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いま福井中心市街地が面白い!岩崎正夫さん×丸山晴之さん×広部志行さんに聞く「これからの福井のこと」(後編)

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左から丸山さん、岩崎さん、広部さん

2回続けて、シャッター街を楽しくするプロジェクトをどんどん生み出す「NPO法人きちづくり福井会社」、まちづくりセンター「ふく+」と「まちの保育園」についてご紹介しましたが、集中連載の最後はご登場いただいた3人の対談です。

もとは第3セクター「まちづくり福井株式会社」に出向しており現在は商工会議所勤めの岩崎正夫さん、「NPO法人きちづくり福井会社」のメンバーで本業は丸山晴之建築事務所代表の丸山晴之さん、「オレンジホームケアクリニック」の「ふくいまちケアプロジェクト」という医療介護のプロデューサーの広部志行さん。

全く違った分野から街を見つめ、活性化に取り組んでいる三方と一緒に、まちづくりの本当のところ、そして、これからの福井のことを聞いてみました。

※前編、中編をまだご覧になっていない方は、ぜひそちらからお楽しみください。
前編は、こちら。
中編は、こちら。

福井中心市街地活性の今後は?

 現在、福井の地域住民たちの様々な取り組みが進み、福井中心市街地活性が進んでいますが、今後どうしていくか、展望はありますか?

岩崎 今、活発に動いているのは、地域住民の側です。ただ、中心市街地活性全体を考えるとなると、住民だけで語れる問題でもないし。早めに商店街と今の動きをつないでいきたいです。

商店街の役員の方々は、「つながらないといけない」という意識は持っていますが、「ふく+」の役割と商店街の役割がはっきり見えていないのが現状ですね。

商売をやっている人たちがまちづくりと接点を持つ機関としては、県産品ショップ「ファーレふくい」があります。そこで月1回フリーペーパーを発行しているんですが、スタッフが自分でネタを集めて、商店街だけでなく外のイベント情報も発信してはいます。

丸山 そもそも、商店街が自分のお店の営業目的ではなく、まちづくりという視点でできることって何があるんでしょうかね?ひとつ、ひとつの店舗にできることがあると、まちづくりセンター「ふく+」とも連携しやすいと思うんですが。にぎわいは、商店街としても欲しいわけですよね。
 
新栄商店街
商店街内にある広場に鏡を設置したところ、ダンスを練習する若者たちが姿を現すようになったりも。

岩崎 ただ、基本的に商売って後追いなんでしょうね。人が集まったところでお茶を飲んでもらったり、お団子売ったり、それが商売になってくる。現在は、福井駅があるから、最低限の人通りがあって、そこに資産(ビル)を持っている人が、そこで商売をがんばっている状況ですね。ただ儲からなくなると、息子はサラリーマンになったりして後継ぎがいないケースがほとんどです。

丸山 空きビルを、デザイン関連とか、健康とか、何か特色のあるテーマを持った複数の事業者に貸し出してビルをつくるなんてアイデアはどうなんでしょうね。

福井駅西口中央地区市街地再開発事業では従来の再開発手法が取られています。まずビルを立て替えるとなると、解体費用が莫大にかかる。その上で新築ビルを建て、自分たちの負担を減らすには、容積を大きくして、テナントにたくさん入ってもらって、マンションもつくって、収益性を高める…という。

でも「それが今後も通用するのか?」というのが、僕たちの考えなんです。

岩崎 建物が軒並み昭和40年代くらいに建ったもので、老朽化が進んでいるので、共同建て替えなどもどうするのか、といった問題も考えないといけませんね。

丸山 そういう意味ではビルオーナーにもまちづくりに参加してもらえるといいですけどね。

 これは、全国に通ずる課題ですよね。全国的には、ビルオーナーはテナントを貸し渋っているイメージがありますが、福井では、どうでしょうか。

岩崎 オーナーはご高齢な方も多く、「自分が元気なうちに回収できなくてもいいから、ビルに投資して改修してから人に貸そう」というスタンスを取りづらいのが現実です。費用を回収できるイメージや仕組みをつくってあげる、そこなんでしょうね。
 
福井中心市街地
駅前のビル郡を活かすためには・・・!?

丸山 まちづくり福井みたいな中間業者が、通常より安い家賃でビルを借りて改修を施し、改修費用を上乗せして事業者へ貸し出すとか。または、初期費用の負担額を軽減するために、改修後の事業利益を設計報酬として配当する料金システムだとか、そういったことは取り入れたいね、と話しているところです。

岩崎 オーナーも、長期的に資産運用ができる見通しがあれば、貸したくないわけではないんですね。ただ、そのプランを誰がどう提示するのか。今の福井の中心市街地にはそれをできる人がなかなか居ないんです。

 “人を集める”という視点でいくと、郊外のひとり住まいのお年寄りに、中心市街地へ戻ってきてもらう構想があると広部さんにうかがいましたが…

広部 それこそ、マンション等の形にしないと駅前では成り立ちませんが、お年寄りのニーズとしてはありますね。

岩崎 福井は雪も降りますから、駅前に住めば雨や雪に濡れずにアーケードの下で買い物が済ませられる、百貨店や映画館がそばにある、ちょっとお酒を飲む場所もある…。福井に限らないのでしょうが、駅前はお年寄りにとって良い場所なんでしょうね。

高松の美術館北通り診療所を視察したことがありますが、住んでいるマンションのエレベーターを下りると診療所があり、ちょっとしたカフェのようなお洒落な空間になっていて、お茶ができる社交場になっているんです。自分も歳を取ったらこういうところで暮らしたいと思いました。

広部 “質の高い生活”や“ハイソな感じ”は、価値観を揃えてコミュニティをつくっていく上で大切な要素ですね。例えば、駅前ではマンションなど都会的な集合住宅、少し離れた場所では民家型など、それぞれの生き方やスタイルに合わせたコミュニティをつくり、そこを保健室機能や在宅医療でサポートしていくことも考えています。

「担い手プロジェクト」がもたらしたものって?

 高齢者や障害者に対して、日本は“何かをしてあげる”、“施す”傾向が強いように思いますが、自分自身に置き換えて考えてみると、最期まで人間らしい生活を送ることが幸せなのかもしれません。

ベッドへ寝たきりにさせるのではなく、まちへ出て来てもらう仕組みが福井でつくれるといいですね。また、そういった構想を持つふくいまちケアプロジェクトと、担い手プロジェクトがこのタイミングで出会ったことは、とても素敵なことだと思いました。

岩崎 担い手プロジェクトで集まった人たちは、街で何かをやりたいと思ってる人たち。みんなスペシャリストとして得意分野を持っていたため、とてもラッキーな企画だったと思います。集めようと思っても、集められない顔ぶれです!
 
担い手プロジェクトの様子

担い手プロジェクトの様子

担い手プロジェクトの様子
担い手プロジェクトには女性の姿もあり、会場はいつも楽しげな笑い声で溢れていました。

ふく+定例MTG
「ふく+」の定例会議にも、担い手プロジェクトで活躍していた面々の姿が。

丸山 僕は建築が専門ですが、今後の建築の仕事を考えると、確実に「つくる」仕事は減っていきます。こういう形でまちに関わらせてもらい「たくさんの人が関わる中で、ものごとを統合して進める」という職能を生かすことができれば嬉しいですね。

広部 高校の同級生から電話がかかってきて、福井に戻って来たのが3年前。それまではクリニックもまちづくりも異分野でしたが、今はまちづくり、めっちゃ面白くなってきてます。

岩崎 僕は商工会議所へ戻りましたが、丸山さんや広部さんみたいな若くて面白い人が街へ入って来てくれたので、心配はしてないですし、街へは個人的に関わり続けたいと思ってます。

また、まちづくりをやってると、よその街と交流を持てたり、studio-Lやgreenz.jpといった外部の人とつながりを持つことができるのもうれしいですね。

 私は「担い手プロジェクト」がきっかけで初めて福井に来ましたが、人がみ〜んな良くて、真面目で、温かいのにちょっととぼけてて、本当にごはんが美味しくて、人生で一番美味しいお蕎麦屋さん「本家あみだそば 遊歩庵」との出会いもあり、うれしく思ってます!

