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身体と暮らしのリズムを整える薬草茶で、”慈しみの時間”を育む。食卓研究家・新田理恵さんが手がける国産薬草茶ブランド「Tabel」 [READYFOR?]

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日本に住む皆さんの多くが日頃から口にしている“お茶”。なかにはさまざまな健康・医療的効果を持つ“薬草茶”というものがあるのをご存知でしょうか?(*注

今回お話を伺った食卓研究家の新田理恵さんは、生活に気軽に取り入れられる安心安全で美味しい国産薬草茶をつくり、人々の健やかな暮らしと、地域産業・医療の課題解決をはかるプロジェクト「Tabel(たべる)」をスタートしました。

この挑戦は、新田さんご自身のこれまでの人生、そして食を通して他者を慈しみたいという思いと深く結びついたものでした。

命を食べる、生命が巡る。人が繋がり、慈しみ合う循環をつくりたい

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「Tabel」のオリジナル商品として開発中、佐渡ヶ島の銀杏の葉茶 photo by Lyie Nitta

前述した通り「Tabel」のプロジェクトはまさに始まったばかり。現在クラウドファンディング「Ready for?」にも挑戦中です。そんな新田さん、まずは日本各地で出会った仲間たちがつくる食材を使って「Tabel」オリジナル薬草茶のブレンドに取り組んでいます。

「Tabel」では、天然のものや、無農薬・無化学肥料栽培の在来種のみにフォーカスし、安心安全で美味しい国産薬草茶の商品開発を行っていくとのこと。

また、単に薬草茶の商品販売だけではなくて、食を通して自分の身体と向き合う時間や、セルフケアの習慣づくりのお手伝いをしていきたいと考えているそうです。

お茶は、身体のことを気にかける”きっかけ”としてちょうど良いなって思うんです。料理ができない人でも、お湯を注ぐだけで簡単にすぐつくれるし、多くの人が一日一回は口にする身近な飲み物だから。

「ちょっと今日は仕事で目が疲れたかな…」とか、「食べ過ぎで胃が痛いな…」とか、自分の身体の声を聞いて、症状に合ったお茶選びができるような商品の選択肢や知恵の蓄積・普及に取り組めたらと思います。

薬草図鑑をつくったり、つくり手さんを招いた講演会を開いたり、民間伝承レベルの知恵を学術研究として検証・証明していくことなども考えています。

管理栄養士と国際中医薬膳調理師の資格を持っている私だからこその役割って、西洋と東洋の医学をうまくブリッジして知恵を伝承し、世代や領域を越えていろんな人が健康のために薬草茶を利用できる“土壌を耕していくこと”だと思うんです。

ただ商品をつくること、売ることに留まらず、食を通した健康づくりと日々の暮らし、知恵や実践の未来への継承にまで思いを馳せる新田さん。「Tabel」というブランド名にも、食と生命に対する新田さんの思いが込められています。
 
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生命の巡り、与え合い、慈しむ関係性を表現したブランド名、「Tabel」

「Tabel」という文字組みは、パソコンの移行キー“Tab”と、生命の“Life”の頭文字Lをもじった“el”の組み合わせでできていて、生命の移行や季節の巡りを表現しています。そこに“食べる”という言葉の語源である“給ぶ”、“給わる”という言葉も重ね合わせています。

お茶を飲むことを通して、地域のこと、暮らしのこと、自分のこと、いろんなところに意識を飛ばして、生命の繋がりを感じて欲しい。その中で、一人ひとりが大切な人と慈しみ合う時間を持って欲しい。そんな願いを込めています。

食いしん坊な少女が“人を幸せにする食卓づくり”を目指すまで

都心から少し離れた閑静な住宅街にある新田さんのご自宅は、築90年の古民家です。引き戸を開けて玄関へ入ると、さりげなく置かれた器や丁度品、廊下や縁側のそこここで仕込まれている乾燥食材や調味料が目を引きます。

