、バリアによって自分たち自身を守る必要があると感じてしまうがゆえに。だからこそ、そこに触れるときには慎重になるべきなのだと思います。

「なぜ、そのバリアを解除しなければいけないのか」を考える時は理屈でいいけれど、たとえ正論であっても「バリアを解除しなさい!」と相手に強いることはできません。菊池さんはなにげなく口にしていましたが、「尖らせずにふわっといく」という言葉からは、10年間に渡るインターナショクナルの活動の重みを感じずにはいられませんでした。

「ダイバーシティを受け入れよう!」と構えなくてもいい。ただ、ちょっとだけ相手をよく知ろうとする時間を持つだけで、「みんなが気持ちよく共生する」状態に一歩近づくことができるはず。私たちの足元からじわじわと静かに、だけど確かな足取りで。ダイバーシティのある未来へ歩きはじめてみませんか?

– INFORMATION –

Social Design+でインターナショクナルを応援しよう
インターナショクナルでは、フードピクトを広め、アレルギー食品の基本的な知識や対応法を学ぶためのイベントを開催を企画しています。このイベントは、飲食店関係者だけでなく、子どものアレルギーに悩んでいるお母さんなど、どなたでも参加できるかたちで開催する予定。このイベントを実現するために、現在「マイ大阪ガス」の「ソーシャルデザイン+」にチャレンジしています。ぜひ応援してください!
https://services.osakagas.co.jp/portalc/contents-2/pc/social/social13.html