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焼酎づくりのついでに、電気もつくっちゃいました!一般家庭1000世帯の年間消費電力分を発電する、霧島酒造の「サツマイモ発電」

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霧島酒造の芋焼酎の原料は「黄金千貫(こがねせんがん)」というサツマイモ

11月1日は「本格焼酎&泡盛の日」です。夏に仕込んだ新酒が毎年その頃に出回ることから、1987年に制定されたそうです。

ところで、この「本格焼酎」という呼び名。実は、九州の酒造メーカーが発案したのを知っていましたか?

1949年の酒税法で、蒸留法が旧式というだけで「乙類」と呼ばれた焼酎群の表記を「甲類より劣っているわけではない。“本格焼酎”と改めよう」と同業者に呼び掛けたのが、「霧島酒造」の2代目社長の江夏順吉さんでした。のちに法律も書き換えさせた名案でした。

3代目が後を継ぎ、今も名峰・霧島山のふもと(宮崎県都城市)で芋焼酎をつくっている霧島酒造は、2016年に100周年を迎える老舗ながら元気いっぱい。2012年以降、焼酎メーカーの売上トップを走り続けています。

2002年に年間売上10万石、2006年に20万石、2007年に30万石、2012年に40万石を次々と達成。1石(こく)は一升瓶(1.8リットル)100本分なので、40万石は一升瓶4000万本分! そして、その背後には、途方もない量の「イモ」があるのです。
 
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霧島酒造のシンボル「霧島山」。霧の中に浮かぶ峰が島のように見えることから名付けられたという説も。

芋焼酎「霧島」の原料は地元名産のイモ

2万5000年前に大噴火した姶良(あいら)火山は、南九州を中心に、厚さ約200メートルにもなる火山灰「シラス(白砂)」をまき散らしました。富士山にも1.5センチ、北海道にすら5ミリ降り積もったというから驚きです。

火山灰に覆われたシラス台地は、そのままではコメ作もできない土地でしたが、サツマイモ栽培には適していました。

宮崎県は出荷量日本一を誇るブロイラー(鶏)や全国ブランドの「宮崎牛」などが有名な畜産県。鶏ふんなど畜産業由来の有機物をシラスに混ぜ込むことで、おいしいサツマイモがザクザク採れるようになり、「不毛の地」から一転、「天恵の地」になったのでした。
 
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霧島酒造の農家の収穫風景。向こうに霧島山が見えます。

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左の白っぽいのが焼酎「霧島」や「黒霧島」の原料、黄金千貫(こがねせんがん)というサツマイモです(たくわんじゃありません!)。右の皿のカラフルな2種も、同社が九州沖縄農業研究センターと共同で改良を重ねてつくりだしたイモ。それぞれ香りや甘味に特徴のある新しい焼酎の原料です。

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同社の工場には、8月から12月初旬までの毎日、南九州各地から1工場につき約80トンものイモが運び込まれています。

究極のリサイクル「サツマイモ発電」

焼酎は大量の米やイモを原料にでんぷんの糖化とアルコール発酵を進めて、最後にそれらを蒸留してポタリ、ポタリと1滴ずつ集めた透明な液体です。ということは、原料の大半は「焼酎粕(しょうちゅうかす)」として廃棄物になるわけです。その量なんと、1日650トン! 

生産量が少なかった昔は海や畑にまくのが主流だったそうですが、食品リサイクル法も制定され、生産量も急増したいまでは、そういうわけにはいきません。

そこで霧島酒造は、焼酎粕や芋くずを発酵させてメタンガスを取り出し、それを燃やした熱をリサイクル工程の蒸気ボイラーや乾燥工程に活用することにしました。二酸化炭素を吸って成長するイモからできた環境負荷の少ないバイオマスエネルギーです。

この焼酎粕リサイクルシステムは、2007年に見事、第12回新エネ大賞「新エネルギー財団会長賞」を受賞。それでも、メタンガスの利用率は2割にとどまっていました。そこで2011年からは、製造工程にもガスを送って、焼酎づくりの蒸気ボイラーにもバイオマスエネルギーを使いました。

