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築60年の木造アパートが、カフェやギャラリーのある“日常的”アート空間に。東京・谷中の最小文化複合施設「HAGISO」ができるまで

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みなさんは「アート」と聞くと、どんなイメージを持つでしょうか?

アートに触れる機会といえば、多くの場合、美術館やギャラリー、あるいは最近まちぐるみで行われている芸術祭などが思い浮かぶのではないでしょうか。日本ではアートは非日常的な楽しみ、という位置付けにあると言えるでしょう。

東京・谷中にある最小文化複合施設「HAGISO(ハギソウ)」は、そんなアートを日常生活の中で気軽に楽しんでほしいとオープンした施設。現在、建物の1階にはカフェやギャラリー、美容院などが入っていて、まちの人たちの憩いの場となっています。

そんなHAGISOを運営する宮崎晃吉さんに、設立までのストーリーやHAGISOという空間が持つ可能性について伺いました。

「HAGISO」とは?

木造アパート「萩荘」が建てられたのは終戦後の1955年。しばらく空き家状態でしたが、2004年の春から、宮崎さんら東京藝術大学の学生たちが中心となって改修しながら暮らしていました。
 
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改修前の木造アパート「萩荘」

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現在の「HAGISO」

現在では最小文化複合施設「HAGISO」として、カフェ、ギャラリー、レンタルスペース、美容院、アトリエ、設計事務所が入り、多くの人が出入りし、にぎわっています。

1階の入口を入ると、2階へつづく階段と、現在ギャラリーで開催されている展示のフライヤーがお出迎え。
 
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扉を空けると、左側は木のインテリアが落ち着いた雰囲気を醸し出す「HAGI CAFE」、右側にはさまざまな企画展示が行われているギャラリースペースがあります。
 
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HAGI CAFE。開店と同時に多くのお客さんでにぎわっていた

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カフェはターゲット層を絞るのではなく、「HAGISO」という空間にふさわしいメニューづくり、店づくりを行っているそう

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HAGI CAFEのメニューは裏面にまちの情報が載ったフリーペーパーにもなっていて、さまざまな場所で配布されている

取材当日、ギャラリースペースで行われていた「椅子展」では、東京藝術大学で建築を学ぶ学生さんたちによる、さまざまな形のユニークな椅子が展示されていました。なんと、すべて同じ大きさの1枚の木材からつくられたそうです。
 
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「椅子展」の作品。実際に座ることもできる

ギャラリースペースでの展示は、木の梁やカフェといった「HAGISO」の空間ならではの特徴を生かし、作品と融合するような企画を受け入れているとのこと。だからこそ、建物と一体感のある展示になっているのでしょう。

そして2階には、宮崎さんの設計事務所と、美容室「201 salon」、アトリエがあります。
 
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宮崎さんの設計事務所。以前「HAGISO」で行われたイベント「ハギエンナーレ」で展示された文鳥が飼育されている

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2階の美容室「201 salon」。「HAGISO」唯一のテナント

このように、さまざまな表情を見せる「HAGISO」の各スペースですが、全体としては統一感のある空間にデザインされています。

解体決定から一転、「HAGISO」復活への道のり

実は、萩荘は2011年に起こった東日本大震災を機に、老朽化という理由から一度は解体することが決まっていました。

それが現在の形で存続することになったのは、宮崎さんと住人の藝大生のみなさんがアートイベント「ハギエンナーレ」を開催したことがきっかけだったそう。
 
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宮崎晃吉さん

解体に納得はしていたものの、何か最後に記念になるようなことをやりたいと思ったんです。それは他の住人も同じ思いでした。

それぞれが部屋を改修して住んでいて愛着もありましたし、きちんと幕を引きたいと「ハギエンナーレ」を思い付きました。

「ハギエンナーレ」では総勢20人以上の作家が建物内で作品展示を行いました。
 
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上2点「最後の住人」宮崎晃吉/2階床を解体し、吹き抜けとした空間に金網を張ることで、数匹の文鳥のための大きな鳥小屋とした作品

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「土壁x萩荘のビス」平川祐生 xヒラカワアツシ/土壁に何千本ものビスを円形状に打ち込んだ作品

3週間に渡る展示期間の来場者数は、約1500人と大盛況。たまたま通りすがった地域の方と、この場所についての思い出話などをするきっかけにもなったといいます。

そして大家さんも、イベントを通じて「萩荘」という場所の持つ可能性に気づき、取り壊すのはもったいないと思うようになりました。

その変化を感じ取った宮崎さんは「これはチャンスかもしれない」と、さっそく大規模なリノベーションを提案。その熱意が大家さんに伝わり、萩荘は復活することになったのです。
 
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クロージングパーティーの様子

コンセプトは「日常に近い文化施設」

大家さんの存続決定を受け、宮崎さんは生まれ変わる「HAGISO」のコンセプトを固めていきます。

「HAGISO」の改修に取りかかる前、設計事務所に勤めていた宮崎さん。でも、そこで担当していた大規模な公共建築に違和感を覚えていたといいます。

宮崎さん 日本での公共建築物は「箱モノ」と言われ、使いこなせずお荷物になっているような気がして。「もっとコンパクトなサイズ感で、人々が日常的に使える文化施設を設計したい」と思うようになりました。

そこで「HAGISO」では、「日常に近い文化施設」をコンセプトに、テナント選びや、施設全体の運営にも挑戦することに。

さらに、リノベーションの過程にも一工夫。解体作業を手伝ってくれる人を公募し、一緒に作業したそう。実際にリノベーションに関わると、完成後も愛着を持ってこの場所に通いたくなりそうですね。
 
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様々なストーリーが積み重なり、2013年3月、「HAGISO」はオープンしました。

「日常生活の延長という感覚で気軽にアートや芸術に触れられる場所にしたい」という宮崎さんの思いを受けて、現在では、日々多種多様なイベントが開催されています。

前述のギャラリーでの展示のほか、アートとカフェが融合している「HAGISO」だからこそ実現できる「パフォーマンスカフェ」という取組みも。
 
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パフォーマンスカフェの様子。イベント期間中、食事をしに来たお客さんが「パフォーマンスメニュー」から注文すると、パフォーマーが現れるというしくみ

「HAGISO」を「わざわざアートを見に行く場所」ではなく、近所に住む人が現代美術やコンテンポラリーダンスなどを当たり前に享受できる空間にしていきたいと思いました。

「HAGISO」という劇場にカフェでの食事という「日常」が入ることで、この場所ならではのことを実現していけると考えています。

地域の人たちの当たり前の場所に

今後、「HAGISO」はどのような空間へと変化していくのでしょうか。

これまでは、建築物自体がその場所の機能を規定していました。しかし、「HAGISO」は時間帯によって様々な機能が変わる場所にしていけたらと思っています。

あるときはカフェ、あるときはコンサート会場、またあるときはファッションショーが行われていたり…。芸術品のオークションや、マーケットなんかをやるのもいいですね。

古くから住んでいる人も多い谷中のまちの様々な機能がこの「HAGISO」という場所に入ってくることで、地域の人たちの生活にとって当たり前の場所になっていきたいです。

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これまでの歴史や建物の特性を生かしてさまざまな取組みが行われ、まちの中で存在感を放ち続ける「HAGISO」。

この場所、この空間ならではのオリジナリティあふれる取組みに、これからも目が離せません。

東京・谷中へお越しの際はぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか。