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一人の主婦のアイデアが、まちを色鮮やかに変えていく。スペインタイルで女川を飾る「みなとまちセラミカ工房」

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ものづくりからはじまる復興の物語」は、東日本大震災後、東北で0からはじまったものづくりを紹介する連載企画です。「もの」の背景にある人々の営みや想いを掘り下げ、伝えていきたいと思います。

みなさんは、震災後の被災地の街並を見たことがありますか?現地を訪れていなくても、ニュース等で見て知っているという人は多いと思います。かつて人が暮らしていた場所に瓦礫が積み上がっている風景は衝撃的なものでした。

宮城県牡鹿郡にある女川町は、東北沿岸部の中でも甚大な被害を受けた地域です。14.8mの津波に襲われ、町内の7割の建物が流されました。美しかった漁村の風景も、瓦礫で一面灰色になってしまったといいます。

趣味で陶芸を習っていた主婦の阿部鳴美さんは、ひょんなことからスペインタイルと出会い、「色を失ってしまった女川のまちを、スペインタイルで明るく彩ることができたら」という想いを抱きます。阿部さんのアイデアはたくさんの人の共感を呼び、少しずつ現実のものになってきました。今回は、その物語を紹介したいと思います。

色褪せないスペインタイルで、千年後の人にまちの様子を伝えたい

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女川高校第2グランドに設置されている「きぼうのかね商店街」。木造店舗30棟、プレハブ店舗20棟が並ぶこの仮設商店街の一角に、店内が鮮やかな色に溢れ、そこだけ異国のような雰囲気を醸し出している店舗があります。それが「みなとまちセラミカ工房」。阿部さんが運営するスペインタイル工房です。

ここでは表札や絵タイルなどのオーダーを受けているほか、セラミカ工房のキャラクター「セラくん・ミカちゃん」のマグネットなどオリジナル作品の製作・販売も行っています。絵付けを体験できる教室もあり、観光客から好評を得ています。
 
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童話のようなタッチが可愛いセラくん・ミカちゃん

スタッフは、阿部さんを含む女性7人。そのほとんどが震災前から一緒に陶芸に取り組んできたメンバーです。津波によって、それまで集めてきた道具や窯と、膨大な数の作品が流され、メンバーの生活も一変。一時は解散も考えましたが、京都造形芸術大学から窯の寄贈を受け、細々と活動を再開しました。しかし、なぜ陶芸からスペインタイルへと転向したのでしょうか。

震災後、女川とスペイン・ガリシア地方との間に地域交流の企画が持ち上がったんです。両者はどちらもリアス式海岸で、地形や風土が似ています。ガリシア地方は過去に津波に襲われ、そこから復興した歴史もありました。その企画がきっかけでスペインタイルに興味を抱き、教室に通いはじめました。

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2012年3月に研修でスペインを訪れた阿部さんは、スペインタイルが散りばめられた街並の明るさ・美しさに圧倒されたといいます。博物館に行くと、千年前のスペインタイルが展示されていました。スペインタイルは高温で焼いているので、色褪せることなく絵柄が残ります。言葉がなくても当時の様子がわかることにも、大きな感銘を受けました。

「これをまちの復興に使いたい、いろんな使い方ができる」と思いました。懐かしい女川の風景や未来予想図を描いたスペインタイルで、灰色になってしまったまちを明るく彩りたい。復興の様子を千年後に伝えていきたい。そんなふうに構想が広がりました。

帰国した阿部さんは、起業を支援する助成金を得てNPO法人を設立。2012年6月、陶芸仲間と一緒にみなとまちセラミカ工房を立ち上げました。

まちにスペインタイルが増えていく

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「まちを彩りたいなんて大きなことを言って、ひとりよがりな想いなんじゃないか」「商品はちゃんと売れるだろうか」「こんな田舎で教室を開いて、人は来てくれるんだろうか」。阿部さんは当初、そうした不安や葛藤をたくさん抱えていたといいます。しかし、動き出してみると製品を気に入ってくれる人は多く、絵タイルや表札の注文も次々と入りました。

トレーラー宿泊村「El faro(エルファロ)」の部屋のプレート63枚、災害公営住宅のエントランスを彩る絵タイル101枚、きぼうのかね復興商店街の各商店看板50枚。女川のまちに少しずつ、スペインタイルが増えてきています。

通販会社フェリシモとのコラボレーションにより、活動は大きく前進しました。セラミカ工房のタイルデザインを元に基金付き商品を販売し、集まった基金で同じデザインのタイルをまちのあちこちに設置するという企画で、女川町役場も賛同してくれています。

商品の売れ行きは好調で、フェリシモは購入してくれた人に「商品と同じ絵柄のタイルを見つけに、女川に遊びにきてほしい」と呼びかけています。
 
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フェリシモと一緒にまちの未来を描く

また、今年6月には、サッポロホールディングスから約300万円の寄付を受け、「きぼうの星プロジェクト」が動き出しました。デザインの一部にサッポロのトレードマークである星をあしらい、街中にきぼうの星を輝かせようというプロジェクトです。営業を再開している商店や事業所、来年オープンするJR女川駅前プロムナードなど、100箇所設置を目指しています。

タイルを設置して終わりではなく、マップを作成し、“きぼうの星を探そう”とまち歩きにも活用したいと考えています。

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阿部さんは、工房を訪れる人みんなに自分の夢を語っているといいます。そうすると、その話を聞いた人が話を別の誰かに伝え、思いもよらない話が舞い込むそう。「困ったことがあっても、いつもどこからか救いの手が差し伸べられるんです。これって運命なんじゃないかなって思うくらい(笑)」と微笑みます。

私には、スペインタイルの製作工程がまちの復興に重なって見えるんです。茶色の素焼きタイルは、更地になった震災後の女川。鉛筆で線を描くのが、まちの青写真を描くこと。そこに色を載せて焼き上げると、まちの未来が見えてきます。

そうやって阿部さんが描いた未来は、いままさに現実のものとなり、女川を明るく彩りはじめています。数年後、女川は「美しい港町」として観光名所になっているかもしれません。

ひとりの主婦のアイデアが、まちを変える可能性を持っている。「みなとまちセラミカ工房」の歩みを知ると、「自分にも、何かできるかも」と勇気が湧いてきませんか?