(写真:宮本裕人)
みなさんはグリーンズが、本を出版していることをご存知でしたか? それが「未来のつくりかたがわかるブックレーベル」green Books。心をこめてつくった特別な本を、「greenz people(寄付会員)」のみなさま限定で、年に2回お届けしています。
ちなみに次号は、編集長のYOSHさんの講義録をまとめたBooks4『グリーンズ編集学校の教科書』を発行予定です。
でも、「ウェブマガジン」が「本」もつくるってどういうことなのでしょう? そこで、green Booksを担当する編集長の鈴木菜央さんに聞いてみました。いつも通り話は白熱し、メディア論から日本社会の話までに発展し…
今回も、お相手はgreenz people担当アシスタント渡邊めぐみが務めます。
green Books編集長の鈴木菜央さん
ウェブではなく、紙にまとめる意味
渡邊 greenz.jpはウェブマガジンなのに、本もつくっていますよね。これはどうしてですか?
菜央 ウェブのよさは、みんなの暮らしにスッとなじむところ。電車に乗っているときにスマートフォンで読むとかね。でも、それだけだと流動的なので、形にまとめていくことに意味があると思っているんです。
渡邊 流動的とは?
菜央 ウェブマガジン、ウェブメディアは情報が拡散しやすい反面、ひとつの形をとどめていませんよね。
NPO法人グリーンズでは、イベントや学校も開催しているのですが、イベントで話された会話もどんどん消えていくし、学校での学びもそれぞれの中にしか残りません。活動全体が何というか“対話的”で、常に移り変わってゆく性質をもっている。
広く社会に拡散して影響を与えていくことだったり、流動的であるメリットはもちろんあるんですが、長い時間軸で考えると、何かを残していきたいな、という気持ちがあります。
渡邊 なるほど。
2014年2月に発行したgreen Books第2号『グリーンズのつくりかた』では、これまでのグリーンズの活動と、現在のコミュニティマップをまとめました。
菜央 例えば、greenz.jpも今まで3回リニューアルをしたんですが、過去の記事は残っているけど、当時の感覚で読めるかというと、読めない。それって、ひとつひとつ、自分たちの現在・過去・未来をつないでいく作業が、なかなかできていかないということなんです。
グリーンズって常に移り変わりながらアメーバのように成長していて、中にいる人さえ全貌がつかめない(笑)
なんというか、新しいメディア、組織、働き方、ビジネスの実験だったりするわけで、ある時点でのファクト、感じていること、空気感を一つひとつ、定着させていくべきだと思うんです。つまり「定点観測」ですね。
渡邊 定点観測してこそ、見えてくるものがあるというか。
菜央 はい。壮大な話になるけど、日本社会が移り変わって前に進んでいくときに、「自分たちがいまどこにいて、どういう道を歩いてきて、これからどこにいくんだろう?」ということを、一つずつ確認して共有していくっていう作業が必要だと思っています。
振り返ってみると、「これはこういうことだったんじゃないか」っていう仮説が出されて、「どうだったんだろう」と周りの人も考える。そういうやりとりがたくさん行われて、社会全体としてコンセンサスがつくられていくし、未来の社会のあり方を考える素地になる。でも、日本社会ではそれが弱い気がするんです。
戦争中の歴史認識にしても、学生運動の評価にしても、結局のところ、コンセンサスがとれていない。グリーンズがそれに貢献できるかどうかはわからないけど、そういう態度で社会に向き合いたいと思っています。
渡邊 確かに。
菜央 グリーンズとしては、ソーシャルデザインの実験を通して見えてきたことを、一つ一つカタチにして積み上げていきたい。それがあるからこそ、学術研究や、これまであまり注目されていなかった分野が成長していく土台になるかもしれないしね。
渡邊 前に進むための土台固めなんですね。
菜央 自分自身もそうだけど、特にこの頃は流れていく情報が多すぎて、土台が固まらない(笑)
なにか新しい時代を編集していく総体としてのグリーンズ、というのを考えているなかで、紙のメディアをやらないのは違うんじゃないかっていう思いでもあるね。
渡邊 時代を編集しているんですね!
菜央 そうですね。かっこ良く言えば(笑)
僕たち自身もやりながら考えていくことが多くて、どうしても暗黙知が多くなりがちな組織なんです。それをみんなの知恵にするには、文章化する必要があるし、そのプロセスそのものが僕たちの成長の機会でもあるなぁと。
おのっちを中心にまとめた前号のBooks3『グリーンズの仕事のつくりかた』が出てから2か月くらいですけど、そこからも既に僕たちのなかで進化がある。
昨年に発行された『グリーンズの仕事のつくりかた』。こちらから立ち読みもできます!
YOSH 暗黙知になっているものを一回棚卸しすると、不思議とゼロになった感じがしますよね。そうすると空っぽの頭のなかに、新しい風が吹いてきて、またどんどんインプットしたくなる。そうやって常に生まれ変わっていくような流れは、すごくいいなぁって思っていて。
菜央くんが『「ほしい未来」は自分の手でつくる』を書いたときもそうじゃなかった?