…ところで、岩崎さんは商工会議所で、地元のお祭りなんかを担当しているそうですが「フェニックスまつり」って、それなりに歴史のあるお祭りですよね?なんでこんなカタカナの名前なんですか?

岩崎 もともとは、オーソドックスな「福井まつり」という名前で、昭和29年に始まり2013年が60回目でした。

福井は昭和20年に空襲があって、立ち直り始めたと思った昭和23年に震度7の地震が起こり、また水害、雪害と続けて自然災害に見舞われた後に、復興を経て今があるんです。その歴史をなぞらえて「不死鳥祭り」って言い出したんですよ。

そのまま不死鳥って言い続ければ良かったのに、いつの間にか今度は「フェニックスまつり」と言い出したんです(笑)

 わ〜っ!福井には、たまにすごくイケてるような、イケてないようなものが存在しますが、ネーミングのセンスからもそんなことを感じますね(笑)。
 
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イケてるような、やはりイケてない物代表!? 西武百貨店前に存在する、1000年先まで時を刻む「宇宙時計」。1000年後この時計がどうなっているのか、誰も確かめることはできません!

全員 笑

岩崎 さすが福井人(笑)。このセンスは、文化として染み付いているのかもしれませんねぇ。

 「ふく+」はとてもお洒落なスペースですが…。事業等の今後の見通しは、どんなかんじですか?

丸山 3年間は市から委託を受けて「ふく+」を運営していますが、その後は自主事業に切り替え、収益を上げることも選択の一つとして視野へ入れています。

岩崎 あまり最初から“事業性”を考えていると息が詰まってしまいますよね。“エイヤー!”と勢いで進むところもあるし。

丸山 疲れたら、まぁ、僕もそのうち岩崎さんのように充電期間を取ろうと思います。

広部 どっちが先に燃え尽きるか、とか(笑)

 彗星のごとく…。う〜ん。まぁ、ひとりでやってるとしんどくなることも、色んな人が絡み合って、進んでいくと、良くなるんじゃないっすかね!!

岩崎 なんかいきなりまとめたような?

丸山 …なんか、これまでのgreenz.jpの記事とは全く違うものになるような?(まだ、成功とも言えないので…)
 

(インタビューここまで)

※座談会は2013年8月8日に行なったものです。

 
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息の長い活性化のためのヒントが詰まった福井中心市街地の話

私が初めて福井を訪れたのが、2012年の3月。studio-L醍醐孝典さんのアシスタントとして「まちの担い手プロジェクト」へ関わらせて頂いておりましたが、街のみなさんのエネルギーを感じ、福井を訪れる度に街の変化を感じ、本当に毎回ワクワクしていたので、いつかこの取り組みの全容を一編にまとめたいと思っていました。

取材から掲載までにかなりの時間を要しましたが、“まちづくり”により深く関わるようになった今、改めて読み返してみても、“中心市街地活性”において知っておくべきポイントや大切な要素がギュギュッと詰まっているプロジェクトだったと感じています。

ただ、“まちづくり”の現場に深く関われば関わるほど、一朝一夕では立ち行かない現状にクラクラすることも。刻々と状況が変わっていくまちづくりにおいて「これでOK」といった万能策は見当たらないですし、本当の意味で息の長い活性化へつながるには、新しい人の流れ、新しいお金の流れ(仕事)、新しい情報の流れが必要不可欠です。

どれもこれも大きな時代の流れの中で“今”があるわけなので、3つを同時につくるのはなかなか難しいことです。

ただ、福井でこの2年の間に起こった歩みやつながりは、これからの福井の中心市街地にとって、そして何より参加した皆さんの人生において、かけがえのないものになっていることは間違いなさそうです。

福井市と市民が手をつなぎ、商店街と地域住民が手をつなぐ。枠組みを越えた人と人とのつながりや、意識が確実に育まれている様子がうかがえるからです。

「ふく+」や「ふくいまちケアプロジェクト」、そして日本の地方都市の典型的な姿でもある、福井の中心市街地活性の今後の動きを見守っていたいと思います。