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茶畑のオーナーになって”マイ緑茶”をプロデュース!? 大和茶のある豊かな暮らしを提案する奈良の農家さん「健一自然農園」

特集「マイプロSHOWCASE関西編」は、「関西をもっと元気に!」をテーマに、関西を拠点に活躍するソーシャルデザインの担い手を紹介していく、大阪ガスとの共同企画です。

“自分の生き方・働き方・暮らし方”を、こんなにオリジナルに体現している人が、奈良の都祁村(つげむら)にいました! 「健一自然農園」の伊川健一さんは、なんと15歳にして学校教育に疑問を感じて担任の先生へ直訴。

今の日本の教育システムに限界を感じると、高校に通いながらも週末を利用して自然農法を学び、19歳で本格的に農園をスタートさせました。2014年11月現在33歳にして、農園経営歴14年。

今では奈良県東北部に位置する大和高原に、30カ所・約4.2ヘクタール(東京ドーム一個分)のお茶畑を管理し、お茶づくりとお茶の販売を軸にしながら、さらに、化粧品メーカーと協同したコスメ開発や、学びの場づくり、里山の自然環境保全など多岐に渡って活動しています。
 

伊川健一(いかわ・けんいち)
健一自然農園代表。1981年、奈良出身。高校に通いながら自然農法を学び、19歳で「健一自然農園」をスタートさせる。かつて都が栄えた大和高原という神秘性を一心に受けながら、自然栽培にこだわり、お茶づくりを通して持続可能で希望に満ちた社会を提案し続けている。

自然農法で、大和茶の製造販売を

健一さんが手掛けるお茶は、自然農法でつくられます。人の手で畑を耕したり、肥料をやることをせず、朽ちた葉っぱや木の枝を微生物が分解し、天然の堆肥ができあがるサイクルを利用して作物を育てます。

実際に畑の土を触らせてもらうと、しっとり、ふかふか!
 

園芸用品店で売ってる堆肥よりいい匂い!これが自然の力でできるなんて・・・

“お茶づくり”を始めたのは、自然農法に適したお茶の耕作放棄地を譲り受けたことがきっかけだったと言います。

高齢化で手が回らなくなった茶畑を何とかしてくれないかという相談を受けたんです。

3年ほど耕作放棄されると、それまでの農薬などが無数の微生物たちによって徐々に分解されて行き、やがて本来のいい土になります。人間の都合により、自然のサイクル以上に収穫が行なわれていたお茶の木も、勢いよく芽を吹いて元気を取り戻します。

耕作放棄地を地元の方からご紹介頂いたとき、自給自足に興味があったので、野菜畑を念頭にしていたのですが、あまりに元気なお茶の木を引っこ抜くのって“不自然農法”になってしまうなって思いまして(笑)

健一自然農園の1代目でありながら、茶畑は引き継いだもの、ということで、“1.5代目”だと自身を表現します。
 

3年間放置され、伸び放題になっている茶畑。

ここ、奈良の大和高原で昔からつくられているのは “大和茶”という銘柄です。

大和茶の基本は、普通蒸しの煎茶です。4月に出てくる柔らかい新芽でつくるのに適しているのが煎茶などの緑茶、その後秋までに2番茶、3番茶までを樹勢を見ながら無理をかけないよう収穫します。

製茶法は基本を大切にしながらも、お茶の表情を見ながらほうじ茶、番茶などの日本茶はもちろん、紅茶や烏龍茶など、様々な味わいに挑戦しています。


同じ木から、色んなお茶がつくれます。

こうしてつくられたお茶は、服飾ブランド、アーバンリサーチドアーズやセレクトショップ、自然食やオーガニックの食料品を扱うお店、レストランやパン屋など、全国約120店舗へ出荷し、お茶の製造販売だけで年間約2500万円の売上があるとのこと。

