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「子どもが病気、でも休めない…」“病児保育”で働く親をサポートする「ノーベル」高亜希さんに聞く、人が生きるために必要な5つのこと

NPO法人ノーベル

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

病気の子どもを置いて仕事に行くのは心配、でも、子どものために忙しい同僚や上司に迷惑をかけるのも心苦しい…働く親にとって、子どもの病気ほどつらいものはありません。

保育園では、37.5度以上の熱がある子どもは預かってもらえません。パートナーと交代で仕事を休んだり、“じいじ・ばあば(祖父母)”の手を借りたりして子どもの看病をすることになります。でも、頼る人が周囲にいない親はいったいどうしたらいいのでしょう?

このような現状に対して、病児保育サービスで働く親たちをサポートするのが、大阪のNPO法人ノーベル。2013年3月にgreenz.jpでご紹介したときには、多くの読者に共感を呼びました。

「そもそも、子どもが病気なのに、なんで親が仕事を休んで看てあげられないんだろう?」

ノーベル代表・高亜希さんは、シンプルに「そもそも」の問いに切り込み、そこからまっすぐにほしい未来を見つめる人です。高さんがほしいのは「子どもを産んでも当たり前に働ける社会」。ごく当たり前にみんなで病気の子どもと親を支えられるような社会です。
 
NPO法人ノーベル代表 高亜希さん

高亜希(こう・あき)
1979年大阪市生野区生まれ。関西学院大学商学部卒業後、株式会社JTBに入社し、関西初の女性営業として活躍。2005年、リクルートHRマーケティングに転職。2007年に韓国延世大学語学堂に留学するが、その間に同僚・友人が会社を辞めることに疑問を抱き「女性が働き続けられる環境づくり」のために起業を決意して帰国。2008年、NPO法人フローレンスに入社し、病児保育のノウハウを学んだ後、2009年11月にNPO法人ノーベルを設立、代表に就任。

朝8時までの予約に100%対応! ノーベルの病児保育

高さんがノーベルを立ち上げたのは28歳のとき。同僚や先輩が出産・子育てを理由に働き続けることを断念する姿を見て「女性は、子どもを産んで働き続けられるのかな?」と疑問に思ったことがきっかけでした。

高さんは、病児保育のパイオニア的存在、NPO法人フローレンスにコンタクトをとり「学ばせてほしい」と入社。病児保育のノウハウを学びました。

この仕事をしていると「子どもがいるんですか?」「結婚しているんですか?」とよく聞かれます。でも、子どもを産むことが想像つかなかったから、私はノーベルを立ち上げたんです。

ノーベルの事業は、大きく分けて柱となる「病児保育」と社会に対して病児保育をめぐる状況を発信し、社会の価値観を変える「ソーシャルプロモーション」のふたつです。
 
(1)地域密着型病児保育

ノーベルの病児保育は会員制。当日朝8時までに予約をすれば、インフルエンザなどの感染症でも100%対応してくれます。かかりつけ医の受診代行、食事、お昼寝、保育を行い、親が帰宅したときには「保育記録シート」で一日の様子を伝えてくれます。

働く親にとって、いつ起きるかわからない子どもの発熱・発病に、当日朝の予約でも100%対応してくれるノーベルは心強い味方。多くの親たちの支持を得て、当初は大阪市中央区・西区のみだったサービス提供エリアは、大阪市と吹田市の全域、東大阪市、豊中市、堺市の一部へと拡大しました。
 
(2)ソーシャルプロモーション

ノーベルでは、メディアづくりや講演によって病児保育をめぐる状況を発信。時にまじめに、時には楽しく、社会のあり方を考えてもらう機会をつくろうとしています。

ノーベルのソーシャルプロモーションを力強くバックアップするのは、電通の働くおかあさんクリエイターのチーム「おかんカンパニー」。キャッチーなタイトル、子どもたちにも愛されるキュートなイラストで、病児保育を明るく伝えてきました。
 
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左から「子連れおかんの防災サバイバル手帳」(河内長野市で配布)、「ひとりおかんっ子応援団」リーフレット、「働く!! おかん図鑑」定価:300円(税込・送料別、ノーベルウェブサイトにて販売)http://nponobel.jp/case/okanzukan/ これらはすべて「おかんカンパニー」制作