これでメタンガスの利用率は、ようやく半分に。しかし目標は利用率100%! まだチャレンジは続きます。こうして2014年9月にスタートしたのが、「サツマイモ発電」でした。
 
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工場の敷地内に新たに設置した発電機。燃料はサツマイモ由来のメタンガスです。

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発電機のエンジン部分はオーストリア製。とても静かです。

年間400万キロワットアワーの発電量は、一般家庭約1000世帯の年間消費電力量に相当します。これを全量売電すれば毎年1億5000万円程度の収入になり、設備の導入にかかったコストも約15年で回収できるといいます。

発電機から出る排気ガスは500度近い高温なので、これもまた、捨てずにリサイクルシステムの蒸気ボイラーに利用。工夫に工夫を重ねることで、現在ガス利用率は95%に達しています。

なお、ガスを取り出した後の固形物も脱水・乾燥して飼料や肥料に加工し、地域の畜産農業に役立てています。つまり、霧島酒造は、焼酎づくりの残さをフル活用することで、ゼロエミッションをほぼ達成しているわけです。

前例のないチャレンジの原動力は?

微生物の分解力で、米麹とふかしイモからできたドロドロの液体がお酒に変身していきます。工場で見た蒸留したての焼酎はどこまでも透明で、キラキラと輝いていました。
 
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できたての芋焼酎は無色透明ですが、エビやカニなどに含まれるアスタキサンチンなどを加えたカラフルなお酒も。九州の「うまいもの」との相性はばっちりです。

おいしい水、原料のイモに適した大地、意欲ある一次産業、それらがそろった都城(みやこのじょう)で、郷土愛に支えられて続いてきた霧島酒造。仕込み水や割り水には、焼酎づくりに適した都城盆地の地下150mにある「霧島裂罅(れっか)水」を使っています。

地に足を付けた経営が全国の支持を集め、同社は日本初のサツマイモ発電の設備に限らず、ここ数年で工場も次々と増築しています。その元気を支えるのは、商品のおいしさだけなのでしょうか。

3代目社長の弟で代表取締役専務の江夏拓三さんのお話を聞いていたら、透明な焼酎を通して見るように、その素敵な企業理念がくっきりと姿を現しました。

まず、全従業員の物心両面の幸福を追求すること。とにかく従業員さんを幸せにするために頑張る。これが企業の繁栄のもとです。それから若い人を育てることが大事です。企画室には入社1~3年目の社員など若い人を集め、意見を聞いています。

江夏専務直属の企画室22人の平均年齢は江夏さん(65歳)を含めても26.4歳。重要な会議にも同行させるなど、若手を積極的に重用しています。それでいて、代々の技術開発や営業努力に感謝を忘れず先人を敬う文化も浸透しているようです。
 
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専務の江夏拓三さん。右肩上がりの成長を支える通称「クロキリ」こと黒霧島を片手に。暗いところで反転するカーナビの画面を見た江夏さんのひらめきが生んだラベルの色は、当時の食品業界ではタブーの黒。いわゆる「黒ラベル」ブームの先駆けでした。

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イモの品質を一つずつチェック。ここで切り落とした芋くずも、リサイクルプラントで無駄なく活用されます。

それにしても、毎日これだけの量のイモを南九州(3県)から集めてしまう一企業の力は圧倒的。地域への影響力の大きさを自覚しているからこそ、霧島酒造は、ごくごく自然体で社会貢献ができるのかもしれません。

自社で掘り当てた地下水を訪れた人に無償で分けていることもしかり。高価なプラントを導入してエコな発電を始めたこともしかり。

前に10日間ずっと座禅を組む「禅」体験をして、上空から大きく世の中をとらえる「気宇壮大(けうそうだい)」な視点を得ました。今は世界を旅してサツマイモがどこからきたのか、そのルートを調査中です。

また興味深いプロジェクトが始まっているようです。いったいサツマイモは、どこをどう通って日本までやってきたのでしょうか。霧島をチビチビ味わいつつ、調査の成果を楽しみに待ちたいと思います。