「手も足りていませんし、こちらから営業したことはほとんどございません(笑)」という健一さん。取材や口コミで少しずつ売り先が広がり、茶畑の面積も拡大しています。

それでも、年々増えていく耕作放棄地を何とかしたくて、来年春から“茶畑ユニオン制度”を新しくスタート。

一口、60坪辺り年間25万円で茶畑のオーナーを10口募集し、資材や肥料を用いるか否か、発酵度合いに至るまで細かくオーダーしてもらい、緑茶、ほうじ茶、紅茶などの好きなお茶を、オーナーさんの好みにつくっていくそうです。

パッケージを持ち込んで、こだわりの“マイ茶”をプロデュースすることができるのはもちろん、この制度に参加することが、耕作放棄地となって荒れていく里山保全へつながる、そしてもちろん農園も潤う、“一石三鳥”の取り組みです。
 

こちらが、開墾済みの茶畑です。

大和茶に触れ、体験してもらう事業

農業のうち、定量に対する価格が一番安いのは米だと言われていますが、大和茶は米よりも厳しいのが現状。健一さんはお茶の製造販売業を繰り広げながら、大和茶を広める活動を様々に展開しています。

お茶づくりを体験ごと楽しんでもらおうと、茶摘みイベントを実施しています。年3回、5月・7月・10月の実施で、各回20名まで、告知はFacebook上で。

お茶の芽を摘んでもらい、お昼を食べ、お茶揉みをして、つくったお茶をみんなで飲みます。残りのお茶は、お土産として持ち帰ってもらいます。

10名以上が参加すれば、個人で茶摘みイベントを予約することも可能です。私も2014年4月に個人的に茶摘みイベントに参加し、お昼では鹿肉のBBQを堪能しました。


このときは、一度に4種類のお茶づくりに挑戦しました。


お茶畑に入ります。


新芽がいっぱい。


“一針二葉”を摘んだもの。


お茶を揉むと、香りがたちます。


乾燥中のお茶っ葉。


お茶の揉み方(傷の付け方)で、香りや味わいが全く違ったものに!


お昼のBBQでは、新鮮な鹿肉が山盛り。


炭火が立ちこめ、いい香りです。


でき上がったお茶を、最後にみんなでいただきました。

みんなでよ〜く揉んでできた、手摘み手揉み茶は、口に含むと柔らかくてみずみずしい香りが広がります。1日を共にしたみんなの中に、等しく静かな時間が訪れました。

最近では、お茶のセラピー効果に着目し、ティーセラピーというメニューも試験的にスタートしました。

癒しの効果を高めるために、草ひきで土に触れてもらい、お茶を摘み、お昼、お茶揉みを行なってお茶をつくります。行程の前と後に、“会いたい木”というタイトルで自由に絵を描いてもらっています。

森林セラピーや、園芸療法にも増して、お茶を飲むことで身体の内側から効きそうなセラピーです。
 


左がセラピー前、右がセラピー後に描いてもらった絵です。

自然サイクルの中で、人間が生きていくための実験

健一さんのお話からは「自然が本来持っている力を最大限活かしてムダなく、ムリはせず」といった理念が隅々まで行き渡っており、お茶の製造と販売は、その理念を世間へ浸透させるための手段であるようです。

農園の売上を上げることを追求するとすれば、既にある製品のパッケージのデザイン性を高めて付加価値を付けたり、色々とできることはありますが、お茶の持つ実質的な価値には限度があります。

健一さんは、例えば「一粒500円の苺だけを売るようなことはしたくない」と言います。

お茶づくりという産業では、どれくらいの人数が、どれくらいのお金を稼いで、どれくらいの時間を家族と社会と自分に割り当て、どれくらいの環境負荷で生きていくことができるのか。

それを明確に示せば、暮らし方を変えたい人が出てくると思うんです。若い人を招いて、スモールビレッジをつくるための取り組みを色々と始めています。

現在、健一自然農園には社員2名と、繁忙期の手伝いとしてアルバイトが5名、将来独立を考えている研修生が3名ほどで、常時来ている人数が10名ほど。全部で20名ほどのファミリーが集います。

平均年齢は30代前半。また、かつて一緒に暮らし、独立していった仲間が20〜30名ほどいます。それぞれが大和高原のあちこちで頑張っていて、それなりの規模感も出てきているようです。

