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greenz.jpにはどうして広告が入っていないの? フクヘン小野裕之に聞く「”メディアの価値”のつくり方」

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2014年7月のgreen drinks Tokyoにて。(左)編集長・鈴木菜央 (右)副編集長・小野裕之 (写真:宮本裕人)

特集「グリーンズのひみつ」は、ウェブマガジンを読んでいるだけでは見えにくい、普段のグリーンズのこと、メンバーが考えていることを、より多くの方に知っていただくための対談シリーズです。

ウェブマガジン「greenz.jp」を運営するのが、NPO法人グリーンズです。2012年にNPO法人となり、現在はgreenz peopleという寄付会員を募集し、みなさまからのご支援で運営するコミュニティサポート型の非営利メディアを目指しています。

グリーンズのメンバーが目指していること、考えていることを知ってもらうためのこの企画。「グリーンズって何人で運営しているの?」「どうしてみんなメガネをかけているの?」に続き、今回が3回目です!

greenz.jpには、ほかの雑誌やウェブマガジンと違う特徴があるのですが、みなさんお気づきでしょうか? それは、ほとんど広告らしい広告が見当たらないところ。

メディアのビジネスモデルとしては王道ともいえる広告ですが、それがあまりない理由とは? そしてその代わりに、どうやってお金を生み出しているのでしょうか。今回はそんなテーマで、副編集長小野裕之さんにお話を聞いてみました。
 
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料理が得意な小野裕之さん

どうして広告が入っていないの?

渡邊 前回はゆるめにメガネについての質問だったので、今回はまじめにいきます! ずっと気になっていたんですが、greenz.jpには広告が入っていないですよね。これはどうしてですか?

小野 まず、大前提として、広告が全く入っていないわけではありません。バナー広告単体の提供は一旦中止していますが、記事の末尾に「sponsored by ◎◎」と入っているものは記事広告です。

ただ、割合としては多くはありませんので、その前提でお答えしますね。

渡邊 おねがいします。

小野 僕がグリーンズに入ったのは2009年の年末なんですが、そのときは他の手段を知らなかったこともあり、収益化のために広告を入れようと頑張っていたんです。

でも、その当時、営業で回っていた企業に伺って感じたのは、グリーンズに興味を持ってくださる企業や担当者のみなさんは、単に広告を出稿したいわけではないということでした。

それよりもむしろ、ソーシャルデザイン的な「ほしい未来をつくるためのプロダクトやサービス」を、まさにこれから生み出していく方向にシフトしつつあり、その方法論を模索しているという感じで。

渡邊 なるほど。

小野 今では本業自体を社会的課題の解決へとつなげるために、ドメインとなる事業自体をデザインしなおすような、言わば「CSRからCSVへ」ということが、それほど珍しくなくなってきましたよね。

でも2009年、10年の段階では、そういったスタンスを明確に語る企業担当者に出会える機会は、あまり多くなかったんです。

渡邊 はい。

小野 おそらくCSV的な取り組みを背景とした広告やコンテンツでなければ、なにより読者のみなさんをガッカリさせてしまう。そしてそれは結果として、広告主のためにもならない。当時はそんなことを感じていました。

そんなわけで、生意気ながら、ある意味クライアント企業を選り好みしてしまっていたので(笑)広告出稿につながる案件が少なかったんですよね。

渡邊 それは広告の営業をしてみた結果、気がついたことなんですね。

小野 そうですね。さらには、グリーンズのあり方やスタイルと、広告というビジネスモデル自体の相性もあまり良くなかったと思います。

一般的に、広告は「買ってください」とか「知ってください」という目的のために、企業がお金を払うというモデルで、それを言い換えると、読者のみなさんを”消費者として捉える”モデルなんですね、そもそも。

渡邊 ああ、そうですね。

小野 「ほしい未来は、つくろう」というスローガンを掲げて、「社会のつくり手になりませんか?」とメッセージしながら、あまり関連性のない「商品を買ってほしい!」とお願いするビジネスモデルは、僕たちのスタンスと照らし合わせて考えると、納まりが悪いなあ、と。

渡邊 確かに。

YOSH 収益化ってつまり、そのメディアが何の価値を生み出しているのか、という話ですよね。

トラフィックの多いウェブマガジンなら、広告出稿は意味があるのかもしれないけれど、グリーンズはページビューが一番大事だとは思っていない。だから全く文脈の無いバナーを貼っても、効果も低いんじゃないかと思うんです。

一般的なメディアは、広告が収益の柱なので、広告が入らないと休刊してしまいますが、それはビジネス的な軸で判断すれば当たり前の判断。

でも僕たちは「ほしい未来をつくる人たちを増やす」という大きな目的があるし、多分、儲からなくても、役割を果たしきるまで続けてしまうのだと思います(笑)そこが非営利メディアとしてのスタンスなのかな、と。

渡邊 そこからどうマネタイズしていったんですか?

小野 ざっくりいうと、「アプローチする領域を変えた」という感じかな。

企業がプロダクトやサービスを売り出すまでの流れは、よく川に例えられますが、川上に研究部門があり、その次にR&Dがあって、マーケティング、プロモーションとなるに従って川下になっていきます。

全部決まったところで「さあ売ろう」となるので、どこに広告を出そうかを考えるのは一番川下の部分にあたります。

渡邊 はい。

小野 今は企業やあるいは行政さえも、「CSRからCSVへ」のようにあり方の過渡期にあり、ほしい未来をつくるサービスやプロダクトを提供したい、さらにはそういった市場環境を整えていきたいと思っている。

そこで、もしそのシフトチェンジがなかなかうまくいかず困っているとしたら、川上の部分にこそビジネスチャンスがあるんじゃないか。そんな仮説が成立するんですね。

「メディアといえば広告で収益化するしかない」と思い込んでいた当時の僕にとっては、革命的な気づきでした。

渡邊 なるほど!