奥の居間へ進み、座布団に座ってふと前を見やると、初夏の緑輝く家庭菜園が。ここでご自身も薬草を育てて収穫しています。
 
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そんな新田さんは大阪市の鶴橋の出身。活気ある市場のいろんな食材に囲まれて育ち、食べることが大好きな少女でした。パン屋であるご実家のご両親や、商店街のおじさんおばさんたちの姿を見て過ごしたことから、食に関する仕事もごく身近な営みに感じていたのです。

転機が訪れたのは高校生の頃。ご家族やご友人が、糖尿病や拒食症といった食生活に関わる病気になってしまったことがきっかけでした。大切な人たちが身体と心を弱らせていく姿を目の当たりにし、食べること、働くことの意味をより深く考え始めます。

食べ物は、使い方によっては薬になりますが、一歩間違えれば毒にもなり得るんですよね。食べること自体は楽しい行為だけれど、私はただ食べるだけじゃなくて、食を通して人を健やかに、元気にしていきたいと考えるようになりました。

大学に入った新田さんは、管理栄養士の資格取得に向けた勉強を始めます。医学や栄養学、生化学といった西洋の学問分野に取り組み、人間の健康のために必要なことを学んでいきますが、どこか物足りなさや違和感を感じたそうです。

人体の活動や食品の構成を、カロリーや栄養素ごとに細かく区切ることは確かに分かりやすいけれど、それだけでは大切な観点を見逃してしまう気がしました。

季節や生活環境、どんな器で誰と食べるのか…そういった“食”を通して紡がれる関係性や命の巡りを含めて、人を健康にする方法をもっと総合的に考えていきたいと思ったんです。

そんなころ、新田さんは薬膳に出会います。中国の伝統医学に基づく料理と食養生の手段である薬膳は、“五行”と呼ばれる自然の5つの要素“木・火・土・金・水”の摂理に即したバランスの良い食生活を目指すというものです。

自然ってすごくよくできていて、それぞれが互いに補い合い、戒め合いながら、絶妙にバランスを取っているんです。

たとえば夏は五行で言う“火”が過剰で“水”が足りない季節。夏が旬の食材を思い浮かべると、スイカ、トマト、キュウリなどみずみずしいものばかりですよね。

「旬の作物はその季節に足りない要素を持っているから、季節の巡りに即した食生活をするのが一番健やかなんだよ」というのが薬膳の基本的な考え方なんです。

“薬膳”と聞くと、難しい印象を持ってしまう方も多いかもしれませんが、その中心にあるのは“自然に則して生きる”という、とてもシンプルな思想と実践です。また、「薬膳のおもしろいところは、それが単なる調理法に留まらず、生活全体に応用できること」だと新田さんは続けます。

たとえば私は自由奔放で活発な“木”の性質を持っているのですが、五行の流れでは“木”は“火”を生むので、“火”の性質を持つ人は“木”の人と組むとすごくパワーを発揮できます。逆に“木”が苦手なのは“金”の人だから、衝突して傷つき過ぎないように“火”の人にうまく守ってもらうとか…

そうやって、人間関係や組織運営に応用することもできるし、料理を含めた衣・食・住環境全てに通じるのが薬膳の考え方なんです。

互いの性質を見極め尊重しながら、互いにうまくバランスを取っていく。薬膳の勉強を通して、人や組織、地域の繋がりを見つめなおすことができるようになりました。

子どもの頃から大好きな“食”を通して、人々が健やかで調和のとれた暮らしを営むための手助けをしていきたい。「食卓研究家」という肩書きには、調理や栄養面だけでなく、食を取り巻く生活全体を慈しむ新田さんの気持ちが込められています。

“薬草をめぐる旅”で見えてきた、地域と産業のいまとこれから

薬膳と出会った新田さんは、ほどなく薬草茶にも関心を持ち、研究を始めます。ドクダミやヨモギ、松の実やクコの実、蓮の葉や菊の花…いろいろな植物のさまざまな部位から抽出してつくられる薬草茶は、その薬効や味わいの幅広さから、薬膳の領域でも長らく活用されてきました。