菜央 かなりそうだった。精算できた感じがした。まっさらになったから、次に行こう!みたいな気持ちになるよね。green Booksも、そうなっているかな。
YOSH 書き手にとって、過去といえば過去なんだけど、コミュニティのメンバーにとっては始まりの書でもある。だからこの次の本をライターさんにお届けするのが、とっても楽しみなんです。
渡邊 green Booksをつくることは、グリーンズ全体が次のステップへ向かう大事な一歩になっているんですね。
greenz peopleのためのgreen Books
今やレアになった(?)green Books第一号は、『みんなのソーシャルデザイン宣言』がテーマでした。(写真:宮本裕人)
渡邊 今のところ、一般には流通させずに、greenz peopleのみなさまだけにお届けしているわけですが、それはどうしてですか?
菜央 グリーンズは、みんなでほしい未来をつくっていく場づくりをしていると思っています。その土台となるような哲学だとか、新しい社会の基礎となるような考え方や態度は、greenz.jpで取材をする中でたくさん見えてくるんだよね。そうして見えてきた宝ものを集めておいて、貯まったら箱につめてぎゅっとしている感じ。
渡邊 それを贈りものとして届けると。
菜央 そうですね。20年後に「あの時もグリーンズからいろいろ学んだよね」という状態になればとやっているので、形として残る紙媒体であることが大事になってくる。
「green Booksに線を引いて読んでいます」っていう人がいたり、時々取りだして読み返すことで、自分の気持ちを確かめてくれている人がいたり。ウェブで記事をサラッと読んで、「おお〜」となる面白さもあるけど、本に閉じ込めておくことで、もっと深い気づきがあったり、生み出せる価値があるなあと。
YOSH ウェブだと一つの記事を読む時間が5分でも「長い!」って言われるけど、本だと数時間集中して読むよね。その間にどんどん、思考が展開していくのも本の特長だと思う。
green Books第一号『みんなのソーシャルデザイン宣言』では、最後に「あなたがほしい未来を、自由に描いてください。」というページもありました。
渡邊 Booksの書評でも、YADOKARIのさわださんに「精神安定剤」という言葉をいただきましたね。
菜央 はい。それってウェブではなかなかできないことで。切り出してトイレに貼っておくとかさ(笑)
渡邊 たしかに(笑)
菜央 とにかく本って、読み手の現在地を確かめることができるメディアだと思うんです。でも、それができる本をつくり上げるのはけっこう大変で。だから僕たちも本気になるし、紙に落としこむっていうのは、一つ、軽くないステートメントと言えますね。
特に、greenz peopleのみなさんは、無料でgreenz.jpを読めるのに、わざわざお金を払ってくださっている。短期的な損得勘定ではない行動を取れる人。言ってみれば、人間としてレベルが高いんですよ。
そういう人たちに、本気で「面白かった!」と思ってもらいたいし、「これからやろうとすることのヒントになった」ということがあるとうれしい。
渡邊 読み手もレベルが高いから、それに対して真剣に向き合いたいという。
菜央 何かを表明するってことは、その裏づけとか深みとかを、僕たちがしっかりもてているかっていう確認でもある。「本当にこれだ!」と信じられることを、浅いマーケティングのことを考えずにじっくりつくっていこうっていうのがgreen Booksなんです。
渡邊 2月に出る『グリーンズ編集学校の教科書』はどんな感じなんですか?
YOSH いわゆる編集のノウハウ本ではないですね。greenzライターさんや編集部メンバーが、どんな思いを大切にしながら記事をつくっているのか。そこをしっかり伝えられたらと思っています。
『グリーンズ編集学校の教科書』は、YOSHさんが開講しているgreen school Tokyo「グリーンズ編集学校」で教えている内容が惜しげもなく詰まった内容になる予定!
渡邊 こんな人にオススメというのはありますか?
YOSH 編集者やライターになりたいという方や、情報発信に興味がある人はもちろん、光の当たっていない場所に光を照らす編集者やライターのあり方そのものや、最近よく言っている“人文系ソーシャルイノベーター”の可能性を、みなさんに知っていただけたらと思っています。
渡邊 楽しみですね。ちなみにYOSHさんが考える編集とは?
YOSH いろんな答えがあると思いますが、僕が考える編集とは「情報発信をきっかけに、ご縁を育てていくこと」です。
greenz.jpに掲載された一本の記事がきっかけとなって、取材先の活躍の場が広がったり、読者との素敵なコラボレーションが生まれたり、予想外のミラクルがどんどん起こっています。ときには記事を書いた本人が、転職したり、移住するなど、転機を迎えることもあります。
それくらい、人の思いを伝える編集者やライターには、人を前向きにし、社会を動かす力がある。『グリーンズ編集学校の教科書』を通じて、その現場感を味わってほしいですね。
菜央 もう少しで完成ですが、将来的にもう少し加筆して、普通に売るべき本だと思うよ。
YOSH うん。いつか、それができるといいね。Books4は僕の4年間の集大成だけど、その改訂版はダブル編集長である菜央くんとの共著として出せるといいなあ。
渡邊 楽しみにしています!
green Booksにかける想いが熱すぎるダブル編集長たちの話は、まだまだ膨らみそうですが、この辺で。
ウェブマガジンを運営するグリーンズが、本をつくる。それは、自分たちの現在地を確かめて次に行くための大きなステップだったというのは新たな発見でした。
10年後、20年後の未来を思い描きながらいまを積み上げていく。そのなかで見出した宝ものが、ぎゅぎゅっとつまったgreen Books。新刊は2月13日までにお申込みいただくと、2月中にはお手元にお届けできます。どうぞ、お楽しみに!
(Text: 渡邊めぐみ)