みなさんは「ガレージ」と聞くと、なにを思い浮かべますか? 多くのかたは車を格納する車庫のことを思い浮かべるかもしれません。
ガレージといえばまた、1970年代のアメリカではじまった不要になったものを個人販売する「ガレージセール」の舞台、モノを大切にしようというリサイクル運動のはじまりを象徴する場所でもあります。
そして2016年東京。代々木公園にほど近い閑静な住宅街の一角にある小さなガレージが話題になっています。そこに並ぶのは色とりどりの野菜や果物、お菓子や調味料。お店の名前は「坂ノ途中soil(ソイル)ヨヨギgarage(ガレージ)」、運営しているのは”未来からの前借り、やめましょう”と、興味津々なメッセージをかかげる野菜提案企業「坂ノ途中」です。
未来から前借りをしない、100年先も続く農業って?
「坂ノ途中」は、農薬や化学肥料に頼らない農業を志す新規就農者や若手農家と提携し、農産物の販売をおこなっています。2009年7月の設立後、2011年京都に直営店をオープン、今回ご紹介する「坂ノ途中soil ヨヨギ garage」は2店舗目、関東への出店になります。
彼らの取り組みについては2013年5月にもgreenz.jpでご紹介したのですが、お読みになっていない方のためにも、ここで売られている野菜はどういったものなのかちょっとお話ししておきましょう。
ガレージからはじまる「やさい⇆くらし」ってなんだろう?
農薬や化学肥料に依存した農業は、比較的コストを抑えながら安定した収穫量を期待することができます。その一方で、土はやせていき、水は汚れ、いずれその土地では農業をおこなうことができなくなる可能性もはらんでいます。そこから得られるはずだった「未来」の収穫を、「今」楽をするためにうばっているとも考えられるのです。
坂ノ途中はこれを「未来からの前借り」とよんでいます。この前借りをやめ、健康な土を残していくには、環境負荷の小さな土づくりを主体とする生産者が増えていかなければなりません。
しかしそれは決して平たんな道のりではなく、そうした農業を志すひとの多くは、そのきびしさから就農をあきらめてしまったり、就農しても長く続けていくことができずやめてしまうのが現状です。収穫量が少なく不安定になりがちな新規就農者・若手農家は、流通や飲食店から「つき合いにくい相手」とみられてしまい、販路を確立することがむずかしいからです。
熱心に勉強し、試行錯誤を繰り返し、土づくりからていねいに取り組んでいる彼・彼女らの野菜を、たとえ収穫量が不安定でも販売していけるしくみをつくろう、持続可能な農業を営む農家さんを増やしていこう、それが坂ノ途中の事業に込められた想いです。
スーパーに並んでいるのとはちがってどこか不格好な果物たち
100年先も続く農業を暮らしのなかへ
そんな坂ノ途中が、2015年3月、東京・代々木にオープンさせたのが、冒頭でご紹介した「坂ノ途中soil ヨヨギ garage」です。
テーマは「やさい⇄暮らし」。いっぷう変わったこのテーマは、おいしい野菜をつくるひととおいしい野菜がほしいひとをつなぐ場所でありたい、都会的な暮らしのなかにあっても、環境負荷の少ない、だけど窮屈でなく温かみのある毎日を提案する場所をつくりたい、そうした想いから生まれました。
お店に足をふみいれると、旬の野菜、ふだんはお目にかかれないめずらしい野菜、厳選された調味料、お菓子、加工食品が、所せましと並んでいてとてもにぎやか。何より圧倒されるのが野菜の存在感です。ふかふかの土でていねいにつくられた野菜ですから堂々としているんです。
扱う商品は野菜をはじめ加工品や調味料まで。お気に入りの品を見つけるときはまるで宝探しの気分
それがどんな野菜か、つくっているのはどんな農家さんか、「ついしゃべりすぎてしまうんです。すこしうるさいくらいかな」と語るのは、店を切り盛りするスタッフの倉田さんと原田さん。
お店を訪れるお客さんはご近所の方が多いのですが、最近ではうわさを聞きつけて遠方から訪ねてくるかたも。あそこなら安心と、近所のお子さんの「はじめてのおつかい」にひと役かうこともあるのだそう。
ヨガレッスンや公園の散歩帰りにふらっと立ち寄る若い女性たちは、気に入った野菜を2~3個買って週末のこだわりクッキングを楽しんでいます。なんでも1個から買うことができるので、一人ぐらしでもとっても経済的。
なんでも一つから購入可能。味わうときもゆっくりていねいに
焼くだけ、蒸すだけ、シンプルな調理法でOK!