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働くおかんのノウハウ紹介「病児保育御用達おかん」

2014年には、「おかんカンパニー」の佐藤朝子さんが、「母親として世の中に発信したい」と、コピーライターの登竜門とされるTCC賞(Tokyo Copywriters Club主催)に応募。ノーベルのポスターコピーは新人部門で受賞しました。
 
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病児保育で困っているお母さんの気持ちを代弁したそのコピーは、「土日しか風邪ひかない子に育ちますように。」

「病児保育」という4文字だけでは伝わらないけれど、デザインやコピーの力を借りると「あ、そうそう!」と思ってもらえる。世の中に広く発信することができるんです。

佐藤さんやおかんカンパニーの人たちは、自分が経験したからこそ出てくる言葉で表現をしてくれるので、本当にプロってすごいなと思います。

「ひとりおかんっ子をみんなで救え!」

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「ひとりおかんっ子応援団」のリーフレット。ひとりおかんっ子のキャラクターはトイプードルだそう

前回の取材のすぐ後、2013年4月にノーベルはひとり親向け病児保育を立ち上げました。その名も「ひとりおかんっ子パック」。もちろん、このネーミングもおかんカンパニーの仕業です。

「ひとりおかんっ子パック」のきっかけは、ノーベル設立から約半年後に受けた、ひとり親家庭のお母さんからの電話でした。「子どもが熱を出している。でも、明日仕事を休むとクビになってしまう」。しかし、立ち上げ間もないノーベルには、このお母さんを支援する余裕がありませんでした。

その後、そのお母さんとは連絡がとれなくなってしまったのですが、小さい子どもが熱を出すのは当たり前なのに、それでクビになるなんて…。

しかも、ひとり親家庭の約半数は非正規雇用で、年収200万円以下。そんな世の中であっていいのかと思いますし、どうしたらいいんだろう? って考えるようになりました。

必死で生きていくお母さんたちとのいろんな出会いのなかで産まれたのが「ひとりおかんっ子パック」です。

高さんは、寄付を財源として「ひとりおかんっ子パック」を運営することを構想。「ひとりおかんっ子応援団」と呼ばれる寄付会員を募りました。

ひとりおかんっ子パック」を立ち上げて約2年で、寄付をした人の数は累計400名。これによって、ノーベルは60世帯のひとり親家庭の病児保育を低価格で提供しています。
 
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「ひとりおかんっ子」の応援は、月額1000円からできます!

月額1000円の「ぺんぎん団員」なら7人、月額3500円の「ぱんだ団員」なら2人、7000円の「しろくま団員」なら1人で、ひとり親家庭1世帯をサポートできるというしくみです。

しかし、応援団を待っているひとり親家庭はまだ50世帯も…。ノーベルは、応援団を増やすためにコツコツと努力を積み重ねています。たとえば、2014年4月に「仮認定NPO法人」の認可を得たこともそのひとつです。

「仮認定NPO法人」は、適正な経理を行っていることなど一定の条件をクリアしたNPO法人に認可される法人格。仮認定NPO法人に寄付をした場合、確定申告を行うと所得税や住民税の寄付金控除が受けられ、年間寄付額の4割が手元に戻ってきます。

仮認定NPO法人になったことは、ノーベルに寄付をしやすいしくみづくりへの大きな一歩になりました。

こめられる期待、重くなる責任

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ファンドレイザー・北村さん(中央)とノーベルスタッフのみなさん

ひとり親支援のために「ひとりおかんっ子パック」を寄付支援で運営することを決めたとき、高さんはノーベルでのインターン経験を持つ北村政記さんをファンドレイザーとして雇用。北村さんにファンドレイズを一任し、高さんは行政や企業との連携を進めました。
 
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淀川区の委託事業「淀川パック」のフライヤー

2014年4月には淀川区の委託事業「淀川パック」がスタート。大阪市淀川区民は、ノーベルの訪問型病児保育を通常の半額以下で利用できるようになりました。

また、2015年1月には、あずさ監査法人との法人契約や大阪弁護士協同組合と提携。それぞれの従業員や組合員はノーベルの会費割引を受けられるようになったのです。

行政や企業との連携が実現したのは、この5年間の着実な歩みでノーベルが社会的に信頼を得てきたからだと言えます。

特にこの2年間は、「病児保育といえばノーベル」というブランドができあがってきて、「ノーベルなら信頼できる」と評価されているのをすごく感じています。

行政や企業としても、子どもの命を預けられる団体だと判断して任せてくれたのだと思いますし、私たちがきっちり土台を築けたという自信にもなりました。

そういう意味では、初期の会員さんに私は特別な思いがあります。保育士や看護師の資格もない、独身で子どももいない、営業しかしたことのない私を信頼して、子どもを預けてくれたわけですから。すごく感謝しています。

