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違反者には300ドルの罰金が科されます。世界屈指のIT都市、サンフランシスコの公園に突然設置された「テクノロジー禁止」標識

突然ですが、みなさんが近所の公園を歩いていて、次のような標識に出会ったらどうしますか?

NO TECH-ZONE. NO CELL PHONES, TABLETS, LAPTOPS, OR SMART DEVICES PERMITTED. VIOLATORS SUBJECT TO $300 FINE
(テクノロジー禁止エリア。携帯電話、タブレット、ラップトップなどのスマートデバイスの使用は認められていません。違反者には300ドルの罰金が科されます)

みなさんは、公園にいるときくらいデバイスから離れるのも大切だな…と納得してカバンにしまうでしょうか? それとも「そんなの人の自由にさせてくれよ」とムッとするでしょうか?

この、なんとも不思議な「No Tech Zone」標識。実際にサンフランシスコの公園に設置されたものなんです! 制作したのは、サンフランシスコ在住のアーティストIvan Cash(以下、アイヴァン)さん。

アイヴァンさんは、自分にとって「忙しい社会からの避難場所」である公園で、だれもがスマートフォンを片手に過ごしていることを興味深く感じ、プロジェクトを始めたのだそう。「No Tech Zone」標識を設置した目的を次のように語っています。

わたしたちの生活や環境において、「テクノロジーが担う役割は何なのか」と思いを馳せてみてほしいんです。この標識をみることで、テクノロジーについてしっかりと考えを深めてくれることを願っています。

正体を明かさずにゲリラ的に発表する

当初アイヴァンさんは、自身の正体を明かさずに標識を設置していました。するとほとんどの人は「IT企業に反発している人たちによる抗議行動だろう」と考えていたのだとか。

というのも数年前から、サンフランシスコではIT企業に対するデモなどが発生してきたからです。ご存知の通り、サンフランシスコはここ数年で、多くのIT系スタートアップ企業が軒を連ねるテクノロジーの発信地へ変身を遂げました。

先進気鋭のIT系企業で働く人々がどっと押し寄せると、地価や生活水準はめまぐるしいスピードで上昇。街のいたるところに無線LANが張りめぐらされ、サンフランシスコはアメリカ屈指のTech-savvy(テクノロジーに精通した)街となっています。
 

サンフランシスコの公園をふくむ公共スペースに設置された無料wifiスポットの一覧

ただしテクノロジー業界が成長する一方で、もともとサンフランシスコに住んでいた人びとが、経済的な理由で住居を手放さなければならなくなるケースも増加。格差への不満はテクノロジー企業への反感に変わり、2013年ごろにはシリコンバレーに向かうIT企業の通勤バスへの妨害行為も発生しました。

こういった背景を考えると、アンチIT企業を主張するアート作品だと感じる人がたくさんいたのもうなずける気がします。
 
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通勤バスの前で抗議する人たち。プラカードには「公的インフラの不正利用だ」の文字が。

しかし、アイヴァンさんが目指したのはアンチIT企業的な主張をすることではなく、あくまで「人間がどのようにテクノロジーと付き合っていくのか」という問いを投げかけること。

わたしたちの生活のなかにテクノロジーを取り入れる上で、どのようにバランスをとればよいのかなどについて、議論を深めていきたい。

と話しています。
 

アイヴァンさん

実際にこの標識を見た人びとからは、賛否両論さまざまな意見が飛び交いました。「デバイスと距離を置くのも大切だよね」という声、風刺の効いたアート作品として評価する声もあれば、「人が公園で何をしようが自由じゃないか!」と主張する人も。

The Guardianのインタビューで、サンフランシスコに住むウェブ・ディベロッパーが次のような指摘をしています。

わたしたちは、テクノロジーの発達した街を誇りに思うべきなんです。

他人に対して「デバイスを脇に置いて、わたしたちが見せたい世界を見ろ」というのは、「テクノロジー企業がサンフランシスコを乗っ取ろうとしている」というような議論とさして変わりません。

ちょっと本を読んだりなにかを観たりして休憩したい。そういう目的でスマートフォンを使うことだってありますよね?

あらゆるものがインターネットに接続され、公園や駅などの公共スペースでWi-Fi環境が次々と整備されていく時代。テクノロジーは、これからもっと多様な形でわたしたちの社会に浸透していくはずです。

そうなったときに、テクノロジーについて意見も考え方もバラバラなわたしたちは、どのように公共の場でのルールをつくっていけばいいのでしょうか。そもそも、テクノロジーを公共の場で使うことのルールを設ける必要はあるのでしょうか?

誰もが心地よく過ごせる場をつくるためにも、こういった議論をしっかりと進めていくことが大事なのかもしれません。

[via The Guardian,Newsweek,CityLab,Co.Exist]

(Text: 向晴香)