「日本財団」の名前を知っているという人はたくさんいると思います。でも、もしかすると、日本財団がどんな団体で、何をどんな思いで行っているのかまで知っている人は少ないかもしれません。
日本財団はカンタンに言うと、社会をよりよいものとするために、社会的な活動を行うさまざま団体を支援しています。
例えば市民にもっと気軽なドネーションのしくみを届けたり。あるいは企業にCSRのコンサルティングを行ったり、複数のNPOを横断するプロジェクトを企画したり。そんな風に、縁の下の力持ちとして日本のソーシャルイノベーションを支えているのです。
近年では、社会的なテーマのイベントに協賛する機会も増えていますが、そこにはどのような思いや経緯があるのでしょうか。今回は、経営支援グループCSR企画推進チーム・チームリーダーの町井則雄さんに、お話をうかがってみました。
NPOの情報開示で信頼をつくるプロジェクト「CANPAN(カンパン)」
日本財団がサポートするソーシャルイノベーション。その代表的な例に、2005年にスタートした公益コミュニティサイトの「CANPAN」があります。
CANPANでは、公益事業を行うたくさんの団体が、ブログ機能などを使ってリアルタイムに活動内容を発信。これら情報の可視化に合わせ、寄付の受け皿としてクレジットカード決済の仕組みなども提供しています。
町井さんはこのプロジェクトを企画した発起人。町井さんは、CANPAN立ち上げの理由を次のように語ります。
日本財団で町井さんにお話をうかがいました!
当時、日本にはNPOなどの活動の情報を集約し、紹介しているコンテンツがありませんでした。NPO法人が業務内容をウェブサイトで公開していたとしても、規約を公開したり、イベントを紹介したりする程度で、わかりやすさからは程遠いものだったんです。
これでは寄付や会員など集まりようがありません。私はこれらの活動が、深掘りした形でアーカイブされ、可視化されるような、”Yahoo!の公益事業版”といったサイトをつくりたかったのです。
日本のNPOセクターでは欠かせない一角を担っているCANPANですが、当時は財団内での理解を得ることは難しかったそうです。
「2chみたいなことがしたいの? それは難しいよ」みたいな感じで、話がかみ合いませんでした。そこで恵まれていたのは、当時の上司が「理解できない」と言うものの、却下することはせず、役員に企画を上げてくれたことですね。
理事長の一声で開かれた会議の席で、賛成派から反対派も集まる中、CANPANの意義を説明。その情熱が晴れて実を結び、プロジェクトはスタートしたのです。
現在のCANPAN
その後、CANPANをつくった町井さんが気付いたのは、「インターネット上だけのつながりだけでは弱い」ということでした。そこでミラツクやETIC.など、リアルな領域で“場づくり”をしている団体とタッグを組んでいくことに。
とはいえ“場づくり”をするには、なによりもまず“場所”が必要。そこで少しずつ、虎ノ門にある日本財団ビルでは、ソーシャル系のイベントの開催が増えていきました。
年に一度のミラツクフォーラムも日本財団で開催
「世界を変えるデザイン展」の実行委員長を務めた株式会社グランマのみなさんとも、そういった流れで出逢いました。
彼らも公益事業を行う団体をデータベース化しようとしていたらしく、「調べていたら、CANPANというサイトを知りました。やりたいことがすでにできあがっていたので、どんな人がやっているのか知りたくなって」と、会いに来てくれて。
こうして「同じようなことをやろうとしているのなら、一緒にやろう」という流れが次々と生まれ、今では、バーチャルとリアルの両方の場で、さまざまなプレイヤーをつなげる役割を担うまでになっているのです。
ソーシャルイノベーションの生態系をつくるために、日本財団が見ているもの
公益事業の情報を視覚化し、また、イノベーションを起こすための中間支援組織としても機能してきた日本財団。今後のテーマとして考えているのが、”ソーシャルイノベーションの生態系づくり”なのだそう。そしてそのために改めて注目しているのが”まちづくり”の領域です。
日本財団は、社会課題の解決を目指して活動していますが、社会課題はどこにあるかと言うと、それは人が暮らしているところだと思うんです。
それらの社会課題は複雑化を続け、一つの課題を解決するには他の課題も併せて解決しなければならない。つまり街全体を課題解決という視点からリデザインする必要があります。それが私の考える”まちづくり”なのです。
町井さんがまちづくりに関心を持つようになったきっかけは、ダイバーシティへの関心でした。「日本ほど、一見寛容なように見えて、その反面、問題を見ないようにしている国はない」と町井さんは語ります。
高齢化・少子化に代表されるように、いろんな課題がどんどん進行して、10年後には社会保障制度が崩壊するのも皆がわかっていることです。なのに、なぜ、なにもしないのでしょう。
問題を見ないふりをするのはただの問題の先送りです。そうやって次世代にツケを回し続ける社会が持続可能でしょうか?