提携農家さんの野菜は、ていねいに育てられたものばかり。味がしっかりしているのでシンプルな調理法でもとってもおいしいんです。だから余分な調味料もいりません。
原田さん 「お料理は苦手」「忙しいから無理」という方こそ、チャレンジしやすいと思います。
お店では常時、店長・原田さんが考えた旬野菜かんたんレシピが紹介されています。たとえば「トマトと枝豆の生姜ごはん」。
原田さん 生姜とトマトって、実はとっても相性がいいんですよ。
なかなか思いつかない組み合わせですよね。私たちが知らなかった野菜の魅力はまだまだたくさん。それをこんなに手軽に生活にとり入れることができるなんて! ほかでは味わえない楽しい体験です。
定期宅配の方用のニュースレターには、レシピはもちろん旬な話題がもりだくさん
最近では、ご近所のお店へ出張販売にでかけるようにもなりました。少しずつですが常連さんもできてきて、その方たちがまたヨヨギの店舗まで足を運んでくれる…という良い循環が生まれています。「食」を通じた地域のかたとのつながりが広がっているのです。
毎週金曜日の午前中は、三軒茶屋の「カフエ マメヒコ」店頭で出張販売。ここではまた「ふたつの野菜会」というイベントが毎月開催されています
ただ伝えたいのは、つくり手の想いと野菜の美味しさ
つながりといえば、倉田さん、原田さんと「坂ノ途中」との出会いも「つながり」から。大学で機織(はたお)り職人の研究をしていたという倉田さんは、こう語ってくれました。
倉田さん ものづくりに関わりたいと、メーカーの資材部へ就職したんです。担当した取引先は中小企業が多く、そこでは職人さんのものづくりへの想いや誇りが息づいていました。
ですが完成した製品として販売される段階になると、その想いが顧みられることはほとんどありませんでした。それってすごく寂しいなって。ものに込められた想いやストーリーを伝えたい、そう考えはじめたのが転職のきっかけです。
代表の小野は大学時代の先輩で、坂ノ途中のメッセージには以前から共感していました。小野と話すうち、自分も丁寧に育てられた野菜たちを大切に届ける仕事をしたいと思うようになり、坂ノ途中に入社することになりました。
いっぽう、家庭料理が大好き、大学では栄養学を専攻していたという原田さん。高校時代に旅行で訪れた山形の在来野菜の美味しさが忘れられず、大学卒業後山形に渡りその土地の野菜について学んだのだそう。そして、とれたて野菜や果物のおいしさ、農業の魅力をアピールしたいと、農業生産法人で六次産業化に関わる仕事をしていたことも。
原田さん 自分はどういうスタンスで野菜や農業に関わっていきたいのだろう。そう考えていたタイミングで、坂ノ途中のことを知りました。「有機農業至上主義!」みたいになることなく、間口の広さを大切にしながら環境への負担を下げていこうという姿勢に共感したんです。
野菜が持つバリエーション豊かな味を知りたい、伝えたい、毎日の食をおいしく楽しく豊かにすることに関わりたい、おいしい野菜を届けるにはどうしたらいいのか、そう考えていたとき小野に出会い、入社することになったんです
まったく異なるバックグラウンドを持つおふたりですが、共通しているのは、“野菜が大好き”だということ。店頭にならぶ野菜についてたずねると、どんな野菜か、旬はいつか、産地はどこか、どんな料理方法があるか、どんな農家さんがつくっているのか、楽しそうに答えてくれます。
写真左:倉田さん、右:原田さん
坂ノ途中soil ヨヨギ garageのテーマ「やさい⇄暮らし」について、おふたりはこう話します。
ていねいにつくられた野菜をはじめ、じっくりとつくられた調味料や、ひとのぬくもりを感じられる手仕事にふれてもらいたい。こういう暮らしもいいな、そんな風にお客さんに思っていただけたらうれしいです。お買い物をする時のものさしに、「環境負荷の大小」を入れてもらえたら。
みなさんの毎日に、ていねいにつくられた野菜をプラスしてみませんか。「坂ノ途中」と二人三脚でなら「めんどう」が「楽しい」に変わっていくことに気づきます。
さて次の日曜日は足をのばして代々木のガレージへ。そこから、100年先も続く農業と私たちのほしい未来がはじまることになるかもしれません。
– INFORMATION –
坂ノ途中soil ヨヨギ garage
営業時間 : 10:00-19:00
定休日:毎週月曜日・年末年始やお盆など
アクセス:〒151-0053 東京都渋谷区代々木5-39-5 [map]
TEL:03-6322-2338
http://www.on-the-slope.com