ところが、いざ日本国内で薬草茶を使ってみようとすると、意外な問題に直面したそうです。

市販の薬膳茶(*注)を手にしてみると、9割以上が中国産だったんです。海外の輸入品だと情報が限られていて、それがどうやって育てられたのか、安心安全な生産・流通経路なのかが分からない。

一方で国産はどうかというと、日本は欧米諸国より農薬使用制限基準が格段に甘いのが実状で、国産のお茶だからといって安心して良いものか、躊躇してしまいます。

身体に良いことをしようと思って薬膳茶を手に取ったのに、それが本当に身体に良いのか分からない、他人に健康相談を受けても安易に薦められない。

国産できちんと生産プロセスが見えて、なおかつおいしいお茶はないものか…そう思って始めたのが日本各地の生産者さんたちを訪ねる旅。そこでのさまざまな出会いがきっかけで、新田さんは「Tabel」の立ち上げを決意します。

例えば、楊貴妃も愛飲したとされる蓮の葉茶の原料を求めて出会ったのは、希少な在来種の蓮根を30年以上前から自然由来の有機栽培で育てている、熊本県八代地方の「水の子会」のみなさん。在来種は収穫に非常に手間ひまがかかる分、味も栄養価も格別だそうです。
 
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在来種蓮根の有機栽培を手がける「水の子会」の上村さん

また、南阿蘇村で出会った「ハーブファクトリー」を運営する井澤敏さんは、天然無農薬の薬草をたくさん育てながら、昔から地域に根づく薬草文化と知恵の保存、普及に務めていらっしゃる方。

高齢化が進んで医療費がかさむ熊本県のとある村で、行政と協力しながら一人ひとりの病状に合わせた薬草茶とその利用の啓蒙活動を行ったところ、村の医療費が大幅に削減されたという実績もお持ちです。
 
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南阿蘇村ハーブファクトリーの薬草マスター、井澤敏さん

他にもたくさんの出会いに恵まれた九州の旅ですが、ここで新田さんは、国産薬草茶産業を取り巻く構造的な問題も知ることになります。

旅で出会った方々は、誰もが誇りを持って安全でおいしいものをつくられていたのですが、つくり手の高齢化と後継者の不足から、国内薬草茶産業は衰退の危機に直面していました。

良いものをつくっても、その価値に見合う収入が得られなかったり、健康づくりの知恵と実践も、民間伝承に留まっているために広く普及しないなど、さまざまな原因があります。

人々を健康にするために何千年も受け継がれてきた知恵が、次の世代に伝わらないまま途絶えてしまうのは見過ごせない。何より旅で出会った素敵な人たちのためにできることをしたい!

そう思って、数日間の九州横断の最中にプロジェクトの立ち上げを決心しました。

おいしくて身体にも良い国産薬草茶を届けられれば、心身の不調や病気に悩む人をきっと幸せにできるはず。

そして、きちんとした価格での販売・流通のしくみをつくれば、地域に経済や仕事を生み出し、薬草茶を活用した健康づくりは、地域や国の医療費削減にも貢献できる…複数の社会課題にアプローチし、多くの人びとの幸せな状況を生み出すためのプロジェクトとして「Tabel」は動き始めています。

命をいただき、差し出し合う中で続く自然の循環。その中にある私たちの暮らし。お茶を飲むという何気ない行為で、生命の巡りを思う新田さんのプロジェクト「Tabel」。現在クラウドファンディングサイト「Readyfor?」上で立ち上げ支援を募集中です。

ぜひみなさんも、「Tabel」が目指す生命の循環に加わってみてください。

以下の3つの用語は、本文中では下記のような意味合いで区別して記載しています。

お茶 植物を煎じて煮出したもの全般。もしくはチャノキ(緑茶•紅茶などの原料となる一般的なお茶)を指します。

薬膳茶 中医学に基づき、体調や状態に合わせて選ぶお茶を意味します。

薬草茶 薬膳茶と基本的には同じですが、ここではとりわけ、日本で普段から採取できるハーブをつかった薬膳茶を指しています。