小野 なので広告だけではなく、未来をつくるためのプロジェクトを一緒につくったり、広げたり、そういうことが僕たちのビジネス的な価値にだんだんと育ってきました。

短期的な収益だけを追わない仕事を、さまざまな企業とご一緒させていただいているのは、とてもありがたいことだと思っています。

渡邊 それはCSRとは違うんですか?

小野 CSRはどちらかというと、周りから求められた責任感としてやるもの、という意味合いがそもそも強い。

もちろん、それも大事ですが、グリーンズはどちらかというと、内側から変わっていきたい、という企業や担当者の想いをサポートする方が得意だと思っています。
 
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『関西を元気にするコミュニティをつくるには?大阪ガス×グリーンズ「マイプロSHOWCASE関西編」座談会』より (写真:杉本恭子)

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『“20年後の天神“を一緒にソーシャルデザインしませんか?西鉄×グリーンズの新企画「マイプロSHOWCASE福岡編」キックオフ!座談会』より (写真:前田亜礼)

企業の意識の変化もあった

渡邊 それにしても、「CSRからCSVへ」という流れはどこから始まったんですか?

小野 やっぱり東日本大震災の影響は大きかったんじゃないかと思います。

リーマンショック以降、際限のない拡大と成長を前提とした金融資本主義的なモデルを回していくことが限界にきていることに、多くのひとが気づいた。日本ではさらに、その直後に発生した大震災によって価値観が大きく変容したように感じています。

そもそも日本の企業は伝統的に、売り手よし買い手よし社会もよし、という「三方よし」が根底の価値観としてあったじゃないか、という議論も増えてきましたよね。そういう意味では、逆に日本らしさを取り戻した、と言えるのかもしれません。

菜央 2009年頃はまだ、「みんなが共有できる価値を、企業としてつくっていこう」という議論ができる場面はほとんどなかったかな。

YOSH そうだね。いまと根本は変わらない提案をしていたとしても、夢物語のように聞こえていただろうし、僕たちだってすごく自信があったわけでもなかった。

菜央 まずはCSRの部署の人たちと、これからの社会がどうあるべきかを一緒に考えていくという段階がありました。

でも一部署の小さい予算でやる施策みたいな扱われ方だったから、社内でも広まらないし、「誰もわかってくれない」というジレンマをみんなが抱えていましたね。

渡邊 孤独ですね、それは。

菜央 それが「社会のなかで企業としてどうあるべきか」とか、「企業の資源をいかして、どう社会に還元できるのか」といった、全体からとらえる議論がはじまるようになった。

ほんの数年で、全然違う状況になってきたと感じています。

コミュニティ型のサポートをするグリーンズ

渡邊 グリーンズでは、どんな風に仕事を進めていくんですか?

小野 その点については、大事にしているポイントがひとつあります。それは「取材先や読者のひとたちを巻き込みながら、一緒に価値をつくる」ということ。属人的なコンサルティングやパートナーシップではなく、コミュニティ型で進めているんです。

結果としてスターバックスさんとの「コミュニティコネクション」のように、取材先も巻き込んで、ワークショップ形式で進めていく場合がほとんどですね。
 
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『“地域に開かれたスターバックス”を目指して!新しいコミュニティづくりのアイデアをグリーンズと一緒に考えてみました』より (写真:増村江利子)

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『音楽で地域の価値を高める!ヤマハ「おとまち」リーダー佐藤雅樹さんと編集長YOSHが語る「”音楽×まちづくり”の可能性」』より (写真:増村江利子)

小野 もう少し具体例を挙げると、「音楽×まちづくり」という視点で音楽業界の枠組みを広げていくヤマハさんとの「おとまち」や、経済産業省と進めている市民参加型の広報事業「わたしたち電力」などが進行中です。

渡邊 コミュニティ型といっても、様々なパターンがあるんですね。

小野 そのモデルをひとつひとつ発明していくのが、一番の醍醐味ですね。ウェブマガジンというメディアがベースになっているのも、なかなかオリジナルなアプローチなのではないかと思っています。

菜央 結局、メディアを運営するとなると、広告くらいしかマネタイズのイメージが湧きにくい。でも、それを敢えて選択していないのは、シンプルに言えば、既存のプロダクトやサービスの”販売のサポートをするだけ”に、未来を見いだせなかったからなんだよね。

そうではなくて、一緒に未来をつくれるような企業や読者と、同じ目標をもって横に立つ活動をしていく。なので、広告を入れることだけが僕たちのゴールでは全然ないんです。

YOSH 非営利団体でウェブマガジンを運営していくことは、とても大変な道だし、あまり参入してくる人もいない。僕たちも8年かけてようやくこういう景色がみえてきた感じで。

もう、これからも試行錯誤の連続だと思いますが、企業と組んでいくことはもちろん、greenz peopleという寄付会員も含めて、日本ではあまり例のないメディアの稼ぎ方を、いろいろ見つけていきたいと思っています。

(対談ここまで)

 
「売ること」ではなく「ほしい未来をともにつくる仲間を増やすこと」。グリーンズがいちばん大事にしている価値観が、少し見えてきたように思えて少しスッキリすることができました。みなさんはいかがでしたか?

次回のグリーンズのひみつは年明けから再開の予定です。どうぞお楽しみに!
(Text: 渡邊めぐみ)