自然との共生を大切にするポートランドの事例に学ぶ
そんな思いを持ちながら、町井さんは今年の5月、「REBIRTH PROJECT」の伊勢谷友介さんたちと、アメリカ・オレゴン州のポートランドを視察しました。ポートランドはユニークなまちづくりで注目を集めていて、いまアメリカで一番住みたい街だと言われています。
ポートランドは自転車に優しい街
再生エネルギー100%のワイナリー
人口60万人のこの街には、市議会議員が市長を含めて5人しかいません。どうやって物事を決めているかというと、街が抱えているイシューを書き出して、2年に一度住民に投票させるんです。
それを解決するにはこんなメリットがあるけど、これだけ予算が必要で、あなたの納税額はこれだけ増える…みたいなことがそれぞれ書いてあります。そして「やりますか?やりませんか?」と住民に判断がゆだねられるのです。その投票率は7割とも言われています。
街づくりに対するこの市民の参画意識の高さこそ、ポートランドを構成する力の源泉なんです。
また、ポートランドは、ベトナム戦争に嫌気がさしたヒッピーたちが「自然を大切にする」という先住民の文化に共感して集まってつくりあげた街。だからこそ、自然とどう共生するかは街づくりの中で重要な観点になっています。
このような直接民主制の仕組みは「コミッション制度」と呼ばれ、アメリカでも珍しい制度です。日本にいきなり導入することは難しいですが、参考にするべきモデルとして注目しています。
小学校を丸ごとリノベーションしてPUBやホテルとして活用(ポートランド)
大学構内の日曜ファーマーズマーケット(ポートランド)
ポートランドを視察して、まちづくりについての新しいヒントや視点をもらったという町井さん。しかし、ターゲットをしぼって社会的な活動を行うのではなく、社会全体に対して改革を起こしていかなくてはならないという状況に、相当高いハードルを感じているようです。
たとえば日本では、街から離れてぽつんと孤立した暮らしをしている独居老人に対しても、コストに関係なく平等に行政サービスが提供されます。また、山間部では老朽化が激しい多くのトンネルを修繕しなくてはならず、水道管や下水管も次々と老朽化が進んでいく。
まちづくりの現場は、次々と生まれてくる問題に日々直面していますが、それらを実施するための十分な予算があるわけではありません。その鍵となるのが”経営的な意識”だと町井さんは言います。
企業に例えれば、これまでの拡大路線から、選択と集中による生き残りをかけた事業再編に挑むようなものです。時には痛みを伴うものになるでしょう。しかし、今の対処療法と延命処置だけでは社会全体が立ち行かなくなってしまいます。
だからこそ街全体を経営という目線を持って見つめ直し、つくり変える必要があるのです。
想像してみてください。
言わずと知れた借金大国の日本で、もしあなたが、あなたの暮らす街の市長になったり、区長になったりしたら、どんなまちづくりをするでしょう。
子どももお年寄りも幸せで、自然が豊かで、暮らしやすくて、経済的にも安定している街にするためには、何から手をつけたらいいのでしょう。
そんな経営的な目線を持って、日本財団など社会的な団体や、地域の人などとつながりながら、ぜひ、まちづくりを考えてみてください。