同時に、利用対象者からは「もっと提供エリアを広げてほしい」等の声も多く聞かれるようになりました。提供エリアが広がるとともに、ノーベルの保育スタッフも増加。スタッフに対する責任も感じるようになりました。

自分の思いからはじめたことが、いろんな思いを受けとめなければいけなくなっているのを感じます。やればやるほど、期待がこめられていくので、「もう自分の思いだけでは片付けられないな」と思います。

かつては自由気ままに書いていたブログも「いろんな価値観があるなかで、自分の意見だけを発信していいのか」と、記事を書く手が止まることもあるそう。

そんななかでも、高さんは「イノベーションを起こさなければいけない」と、攻めの姿勢を失うことはありません。

子どもの命に関わる仕事ですから失敗は許されませんし、現場が疲弊してはいけないとも思うので、ついつい守りの体制に入ってしまう部分はあります。でも「私には社会を変えなければいけない」というミッションが、なぜか自分には落ちていて。

「そもそも、社会の構造を変えなければ何も変わらない」と高さんは言います。いったいどこに手をつければ、社会の構造に変化を起こせるのでしょうか?

病児保育のいらないまちをつくりたい

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病児保育サービスの最大の課題は、「毎日何人の子どもが病気になるか」を予測できないこと。保育費による収益と保育スタッフの人件費のバランスがとれず、ビジネスとして成立させるのが難しいとされていました。

そこでノーベルは共済型の会員システムを導入。月会費を設定することによって、安定した経営を確立し「当日朝8時までの連絡で100%対応」を実現。立ち上げから3年で黒字化を達成しました。

病児保育の土台をしっかりとつくり、着実に「病気保育問題の解決」を進めている高さんですが、一人ひとりの病気の子どもやお母さんたちと向き合いながら葛藤し続けていると言います。

「なんで、お金で解決する社会になってしまっているんだろう?」
「なんで、子どもが病気のときぐらいみんなで助け合える世の中じゃないんだろう?」

「保育園が足りないから保育園をつくる」「病児保育が必要だから病児保育をする」。それはもちろん必要なことです。

でも、今目の前にある課題だけを解決していてはダメだと思います。5年後、10年後を見ようとする人が増えていかないと社会って変わらないと思います。

高さんが今考えているのは「病児保育のいらない、子育てと仕事を両立できるまち」をつくること。

そして「病児保育が必要なまち」と「病児保育のいらないまち」を比べてみて「どっちがいいですか?」と世の中に問題提起をしてみたいと言います。

人間って「衣」「食」「住」「仕事」「つながり」の5つがあれば生きていけると思うんです。

たとえば、ひとつの場所をつくって、住む場所、仕事、保育園があって、地域のおじいちゃんおばあちゃんが来てくれて、食べ物をシェアしていく。ひとり親でも、都会で生きていける場所をつくりたいですね。

「子育ては社会全体でするもの」と高さんは言います。私たちがこの社会で生きることは、この社会をつくる一人ひとりの人とかかわり合っていくということ。直接的には接点を持っていなくても、私たちひとり一人もまたすべての子どもたちとつながっているからです。

どれだけ周りを巻き込めるかは、当事者もがんばらないといけないと思います。また、周りの人たちも自分もたくさんの人に育てられたんだから、お返しするのがごくふつうの循環だと思うんですけどね。

高さんが言う「ふつうの循環」を巡らせるスイッチは、「いつでも手伝うよ」というあなたのひとことかもしれません。あるいは、子どもが病気になったときに「今日一日、看てくれない?」とママ友にかける電話から始まるのかもしれません。

いずれにしても、ちょっとした心のハードルを超えるところから、「お金で解決しなくてもいい社会」への道は開くのではないかと思うのです。

団体の最新情報はホームページをご確認ください。
https://nponobel.jp/

– INFORMATION –

 
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