環境調査と里山づくりから広がる事業

お茶どころで有名な静岡では、お茶農家がふんだんに化学肥料を使うことで水質汚染に影響が出ているレポートが出ているそうです。健一さんは、お茶を取り巻く自然環境を数値化するために、近畿大学環境管理学科と連携して、地域調査へも乗り出しています。

“美味しいお茶を飲む”ことが目的なのに、お茶づくりで肥料を使い、肥料で汚染された水を湧かして飲んでたら本末転倒ですよね(笑)

今まで一般的とされてきた農法では、10ヘクタール辺りに何mlの農薬を使って、浄化するためにどれくらいの生態系が浪費されているかを数値化すれば、自然農法の素晴らしさを示せると思うんです。


学生さんへ向けて、健一さんがお話しているところ。

水について考える際には、山を考えることも欠かせないと言います。

冬の仕事として、間伐を請け負ったことがあるんです。林業従事者は少ないお金で重労働を請け負っていますが、発注側のビジョンが明確でないため“ただ間伐を行なっている”だけの状態です。

吉野では樹齢100年の木を育てる文化が根付いていますが、大和高原ではそれがありません。結果、里山が荒れて、動物が降りて田畑に入ってきてしまうので、その対策にも随分とお金と労力を使っています。

現在、奈良県民が全員年間500円ずつ払う森林環境税が2億円ほどあります。この税金を使って、育てる木と間伐する木を明確にして、間伐材は材料として用いてお金に換え、里山を整えていくことで、大和高原も地下に涌き出す水も、蘇らせることができると思うんです。

現在は山へ廃棄しているだけの間伐材を、資源へ換えるための身近な取り組みも行なっています。

間伐材を利用した取り組みの第1号が、大和高原の木120本を間伐、製材、施工してつくったショップ「菊茶天」です。うちは、やりたい人の希望に合わせて事業をつくっていく仕組みなんです。

カフェを志望していたスタッフが、今はお茶を題材にした社会教育の分野を担当しているので…。もし、カフェスペースの運営に興味がある人がいたら、ぜひ、紹介してください(笑)


こちらが「菊茶天」です。

さらに、燃料としても大和高原の薪を使用しています。製茶の熱源量にガス代・重油代合わせて年間約100万ほどかかっていたところ、3割をまかなえるようになりました。遠い異国からガスや石油が運ばれてくることを思うと、すごいエネルギーの節約ですね。

これからは部分的な利用に留まらず、「間伐材を利用した低コストの住宅パッケージを開発し、若い人たちを招き入れる仕組みをつくりたい」と健一さん。

大和高原の間伐材を用い、20坪あたり400〜500万円で、水回り以外はフリーに間取りを組めるような住居。太陽光パネルを併設してもプラス250〜300万円ほどでできるそう。既に図面も完成しています。

生まれも育ちも奈良、代々奈良に住んでいる健一さんは、この奈良の地から、次の世代や後進国の見本になるようなサステナブルな暮らしのモデルをつくって、広めていこうとしているのです。

人間は、土とそんなに長い間離れていられないと思うんです。5年後、10年後、若い人たちが土や農に寄り添った暮らしをしたくなったときに、自分が翻訳機能になれたらいいなぁと。

後は、新しい人へ土地を貸してもらえるような地域への信頼を築いていけたら、実現できると思います。

中山間地と都市を結ぶ実験

ここで少し話題を変えて、日本中のあちこちで問題とされている過疎化との関係についても考えてみたいと思います。

行政の人々は「過疎地の高齢化と人口減少は問題だ」と言いますが、具体的に何か人口が増えるような施策を打っているかというと、ほとんど何もできていない現状があります。

また、日本中にある過疎化が進む地域では、いざとなると「よそから移り住む人の家がない」という課題を抱えているところが少なくありません。一見、人が住んでいないように見える民家も「盆や正月に帰省するから、他人に貸したくない」という人が多いからです。

また、都市からの移住者を受け入れる際に、これまで顔見知りだけだった村に、よそ者が入り込んでくることを面食らってしまう村人たちの心理的な課題も見受けられそうです。

この状況を何とかしたいと思い、山添村では、2013年より農林水産省の都市農村交流対流交付金を利用して、使われていない幼稚園施設を村人と都会の人々が集えるような「春日ガーデン」というスペースへ改装しました。

今は月1回のペースで芋の苗植えや芋掘りなどのイベントを開催していますが、山添村の人たちも、少しずつ交流を楽しんでくれています。9月の芋掘りイベントでは、50名の幼稚園児を招待しました。来年度も少しずつ受け入れ人数を増やしたりしながら定期的にイベントを開催していく予定です。


春日ガーデンに、幼稚園児がたくさん遊びにきました!

地域の人たちのペースに合わせ、考え方のエッセンスを落としながら、じっくり進めていくという健一さん。

事業化するために、将来的には大企業のCSRの一環として、週末に家族を連れて田畑を耕してもらうアクティビティを実施したり、社員食堂の材料として、春日ガーデンでつくった野菜を使ってもらうなどができたらと、考えています。

お茶の原体験

様々な経験に根付いた独自の哲学をお持ちで話は尽きませんが、最後に、ご自身のお茶の原体験についても伺ってみました。

3つあるんですけど、ひとつめは、おじいちゃんの部屋で飲む”かりがね茶”ですね。昔から、哲学や宗教、宇宙の原理など、色んな話や議論をするのが大好きで、おじいちゃんの部屋へいくと、茶シブの付いた茶器でかりがね茶を淹れてくれて、それを飲みながら色んな話をしました。

2つめは、おばあちゃんがつくってくれる茶粥。昔から“大和の茶粥、京都の白粥、河内のどろ食い”というように、土地によってお粥の文化があったんです。

大和の茶粥は、ほうじ茶で炊かれたお粥で、米は数えるほどしか入ってないんですが、ただのお茶より満腹感が得られる。小腹が減ったときに、茶粥が炊かれた大きな鍋からすくって、食べてました。

3つめは、両親が営んでいたレストランで。大きな急須で淹れた玄米茶をお客さんに注いで回ってました。

温かい布団と家があって、庭が広く、陽の射す居間があって、朝ハーブを摘んできて、お茶を沸かしながら家族で朝食を採る…

健一さんの身近にもあったそんな大和茶のある暮らしは、日本人の多くが素直に「いいなぁ」と思えるものではないでしょうか。

本気を出せば、日本人のうち半分以上がこういった暮らしを手にすることができると思うんです。お金は便利な仕組みですが、もうちょっと目に見える範囲で循環させないと、お金に対して“主”と“従”でいえば、“従”になってしまいますよね。

一生懸命働いて税金を納めて、税金が市民の暮らしに還元されたとして、図書館の本のラインナップが変わったくらいでは、それで手に入る幸せには限度があります。

“主”になるために、暮らし方を、生き方を、仕事を変えて、お金の得方をも変える。大きな方向転換に、人生のハンドルはとられないだろうか、と施策を巡らせます。

といっても、いきなり全てを変えるのは難しい。でも、一日の終わりに、うちのお茶を沸かして入れて、一口飲んでもらう。それだけで、自然とつながれるパワーがお茶にはあるし、そういったことから始めたらいいと思うんです。段階を経て、少しずつ。

健一さん自身、手探りながらも確固たるものを感じながら、その一歩一歩が楽しくてしょうがない、といった印象です。

「経営や、事業づくりは、もう少し社会で学んでからスタートすれば回り道せずにすんだかも(笑)」と笑いますが、いつでも自然と対峙して現代の日本に踏みとどまり、またお茶を通して、それを世に伝えようとしています。

とっても美味しいお茶の味わいとともに、活動を応援したい農園です。

– INFORMATION –

グリーンズの学校の「お茶会」#1

 奈良県の健一自然農園・伊川健一さんとコラボレーション・「グリーンズの学校」で新クラス開催します!本開催のクラスは、現在6月スタートを予定していますが、まずは4月22日(日)に、伊川健一さんをgreenz harajukuにお呼びして「お茶会」を開くことになりました。
http://school.greenz.jp/class/kenichi-shizen-nouen01/